労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  京都農業協同組合
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第102号
原告  京都農業協同組合
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会)
被告補助参加人  京都農業協同組合労働組合
京都府農業協同組合労働組合連合会
判決年月日  平成23年3月31日
判決区分  棄却
重要度  重要命令に係る判決
事件概要  1 Y1農協が、①Y2農協との合併に伴う雇用・労働条件等に係る団体交渉(以下「団交」という。)及び職員会結成と加入勧奨問題に係る団交において誠実に応じなかったこと、②職員説明会時及び合併前後においてY2農協会長やY1農協管理職らが組合員に対して組合非難、脱退勧奨等の発言をしたこと、③代替施設を提供せずに組合事務所を退去させたことが、不当労働行為に当たるとして、京都府労委に救済申立てがあった事件である。
2 京都府労委は、①合併関連事項等に係る団交に誠実に応じること、②組合事務所を貸与すること、③これらに関する文書を手交することを、合併後のY2農協に命じた。
 Y2農協は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、Y2農協が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁はY2農協の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。
判決の要旨  1 本件臨時組合大会(平成17年4月23日)の前後におけるX組合の同一性(争点1)
(1) 構成員の人的同一性の有無
 X組合には、本件臨時組合大会の前後を通じて、少なくともX1労組員が存在しているから、X1以外の労組員が明らかになっていないことは、X組合の同一性を否定する事情には当たらない。また、本件臨時組合大会には、合計6名の労組員が出席し、X1の外にも、本件臨時組合大会の前後を通じ、X2が労組員であること、本件臨時組合大会後のX組合には、X1、X2及びX3以外にも複数の労組員が存在していることが認められる。
(2) X組合の質的同一性の有無
 労働組合の行動態様がある時点を境として変質したとしても、それだけで別の労働組合になるものでないし、X組合が本件臨時組合大会後にマスコミ報道を利用した組合活動を行うようになったからといって、X組合の質的同一性を否定する事情になるとはいえない。
(3) 本件臨時組合大会の招集手続及び決議についての著しい手続的瑕疵の有無
 ア 本件臨時組合大会は、支部ごとに選出された代議員によって構成されておらず、誰の請求によって開催されたか必ずしも明らかではなく、大会開催の10日前までに招集通知がされていないなど、労組規約の定める招集手続に則ったものとはなっていない。
 しかしながら、X組合は、脱退者が続出して、支部役員も脱退するなど、支部組織が壊滅状態となり、脱退届が執行委員長の手元に届かず、脱退届を提出できない状況にあった。執行部も、書記長及び副執行委員長が脱退し、執行委員長は同職を辞めたい、X組合の解散も考えている旨発言し、労働組合の存続自体が危ぶまれる状況にあったことが推認される。さらに、(平成17年)3月26日に京都府労委による本件初審事件に係る調査が迫った状況において、X組合は、早急に方針等を協議するため、本件臨時組合大会の開催を決定して招集通知を行ったものと認められる。
 労組規約に則った招集手続を経て臨時組合大会を開催することは、実際上不可能であり、また、X組合は、残っている者を可能な限り特定し、残っていると判断された労組員全員に対して招集通知を行ったというのである。このような招集対象者の特定方法及び招集方法は、X組合が壊滅状態となり、その労組員が特定できないという状況下においては、やむを得ないものであった。
 イ X組合が、原告らによる圧力を回避するため、原告に知られないよう脱退していない労組員を確認しようとしたのは、やむを得ないことである。また、当時、労組員が激減し、X組合に残る者は少数であったと推認できること、招集を行うに当たり、特定の労組員をあえて排除したなどの事情はうかがわれないこと、本件臨時組合大会について、その後に異議を申し立てた者はいなかったことを併せ考えると、招集対象者を恣意的に選択するものではなかった。
 また、本件臨時組合大会は、労組員の資格や権利、義務を制限ないしはく奪する内容の決議をしていないから、仮に通知を受けなかった労組員がいたとしても、組合財産に対する権利、利益が侵害されることにはならない。
 ウ 以上によれば、本件招集手続は、本件臨時組合大会を無効とするような瑕疵があるとはいえず、決議方法も、労組規約の決議に関する規定に照らして、瑕疵があるとはいえない。
(4) 本件臨時組合大会後における労働組合として評価し得る活動実態の有無
 ア X組合は、数か月の間隔が空くこともあったとはいえ、月1回の定例会議を開くこととし、定期大会や臨時大会を開催していることが認められる。
