労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道(出勤停止処分等) 
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第488号 
控訴人兼被控訴人(1審甲事件被告・1審乙事件被告)  国 
控訴人(1審乙事件原告)兼1審甲事件被告補助参加人  個人X2(再審査中の平成22年8月5日に死亡した亡X1組合員の妻) 
控訴人(1審乙事件原告)  組合員8名(ポストノーティス部分について亡X1の地位の承継を申し出)  
被控訴人(1審甲事件原告)兼1審乙事件被告補助参加人  東日本旅客鉄道株式会社 
判決年月日  平成25年3月27日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 国労組合員であるX1は、会社が、①平成19年4月16日ないし21年9月29日までの間において、勤務時間中に組合バッジを着用していたX1に対し、服装整正違反を理由として、20年1月26日付け出勤停止5日、同年10月31日付け及び21年9月29日付け出勤停止10日の各処分(本件各処分)を行ったこと、②X1に対し、20年9月19日、横浜支社総務部人事課副課長が、組合バッジを着けているので再雇用できない旨の発言(本件再雇用に関する発言)を行ったことが不当労働行為であるとして、救済を申し立てた。
2 初審神奈川県労委は、上記は、いずれも労組法7条3号に当たるとして、会社に対し、①本件各処分がなかったものとして取り扱い、当該処分による月例賃金の減額分相当額及び期末手当の減額措置がなかったならば支給されるべきであった各期末手当の額と既払額との差額相当額に年率5分相当額を加算した額の金員の支払、②本件各処分及び本件再雇用に関する発言に関する文書手交を命じ、③その余の申立てを棄却した。会社の再審査申立てに対し、中労委は、初審命令を一部変更した(本件各処分が不当労働行為に当たるとした初審命令は維持し(ただし、バックペイに年率5分相当額の加算は取消し)、本件再雇用に関する発言が不当労働行為に当たるとした初審命令については、再審査中の死亡により被救済利益は失われたとして取消し)。
3 会社並びに亡X1の地位を承継したとする亡X1の妻X2及び組合員8名(X3~X10)は、中労委命令を不服として、それぞれ東京地裁に訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を認容し、中労委命令のうち本件各処分に関するバックペイを命じた部分を取り消すとともに、組合員らの訴えを却下ないし棄却した。
4 国、X2及び組合員8名(X3~X10)は控訴を提起したが、東京高裁は各控訴を棄却した。 
判決主文  1 1審被告国の控訴を棄却する。
2 1審乙事件原告X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9及びX10の控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用は、1審甲事件原告東日本旅客鉄道株式会社に生じた費用と1審被告国に生じた費用の2分の1を1審被告国の負担とし、1審被告国に生じたその余の費用と1審乙事件原告らに生じた費用は、1審乙事件原告らの負担とする。 
判決の要旨  当裁判所の判断は、下記IIのとおり1審乙事件原告X2ら8名の主張に対する判断を付加するほかは、大要、原判決の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
I 原判決要旨
 1 組合員8名の原告適格の有無
 労働委員会の審査手続で当事者以外の第三者は、救済申立てが棄却又は却下された場合でも、自ら改めて救済申立てを行うことができ、救済申立てが棄却又は却下によって受ける不利益は救済命令によって受けられるはずだった事実上の利益を享受し得ない。したがって、労働委員会の審査手続で当事者となっていなかった者は、棄却命令や却下決定について法律上救済を受ける権利を侵害されたとはいえず、棄却命令や却下決定について、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものとはいえない。
 本件において、組合員8名は労働委員会の審査手続の当事者となっていなかったから、中労委命令の取消しを求める法律上の利益はなく、本件の原告適格を有しない。
 2 本件各処分の不当労働行為該当性
 (1) X1による組合バッジ着用行為
