労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  田中酸素 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第175号 
原告  田中酸素株式会社 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  田中酸素労働組合 
判決年月日  平成24年7月30日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、①約6年間にわたって訴訟で解雇を争い、離職していた組合執行委員長X1を平成21年1月13日付けで同社のO営業所に配置転換したこと(以下「本件配転」という。)、②20年12月24日付けでX1を出勤停止処分に付したこと(以下「本件処分」という。)、③組合との団体交渉に誠実に対応しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、山口県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審山口県労委は、本件配転及び本件処分は労組法7条1号の不当労働行為に当たり、団体交渉で組合が要求した売上げ、経費、人件費、利益等の会社業績に関する資料を提供しなかったこと等は同条2号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、①本件配転を取り消し、X1を原職復帰させること、②本件処分がなかったものとして取り扱い、X1が本件処分中に受けるはずであった賃金相当額を支払うこと、③団体交渉で、組合から要求のあった給与・賞与の算定基礎となる売上げ、経費、人件費、利益等の会社業績に関する資料を示し、説明するなどして誠意をもって応じることを命じた。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令のうち③について、今後の団体交渉において、組合員の給与又は賞与の算定の基礎となった会社の売上げ等の資料を示すなどして誠実に対応しなければならないと一部変更し、その余の再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件配転は不当労働行為(労組法7条1号)に当たるか(争点1)
(1) 本件配転当時、本社リース部門における配達業務の後任の補充の必要性は認められるが、O営業所が洗浄作業等のために更なる人手を要する状況にあったとは認め難く、O営業所の更なる人員補充の必要性は認め難い。
 会社は、X1が入社以来リース業務を担当しており、X1及び組合がX1の従前の配属先である本社リース部門への復帰を要求しているのを認識しながら、X1が望まないO営業所への配転を行い、経験のない業務を行わせることにしたのであって、本件配転は、X1に、従前従事してきたリース業務から排除して洗浄というそれ以前の経験を活かせない作業に従事させるという職業上の不利益をもたらすとともに、慣れない仕事に初めて従事させるという精神的不利益をもたらすものであったといえる。
 したがって、本件配転は、不利益な取扱いに当たると認められる。
(2) そして、〔1〕X1は組合の執行委員長で、組合は第1次解雇〔注;X1に対する平成14年8月31日付けをもってする懲戒解雇〕に関する訴訟を機に結成されたものであり、結成以来ほぼ恒常的に会社と対立・緊張関係にあったこと、〔2〕会社が第2次解雇〔注;X1に対する平成16年12月29日付けをもってする懲戒解雇〕を行い、これが無効であることを前提とする判決が確定するや、本件処分がされた上、本件配転が行われたこと、〔3〕従前X1が勤務していた本社リース部門に配属する余地があったのに、あえて人手を要する状態であったとは見られないO営業所の洗浄作業に従事させたことに照らすと、会社は、組合の執行委員長であるX1及び同人らの組合活動を嫌悪し、同人を、社長を含む最も多くの従業員が所在する本社から排除し、X1及び組合の会社及び他の従業員に対する影響力を減殺する意図をもって本件配転命令に及んだと認めることが相当である。
(3) 以上のとおり、本件配転は、不利益な取扱いに該当し、因果関係も認められるから、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
2 本件処分は不当労働行為(労組法7条1号)に当たるか(争点2)
(1) 新旧就業規則とも、出勤停止事由は別の項に定められ、本件処分は、出勤停止事由を懲戒処分事由として挙げていない。これらのことからすれば、本件処分は、就業規則に基づかず、懲戒処分を行ったものといえるところ、使用者は懲戒の事由と手段を就業規則に明定して労働契約の内容とすることによってのみ懲戒処分をなし得ること、就業規則上のそれらの定めは限定列挙と解すべきことなどからすれば、本件処分の効力には疑義が生じる。
(2) 上記の点はさておき、また、本件処分を、就業規則により懲戒解雇事由の存在を前提に、処分を軽減して出勤停止としたものであると解するとしても、本件処分は、以下の理由により、相当性を欠く。
 ア 本件処分事由
