労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東海旅客鉄道(新幹線関西地本掲示物撤去)  
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第657号  
原告   東海旅客鉄道株式会社  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人   ジェイアール東海労働組合
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部名古屋車両所分会  
判決年月日  平成24年10月15日  
判決区分  棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 会社が、分会掲示板に掲出中であった組合掲示物9点を撤去したことが、不当労働行為に当たるとして、愛知県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審愛知県労委は、掲示物9点の撤去について、いずれも不当労働行為に当たるとして、これら撤去に関する文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更した(初審命令が認容した掲示物9点の撤去のうち、2点について取り消し、棄却するとともに、手交文書の内容をその旨修正。)。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 分会が、本件救済申立てに係る当事者能力を有するか(争点1)
 労組法5条1項本文は、同条2項及び同法2条の規定に適合することを立証した労働組合は、同法に規定する手続に参与する資格を与えられることを定めたものと解するのが相当である。そして、分会は、中労委による資格審査を経てその資格を有するものとして適格決定を受けたことが認められる。
 この事実によれば、分会は、不当労働行為救済手続に参加する資格を有するし、分会を手続当事者として発した本件命令には、分会に当事者能力がないことを理由とする違法はない。
2 本件命令に、不当労働行為救済申立て適格のない分会を手続に参加させ、分会を名宛人とする救済命令を発した違法があるか(争点2)
 労働委員会は、労組法5条1項に基づき、救済申立てに係る労働組合が同法2条及び5条2項の規定に適合するかどうかの審査を行う義務を負うところ、この義務は、労働委員会が、労働組合が同法2条及び5条2項の要件を具備するように促進するという国家目的に協力するよう要請されているという意味において、直接、国家に対して負う責務にほかならず、使用者に対する関係において負う義務ではないと解すべきである。
 したがって、仮に、資格審査の方法若しくは手続に瑕疵があり、又は審査の結果に誤りがあるとしても、使用者は、労働組合が同法2条の要件を具備しないことを不当労働行為の成立を否定する事由として主張することにより救済命令の取消しを求めることができる場合があるのは格別、単に審査の方法ないし手続に瑕疵があること若しくは審査の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることはできないと解すべきである。
3 会社が掲示物①ないし③、⑤、⑦ないし⑨を撤去した行為が、労組法7条3号の不当労働行為に該当するか(争点3)
(1) 掲示物撤去行為と労組法7条3号に定める不当労働行為該当性の判断枠組み
 ア 掲示物が撤去要件に該当する場合には、組合らの掲示物を掲示する行為は正当な組合活動とはいえないから、会社がこれを撤去することは、労組法7条3号所定の不当労働行為に該当するとはいえない。
 他方で、掲示物が撤去要件に該当しない場合に、これを会社が撤去する行為が労組法7条3号所定の不当労働行為に当たるというためには、少なくとも会社において、労働組合又はその組合員が正当な組合活動として掲示を行っている事実を認識しながらこれを撤去するということ、つまり、不当労働行為意思が認められることが必要であると解される。
 イ 撤去要件該当性の判断に当たっては、掲示物が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを中心として、撤去要件該当性を実質的に充足するかどうかを考慮すべきであり、掲示物の記載を表層的に捉え、細部若しくは個々の記述又は表現のみを取り上げ、あるいは撤去要件に該当する箇所の分量だけから、掲示物の撤去要件該当性を判断すべきものではない。
 ウ 会社を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、又は職場規律を乱すといった各要件については、一般常識や社会通念に従い文言の一般的意味に即して実質的に判断した場合に、撤去要件に該当すると判断されるときは、掲示物を掲示することが正当な組合活動のために掲示板を使用する場合に当たらないものとして、撤去要件に該当すると解すべきであり、したがって、会社がこれを撤去することは、原則として労組法7条3号所定の不当労働行為には当たらないと解すべきである。
 そして、掲示物の記載内容の一部が形式的に撤去要件に該当する場合であっても、掲示物の掲示が組合らの正当な組合活動として許容される範囲を逸脱して、会社の運営を妨害し、あるいは個人の名誉を著しく毀損するなどしたかどうかについて、その内容、程度、記載内容の真実性、真実でなかった場合に真実と信じるについて正当な理由があったかどうか等の事情が総合的に検討されるべきである。その検討の結果、掲示物が全体として正当な組合活動として許される範囲を逸脱していないと認めるに足りる場合には、実質的に撤去要件に該当しないというべきであって、会社は、組合らによる掲示物の掲示が正当な組合活動の一環としてされたものであることを認識しながらこれを妨害したと評価すべきであるから、支配介入の不当労働行為に該当することになると解するのが相当である。
