労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東芝(小向(こむかい)工場) 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第574号(甲事件)・平成22年(行ウ)第90号(乙事件) 
甲事件原告兼乙事件被告補助参加人  株式会社東芝 
乙事件原告兼甲事件被告補助参加人  全国一般労働組合全国協議会神奈川 
甲事件被告兼乙事件被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
判決年月日  平成24年2月29日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 Y会社が、①X組合の組合員X1 の処遇等に関する平成18年10月3日の団体交渉申入れに平成19年2月26日まで応じなかったこと(以下「本件団交拒否」という。)、②その後の団体交渉で処遇制度に関し十分な説明をせず、資料の交付も拒否したこと、③前記団体交渉で団交議事録の作成や事前同意約款の締結等に応じないこと、④組合掲示板の設置等について申立外Z組合と同等の便宜供与をしないことが、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審神奈川県労委は、前記1①、②の各事実は労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、Y会社に対し、処遇制度に関し十分な資料を提示又は交付し、説明を行うこと(初審命令主文1項)及び文書手交(主文2項)を命じ、その余の申立事実(前記1③、④)については棄却した。
 X組合及びY会社は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、前記1①の不当労働行為を認定し、文書手交を命じ(中労委命令主文2項)、その点に関するY会社の再審査申立てを棄却する一方(主文3項)、その余の不当労働行為を認定せず、初審命令主文1項を取り消し、前記1②の不当労働行為に係るX組合の救済申立てを棄却し(主文1項)、その余のX組合の再審査申立てを棄却した(主文4項)。
 本件は、これを不服として、Y会社及びX組合が、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、Y会社及びX組合の請求をいずれも棄却した。
判決主文  1 原告会社の請求を棄却する。
2 原告組合の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、甲事件、乙事件を通じて、補助参加によって生じた各費用を含めて、2分の1を原告会社の負担とし、2分の1を原告組合の負担とする。
 
判決の要旨  1 本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 付随合意の解釈
 別件和解及び覚書作成に当たり、Y会社、X1及びX’組合(組合の前身組合)の三者間で成立した付随合意のもとでは、Y会社は、X組合がX1による自らに対する不当な扱いの訴えがあったことなど「特段の事情」をY会社の認識可能な程度に協議事項を特定し、又はその趣旨を示して団交を求める限り、団交に応じるべきである。
 なぜなら、①付随合意成立の経緯及び内容等に照らせば、付随合意は、X1から自らに対する不当な扱いの訴えがされるなど「特段の事情」があれば、X組合は、Y会社に対してX1がX組合の組合員であることの主張ができることを認めるものと解すべきで、当該主張をする場合に「特段の事情」の存在を示し、その具体的内容を説明することまで義務付けているとは解されないし、②上記程度の協議事項の特定があり又はその趣旨が示されるならば、Y会社は、X組合が「特段の事情」があることを前提として団交を求めていることは、容易に理解できると考えられるからである。しかも、③「特段の事情」は、団交内容とも密接に結び付くから、その詳細は当該団交の中でおのずと明らかにされることになる。
(2) 本件団交拒否の不当性
 X組合は、Y会社に対し、あらかじめ本件要求書を用意し、その中に「X1組合員への未払の残業代を支払うこと」等の具体的な団交事項を記載して団交を申し入れ、X1による自らに対する不当な扱いの訴えがあったことを認識可能な程度に協議事項を特定していることが明らかだから、Y会社は本件団交申入れに応じる義務がある。
 したがって、Y会社の本件団交拒否には正当な理由がなく、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
2 第5回団交及び第6回団交における処遇制度に関する資料の不交付が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
