労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ケーメックス 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第366号 
原告  株式会社ケーメックス 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  全統一労働組合 
判決年月日  平成23年9月29日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、組合との、18年度の冬季賞与(以下「本件賞与」という。)に関する一連の団体交渉(以下「本件団交」という。)において、(1)組合の求める計算式による賞与要求を拒否したこと、(2)本件賞与支給額の根拠等のうち、①人事考課による賞与決定の仕組みについて十分な説明をしなかったこと、②分会員の個別の賞与支給額の根拠について団体交渉の場での説明を拒否したこと、(3)組合の求めた非組合員分を含めた全社的な資料を開示しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、本件団交において、会社が、分会員の個別の賞与支給額の根拠についての説明を拒否したこと、組合の求めた全社的な資料の一切を開示しなかったことが不当労働行為であるとして、会社に対し文書手交及び履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社及び組合は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は初審命令を一部変更し、本件団交において、会社が、分会員の個別の賞与支給額の根拠についての説明を拒否したことが不当労働行為であるとして、会社に対し文書手交を命じ、その余の会社の再審査申立て及び組合の再審査申立てをそれぞれ棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 会社が本件団交において組合に対し分会員の個別の本件賞与の支給額の根拠に関する説明をしなかったことは、不誠実な交渉態度であるか(争点1)
(1) ①会社における賞与支給額の決定方法については、「会社の業績に応じ、能力、勤務成績、勤務態度等を人事考課により査定し、その結果を考慮して、その都度決定する」との給与規程32条の規定以外に、賞与の支給基準に関する具体的な定めがなく、明確な計算式もないこと、②従業員個々人の評価・査定は、社長が、会社及び部門の業績並びに個々人の業績、勤怠等を勘案し、各部門の管理職と相談して行い、社長が従業員個々人の賞与支給額を決定し、会社は、社長が決定した賞与支給額のみを個別に通知していることから、会社における賞与支給額の決定方法は、客観性、明確性が十分に担保されているとはいい難く、組合が、賞与支給額の根拠の説明を求めることは、必要かつ相当なものというべきである。
 したがって、分会員の個別の賞与支給額の根拠は、所属分会員の労働条件に関する事項として、義務的団交事項に当たる。
(2) 組合が説明を求めた分会員の個別の賞与支給額の根拠は、義務的団交事項に当たるから、全く説明をしない対応は、正当な理由がない限り、不誠実なものと評価すべきである。
 会社は、賞与の査定結果等に関する従業員の苦情等への対応として、上長(上司)に対する申立て等を通じて上長から個別説明をして対応する運用を行っているが、当該運用は、従業員個々人との関係で行われる苦情等への対応であり、組合との団交における義務的団交事項に当たる分会員の賞与支給額の根拠を説明しないことを正当化するものではない。その他会社の団交における対応を正当化する具体的事由はうかがわれない。
(3) 以上によれば、会社が組合に対してした上記団交における対応は、分会員の本件賞与に関する団交において行うべき説明を拒否する不誠実な交渉態度というべきで、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
2 組合は、本件協定書作成後も、本件賞与に関する交渉過程における会社の不当労働行為責任を追及できるか(争点2)
(1)ア 会社は、不当労働行為の救済申立て意思の留保条項のない本件協定書が作成された以上、組合は不当労働行為の被救済利益を放棄又は喪失した旨主張する。
 本件賞与について作成された本件協定書の内容は、支給対象者、支給金額及び支給日の3条項からなり、本件協定書上、会社の組合に対する不誠実交渉態度に係る不当労働行為責任を免責ないし宥恕する文言は存在しないし、上記各取決め事項のほかに、会社と組合間における権利義務が存在しない旨の清算条項も存在しない。
 したがって、本件協定書で協定された事項は、特段の事情のない限り、上記3事項に限られる。
 特段の事情の有無について検討するに、分会長を除く分会員の本件賞与に関する労使間の合意の成立経過、分会長の本件賞与の顛末及び本件協定書作成の経過に照らすと、本件協定書を作成するについて、組合が本件賞与に関する交渉過程における会社の不当労働行為について不問に付し、あるいは本件初審申立てを取り下げることを前提として交渉していたことをうかがわせる事情はなく、かえって、組合は、協定書を作成することにより当該不当労働行為責任を追及できなくなることを懸念して、そのような事態を招かない協定書作成を目指していたことが認められる。
 以上によれば、本件協定書は、上記3事項についてのみ解決に至ったことを確認したものであり、本件協定書が作成されたことにより、組合が本件賞与に関する交渉過程における会社の不当労働行為責任を追及できなくなったことにはならず、また、組合が当該不当労働行為についての被救済利益を放棄又は喪失したということもできない。
 イ 会社は、本件賞与に関する交渉において組合が不当労働行為責任を追及することを留保することを条件として本件承諾書を作成した場合には、当該留保を付すことに会社は合意していないから、会社と組合との間には本件承諾書の内容及びその作成について合意が成立していない旨主張する。
 しかし、本件承諾書の内容及びその作成について合意が成立していないのであれば、そもそも組合が本件賞与に関する交渉における会社の対応について不当労働行為責任を追及することは何ら制限されないことになるから、上記主張は意味がない。また、本件賞与の支給額の問題と上記不当労働行為責任の追及の問題とは、不可分一体の問題ではなく、それぞれ別個に解決できる問題であり、本件承諾書の内容に照らすと、本件承諾書は本件賞与の支給額の問題についてのみ解決に至ったことを確認したものと解されることは、上記アで説示したとおりである。
(2) 会社は、別件訴訟事件において、本件和解が成立しているから、分会長との関係で不当労働行為が成立することはなく、また、会社には和解条項に定める以外の債権債務がないことを確定する本件和解清算条項を含む本件和解が成立しているから、本件賞与に文書交付に係る命令を発令することは許されない旨主張する。
 本件和解は、会社と分会長との間で係属していた別件訴訟事件において、その間に成立した訴訟上の和解であるから、その効力は、会社と分会長との間で生じるにすぎず、会社と組合との間における法律関係を規律するものではない。
 したがって、本件和解が成立したことにより、本件賞与に関する交渉過程における会社の組合に対する不当労働行為の成否に影響を及ぼすことも、当該不当労働行為に係る会社の責任が消滅することもない。
3 本件命令が命じた文書交付の適否(争点3)
 争点3に関する会社の主張は、本件賞与の交渉過程において会社に不当労働行為がないこと、仮に当該不当労働行為があるとしても、組合は、本件協定書の作成により、当該不当労働行為を問責し得なくなったことを前提とするものであるところ、以上の前提が認められないことは、上記1及び2で説示したとおりである。
4 結論
 本件命令の主文第1項及び第2項に係る部分の判断は相当であり、本件命令が認定した会社の不当労働行為に対する救済方法として、本件命令主文第1項の文書交付を命じたことも相当である。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成19年(不)第25号 一部救済 平成20年12月16日
中労委平成21年(不再)第6号・第7号 一部変更 平成22年6月2日
東京高裁平成23年(行コ)第341号 棄却 平成24年2月15日
最高裁平成24年(行ヒ)第224号 上告不受理 平成25年3月15日
 
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