労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東海旅客鉄道(新幹線関西地本掲示物撤去)  
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第425号  
控訴人  東海旅客鉄道株式会社  
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人  ジェイアール東海労働組合
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部名古屋車両所分会  
判決年月日  平成25年10月2日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 会社が、分会掲示板に掲出中であった組合掲示物9点を撤去したことが、不当労働行為に当たるとして、愛知県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審愛知県労委は、掲示物9点の撤去について、いずれも不当労働行為に当たるとして、これら撤去に関する文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部した(初審命令が認容した掲示物9点の撤去のうち、2点について取り消し、棄却するとともに、手交文書の内容をその旨修正。)。会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京高裁に行訟を提起した事件であるが、同高裁は、中労委が認容した掲示物7点の撤去のうち、2点について取り消した。  
判決主文  1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 中央労働委員会が中労委平成22年(不再)第13号事件について、平成22年10月6日付けでした命令のうち、主文Ⅰ項、Ⅱ項の次の部分を取り消す。
 控訴人が、平成17年5月22日から同年9月12日までの間に、被控訴人参加人分会の組合掲示板から、同年6月3日に原判決別紙2の掲示物(見出し「バカヤロー」「辞めてしまえ」は暴言ではない!これがJR東海では常識」の掲示物)を撤去した行為、同年6月30日に原判決別紙5の掲示物(見出し「暴言!暴論!言いたい放題のY1科長!!」の掲示物)を撤去した行為が、中央労働委員会において、労働組合法7条3号に該当する不当労働行為であると認定され、今後このような行為を繰り返さないようにすることを記載した文書を被控訴人参加人組合らに対し手交することを命じた部分。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、補助参加により生じた部分はこれを5分し、その2を被控訴人参加人組合らの、その余を控訴人の負担とし、その余の費用はこれを5分し、その2を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所は、本件命令のうち、本件掲示物②及び⑤(2点)につき、本件撤去要件に当たらないとして、撤去行為を不当労働行為に該当すると認定し、それらの撤去行為が不当労働行為であると認定された事実等を記載して文書の交付を命じた愛労委の命令(本件初審命令)に対する会社の再審査申立てを棄却した部分は、違法であるから、その部分の限度でこれを取り消すのが相当であると判断する。
 その理由は、次〔抜粋〕のとおり補正し、後記2ないし5のとおり、当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」の1項から4項までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決53頁20行目冒頭から56頁13行目末尾までを次のとおり改める。
「ア〔省略〕。
イ 「掲示物が本件撤去要件に該当するか」を判断するに当たっては、「本件撤去要件に該当するか」につき、一般常識や社会通念に従って本件撤去要件の文言の一般的意味に即して判断すべきである。もっとも、本件掲示板の利用は、被控訴人参加人組合らの組合活動のために必要な宣伝、報道、告知を行うことを目的として、本件協約が締結されているのであるから、本件撤去要件の文言を形式的、表面的に当てはめて判断することは相当とはいえない。なぜなら、組合活動に必要な情報伝達や主張の宣伝を含む掲示物には、使用者側に比べて取得する情報量が相対的に劣る組合が使用者の方策や対応等について言及する場合には、組合側の不正確な知識や誤解等により、記載されている事柄が厳密に見ると客観的事実に符合しないことや、自己の主張を強調し、使用者の方策や組合員への対応を批判するために、事実の一部について誇張、誇大とみられる表現等が用いられることもあるが、組合活動としての掲示物の掲示という事柄の性質上、そうしたことも一定程度想定されているところであり、そうである以上、本件撤去要件該当性の判断に当たっては、当該掲示物が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを中心として、本件撤去要件該当性を実質的に充足するかどうかを考慮すべきであり、掲示物の記載を表層的に捉えて、細部若しくは個々の記述又は表現のみを取り上げ、あるいは本件撤去要件に該当する箇所の分量だけから、当該掲示物全体の本件撤去要件該当性を判断すべきものではないと解されるからである。