 イ 10名未満の労働組合であること、原告によりX組合の預金口座に出金停止措置が執られたことを併せ考えると、X組合が最低限の必要経費を、大会参加の労組員がその都度納入する組合費によって支弁する方法も、実情に応じた会計上の管理運営の一態様ということができる。
 したがって、組合費が定期的に納入されていないことは、労働組合としての活動実態を否定する事情には当たらない。
 ウ X組合が、本件臨時組合大会後、労働組合として活動していたことは明らかであり、これを覆すに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば、本件臨時組合大会の前後におけるX組合の同一性、継続性がないということはできない。
2 X組合は、本件組合員大会(平成18年10月28日)における解散決議により解散したか(争点2)
(1) まず、労組規約は、「組合員大会」なるものを規定していない。本件組合員大会は、本件合併及び本件臨時組合大会以前にX組合を脱退した者が主導して招集されたが、脱退者は、X組合に対する財産上及びその他一切の権利を放棄したものとみなされる者であり(労組規約12条)、X組合に関わる事項を取り扱う資格がない者である。そうすると、本件組合員大会の招集は、労組員でない者により行われたことになる。また、本件組合員大会は、X組合の解散及び清算という最重要の議案に係るものであったにもかかわらず、執行委員長に対して招集通知をせず、意図的に除外している。
 以上の点に照らすと、その招集手続には重大な瑕疵がある。
(2) 次に、労組規約43条は、X組合の解散は、直接無記名投票によって特別多数の賛成が必要と定めている。本件組合員大会における決議は、出席者の挙手によって行われており、その決議自体も、労組規約に則った手続によらず、その決議方法には重大な瑕疵がある。さらに、本件組合員大会の出席者及び委任状提出者は、既にX組合を実質的に脱退していた者と推認できる。
 以上によれば、X組合を解散し清算するとの決議は、無効である。
3 Y1農協が行った①平成17年2月1日から同年3月24日までの団交における本件合併関連事項に関する対応及び②16年11月10日から17年3月24日までの団交(以下「本件団交」という。)におけるY1農協職員会事項に関する対応は、不当労働行為(労組法7条2号)に当たるか(争点3)
(1) Y1農協が行った本件合併関連事項に関する対応の不当労働行為該当性
 ア Y1農協の対応は、本件合併が正式に決定された後においても、X組合に対して個別具体的な説明を一切しないという態度に終始したものであり、不誠実な交渉態度であった。
 イ 確かにY1農協は、当時経営状態が悪化し、経営破綻を回避する目的から本件合併に応じたことが認められ、Y1農協としては、本件合併の実現に向け、情報管理の必要性は高く、開示できる情報にも一定の制約があった。
 しかし、本件合併に伴い、Y1農協の職員の雇用関係や労働条件に影響が及ぶことが必至であったことは当然に想定し得、Y1農協は、本件合併関連事項について、X組合と誠実に交渉すべき義務を負っていた。そして、開示できる情報に一定の制約があることは、不誠実な団交対応を正当化する理由とはなり得ず、Y1農協は、当該状況下において必要と考えられる範囲の情報を適切に開示して説明しなければ、団交に誠実に応じたということはできない。
 そして、Y1農協は、17年1月24日の臨時総代会で本件合併が正式に承認されるなどした後の団交においても、交渉ないし確認中などとして、具体的な説明を行っておらず、X組合から書面による質問や要求についても、職員説明会における説明以上の説明はしないという態度に終始したから、団交に誠実に応じたということはできない。
(2) Y1農協の本件団交におけるY1農協職員会事項に関する対応の不当労働行為該当性
 ①Y1農協職員会事項は、Y1農協内部の問題であって、Y1農協は、事実関係の確認が困難とは考え難いことを併せ考えると、調査や確認を行わずにX組合に対する説明を引き延ばしていたといわざるを得ないこと、②Y1農協は、17年3月17日の団交に至り、Y1農協職員会の結成に係る活動等は人事部長の個人的行為である旨説明しているものの、Y1農協が組織的に行ったものと認められることなど、不誠実な交渉態度であった。
4 人事部長及びその他の管理職らが行ったY1農協職員会の結成、加入勧奨及び労組ニュースに関する言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点4)
(1) Y1農協職員会の結成及び加入勧奨について
 Y1農協は、本件合併に関連して必要となるY1農協職員の労働条件等の調整を円滑に行うため、X組合の対抗勢力として、Y1農協職員会を結成しようとしたものと認められ、その一環として行われた人事部長及びその他の管理職らによるY1農協職員会の結成等に係る言動は、X組合の組合運営に対する支配介入に当たり、労組法7条3号所定の不当労働行為に該当する。
(2) 労組ニュースに関する言動について
 Y1農協職員会の結成及び加入勧奨行為がX組合に対する不当労働行為であることからすると、人事部長は、懲罰権の行使を示唆しながら、Y1農協職員会の結成を阻害する労組員の活動を牽制するために各発言を行ったものと認めるのが相当である。そうすると、人事部長の各発言は、X組合の組合運営に対する支配介入に当たり、労組法7条3号所定の不当労働行為に該当する。
