労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  エッソ石油(東京) 
事件番号  東京高裁平成21年(行コ)第14号 
控訴人  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合
個人1名 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  エクソンモービル有限会社(エッソ石油株式会社等が組織変更及び合併を経て、平成14年6月1日に現在の会社となる。) 
判決年月日  平成23年10月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Y2会社の前身であったY1会社が、X1組合の下部組織である本社支部の書記長であったAを無断ビラ貼り、実力による入構阻止、無断職場離脱、暴行傷害等の職場秩序紊乱行為があったとして懲戒解雇したことが、不当労働行為に当たるとして東京地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京地労委はこれを棄却した。A及び東京地労委の手続においてX1組合の申立人としての地位を引き継いだX2組合は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委はこれを棄却した。
 これに対し、X2組合及びAは東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はX2組合らの請求を棄却した。
 本件は、これを不服として、X2組合及びAが東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、本件解雇が不当労働行為に当たるとは認められず、控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決を補正し、当審における控訴人らの主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人らの主張について
(1) 不当労働行為成否の判断方法について
 ア X2組合らは、形式的に懲戒処分事由に当たる場合でも不当労働行為意思をもって行う限り不当労働行為が成立する旨主張し、最高裁昭和60年4月23日判決を引用する。
 しかし、①同判決は、上記趣旨を判示したと解することはできず、企業内に複数の労働組合が併存する場合における少数派組合との団体交渉の結果として取られた使用者の行為が労組法7条3号の不当労働行為に該当するか否かにつき判断した事例であって、本件とは事案を異にするから、判例違反をいうX2組合らの上記主張は失当である。
 また、②懲戒解雇の理由が認められるが、同時に使用者に不当労働行為意思が存在する場合には、その意思が解雇の決定的な理由となったとき、あるいは、組合員でなければ解雇するに至らなかったと認められるときには不当労働行為が成立すると解されるところ、本件では、Aの数多くの行為が就業規則に定める懲戒事由に該当し、かつ、情状の重いものが複数存在することから、本件解雇が専らY1会社の不当労働行為意思によるものであったと認めることも、Aと同様の行為をした者がX1組合の組合員でなかったならば解雇されなかったと認めることも困難である。
 イ なお、X2組合らは、旧労(X1組合)勢力一掃の方針に関し、原審までの主張を改めて、これがZ組合(第二組合)の方針でなくY1会社の方針であった旨主張する。
 Z組合は、従前のX1組合の方針を批判する従業員らが、民主主義のルールを守った組合運営を目指して結成され、昭和51年春闘で「組織強化、拡大を通じて職場の完全民主化をはかる闘い」を基本姿勢の一つとしていたことが認められ、職場からX1組合の組合員を排除し、Z組合の組合員を増加させるとの方針を取っていたと解される。一方、X2組合らの援用するERノート(Y1会社の指示通知)は、Y1会社が管理職あてに労働関係に関する情報を提供する社内文書にとどまると解されるから、これをもってY1会社が旧労勢力一掃という方針を決定したと認めるには足りない。
 以上によれば、本件解雇がY1会社の不当労働行為意思によるものであることを理由として不当労働行為に当たると認めることはできないから、X2組合らの上記主張は、違憲をいう点を含め、採用できない。
(2) 争議行為を理由とする懲戒処分の裁量権の逸脱について
 X2組合らは、争議行為を理由とする一般組合員に対する懲戒免職処分を無効とした裁判例を引用した上、AはX1組合本部の意思決定に従って忠実に行動しただけであるから、本件解雇は裁量権の逸脱として無効であると主張する。
 Aは、本件解雇当時、X1組合本社支部の書記長の地位にあり、幹部責任を負うと認められ、組合の方針を忠実に実行しただけの一般組合員と同列に論ずることはできない。
(3) 基本的事実に関する事実誤認について
 以下のとおり、原判決に事実誤認があるとは認められない。
 ア X1組合とY1会社の労使関係につき、X2組合らは、「X1組合は結成以来ストライキを行ったりしていた」とした原審の事実認定を非難する。
 X2組合らは、原審において、中労委の決定で認定された「X1組合は、結成以来、賃上げ交渉時などにストライキを行ったりした」旨の事実を明らかに争っていなかったのであり、原判決はこれを争いのない事実として摘示したにとどまる。
 イ Z組合の結成経過等につき、X2組合らは、Y1会社の具体的な関与によるものであるので不当労働行為に当たる旨主張する。
 Z組合は、X1組合の方針は偏ったイデオロギーを振り回し、ストのためのストを打ち続け、闘争のための闘争を繰り返すとして、これに批判的な立場を取る従業員により結成されたと認めることができ、Y1会社の関与により結成されたと認めるべき証拠はない。