ウ〔省略〕。」
2 本件撤去要件と不当労働行為該当性との判断枠組みについて
(1) 会社は、本件協約17条1項所定の本件撤去要件は、文言上一義的に明確であり、掲示物が本件撤去要件に該当するかどうかについては、一般常識や社会通念に従い、本件撤去要件の文言の一般的意味に即して判断すべきであり、原判決の挙げる複数の事情を含めて実質的に判断することは、本件協約17条1項の文理に明らかに反し、協約当事者の意思(協約自治の原則)に適合せず、適用の結果も不当であるだけでなく、最高裁判例にも反するものであって、誤りである旨主張する。
(2) そこで、判断するに、この点については、原判決を補正して説示(53頁ないし56頁〔上記1(1)に一部抜粋〕)したとおりである。
本件撤去要件(本件協約17条1項)は、「会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、職場規律を乱す」ことであり、「事実に反し」を除き、いずれも一義的に明らかであるとはいえず、一定の解釈を施すことが必要となる。また、「事実」を真実と解した場合でも、誤信相当性のあるときには、本件撤去要件に該当しないと解することが相当であろう。
そして、正当な組合活動として許容される範囲と解されるかという観点との関連において本件撤去要件を解釈することが、目的的解釈として相当である。そうすると、組合掲示板に掲示された掲示物について、組合活動として許容される範囲を念頭に置き、本件撤去要件該当性の判断を実質的に行うに当たり、考慮要素として掲示物の影響等について考慮することも相当であり、その場合には、当然に掲示場所の状況や読者等を考慮に入れることになる。
(2) 会社が本件撤去要件該当性を判断する場合には、掲示物が組合掲示板に掲示された当時の労使関係の当事者として、会社が現に認識し、又は認識することができた事情をもとにして、社会通念に従って判断していくことになるから、予期せぬ不利益があるとか、予測可能性を奪うものとはいえない。
(3) 国鉄札幌運転区判決は、掲示物を貼付することが認められていない場所にビラを貼付した事案であり、本件とは事案を異にするものであり、その前提を欠く。したがって、会社の上記主張は、採用できない。
3 本件掲示物の撤去行為の不当労働行為該当性について
(1) 本件掲示物①の撤去について
ア 原判決の本件撤去要件と不当労働行為該当性との判断枠組みについては、既に説示した(上記2)とおりである。会社の主張は、その前提を欠く(この点は、本件掲示物②以降の撤去についても同様である。)。
イ 本件掲示物①は、組合が、JR西日本福知山線の重大事故が発生して間もない時期に、その原因とされる問題が会社にもないかを指摘することは、会社に対するネガティブキャンペーンと評価されるものではなく、正当な組合活動の範囲を逸脱するものとはいえない。再教育(フォロー教育)とJR西日本の日勤教育とがその趣旨・目的において異なるものであったとしても、組合らがどのように受け止めるかは、組合としての立場からのものになることは、事柄の性質上やむを得ないところがある。また、会社が命じた作業が再教育の前後にそれと近接して行われているのであるから、組合らにおいて、再教育の内容と受け止めることもやむを得ないものと解される。さらに、組合らは、会社の従業員に対する態度等にいじめの契機があると指摘し、その企業体質を問題にしているのであり、その限りで、相応の裏付けの前提となる事実は認められるというべきである。その上で、本件掲示物①の記載が実質的に本件撤去要件に該当しないことは、原判決に説示するとおりである。
ウ 本件掲示物①の記載のうちには、事実としては異なるが、組合の立場からそのように受け止め、誇張した表現をしたものと解される〔ものが含まれる〕。本件撤去要件該当性の判断に当たって、当該掲示物が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを考慮して、本件撤去要件該当性を実質的に充足するかどうかを判定すべきであり、このような観点からみる限り、基本的な事実関係についてその基礎を欠くものとはいえず、それを前提とした評価についても、根拠を欠くものとはいえない。掲示物①は、本件撤去要件を実質的に充足するものとはいえず、会社の主張は、採用できない。