 ①Y会社は、社外秘資料の開示に慎重な態度を示していたものの、第5回団交の際には、説明のためX組合に交付した関係資料を説明終了時に回収し、②その際、X組合代表者も、Y会社の姿勢に一定の理解を示し、③第6回団交でのX組合の強い求めに対し、Y会社は第7回団交までの間にX1に評価制度ハンドブックを交付し、第7回団交の際には就業規則等の資料一式を交付し、④Y会社は、その後も必要に応じて多数の関係資料をその都度交付している。
 加えて、⑤X組合は、団交の経過中、関係資料の一部の内容については、X1を通じ入手可能なはずであるし、⑥第5回団交及び第6回団交の際には、交付された資料を手元に置きながらY会社側による処遇制度の概要の説明を受け、録音していたから、Y会社が第5回団交及び第6回団交で処遇制度に関する資料をX組合に交付しなかったという取扱いは、団交を進める上でX組合の大きな支障となったとは考え難く、また、⑦Y会社の対応の遅れは、社外秘資料が含まれるため開示の可否等に社内検討を要し、不当な点はうかがわれない。
 以上によれば、第5回団交及び第6回団交における処遇制度に関する資料の不交付が誠実交渉義務違反の不当労働行為(労組法7条2号)に当たるということはできない。
3 回答書の不交付及び団交における合意事項等の文書化の不応諾が労組法7条2号、3号の不当労働行為に当たるか(争点3)
(1) 法令上、使用者側には、当然に、労働組合の要求事項に対する回答の文書化や団交議事録の作成が義務付けられているとはいえない。確かに、文書化して記録することは、交渉内容の明確化の観点から一定の意義のある方法であるが、協議議題の内容、協議方法、交渉経緯・労使関係等に応じて交渉内容の明確化の必要性・有用性には、幅があると解すべきで、使用者が文書化を拒否したからといって、直ちに不誠実団交等の不当労働行為に当たるとはいえない。
(2) これを本件についてみるに、①協議事項は、未払残業代の支払等、一般的な団交事項で、複雑な事項が含まれていず、また、②Y会社は、口頭で回答を行う場合に、回答内容を手控文書の形で準備し、具体的団交の場で読み上げる方法を執る一方、X組合は、毎回録音していたから、正確に記録していたし、少なくとも、要求事項に対するY会社の回答内容については、Y会社が読上げを予定して発言内容等を整理した文言どおりに録音し記録したことがうかがわれる。
 すると、Y会社が回答内容を文書化して交付せず、団交議事録を作成交付しないからといって交渉内容及び経緯が不明確になる事態は想定されないし、それが団交そのものを妨げる結果にもならない。
(3) 以上によれば、回答書の不交付及び合意事項等の文書化の不応諾が労組法7条2号、3号の不当労働行為に当たるというX組合の主張は採用できない。
4 事前同意約款等の締結拒否が労組法7条2号、3号の不当労働行為に当たるか(争点4)
(1) 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、使用者は、すべての場面で各組合に中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきで、各組合の性格、傾向や従来の運動路線等によって、一方の組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助けたり、他方の組合の弱体化を図る行為は許されず、使用者が上記意図に基づき両組合を差別し、一方の組合に対して不利益な取扱いをすることは、同組合に対する支配介入となる。
 他方で、上記支配介入に当たらない限り、使用者が労働組合の組織規模及び交渉力の程度に応じて交渉態度を決定することは、一般に是認される。
(2) これを本件についてみるに、労使間で組合員の労働条件の変更に関して事前の同意又は協議を要する旨を合意する事前合意約款等を締結することは、労働組合の組合員の地位向上及び団結権の維持確保にとって重要な意義を有すると理解されるものの、会社の経営権及び人事権の行使に対する制約が大きいから、労働組合に当然に保障されるべき性質のものとはいえないと解される。
 ①Z組合は、Y会社との間の長年にわたる団体交渉における闘争の結果、協力及び互譲の積重ねにより事前同意約款を獲得するに至ったことが推認され、事前同意約款等の締結は、このような闘争及び信頼関係醸成の歴史的背景のないX組合にもZ組合と同様に保障されるべきものとはいえないし、②従業員1名の組織にすぎないX組合に対するY会社の〔おおむね誠実に本件団交に対応してきたと評価できる〕交渉態度を併せ考慮した場合、Y会社が事前同意約款等の締結を拒否したことが、X組合の弱体化を図るものとはいえないから、誠実団交拒否又は支配介入の不当労働行為に当たるとはいえない。
5 X組合に対する組合掲示板の設置及びY会社施設内におけるビラ配布等の求めの拒否が労組法7条2号、3号の不当労働行為に当たるか(争点5)
(1) 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合に、使用者が一方組合に便宜供与しておきながら他方組合に対して一切拒否することは、合理的理由がない限り、他方組合の活動力を低下させ弱体化を図る意図を推認させ、労組法7条3号の不当労働行為に該当すると解される。