5 合併前Y2農協会長の職員説明会等における言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点5)
(1) 職員説明会における会長の言動について
 17年3月21日職員説明会における会長の各発言が、合併に関する事項についてX組合とは話し合わないという態度を表明した発言、X組合を敵視又は嫌悪している姿勢を表す発言、X組合が団交において労働条件等について交渉しようとしたこと自体を批判する内容の発言などであることからすると、X組合の組合運営に対する支配介入に当たる。
 ところで、合併前Y2農協は、10日後に本件合併手続を経ればそのままY1農協職員の使用者(原告)となる状況にかんがみれば、合併前Y2農協は、合併前Y2農協の会長の各発言があった3月21日時点において、既にY1農協職員の実質的な使用者の立場にあったといえるから、Y1農協職員との関係では、労組法7条の使用者に当たると解することができる。そして、会長の各発言に係る不当労働行為は、本件合併後は原告となる合併前Y2農協のX組合に対する不当労働行為というべきである。
(2) 職員説明会終了後における会長の言動等について
 会長の各発言は、X組合の活動に干渉し、労組員のX組合からの脱退を慫慂する趣旨でされたものと認めるのが相当であり、その内容からすると、X組合の組合運営に対する支配介入に当たる。
 そして、会長の各発言は、合併前Y2農協のX組合に対する支配介入に当たる3月21日職員説明会における会長の発言に引き続いてされたものであることからすると、同様に、本件合併後は原告となる合併前Y2農協のX組合の組合運営に対する支配介入に当たる。
6 Y1農協共済部長が行ったX組合の役員3名の人事異動の内示に関する言動、本件合併の前後におけるY1農協及びY2農協の管理職らの言動は、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点6)
(1) Y1農協共済部長が行ったX組合の役員3名の人事異動の内示に関する言動について
 Y1農協共済部長が、多数の職員の面前で氏名を挙げてX組合の役員3名を含む4名に対する人事異動の内示を後回しにするという行動(発言)を行ったのは、労組員に対し、X組合に所属していると何らかの不利益が及ぶとの懸念を抱かせる意図をもって行われたものと推認することができ、労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に当たる。
(2) 本件合併の前後におけるY1農協及びY2農協の管理職らの言動について
 Y1農協の幹部職員(支店長ら)は、17年3月下旬、X組合からの脱退慫慂とY1農協職員会への加入勧奨を行うなどし、また、Y2農協の支店長や課長らが、同月5日、部下のX組合からの脱退状況を点検し始め、管理職らにおいて、脱退していない労組員に対して個別に脱退を確認する動きも現れていた。これら管理職らの言動は、その内容に照らして、労組法7条3号の支配介入に該当する。
7 原告が本件労組事務所の代替施設をX組合に貸与しないことは、不当労働行為(労組法7条3号)に当たるか(争点7)
(1) X組合は、Y1農協との間で本件労組事務所の使用貸借契約を締結し、同契約に基づき本件労組事務所を使用していたのであるから、同契約の終了事由が発生しない限り、本件労組事務所の使用を継続することができる地位にあった。そして、本件合併は、合併前Y2農協がY1農協を吸収合併する内容のものであるから、特段の事情がない限り、Y1農協の権利義務は、そのまま原告に承継されることになる。
(2) Y1農協とX組合は、17年3月24日の団交において、Y1農協が本件労組事務所に代わる施設を提供することを条件としてX組合が本件労組事務所の移転に応じる旨の合意が成立し、同合意は、本件合併後もその使用継続を予定したものと認められる。そうすると、原告は、本件合併後はY1農協の義務を承継した者として、同合意を履行すべき義務を負う。
 しかし、原告は、代わる施設の提供をすることなく、X組合を本件労組事務所から退去させ、その後も代替の事務所を提供していない。
(3) X組合にとっては、本件労組事務所の代替施設が提供されなければ、組合活動に影響が生じるのは明らかであり、原告は、X組合の組合活動に支障が生じることを認識しながら、あえて代替施設を提供しなかったものと認めるのが相当であって、労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に該当する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
京都府労委平成16年(不)第7号 全部救済 平成19年4月18日
中労委平成19年(不再)第23号 棄却 平成20年12月24日
東京地裁平成21年(行ク)第97号 緊急命令申立ての認容 平成22年5月28日
東京高裁平成23年(行コ)第150号 棄却 平成23年11月17日
最高裁平成24年(行ヒ)第116号 上告不受理 平成24年11月30日
 
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