労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  京都農業協同組合 
事件番号  東京高裁平成23年(行コ)第150号 
控訴人  京都農業協同組合 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  京都農業協同組合労働組合
京都府農業協同組合労働組合連合会 
判決年月日  平成23年11月17日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 Y1農協が、①Y2農協との合併に伴う雇用・労働条件等に係る団体交渉(以下「団交」という。)及び職員会結成と加入勧奨問題に係る団交において誠実に応じなかったこと、②職員説明会時及び合併前後においてY2農協会長やY1農協管理職らが組合員に対して組合非難、脱退勧奨等の発言をしたこと、③代替施設を提供せずに組合事務所を退去させたことが、不当労働行為に当たるとして、京都府労委に救済申立てがあった事件である。
2 京都府労委は、①合併関連事項等に係る団交に誠実に応じること、②組合事務所を貸与すること、③これらに関する文書を手交することを、合併後のY2農協に命じた。
 Y2農協は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 これに対し、、Y2農協は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はY2農協の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、Y2農協が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、一部を改め、2のとおり付加するほか、原判決の理由説示(「事実及び理由」第4)のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 本件臨時組合大会(平成17年4月23日)の前後におけるX組合の同一性(争点1)
 ア Y2農協は、京都府農業協同組合労働組合連合会(以下「府労連」という。)のAの強い指導の下にX組合執行委員長X1が本件臨時組合大会を開催することになったため、X1は労組員名簿等をチェックすることもなく形式的にX2にだけ口頭で連絡して招集したにすぎず、招集手続が極めて杜撰なもので有効とはいえないと主張する。
 X1はY2農協会長に「Aの指導は受けたが、最終的には私の判断で総会もやりました。」と述べており、全体としては、X1が自己の判断で本件臨時組合大会の招集を決断したことがうかがわれるのであって、本件臨時組合大会が府労連のAの強い指導の下に開催されたことは裏付けられない。
 そして、原判決が認定したとおり、X組合は、X1らによる会議で臨時組合大会開催を決定した上、脱退する労組員が急増し始め、支部組織のみならず執行部までもが壊滅的状況となり、具体的な労組員数を確定できない状況下で、確実に残っていると判断される者を可能な限り特定し、その全員に対して本件臨時組合大会の招集通知を行ったものであって、X1らによる招集対象者の特定方法及び招集方法は、X組合が壊滅状態となり、その労組員を特定できないという状況下においては、やむを得ないものであったから、Y2農協の上記主張は理由がない。
 イ Y2農協は、本件組合員大会(平成18年10月28日)に参加した労組員は、旧労組から新労組への組織変更を承認していないし、財産管理面でも基本的な継続性がないとも主張する。
 しかし、原判決が認定したとおり、本件組合員大会に招集された者は、本件臨時組合大会後、組合員としての活動をしておらず、本件組合員大会までの約1年半の間、本件臨時組合大会について何ら異議を申し立てていない。このような事実関係に基づき判断すると、本件組合員大会に参加した労組員は、労組員として実質的に行動する意思を有していなかったというべきである。また、財産管理面で本件臨時組合大会の前後におけるX組合の同一性を否定すべき事情があるとも認め難い。
 ウ 次に、Y2農協は、本件臨時組合大会後のX組合には労働組合と評価できるような活動実態がなく、本件臨時組合大会の前後を通じてX組合に同一性がないと主張する。
