労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  田中酸素 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第396号 
原告  田中酸素株式会社 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
判決年月日  平成23年8月25日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、(1) 組合員X1に対し、営業所での営業支援を命じたこと(以下「本件支援命令」という。)及び(2) 組合員X1、X2及びX3の17年冬季、18年夏季及び冬季の賞与及び19年1月以降の月例賃金を減額したことは、労組法7条1号の不当労働行為に当たるとし、(3) X1に対し注意書を交付したこと及び(4) X2に対し戒告処分とし、営業所においていわゆる職場八分としたことは、同条3号の不当労働行為に当たるとして、山口県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審山口県労委は、前記(1) について、X1を本件支援命令が発せられる前の職場に速やかに復帰させること、(2) について、17年冬季ないし18年冬季の各賞与について、明確かつ具体的な査定基準と支給手続を明示した上で、再査定に基づいて賞与額を定め、既支給額との差額を支払うこと、19年の月例賃金の基本給を18年と同額とし、既支給額との差額を支払うことを命じ、その余の申立を却下ないし棄却した。
 会社は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文第1項(上記(1) に係る部分)を取り消し、同部分に係る救済申立てを棄却し、初審命令主文第2項を訂正(再査定に関し、組合員3名が組合員であることを考慮しないこと、組合に明示した査定基準及び手続に則って行う内容に訂正)の上、その余の再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の要旨  1 X1ら3名の本件賞与減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 立証責任について
新査定方法は、内容及び査定事項からすると、個々の従業員により結果に差が生じるのが常態といえるから、本件賞与減額が労組法7条1号の「不利益な取扱い」というためには、X1ら3名に係る本件係争年の賞与の査定が不相当であることが立証されなければならないが、その立証責任は、労組法7条1号の規定に照らすと、中労委にあると解される。
 もっとも、会社と組合間にある査定に関する情報量の差を考慮すれば、組合ないし中労委が査定の相当性に多大な疑問があることを指摘し、それについて一応の立証がされているのに、会社から的確な査定の相当性についての反証がなければ、上記立証がされたものと評価し得る。
(2) 賞与額について
 X1ら3名の賞与額は、平成15年冬季賞与から減額が始まり、低い水準の金額で推移し、本件係争年の賞与額は、それ以前の賞与額や、職能等級を同じくする他の従業員の賞与額と比較して、いずれも相当に低額なものであったということができる。
(3) 査定結果の相当性について
 (考課点の状況に関する)事実は、X1ら3名に係る本件係争年の賞与の査定結果の合理性を疑わせるものである。
(4) X1ら3名に係る賞与減額事由の有無について
 会社がX1の賞与減額事由として挙げる①業務調査票の提出態様の不良、②営業成績の不良、③朝ミーティングにおける態度の悪さ、④ヘルメット着用を注意されたことに対する反抗的態度については、X1の本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない、又は相当性がない。
 会社がX2の賞与減額事由として挙げる①営業成績の不良、②業務調査票の提出態様の不良、③所長代理の権限を否定するような発言については、X2の本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない、又は相当性がない。
 会社がX3の賞与減額事由として挙げる①業務調査票の提出態様の不良、②業務日報に売上額の記載がないこと、③交通事故を再三起こしていることについては、X3の本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない、又は相当性がない。
(5) 本件賞与減額の労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」該当性について
 ①会社が行った本件賞与減額が不相当なものであり、これについて他に合理的理由を認め得る証拠がないこと、②会社とX1ら3名が所属している組合とは、組合結成後継続的に対立関係にある状態であったこと、③X1ら3名は組合の役員であることに鑑みると、会社は、X1ら3名が組合員であること又はその組合活動を嫌悪し、X1ら3名に対して経済的不利益を課す意図に基づいて本件賞与減額を行ったものと認めるのが相当である。
 以上によれば、会社がX1ら3名について本件賞与減額をしたことは、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
2 X1ら3名の本件賃金減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか(争点2)
(1) 立証責任について
 職能等級の格付は、従業員の成果、態度等を考課した結果に基づいて定められることからすると、個々の従業員により格付結果に差が生じるのが常態といえるから、本件賃金減額が労組法7条1号の「不利益な取扱い」といえるためには、X1ら3名の本件賃金減額に係る人事考課が不相当であることが立証されなければならないが、その立証責任については、上記1(1)で説示したことがそのまま妥当すると解される。
(2) 賃金額について
 平成19年1月時点で職能等級の号俸が下げられ、同月の月例賃金が減額になったのは、X1ら3名を含む4名しかおらず、しかも、X1ら3名の減額幅が他の1名のそれより大きいものである。
(3) 人事考課の相当性について
 (評価要素に対する評価結果の状況に関する)事実は、X1ら3名に対する本件賃金減額における人事評価の結果の合理性を疑わせるものである。
 また、X1ら3名とその余の従業員との間では、評価項目全体の評価の仕方が異なっている。
(4) 本件賃金減額の労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」該当性について
 ①会社が行った本件賃金減額が不相当なものであり、これについて他に合理的理由を認め得る証拠がないこと、②会社とX1ら3名が所属している組合とは、組合結成後継続的に対立関係にある状態であったこと、③X1ら3名に係る本件係争年の賞与の査定が労組法7条1号の不当労働行為に当たると判断されることに鑑みると、会社は、同査定に引き続いて行われた関係にある本件賃金減額についても、X1ら3名が組合員であること又はその組合活動を嫌悪し、X1ら3名に対して経済的不利益を課す意図に基づいて行ったと認めるのが相当である。
 以上によれば、会社がX1ら3名について本件賃金減額をしたことは、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
3 結語
 以上によれば、会社のX1ら3名に対する本件賞与減額及び本件賃金減額がいずれも労組法7条1号の不当労働行為に該当するとした本件命令における中労委の判断は相当であり、当該不当労働行為に対して本件命令が命ずる救済の内容も相当である。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成18年(不)第2号 一部救済 平成20年3月27日
中労委平成20年(不再)第14号 一部変更 平成21年7月1日
東京高裁平成23年(行コ)第304号 棄却 平成24年2月8日
最高裁平成24年(行ツ)第190号・平成24年(行ヒ)第225号 上告棄却・上告不受理 平成24年11月9日
 
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