 組合員が組合の機関決定や指令・指示に基づかずに自発的になした行為であっても、そのことのみで組合活動としての保護を受けないものと解するのは相当ではなく、組合の運動方針の遂行行為と目しうる場合は勿論、組合内少数派としての執行部批判行動であった場合も、組合の統制違反となるような場合を除き、組合の民主的運営に役立つものとして、多数派の活動と同様に組合活動としての保護を受ける。そして、組合より出された組合バッジ着用指示は、今に至るも明確には撤回されていないこと、X1の組合バッジ着用行為について、組合が統制処分を行った事実はないこと等にかんがみれば、X1の組合バッジ着用行為は、組合と無関係な一個人の就業規則違反行為と評価するべきではなく、組合内少数派の組合活動としての保護を受け得る。
  (2) 組合バッジ着用の組合活動としての正当性
  ア 国鉄の分割・民営化に至る一連の国鉄改革においては、国鉄時代に、職場規律の乱れがあり、これが国鉄の経営悪化をもたらしたという基本的な認識、反省があった。そして、このような認識の下に、国鉄の鉄道事業の一部を引き継いだ会社においても、企業秩序の維持を図るために、公共事業にふさわしい労務の提供と適正な職務遂行を求めて、職務専念義務、服装整正等の定めを就業規則に置き、さらに、原則として前記義務に反する勤務時間中の組合活動を規制したものであるから、上記規定には合理性がある。
  イ 就業規則の解釈、運用に当たっては、労働者の労働基本権と使用者の財産権との調和と均衡を確保するという観点から、当該組合活動が形式的に就業規則の規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められるときは就業規則違反になるとはいえないと解するのが相当である。国鉄において職場規律が乱れ、悪慣行等が存在したことから、新会社であるJR各社においては、同じ轍を踏まないよう規律違反行為に対しては厳正な処分を行い、職務専念義務を徹底させることが求められていたものであって、このような観点から、会社の就業規則において、厳格な職務専念義務を負うことを定めたと解され、国鉄時代の職場規律の状況や国鉄改革の経緯等にかんがみれば、このような厳格な職務専念義務を定めることにも合理的理由がある。
 組合バッジは、組合が全組合員に着用の徹底を指示していたものであり、組合員であることを顕示して組合員相互の団結・連帯の意識を高めるものである。そして、組合バッジには、これを着用していない他の組合員に対しても、当該着用者が組合員であることを顕示して訴えかける心理的効果を有する側面があるのは否定できないことから、同バッジの着用は、実質的に組合活動としての意味を有し、職務専念義務に違反するものであって、企業秩序を乱すおそれがない特段の事情があるとはいえない。
  ウ 以上の点に加えて、本件各処分の対象となった時期(19年4月16日以降)には、既に、就業規則で定められたもの以外は組合バッジに限らず着用しないという服装整正に関する職場規律が確立していたといい得ること、それにもかかわらず、X1は、退職時まで組合バッジの着用を継続したこと等の諸事情にかんがみれば、本件において、X1の組合バッジ着用を正当な組合活動と認めることはできない。
  (3) 支配介入の成否
 以上のとおり、X1の組合バッジ着用は、就業規則に違反するから、会社がX1の組合バッジ着用について就業規則等に則り懲戒その他の不利益処分を行い得る。しかし、使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といえる面があるとしても、当該組合活動に対して行われた懲戒処分が同活動の態様等に比して著しく過重なものであって、それが労働組合に対する団結権の否認又は嫌悪の意図を決定的な動機として行われたと認められるときは、その使用者の行為は、全体的にみて、当該労働組合に対する支配介入に当たる場合があり得る。
  (4) 検討
  ア 本件各処分が重い処分であることは否めないが、就業規則違反行為を反覆、継続することにより処分が加重されること自体には合理的な理由があるところ、X1は、会社からの再三の制止を受け入れることなく、警告文掲出以降5年以上もの間、会社設立時からみれば約20年以上もの間、組合バッジの着用を続けたから、職務に与える影響がごく軽微であることを考慮しても、X1の違反行為自体が軽微とはいい難いし、会社には、他にも再三の注意指導にもかかわらず出勤遅延を繰り返した従業員に対し、順次量定を加重し、出勤停止処分をするに至った事例もあることに照らしても、重い処分を受けたからといって、直ちに不当労働行為意思の発現と認めることはできない。
