労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  明治大学  
事件番号  東京高裁平成25年(行コ)第228号  
控訴人  明治大学消費生活協同組合労働組合  
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会)  
被控訴人補助参加人  学校法人明治大学  
判決年月日  平成25年10月1日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、大学が、①組合から申入れのあった大学消費生活協同組合(生協)に対する施設貸与の廃止及び同廃止の撤回を議題とする団交を拒否したこと、②組合から申入れのあった生協の解散を議題とする団交を拒否したことが労組法7条2号に、③組合と協議しないまま、生協に対する請求権を放棄しなければ退職金を支払わない等の内容の文書を従業員に送付し、同書面を返送した従業員に対してのみ退職金の補てん金を支払うとするなどした生協の一連の対応が同条3号に当たるとして、救済を申し立てた。
2 初審東京都労委は、大学は、本件組合員との関係で労組法7条の使用者ということはできず、いずれも不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し、中労委も組合の再審査申立てを棄却した。組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、東京地裁は、組合の訴えのうち、不当労働行為救済命令発令の義務付けを求める訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した。
3 本件は、組合が提起した取消訴訟控訴審判決である。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、大学は組合あるいは生協の従業員との関係において労働組合法7条にいう「使用者」に該当しないというべきであり、組合の救済申立てを棄却した都労委の命令は適法であって、これに対する再審査の申立てを棄却した処分行政庁の命令は適法であるから、その取消しを求める組合の請求は理由がなく、また、不当労働行為救済命令発令の義務付けを求める訴えは、行政事件訴訟法37条の3第1項2号にいう「当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること」という訴えの適法要件を欠くものであって、不適法であると判断する。
 その理由は、下記2のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 組合の主張について
(1) 組合は、労働組合法7条にいう「使用者」について、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、雇用主に準ずる地位にあって労働者及び労働組合に対して不当労働行為をなし得る者、すなわち、「被用者の労働関係上の諸利益に何らかの影響力を及ぼし得る地位にある一切の者」あるいは「労働関係の諸利益に対して影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にある者」は、同条にいう「使用者」に該当するというべきであると主張する。
 労働組合法7条が規定する不当労働行為救済制度は、憲法28条における団結権の保障を実効的にするために、「使用者」に労働者の団結権の侵害に当たる一定の行為をすることを禁止し、これを不当労働行為として排除、是正することによって、将来に向けて正常な労使関係を回復することを目的としているのであり、「使用者」に当たるというためには、労働者との間の労働契約関係ないしそれに準じた関係を基礎とすることを要するというべきであって、雇用主以外の事業主が同条にいう「使用者」に該当する場合があるとしても、それは、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合に、その限りにおいて、同条にいう「使用者」に当たると解するのが相当である(最高裁判所平成7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁参照)。
 しかしながら、労働組合法7条が定める不当労働行為救済制度は、前記のとおり将来に向けて「正常な労使関係を回復すること」を目的としているのであるから、同条にいう「使用者」に該当するというためには、労働者あるいは労働組合との間で「正常な労使関係」を築くことができる事業主でなければならないのであって、労働者あるいは労働組合との間で、部分的にせよ将来に向けて回復すべき「正常な労使関係」が存在すると認めることはできない事業主は、同条にいう「使用者」には該当しないというべきであり、組合が主張するように、「被用者の労働関係上の諸利益に何らかの影響力を及ぼし得る地位にある一切の者」あるいは「労働関係の諸利益に対して影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にある者」は、「正常な労使関係」を築くことができる事業主であるか否かに関わらず全て同条にいう「使用者」に該当すると解することは、同条が定める不当労働行為救済制度の趣旨目的に照らして広きに失するものであって採用することはできない。
 本件についてみるに、生協は、大学の学生及び教職員を組合員とする消費生活協同組合(法人)であって、大学とは別個独立の事業主体であるところ、生協の従業員は、生協との間で雇用契約を締結して、その指揮監督の下に、その業務に従事して、その就業規則の適用を受けて賃金等の支払を受けていたのであり、大学の業務に従事していたとか大学の指揮監督を受けていたとはいえないことが明らかであるから、大学が、生協の従業員との関係において、その従業員(労働者)の基本的な労働条件等につき、雇用主と部分的にせよ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとか、将来に向けて回復すべき「正常な労使関係」が存在するということができない。
(2) この点について、組合は、生協は、大学の学生及び教職員を組合員としてその事業の対象とし、大学のキャンパス内において事業を行う「職域生協」であり、大学のキャンパスを離れて、大学の学生及び教職員を組合員とすることなしにその事業を行うことができない事業体であって、大学が、大学の施設の無償貸与や大学の学生や教職員の名簿の使用許諾などの「便宜供与」を停止すれば、直ちにかつ決定的に生協の存続を不能ならしめるのであり、大学の意思次第で生協の従業員の労働契約上の地位を失わせるのであるから、大学は、組合の組合員との関係で労働組合法7条にいう「使用者」に該当すると主張する。
 しかしながら、組合の主張する上記のような事情は、「便宜供与」がなくなれば、生協がその事業を継続することが困難になる結果、生協の従業員が生協との間の労働契約上の地位を失うことになるというものであるが、そのような三者の関係は、生協と大学との間の独立の事業主体同士の契約関係の行方が、結果的に、事実上、生協とその従業員との間の労働契約関係に影響を及ぼすことがあるというにすぎず、そのことから、大学が、生協の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主(生協)と部分的とはいえ同視することができる程度に支配、決定することができる地位にあるとか、大学と生協の従業員との間に、部分的にせよ、将来に向けて回復すべき「正常な労使関係」が存在するということはできない。したがって、組合の上記の主張は失当である。他に、大学が組合や生協の従業員との関係において労働組合法7条に定める「使用者」に該当すると認めるべき事情を認めるに足りる証拠はない。
3 以上によれば、大学は労働組合法7条に定める「使用者」には当たらないとして再審査申立てを棄却した処分行政庁の本件中労委命令は相当であって、その取消しを求める組合の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、また、本件中労委命令は、取り消されるべきものでも無効又は不存在であるともいえず、組合の不当労働行為救済命令発令の義務付けを求める訴えは、行政事件訴訟法37条の3第1項2号が定める要件を欠く不適法な訴えであり、これを却下した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。  
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成14年(不)第44号・平成16年(不)第6号 棄却 平成19年11月20日
中労委平成19年(不再)第72号 棄却 平成21年7月15日
東京地裁平成22年(行ウ)第55号 却下・棄却 平成25年5月9日
最高裁平成26年(行ツ)第10号・平成26年(行ヒ)第16号 上告棄却・上告不受理 平成26年3月6日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約119KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。