労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  魚沼中央自動車学校
事件番号  東京高裁平成22年(行コ)第251号・第263号
控訴人兼附帯被控訴人  株式会社ショウ・コーポレーション(平成19年4月に株式会社魚沼中央自動車学校から商号変更)
被控訴人兼附帯控訴人  神奈川県(処分行政庁:神奈川県労働委員会)
被控訴人兼附帯控訴人補助参加人  神奈川県自動車教習所労働組合
神奈川県自動車教習所労働組合湘南ドライビングスクール支部
個人3名
判決年月日  平成23年3月10日
判決区分  棄却
重要度   
事件概要  1 自動車の運転教習業等を目的とするY1会社が、①グループ企業の申立外会社の経営するY2自動車教習所(以下「Y2校」という。)が閉校したことに伴い、組合員であったX1、X2、X3が解雇され、Y1会社の経営により開校したY3自動車教習所(以下「Y3校」という。)に採用しなかったこと、及び②支部組合からの団体交渉申入れを拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 神奈川県労委は、①X1、X2、X3について開校したY3校で指導員として採用し、就労していたものとしての取扱い及びバックペイ、②誠実団交応諾、③これらに関する文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
 これに対し、Y1会社はこれを不服として、横浜地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、救済命令の主文第1項(1)及び(2)のうちX3に関する平成19年2月1日以降の定年退職後の期間に係る部分等を却下したが、Y1会社のその余の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、Y1会社が東京高裁に控訴し、他方、支部組合及びX3が附帯控訴した事件であるが、同高裁はいずれも棄却した。
判決主文  1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。
判決の要旨  1 当裁判所の判断
 当裁判所は、本件命令の主文第1項(1)及び(2)のうちX3に関する平成19年2月1日以降の期間に係る部分並びに主文第4項に係る部分をいずれも却下すべきであり、その余の部分の控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次項以下に説示を加えるほか、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 控訴理由に対する判断
(1) 控訴人Y1会社は、(平成15年10月10日の団体交渉においてY2校代表取締役兼Y1会社取締役Aが、Y2校の従業員は原則として全員Y1会社の経営するY3校に移ってもらうなどと述べたという)本件発言がされた平成15年10月10日時点でY3校が公認を取得できるかは未定であって、Y2校の従業員全員をY3校の従業員として雇用する方針を決定していなかったから、原判決の事実認定は、本件発言後に生じた事実を加えて評価し、控訴人が本件グループ企業の経営するY2校の元従業員全員を雇用してY3校の従業員に当てる方針を決定したとした誤りがある旨主張する。

(2) (Y2校の現場責任者)BのY2校の朝礼におけるY3校の公認取得の経過の説明、Y2校の新規受講生の受入停止、BによるY2校の従業員に対するY3校における勤務の指示、Y2校からY3校への備品類の移設等は、本件発言後にされたものではあるが、事業はその成否につき不確定要素を孕みつつその実現に向けて人的・物的資源を投入して行われるのが一般であるところ、上記の各行為、対応等は、いずれも控訴人において本件グループ企業が経営するY2校の元従業員全員をY3校の従業員として雇用する方針が決定されたがゆえに、これを具体化し、又は実行したものであることにほかならない。
 また、Y3校における人材の確保及び設備・備品の調達は、Y3校が自動車教習所として成功するか否かに関わる重要な問題であるから、控訴人の代表取締役Cが上記方針の決定に関与していないことはおよそ想定しがたい。
 しかるときは、本件発言前後の各事実を総合評価してした原判決の説示は、正当として是認でき、控訴人の主張は、採用できない。
3 雇用延長又は再雇用についての労働協約又は労使慣行に係る附帯控訴理由に対する判断
(1) 支部組合及びX3は、ほぼ原審主張を繰り返し、Y2校と支部組合間において、満60歳に達したが就労意思がある従業員について雇用の継続又は再雇用がされる旨の労働協約(以下「Y2校協約」という。)が締結され、仮にこれが失効したとしても、同内容の労使慣行(以下「Y2校慣行」という。)が成立し、Y3校に引き継がれたから、X3と控訴人間の労働契約の一部を構成し、X3は満60歳後も控訴人に再雇用されるべきである旨主張する。