  イ 組合が、14年3月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、18年11月には、不当労働行為救済申立事件を取り下げていること(包括和解)、組合は、組合バッジ着用に関し、機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしないという態度であること、15年7月以降は組合バッジ着用者がX1のみとなり、X1が再就職して組合バッジの着用を止めた後、引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば、X1のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるとしても、遅くとも本件各処分の対象となった19年ころには、既にその組合活動としての色彩が後退し、X1の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できない。
  ウ 以上の諸事情を考慮すれば、本件各処分から会社の支配介入の意思が推認されるとはいえず、本件各処分が支配介入に当たるということはできない。
3 本件再雇用に関する発言の不当労働行為該当性
 組合バッジの着用は、会社の就業規則に違反する行為といえるところ、出向する可能性のある関連会社において、会社と同様、勤務時間中の組合活動を原則として禁じ、支給される以外の物を制服に着用しないよう求める就業規則が存在すること等にかんがみれば、会社が、20年以上にわたって組合バッジ着用を継続してきたX1に対し、新たな雇用契約を締結するに際してその労働条件等を問題とし、かかる労働条件に同意しないX1の雇入れはできない旨を表明することは、使用者の意見表明として許容される範囲内の言動というべきである。これに加えて、X1が、結果的には再雇用されていることも併せかんがみれば、再雇用しない旨の発言が支配介入に該当するとはいえない。
4 乙事件の請求
 X2は、乙事件の請求の趣旨2項において、中労委に対し、別紙「請求する救済の内容」記載の命令を発することを求めているが、これは行訴法3条6項2号が定める「義務付けの訴え」に該当する。同号が定める義務付けの訴えの要件は同法37条の3第1項が定めているところ、これを本件に即していえば、中労委命令において、上記「請求する救済の内容」記載の命令を発するよう求める申立てを棄却した部分が取り消されるべきときに、X2は義務付けの訴えを提起できることになる。しかし、本件において、会社の不当労働行為は認められないのであるから、中労委命令のうち、X2の上記訴えを棄却した部分が取り消されるべきものであるといえない。したがって、X2が提起した義務付けの訴えは、訴訟要件を欠き不適法であるから、却下を免れない。
II 1審乙事件原告X2ら8名の主張に対する判断
  1審乙事件原告X2ら8名は、承継を認めなかった中労委の判断を争う方法は、本件中労委命令の取消しを求める行政訴訟の提起以外にないと主張するが、仮にその主張が認められるとしても、X1の個人申立てである本件ポストノーティスについての救済申立ては、X1に対する不当労働行為に係るものであるから、その被救済利益はX1のみが有していたものであり、X1の死亡により、その被救済利益は消滅し、1審乙事件原告X2ら8名によるX1の地位の承継は認められない。この場合、1審乙事件原告X2ら8名の請求は理由がないものとして棄却すべきことになるが、その結論は、1審乙事件原告X2ら8名の訴えを却下した原判決よりも1審乙事件原告X2ら8名に不利益となり、不利益変更禁止の原則(民訴法304条)に触れることになる。そうすると、1審乙事件原告X2ら8名の上記主張が認められるとしても、原判決の結論を維持して控訴を棄却することになる。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成20年(不)第2号 一部救済 平成22年1月26日
中労委平成22年(不再)第6号 一部変更 平成23年1月12日
東京地裁平成23年(行ウ)第158号(甲事件)・第463号(乙事件) 一部取消・棄却・却下 平成24年11月7日
最高裁平成25年(行ヒ)第323号 上告不受理 平成27年1月22日
最高裁平成25年(行ツ)第315号・平成25年(行ヒ)第322号 上告棄却・上告不受理 平成27年1月22日
 
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