 しかし、X組合は、原判決が認定したとおり、数か月の間隔が空くこともあったとはいえ、月1回の定例会議を開くこととし、定期大会や臨時大会を開催して、活動方針の協議、役員選挙等を実施し、必要経費を当該大会に参加した労組員がその都度納入する組合費によって支弁する方法により実情に応じた会計上の管理運営を行い、機関紙である労組ニュースを発行し、Y2農協に対して労働条件の改善等を要求して団交申入れを行うなど、労働組合として当時の状況に見合った活動を行っていたから、Y2農協の上記主張も理由がない。
(2) X組合は、本件組合員大会における解散決議により解散したか(争点2)
 Y2農協は、本件組合員大会は、その時点で組合に残っていた組合員が組合財産の平等な分配を期して各人の判断で自主的に開催したものであり、決議方法も公正な手続で決議されているから、解散決議は有効であると主張する。
 しかし、原判決が認定したとおり、①本件組合員大会は、本件合併及び本件臨時組合大会以前にX組合を脱退した者が主導して招集されたものであって、組合員でない者によって招集されたばかりか、②本件組合員大会は、X組合の解散及び清算という最重要の議案に係るものであったにもかかわらず、X組合の執行委員長に対する招集通知はされず、意図的に除外していたものであって、その招集手続には重大な瑕疵がある。また、③本件組合員大会に招集された者は、本件臨時組合大会後本件組合員大会までの約1年半の間、組合員としての活動をしておらず、労組員として実質的に行動する意思を有していなかったから、この点でも、本件組合員大会における決議が有効ということはできない。
(3) Y1農協が行った①平成17年2月1日から同年3月24日までの団交における本件合併関連事項に関する対応及び②16年11月10日から17年3月24日までの団交(以下「本件団交」という。)におけるY1農協職員会事項に関する対応は、不当労働行為(労組法7条2号)に当たるか(争点3)
 ア Y2農協は、本件合併はY1農協の破綻回避のための実質救済合併であり、X組合に開示できる情報には著しい制限があったが、Y1農協は、このような特殊な状況下においても、必要と考えられる範囲の情報を適切に開示して説明し、本件団交に誠実に対応していたと主張する。
 しかし、原判決が認定したとおり、Y1農協は、平成17年1月24日の臨時総代会で本件合併が正式に承認されるなどしたのに、その後の団交でも、交渉ないし確認中であるなどとして、具体的な説明を行わず、X組合からの書面による質問や要求にも、職員説明会における説明以上の説明はしないという態度に終始したから、団交に誠実に応じたということはできない。Y1農協は、本件合併に伴い、Y1農協の職員の雇用関係や労働条件に影響が及ぶことから、X組合と誠実に交渉すべき義務を負っていたものであって、本件合併の正式な承認の前のみならず、同承認の後にも職員説明会における説明を優先してX組合を無視する姿勢を示していたことについて正当な理由があったものと認めることはできない。
 イ また、Y2農協は、当時の旧労組については、情宣活動上の配慮が全く期待できなかったとも主張する。
 しかし、職員説明会において職員に対する説明を予定していた段階や本件合併の正式決定後においては或る程度説明できる事項があったと考えられるにもかかわらず、具体的な説明を一切しなかったから、X組合に対して情報提供ないし説明をしなかったことを正当化できないことは、原判決の説示のとおりである。
(4) 人事部長及びその他の管理職らが行ったY1農協職員会の結成、加入勧奨及び労組ニュースに関する言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点4)
 Y2農協は、人事部長の行為は個人的な動機に基づく全くの個人的な行為であり、その他の管理職についても、X組合からの脱退を指示したり、Y1農協職員会への加入勧奨をしたりした事実は存在しないと主張する。
 しかし、原判決が認定したとおり、Y1農協は、本件合併に関連して必要となるY1農協職員の労働条件等の調整を円滑に行うため、X組合の対抗勢力として、Y1農協職員会を結成しようとしたもので、人事部長は、Y1農協の管理職らにY1農協職員会の組織化を指示し、この指示を受けた管理職らは、職員に対し、「加入しないと人事考課に影響するかもしれない」などと説明したり、36協定を締結するために労働者の過半数に加入してもらう必要があるなどと発言して、Y1農協職員会への加入勧奨をしたことからみて、人事部長は、その地位に基づく指示として、管理職らに対し、Y1農協職員会の組織化に向けた行動を行うことを命じたものと認められ、このことが人事部長の個人的な行為であったということはできない。
