労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  東京都(専務的非常勤職員設置要綱)  
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第703号  
原告   東京都(以下「都」という。)  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人   東京公務公共一般労働組合  
判決年月日   平成24年12月17日  
判決区分   棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 都の1年任期の専務的非常勤職員である消費生活相談員(以下「本件相談員」という。)について、都が平成20年2月から21年1月の間に、従来65歳まで何度でも可能だった雇用期間の更新を原則4回までにしたこと(以下「本件要綱改正」という。)及び次年度の労働条件等について、団体交渉(以下「団交」という。)を申し入れた組合に対し、義務的団交事項ではないとして都がこれらに応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、これらの団交申入れのうち平成20年2月12日付け及び同年8月12日付け団交申入れに対する都の対応は、労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとして、都に対し、組合が要綱に規定する雇用期間更新及び次年度の労働条件について団交を申し入れたときは、誠実に応諾しなければならない旨を命じた。
 都は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、都が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、都の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 専務的非常勤職員の次年度の勤務条件を議題とする団交について、都は、労組法7条2号の使用者か(争点1)
(1) 専務的非常勤職員は地方公務員法(以下「地公法」という。)3条3項3号に定める特別職に属する地方公務員であるが、特別職に属する地方公務員には、法律に特別の定がある場合を除く外、地公法は適用されず(地公法4条2項)、法律には特別の定がないから、地方公務員に対して労組法の適用を除外した地公法58条も適用されないこととなり、結局、労組法が適用されることとなる。
(2) そして、労組法7条の「使用者」については、①不当労働行為制度の目的が、労働者が団交その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護すること及び労働協約の締結を主目的とした団交を助成することにあること(労組法1条1項参照)や、②団体労使関係が労働契約関係又はそれに隣接ないし近似した関係をその基盤として労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心として展開されることからすれば、ここにいう「使用者」とは、労働契約関係ないしはそれに隣接又は近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を指し、労働契約上の雇用主が基本的に該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もこれに該当すると解すべきである。
(3) ①専務的非常勤職員は、任期は1年であるが、更新が可能であり、これまで本件相談員が希望しながら更新されなかった例はないことが認められ、加えて、②分会には、少なくとも4名以上の組合員が加入していること及び③更新5回目のときに本件相談員を全員入れ替えることは考えていないとの副参事の発言があったことを合わせ考えれば、本件要綱改正によって、雇用の更新が原則として4回までとなったとしても、現段階で都に任用されている本件相談員が次年度も再度任用される可能性は高いというべきであるから、都は、本件相談員との間で、次年度も労働契約関係にある現実的かつ具体的な可能性がある者として、労組法7条の使用者に該当すると認められる。
(4)ア 都は、次年度に更新されるためには、都の完全な裁量行為である任用行為が必要であり、したがって、労組法7条の使用者に該当しない等と主張する。
 しかし、本件相談員の更新状況等に照らせば、更新という任用行為を介するとしても、なお、本件相談員が次年度も任用される可能性は現実的かつ具体的であるといえ、したがって、次年度の任用後の勤務条件が、現段階で都に任用されている本件相談員の勤務条件であるということができる。
 イ 都は、また、上記のように判断すると、任期終了後の勤務条件について交渉することで、任命権の行使について法的な期待権を発生させる契機になりかねないとも主張する。
 しかし、どのような事項について団交に応じるべきか否かという問題と、都の任命権の行使の問題とは異なる次元の問題というべきであって、勤務条件についての団交応諾が当然に都の任命権の行使の制約となるものではない。
2 専務的非常勤職員の次年度の勤務条件及び本件要綱改正は、義務的団交事項か(争点2)
(1) 団交は、労働者の団体がその団結権を背景として、その構成員の勤務条件について、労使対等の立場に立って自主的に交渉することをその本質とするものであり(労組法1条参照)、憲法〔28条〕及び労組法〔7条2号〕の規定による団交権の保障も、このような団交を保障することを目的としたものと解される。
 かかる団交権保障の目的に照らすと、使用者が団交を行うことを労組法によって義務付けられている事項(義務的団交事項)とは、団交を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の勤務条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解される。
(2)ア 本件で、次年度の勤務条件についてみると、①本件相談員は、勤務期間が1年と定められているが、本件相談員が更新を希望しているのに更新されなかった例はなかったという実態に加え、②分会には少なくとも4名以上の組合員が加入していること、③更新5回目のときに本件相談員を全員入れ替えることは考えていないとの副参事の発言があったことを考慮すれば、本件相談員が次年度に任用される可能性が高いということができ、したがって、次年度の勤務条件は、現段階で都に任用されている本件相談員の勤務条件であるといい得るから、義務的団交事項に該当する。
 イ 次に、本件要綱改正についてみると、本件要綱改正の内容は、更新回数を原則として4回までと制限するものであるところ、本件相談員は更新を当然の前提として任用されていた実態があることからすれば、このような更新に関する取扱いも専務的非常勤職員の待遇の一内容を構成すると評価することができるから、勤務条件の重要な変更に当たる。したがって、本件要綱改正も義務的団交事項に該当する。
(3)ア 都は、次年度の勤務条件及び本件要綱改正についての組合の申入れが、次年度の任用を求めるものであると主張する。
 しかし、組合の要求の趣旨は、直ちに都の任用行為に介入しようとするものではなく、それらの権限の行使の結果もたらされる専務的非常勤職員の勤務条件について改善を求めているものと認められる。
 イ 都は、また、次年度の勤務条件及び本件要綱改正が管理運営事項にあたると主張する。
 しかし、次年度の勤務条件自体は管理運営事項ではないし、本件要綱改正も、従前、定年年齢の範囲内で更新できるとされていた規定を原則として「4回までに限り、更新することができる」と改正し、更新できる回数の上限についての原則を定めるもので、これ自体が職の改廃について変更を加えるものとはいえないから、管理運営事項にかかわる改正ということはできない。
 また、仮に、管理運営事項にかかわる事項であるとしても、これが労組法の適用のある専務的非常勤職員の勤務条件に影響がある以上は、団交に応じる義務があるというべきである。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成20年(不)第13号 一部救済 平成22年4月20日
中労委平成22年(不再)第38号 棄却 平成23年10月5日
東京高裁平成25年(行コ)第10号 棄却 平成25年4月24日
最高裁平成25年(行ツ)第358号・平成25年(行ヒ)第376号 上告棄却・上告不受理 平成26年2月7日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約323KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。