(2) これを本件についてみるに、事務折衝及び団交を就労時間内に行うことの求めについて、Z組合は、多数組合で組織規模が大きく専従者を置くことも認められ、多数の組合員の利害を調整したり、団体交渉等の結果が労使関係にも大きく影響するから、労使双方にとって例外的に専従者組合員の就労時間内に時間をかけて団体交渉等を行う合理的理由が認められる。他方、X組合は、組合員が1名だから、事務折衝等のたびにX1の就労時間内の業務離脱を認めるのは、X1担当の業務の停滞を招きY会社に対する影響が大きく、団体交渉事項もX1の1名に係る事項に限られるから、団体交渉等を原則どおり時間外で行う取扱いとしてZ組合との対応に差異を設けることには、合理性がある。
(3) 次に、組合専用の机、いす、ロッカーの貸与、就業時間外の組合活動の保障について、まず、Y会社がX組合の就業時間外の組合活動を制限した事情はうかがわれない。Y会社が、Z組合に対する組合事務所用建物の貸与等の便宜供与を認め、X組合には組合専用の机、いす、ロッカーの貸与を認めないことが不公平との主張については、①組合員1名のために組合専用の机等が必要な理由が不明であるし、②Z組合がY会社から便宜供与を獲得したのは、Y会社間の長年にわたる闘争、協力及び互譲の歴史的背景の中で積み重ねられた信頼関係に基づくことが推認されるから、交渉の歴史が浅く、十分な信頼関係が醸成されているとはいえないX組合に上記便宜供与を認めないという取扱いの差異には合理性が認められる。
(4) さらに、組合掲示板の設置の求めについても、①X組合の組合員が1名のみで組合掲示板を連絡方法として確保する必要性が乏しい上、②Z組合の組織規模、Y会社のZ組合間の労使関係等にも照らすと、Z組合とY会社間で取扱いを異にする合理的理由がある。
(5) また、ビラ配布の求めについては、①団交でこれを求めた経緯が不明であるし、②Z組合に対してY会社施設内で組合員を除く不特定多数に対するビラ配布を認めていない中、組合員が1名のみのX組合のY会社施設内でのビラ配布を認めないことは不当とはいえない。
(6) 以上によれば、Y会社の併存労働組合に対する各種の便宜供与についてZ組合とX組合とで取扱いを異にすることには、それぞれ合理的理由があり、支配介入の不当労働行為の成立を認められず、また、誠実交渉義務違反の不当労働行為の成立も認められない。
6 救済方法として本件文書手交を命じることの必要性・相当性(被救済利益の有無)(争点6)
(1) 本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為を構成することは、上記1で判示したとおりで、本件団交拒否の不当労働行為性を認めた本件中労委命令の判断に誤りはない。
 労働委員会は、判断の基準時に正常な集団的労使関係が回復された場合でも、従前の不当労働行為の内容、経緯、その後の集団的労使関係の回復の経緯及び将来の不当労働行為の発生の見通し等に照らし、その専門的な裁量の下、なお必要があると認めるときは、救済命令を発令できると解される。そして、救済命令の発令の必要性及び救済方法の選択は、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し命ずる権限がゆだねられているから、裁量の逸脱、濫用等の特段の事情のない限り、労働委員会が命じた是正措置が違法となることはない。
(2) これを本件についてみるに、①Y会社とX組合間には、長期間にわたり労使間の紛争が継続し、十分な信頼関係の醸成には至らず、団交が正常化したのは、平成19年2月2日の別件上告審判決言渡し後であることが認められ、将来、同様の不当労働行為が繰り返されるおそれは、完全には払拭されないといえる。加えて、②Y会社がX組合の求めにもかかわらずX1が就業時間外にY会社に本件組合の要求事項を記載した書面を持参することすら認めていないなど不誠実な姿勢がうかがわれること、③本件中労委命令は、文書手交を命じるのみで文書掲示まで命じていず、Y会社の負担もそれ程大きくないこと等を考慮すれば、中労委が本件文書手交を命じたことに、労働委員会に付与された裁量の範囲の逸脱、濫用があるとはいえない。
(3) 以上によれば、不当労働行為である本件団交拒否に対する救済として、中労委がY会社にX組合に対する本件文書手交を命じる救済命令を発令したことには、違法はなく、相当である。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成18年(不)第33号 一部救済 平成20年7月25日
中労委平成20年(不再)第31・32号 一部変更 平成21年10月7日
東京高裁平成24年(行コ)第145号 棄却 平成24年10月31日
最高裁平成25年(行ツ)第80号、同平成25年(行ヒ)第106号 上告棄却・上告不受理 平成25年4月26日
最高裁平成25年(行ヒ)第107号 上告不受理 平成25年4月26日
 
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