 また、管理職らは、上記指示に基づく行動として、上記加入勧奨行為を行ったものであるから、この点に関するY2農協の上記主張も理由がない。
(5) 合併前Y2農協会長の職員説明会等における言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点5)
 ア Y2農協は、職員説明会等におけるY2農協会長の発言の録音テープ及びその反訳書は、真偽が検討されていない上、内容に信用性がなく、仮にこれらの発言がされていたとしても、その言動は不当労働行為に該当しないと主張する。
 しかし、上記録音テープ及びその反訳書からは原判決認定の会長の発言があったことが認められ、職員説明会等における会長の発言が不当労働行為に該当することも原判決の説示のとおりである。
 イ Y2農協は、会長が「労組の役員をするのはかまわない。」と組合活動を認める発言をしており、組合嫌悪の意思はなかったとも主張する。
 しかし、原判決が認定したとおり、職員説明会等における会長の一連の発言からは、X組合が団交において労働条件等について交渉しようとしたこと自体を批判していること等が認められることに照らし、Y2農協の上記主張も理由がない。
(6) Y1農協共済部長が行ったX組合の役員3名の人事異動の内示に関する言動、本件合併の前後におけるY1農協及びY2農協の管理職らの言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点6)
 ア Y2農協は、会長とX組合役員X3との会話は、X3の置かれている状況をありのまま話し合ったものであり、労組からの脱退を慫慂したものではないと主張する。
 しかし、合併前Y2農協の会長がX3に対し、労組員であることと関連させてX3の受入先がないことを示すとともに、希望がかなわずに遠隔地に就業せざるを得なくなる可能性を示唆しつつ、組合活動を牽制し、X組合を辞めることに言及していることは、原判決の説示のとおりであるから、Y2農協の上記主張を採用できない。
 イ Y2農協は、配属先の内示につき後回しになった4名のうち3名が労組員であったことも、旧労組員が177名いたことからすれば何ら不自然ではないと主張する。
 しかし、Y2農協は、共済部長が100名以上の職員の前で殊更に4名の名前を挙げて人事異動の内示を留保するという異例の行動をとった理由を明らかにしておらず、共済部長のX組合の役員3名の人事異動の内示に関する言動は、労組員に対してX組合に属することに不安を与えるという意図で行われたといえ、Y2農協の上記主張も理由がない。
(7) Y2農協が本件労組事務所の代替施設をX組合に貸与しないことは、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点7)
 Y2農協は、Y1農協と旧労組との間に代替施設の提供に関する合意や使用貸借契約は存在しないが、仮にあったとしても、本件臨時組合大会の前後においてX組合の同一性が存在しないから、Y2農協が本件労組事務所を貸与すべき義務はなく、本件労組事務所の貸与問題について支配介入該当性は認められないと主張する。
 しかし、Y1農協とX組合が、平成17年3月24日の団交において、Y1農協が本件労組事務所に代わる組合事務所用の施設を提供することを条件としてX組合が本件労組事務所の移転に応じる旨の合意をしたことは原判決の認定したとおりであり、また、本件臨時組合大会の前後においてX組合の同一性があると認められるから、Y2農協が本件労組事務所を貸与すべき義務を負わないとのY2農協の上記主張はその前提を欠く。
 そして、Y2農協は、本件合併により、X組合に対して本件労組事務所の代替施設を提供すべきY1農協の義務を承継しているにもかかわらず、X組合の組合活動に支障が生じることを認識しつつ代替施設を提供しなかったものと認めるのが相当であることも、原判決の説示したとおりであるから、Y2農協の上記主張も理由がない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
京都府労委平成16年(不)第7号 全部救済 平成19年4月18日
中労委平成19年(不再)第23号 棄却 平成20年12月24日
東京地裁平成21年(行ク)第97号 緊急命令申立ての認容 平成22年5月28日
東京地裁平成21年(行ウ)第102号 棄却 平成23年3月31日
最高裁平成24年(行ヒ)第116号 上告不受理 平成24年11月30日
 
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