(2) 本件掲示物②の撤去について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、平成17年5月25日に開催された業務委員会Iにおいて、会社側委員が、「管理者が『バカヤロー』『辞めてしまえ』などと言うのは暴言ではなく、熱心な指導を行う中での言業」と述べた事実はなかったと認められ、また、会社には、管理者の暴言を理由に退職した従業員がいた事実があったとは認められない。そうすると、本件掲示物②の記載は、基礎となる事実を欠くことになる。
イ 基本的な事実関係が異なる上、本件掲示物②の同記載が、見出しとして掲げられて強調されていることに照らし、読者をして、会社の管理者が、実際に発言した事実があり、別の場面では、会社の都合でその意味を違えるような会社と思わせる内容の記載になっていると評価される。
 そうすると、当該掲示物の体裁や全体の構成、その掲示場所や読者、さらには組合による組合活動としての掲出であることなどを考慮して判断しても、本件掲示物②は、会社の信用を傷つけ、事実に反し、職場規律を乱すものと認められ、本件掲示物②は、本件撤去要件に該当するというべきである。
(3) 本件掲示物③の撤去について
 掲示物③には、「5月25日の業務委員会」の記載があり、本件掲示物②と同様の問題点が含まれている。しかし、当該掲示物の体裁や全体の構成からみると、同記載は、本文中における記載の1つで、中心的な記載とはいえず、掲示物②とは差異がある。掲示物③は、全体として組合らの見解を表明した正当な組合活動として許される範囲のものといえ、撤去要件に該当しないと解するのが相当である。
(4) 本件掲示物⑤の撤去について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、Y1科長の注意指導を暴言、暴論と評価することはできないから、掲示物⑤の記載について、事実に反するものというべきである。また、証拠によれば、会社は、従業員の期末手当(ボーナス)については、賃金規程に基づき算定しており、成績率に減率を適用した額を支給するものであり、ボーナスをカットすることはなく、実際にそうした事実もなかったことが認められる。Y1科長の上記発言と期末手当の関連性も不明といわざるを得ない。
 以上によれば、本件掲示物⑤の記載は、いずれも基礎となる事実を欠くことになる。
 掲示物⑤の記載は、見出しで表示し、殊更大きく取り上げている点に特徴がある。そうすると、掲示物⑤は、掲示物の体裁や全体の構成、その掲示場所や読者、さらには組合による組合活動としての掲出であることなどを考慮して判断しても、会社の信用を傷つけ、Y1科長個人を誹謗し、事実に反し、職場規律を乱すものと認められる。したがって、本件掲示物⑤は、本件撤去要件に該当する。
(5) 本件掲示物⑦の撤去について
 掲示物⑦の記載が全体として、本件撤去要件に該当しないことは、原判決に説示するとおりである。本件掲示物中、再教育の運用を批判する趣旨の記載は、誇張してはいるが、会社の信用を傷つけ、事実に反し、職場の規律を乱すものとまでは評価できない。
(6) 本件掲示物⑧、⑨の撤去について
 原判決に説示するとおり、掲示物⑧、⑨は、全体として、組合らの見解を表明した正当な組合活動として許される範囲のものといえ、本件撤去要件に該当しないと解するのが相当である。
4 本件文書手交命令について
 文書手交命令は、使用者をしてその行為が不当労働行為であることを認識させ、同種の行為を繰り返さないように再発防止を図るために採られる不当労働行為救済の手段の一つである。中労委は、労使関係の専門機関として、その権限において、本件における会社と組合らとの事情を踏まえて文書手交命令を発することができる。また、文書手交命令は、使用者をして、公衆の面前における文書の掲示を命じるいわゆるポスト・ノーティス命令とは同一でない。さらに、それが労使関係を必然的に悪化させる弊害を伴うとする主張は、会社の独自のものであり、補充的救済措置であると解することも相当とはいえない。
 本件文書手交命令中、本件掲示物②及び⑤に関する部分は違法であるから取り消すことになるが、その余に関して文書の交付を命じたことは、労働委員会の裁量権を逸脱し、又は濫用するものとはいえない。したがって、会社の上記主張は、一部を除き理由がない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委平成18年(不)第1号 一部救済 平成22年2月8日
中労委平成22年(不再)第13号 一部変更 平成22年10月6日
東京地裁平成22年(行ウ)第657号 棄却 平成24年10月15日
最高裁平成26年(行ヒ)第26号 上告不受理 平成26年10月15日
 
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