(2) 掲示物①の撤去
 ア 掲示物①の記載のうち基本的な事実関係に関する部分には、相応の裏付けがあるものと認められる。
 そして、草むしりやペンキ塗りが会社の再教育の一環として行われるものであったかどうか、決意書の作成が会社の強要によるものかどうか、会社における再教育が人権侵害、いじめ、見せしめであるかどうか、再教育が長期にわたるものであるかどうかは、専ら事実関係を基礎とした評価に係るものであって、その評価それ自体においても全く根拠を欠くものとはいえない。
 かかる評価に基づいて、組合らが会社における再教育の実態を再教育を受けた者にとっては「いじめ」であるとし、社長の定例記者会見における発言を「ウソ」とした記載も、相応の根拠がある。
 なお、掲示物①の記載については、掲示板の位置関係及びN車両所構内に入構し得る者が経る手続によれば、正門を通って入構する者が駐車場を利用し、構内通路を通り、又は多目的室、喫煙場所、庁舎若しくは新館を利用する限り、掲示板を閲覧することはできないことが認められ、この事実によれば、N車両所には会社と無関係な者が、自由に出入りできないし、また会社と無関係な者が、掲示板を閲覧する具体的な機会をもつ可能性は少なかったと認められる。
 これらの事実関係によれば、掲示物①の記載が、形式的には会社の信用を傷つけるものであるとしても、なお実質的にみれば撤去要件に該当するものとはいえない。
 イ よって、掲示物①は、撤去要件に該当せず、掲示物①は、会社における再教育の是正ないし廃止を求める組合らの主張を記載したものであり、その掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(3) 掲示物②の撤去
 ア 掲示物②の記載のうち事実関係に関する部分には、相応の裏付けがあるものと認められ、事実に反すると認められる記載は見当たらない。
 そして、掲示物②の記載のうち、「社長は『当社にはいじめの日勤教育はない』と大ボラを吹いた。」との記載には、その表現に穏当を欠く部分があることは格別、相応の根拠があるし、乗務員が会社を退社し、又は配転命令を受けたのが「暴言」を原因とするものであったかどうかは、専ら事実関係を基礎とする評価に係るものであって、事実に反するかどうかの問題を生じさせるものではない上、その評価それ自体においても全く根拠を欠くものとまではいえない。さらに、掲示物②のうち、会社を批判する「どうやら、『バカヤロー』は会社の都合で、暴言にも指導にもなるらしい。」という記載も相応の根拠があるということができる。
 これらに加え、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主に想定される者等を考慮すると、掲示物②の記載は、形式的には会社の信用を傷つけるとはいい得るものの、なお実質的には撤去要件に該当するものではない。
 なお、「社長は『当社にはいじめの日勤教育はない』と大ボラを吹いた.。」との記載は、形式的には個人を誹謗するというべきであるが、これが会社の代表者としての発言を対象とした評価であること、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主として想定される者等を考慮すると、なお実質的には撤去要件に触れるものとはいえない。
 イ よって、掲示物②は、撤去要件に該当せず、組合らの見解を表明する掲示物②の掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(4) 掲示物③の撤去
 ア 社長が「会社にはいじめのような日勤教育はない」と事実を否定する発言をした旨の記載に相応の根拠があり、会社側委員が「管理者によるバカヤロー、辞めてしまえは暴言ではない。」旨を述べたことが事実に反するとは認められない。
 そして、「管理者によるバカヤロー、辞めてしまえは暴言ではない。熱心な指導だ」という発言が「開き直り」かどうか、これらの発言が「事故の原因究明を否定するばかりでなく、犠牲者や負傷者を冒涜する行為であ」り、この発言が「証拠隠滅」に該当するかどうか、会社の体質が列車運行上の安全性を損なうものであるかどうかは、専ら事実関係を基礎とした評価に係るものであって、必ずしも事実に反するかどうかの問題を生じさせるものではないし、その評価それ自体においても全く根拠を欠くとまではいえない。
 これらに加え、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主に想定される者等を考慮すると、掲示物③の記載は、形式的には会社の信用を傷つけるとはいい得るものの、なお実質的には撤去要件に該当するものではない。
 また、「定例記者会見で社長は、『会社にはいじめのような日勤教育はない』と、事実を否定する発言をしました。」との記載は、何ら個人を誹謗するものとはいえない。
 イ よって、掲示物③は、撤去要件に該当せず、組合らの見解を表明した掲示物③の掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(5) 掲示物⑤の撤去
 ア 掲示物⑤のうち、事実に関する記載は、いずれも相応の裏付けがあるものと認められ、事実に反するとまで認められる記載は見当たらない。