(2) ア Y2校において雇用延長又は再雇用についての協定又はY2校慣行があった旨の陳述部分、Y3校に転籍後に定年となった3名が再雇用された旨等の陳述部分によっては、Y2校協約若しくはこれに類する協定又はY2校慣行が存したとは直ちには認めがたく、他にこれらを認めるに足りる的確な証拠はない。
 イ また、控訴人は、Y3校の従業員給与規定の実施後も、Y2校出身者の一部について昇格、役職手当の支給等の対応によりY2校におけると同様の賃金が支給されたことが認められるが、Y3校への異動により賃金額の大幅変更の緩和等を図る趣旨を含むものであった蓋然性があることに照らせば、かかる措置をもってY2校慣行が存し、Y3校に引き継がれた徴表とはいえず、仮にY2校慣行又はこれに類する取扱いがあったとしても、上記措置が賃金等以外の労働条件である定年となった者の雇用延長又は再雇用について、控訴人とY2校出身者との間で労働契約の内容とする旨の合意があった証左とはいいがたく、他にかかる合意の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。
 ウ さらに、仮にY3校に転籍後に定年となり、Y3校において再雇用等がされた者があったとしても、Y3校の平成15年10月6日付け就業規則(以下「15年就業規則」という。)には雇用延長及び再雇用に関する規定があると認められることからすれば、上記再雇用等は、同規定に基づいてされた蓋然性が否定しがたい。
 エ したがって、Y2校協約若しくはこれに類する協定又はY2校慣行の存在を前提として、本件労働契約の一部を構成する旨の支部組合及びX3の主張は、採用できない。
4 再雇用に関する15年就業規則又は18年就業規則の適用等に係る附帯控訴理由に対する判断
(1) 支部組合及びX3は、X3について、平成16年6月10日をもってY3校に採用、就労していたとの取扱いとする本件命令は、X3が平成19年1月4日に満60歳に達した以後、控訴人において15年就業規則又は平成18年4月1日付け就業規則(以下「18年就業規則」という。)を適用して再雇用すべき義務を含む旨主張する。
(2) ア (18年就業規則に基づき締結された)本件協定の締結時期については、X3が満60歳に達した時点で本件協定がすでに締結されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 イ また、①改正高年齢者雇用安定法(以下「改正法」という。)は、社会政策誘導立法又は政策実現型立法として公法的性格を有するものであること、②改正法9条1項は、国が事業主に対し公法上の義務を課す形式を採る一方、同項各号所定の措置に伴う労働契約の内容又は労働条件については定めておらず、同項2号も、継続雇用制度について、多様な制度を含み得るものと考えられることに照らし、同項の規定により事業主の作為義務を観念するとしても、その内容は抽象的であり、直ちに同項に強行法規として私法上の効力を発生させるに足りる具体性があるとは解しがたい。
 したがって、改正法9条の規定は、事業主に対する継続雇用請求権を労働者に付与し、又は事業主が同条の規定に違反した場合に当該労働者につき雇用延長若しくは再雇用がされたのと同様の効果をもたらすものとは解されない。
 
 ウ 控訴人は、18年就業規則を実施後、平成19年10月19日付け本件協定に係る「定年後の再雇用対象者の基準に関する労使協定」を作成しているが、X3について上記再雇用基準又はこれと同内容の再雇用基準が適用され、又はかかる再雇用基準が本件労働契約の内容となっていると措定するとしても、例えば上記再雇用基準のうち「協調性があり、勤務態度が良好な者」であるとの基準を満たすか否かはなお明らかでない。
 
 エ たしかに、控訴人は、不当労働行為を行ったものであり、X3がY3校において勤務することができなかったことがその責めに帰すべき事由によるともいいがたいが、労働委員会及び民事訴訟の各手続において使用者が不当労働行為該当性を争うことは、労働委員会制度及び民事訴訟制度の下で認められた権能であるところ、本件命令がされた平成19年3月19日にはX3はすでに満60歳に達していたものであり、上記不当労働行為救済申立事件における控訴人の手続遂行が通常是認される態様・方法を逸脱した不当なものであり、また、本件訴訟に係る訴えの提起及びその訴訟追行が不当訴訟又はこれに準ずるものに当たるとは直ちには認められない。
 しかるときは、本件訴訟において、X3につき前記再雇用基準を満たしたものとして再雇用されることを前提としてその権利義務関係が定められ、これを前提として本件命令の主文第1項のうちX3に係る平成19年2月1日以降の期間に関する部分を判断すべきこととなるとまでは解することができず、他にそのように解すべき事情があることを認めるに足りる的確な証拠はない。
5 支部組合及びX3の予備的主張に対する判断
(1) 支部組合及びX3は、予備的主張として、18年就業規則実施後本件協定締結までの間再雇用基準がない事態は、18年就業規則による旧再雇用制度の一方的な従業員にとっての不利益変更に当たるから、本件協定締結までの間は旧再雇用制度が存続していたものとみなすべきであるところ、X3がY3校において勤務することができなかったのは控訴人の不当労働行為が原因であるから、控訴人が「業務上必要と思われる場合」であるという要件を欠く旨主張することは、禁反言の原則から許されず、X3は、旧再雇用制度の下でも再雇用されるべきである旨主張する。
(2) しかし、本件協定締結までの間は旧再雇用制度所定の再雇用基準が適用されるとしても、X3につきこれが満たされていたことを前提としてその権利義務関係が定められることとなるとまでは解されないことは、前示したところと同様であるから、支部組合及びX3の主張は、採用できない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成17年(不)第7号 一部救済 平成19年3月19日
横浜地裁平成19年(行ウ)第30号 棄却(一部却下) 平成22年6月22日
横浜地裁平成20年(行ク)第8号 緊急命令申立ての一部認容 平成22年6月22日
最高裁平成23年(行ツ)第224号・平成23年(行ヒ)第242号 上告棄却・上告不受理 平成24年1月12日
 
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