 ウ Y1会社による警備員の導入につき、X2組合らは、警備員はX1組合の組合活動に積極的かつ攻撃的に介入しており、その導入を了解可能かつ合理的とした原判決は誤りである旨主張する。
 しかし、Z組合によるビラ配布をめぐりY1会社が入居していた会館の玄関前でX1組合及びZ組合の組合員間に小競り合いが生じ、ビル管理者から抗議を受けたことから、Y1会社がその後ビラの配布場所に警備員を配置したことは相当といえる。また、X1組合によるビラ貼付の状況に照らすと、ビラ撤去に対する妨害に備えて警備員を配置したことも合理的と解され、以上の認定を覆すに足りる証拠は見当たらない。Y1会社が労働争議に介入させるためにあえて警備員を雇い入れたと認めるべき証拠もない。
 エ X2組合らは、さらに、親会社の市場戦略に基づくY1会社社長の違法な意思によりX1組合に対する攻撃が仕掛けられたとも主張するが、証拠の裏付けを欠いた独自の見解というほかない。
(4) 懲戒理由に関する事実認定及び判断の誤りについて
 以下のとおり、懲戒理由についての原審の認定判断に誤りがあるとはいえない。
 ア 始業時以降のビラ配布について
 X1組合本社支部の組合員が連日、始業時刻を過ぎるまでビラ配布をしたこと、これが労働協約違反であり、Y1会社が再三注意したにもかかわらず、始業時以降の配布が続けられたこと、朝ビラ配布の強化はAを書記長とするX1組合本社支部の方針であったこと、従業員の遅刻が常態化していたとしても、就業時間内の組合活動を正当化できないことは、原判決の判示するとおりと認められる。すると、上記ビラ配布につきAは組合幹部として責任を負い、かつ、その情状は重いと評価するのが相当である。
 イ 組合旗貼付等について
 X1組合本社支部が、朝ビラ配布の開始から終了までの間、大型の組合旗を貼付した会館の正面玄関の全面ガラスは、建物の共用部分であって、X1組合が独占的に使用する権限を有しないから、正当な組合活動に当たらず、建物所有者に対する違法な行為となり、建物管理者が組合旗の撤去を求めることは当然である。X1組合による組合旗貼付は管理者の抗議にかかわらず繰り返し行われ、Aは管理者に対し有形力を行使したのであるから、懲戒事由に当たり、かつ、情状が重いとした原審の判断は相当と認められる。
 ウ ビラ貼付について
 ビラ貼付自体は正当な組合活動といえるが、本件のX1組合本社支部によるビラ貼付は、労働協約により文書の貼付が認められた場所に当たらないエレベーターホールの壁等に、多数のビラを一面に貼り付けるという態様で行われ、しかも、再三にわたるY1会社の警告を無視し、Y1会社側がビラを剥がすと再度貼付することが繰り返されている。すると、原審の判断のとおり、これを組合活動として正当化する余地はなく、AはX1組合本社支部書記長として幹部責任を負い、その情状は重いと認められる。
 エ 4月8日朝の入構阻止及び暴行並びに同日夜のビラ撤去作業妨害等について
  (ア) X2組合らは、上記各懲戒理由に係る暴行及び4月7日朝の暴行は、Y1会社の策謀に基づき、Z組合又は警備員の側の挑発によって生じたものであり、原判決は加害者と被害者を取り違えている旨主張する。
 4月8日朝及び夜における暴行の態様及びこれに至る経過に照らすと、Aが自らの暴行につき責任を負い、これに加えてX1組合本社支部の書記長として幹部責任も負うこと、これらがY1会社の就業規則に定める懲戒事由に該当し、かつ、その情状が重いことは、原判決のとおりである。
 これら一連の出来事がY1会社の策謀により生じたと認めるに足りる証拠はなく、また、Aを含むX1組合の組合員による暴行が正当防衛に当たるなど違法性が阻却されると解すべき事情も見当たらない。
  (イ) X2組合らは、AのZ1(Z組合役員)に対する暴行はない旨主張し、当審において、Z1が平成20年11月の同期会の場でAによる暴行を否定する趣旨の言動をしたとの主張を追加し、Aはこれに沿う陳述書を提出した。
 ①Z1は、当審での証人尋問を含め、一貫してAから暴行を受けた旨の供述をしており、②Aを被告人とする刑事事件でもAのZ1に対する暴行があったとの事実が認定され、有罪判決が確定している、さらに、③Aは、上記同期会の約半年後に、Z1がAから暴行を受けた事実はないことを含め、X2組合らの主張に沿う内容の陳述書の作成を求める書簡をZ1に送付しているところ、上記同期会でX2組合ら主張の言動があったというのであれば経験則上それへの言及があってしかるべきであるが、この書簡にそのような記載はない。
 すると、Aの上記陳述書の記載を信用することはできず、原審の認定するとおり、AのZ1に対する暴行の事実を認めるのが相当である。
 オ 4月12日の業務妨害及び施設無断立入りについて
 X1組合の組合員多数が争議行為中の立入りが許されていない職場内通路に立ち入り、Aの音頭でシュプレヒコールを行うなどしたこと、X1組合が貼付したビラをY1会社管理職らが撤去しようとしたのに対し、Aを含むX1組合の組合員が妨害したこと、これらの行為につきAが幹部責任を負い、その態様に照らし情状が重いと解すべきことは、原判決のとおりであり、この認定を覆すに足りる証拠はない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京地労委昭和51年(不)第126号 棄却 昭和63年 8月 2日
中労委昭和63年(不再)第50号 棄却 平成17年 4月 6日
東京地裁平成17年(行ウ)第512号 棄却 平成20年12月4日
最高裁平成24年(行ツ)第74号・平成24年(行ヒ)第78号 上告棄却・上告不受理 平成24年10月18日
 
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