 そして、科長による指導が「暴言」「暴論」「横暴」であり、「根拠のない」ものかどうか、注意指導が「組合員を狙い撃ちにした恣意的な」ものかどうか、会社による再教育の期間が「異常な長期」といえるかどうかは、専ら事実関係を基礎とした評価に係るものであって、事実に反するかどうかの問題を生じさせるものではない上、その評価それ自体においても全く根拠を欠くものとはいえない。
 これらに加え、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主に想定される者等を考慮すると、掲示物⑤の記載は、形式的には会社の信用を傷つけるとはいい得るものの、なお実質的には撤去要件に該当するものではない。
 イ よって、掲示物⑤は、撤去要件に該当せず、組合らの見解を表明した掲示物⑤の掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(6) 掲示物⑦の撤去
 ア 掲示物⑦のうち、事実に関する記載は、いずれも相応の裏付けがあるものと認められ、事実に反するとまで認められる記載は見当たらない。
 そして、会社が行ってきた再教育の実施の原因が「些細なこと」であるかどうか、反省文等の作成が「強要」によるものであったかどうか、フォロー試験が再教育を実施する側の「さじ加減一つでどうにでもなる」ものであるかどうかは、専ら事実関係を基礎とした評価に係るものであって、事実に反するかどうかの問題を生じさせるものではない上、その評価それ自体においても全く根拠を欠くものとはいえない。
 これらに加え、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主に想定される者等を考慮すると、掲示物⑦の記載は、形式的には会社の信用を傷つけるとはいい得るものの、なお実質的には撤去要件に該当するものではない。また、掲示物⑦の記載には、職場規律を乱すものは見当たらない。
 イ よって、掲示物⑦は、撤去要件に該当せず、組合らの見解を表明する掲示物⑦の掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(7) 掲示物⑧の撤去
 ア 〔会社が〕理由を明らかにすることなく掲示物を撤去する行為を中労委命令の趣旨に反するとして〔組合が〕批判する部分のうち基本的な事実関係に関する部分には相応の裏付けがあるものと認められ、掲示物⑧には、事実に反すると認められる記載は見当たらない。
 そして、会社による組合らによる掲示物の撤去行為が、「一方的」であるかどうか、「不当」であるかどうか、「労働委員会の命令を無視」するものであるかどうか、「支配介入」であるかどうか、「不当労働行為である」かどうかは、専ら事実関係を基礎とした評価に係るものであって、事実に反するかどうかの問題を生じさせるものではない上、その評価それ自体においても全く根拠を欠くものとはいえない。
 また、掲示物⑧のうち、掲示物⑦を転載した部分が撤去要件に該当するとはいえないことは、前記説示のとおりである。
 これらに加え、掲示物の体裁、掲示板の位置関係及び掲示物が対象としている読者として主に想定される者等を考慮すると、掲示物⑧の記載は、形式的には会社の信用を傷つけるとはいい得るものの、なお実質的には撤去要件に該当するものではない。
 イ よって、掲示物⑧は、撤去要件に該当せず、組合らの主張を記載した掲示物⑧の掲出は正当な組合活動として許される範囲のものというべきであるから、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
(8) 掲示物⑨の撤去
 掲示物⑨は、カラー刷りか白黒刷りかの違いはあるものの、その記載内容は、掲示物⑧と全く同一である。
 したがって、掲示物⑨は、前記説示したところと同じ理由により、これを撤去した会社の行為は、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。
4 文書手交命令の違法性の有無(争点4)
(1) 不当労働行為救済命令は、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るものであって、不当労働行為による被害の救済としての性質を持つものでなければならない。
 しかし、文書手交命令であるからといって、単に使用者の不当労働行為を肯認しただけでは発することができないということはなく、当該事案に照らして文書手交命令が前記のような性質を持つものと認められる限り、同命令を選択するかどうか、また選択した場合にどのような内容の文書を交付させるか等の判断は、労働委員会の裁量に委ねられており、裁判所は、労働委員会の裁量権を尊重することを要請されている。
(2) 組合らの掲示物を撤去するという会社の行為の性質と撤去した掲示物の再掲示が必ずしも時機を得たものとはいい難いことなどに照らせば、文書の手交は、その行為によって生じた状態を是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保に資するものであって不当労働行為による被害の救済としての性質を持つものと認められる。
 そして、本件命令を発したことが、労働委員会の裁量権を逸脱し、又は濫用するものと認めるに足りる事情はない。
(3) よって、本件命令における文書手交命令には違法性がない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委平成18年(不)第1号 一部救済 平成22年2月8日
中労委平成22年(不再)第13号 一部変更 平成22年10月6日
東京高裁平成24年(行コ)第425号 一部取消 平成25年10月2日
最高裁平成26年(行ヒ)第26号 上告不受理 平成26年10月15日
 
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