 本件処分事由(①ないし⑩)のうち、①会長に対する暴言については、会社主張のとおりの事実関係を認めるに足りる証拠はなく、⑥告訴状を会社の各営業所所長に送付した行為、⑨賞与に関する民事調停の申立て、等は、いずれも職場の風紀秩序を乱す行為に当たるとはいえず、また、⑧研修不参加が無断欠勤、無断離職に当たるともいえず、その他、⑦無断アルバイトは、会社の業務に具体的な支障を生じたとも認められず、⑩上司に対する反抗的態度は、その具体的態様は必ずしも明らかではないし、本件処分時に至るまでの会社とX1あるいは組合との関係などからすれば、これらの点は、それ自体として、懲戒事由としての相当性を欠く。
 イ 本件処分の相当性
 ⑤会長の妻に対する暴言、⑥のうち営業本部長に対する暴行については、処分の軽重を別にすれば、懲戒事由該当性を否定できないではないが、しかし、本件処分に至る経過をみると、〔1〕平成14年8月及び16年12月に行った会社のX1に対する解雇処分は、いずれも無効である旨の判決が確定し、無効な各解雇処分によりX1は多大の負担を強いられたであろうといえ、そして、〔2〕前記⑤及び⑥の事実は、第2次解雇において解雇事由の一部として既に主張されていること、〔3〕本来懲戒処分は、企業秩序・利益を維持するための制度であるところ、本件処分時から約5年前の出来事であって、上記のような経過後に行われる本件処分が、会社の企業秩序・利益の維持にどのような意味を持つか甚だ疑問であること、〔4〕会社は、本件処分は、第1次解雇訴訟及び第2次解雇訴訟の各判決が、他の懲戒処分とするなら各別、懲戒解雇処分にするのは量刑上重きに失すると判示したことを受けてのものである旨主張するが、上記各判決は、解雇処分時において、解雇処分ではなく、他の懲戒処分としての相当性があることの可能性を示唆したにすぎず、各解雇処分が無効と判断された後に同一の事由をもって他の懲戒処分を行うことの正当性について判示したものではないと考えられる。
 これらのことからすれば、前記⑤及び⑥の事実が存在するとしても、それをもって本件処分時において、X1を出勤停止処分とすることは、社会通念上相当なものとはいえず、本件処分は相当性を欠く。そして、本件処分がX1を不利益に扱うものであることは明らかである。
(3) 本件処分が、前記のとおり相当性を欠くものであること、本件処分による出勤停止が終了後まもなく本件配転がされていることに、前記1(2)認定の事情を考え合わせれば、会社は、組合の執行委員長であるX1及び同人らの組合活動を嫌悪し、同人を、社長を含む最も多くの従業員が所在する本社における業務の従事から一時的に排除した上、本件配転を命じ、X1及び組合の会社及び他の従業員に対する影響力を減殺する意図をもって本件処分に及んだと認めることが相当である。
(4) 以上のとおり、本件処分は、不利益取扱いに該当し、因果関係も認められるから、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
3 会社の平成20年2月2日以降の団体交渉に関する対応は不当労働行為(労組法7条2号)に当たるか(争点3)
(1) 会社が、平成20年2月16日の団体交渉において、一時金・昇給に関する会社業績の資料及び個人の資料を呈示するという要求事項につき、会社の業績は企業年鑑に載っているので調べてほしい旨を回答し、売上げの具体的な金額を示さなかったことが認められるが、会社において、従業員の賞与が会社の業績を考慮して支給されるものであり、会社の売上げ等は会社が経理業務として把握しており、正確な内容を容易に示し得るはずであることに鑑みれば、会社は、正当な理由なく団体交渉を拒んだものといえ、労組法7条2号の団体交渉拒否に該当し、不当労働行為に当たる。
(2) そして、〔1〕組合は第1次解雇に関する訴訟を機に結成され、結成以来ほぼ恒常的に会社と対立・緊張関係にあったこと、〔2〕会社が第2次解雇を行い、これが無効であることを前提とする判決が確定するや、本件処分がされた上、本件配転が行われたこと、〔3〕会社が、その後も、三六協定の交渉主体に関し、組合を軽視又は嫌悪するような姿勢を示していること、〔4〕本件において、既に第2次解雇訴訟においてその存否が判断された事実及び懲戒解雇事由を再度争っていることに鑑みれば、会社が、今後の団体交渉において組合を軽視又は嫌悪し、交渉に必要な説明を不当に怠る可能性がないとはいえず、正常な団体交渉を定着させるためなお誠実な対応を命じる救済命令を講じる必要がある。
4 結語
 以上によれば、本件配転及び本件処分が労組法7条1号、会社が、平成20年2月16日の団体交渉において、一時金・昇給に関する会社業績の資料及び個人の資料を呈示するという要求事項につき、会社の業績は企業年鑑に載っているので調べてほしい旨を回答し、売上げの具体的な金額を示さなかったことが労組法7条2号の不当労働行為に該当するとした本件命令における中労委の判断は相当であり、当該不当労働行為に対して本件命令が命ずる救済の内容も相当である。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成21年(不)第1号 一部救済 平成22年1月28日
中労委平成22年(不再)第12号 一部変更 平成23年1月19日
東京高裁平成24年(行コ)第333号 棄却 平成24年12月6日
最高裁平成25年(行ツ)第130号・平成25年(行ヒ)第169号 上告棄却・上告不受理 平成27年1月22日
 
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