労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  日産自動車 
事件番号  東京高裁昭和49年(行コ)第51号・第52号 
控訴人  中央労働委員会(第51号事件・第一審被告)
全国金属労働組合(第52号事件・第一審参加人)
日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部(同)
日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(同) 
被控訴人  日産自動車株式会社 
判決年月日  昭和52年12月20日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 会社が、プリンス自動車工業との合併後において、日産自動車で実施してきた昼夜二交替の勤務体制及び計画残業を旧プリンス自動車工場にも導入する一方、この勤務体制を承認しない全国金属東京地本プリンス自動車工業支部の組合員には一切残業させなかったことが、不当労働行為に当たるとして、東京地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京地労委は、支部組合員に対して残業差別をしてはならない旨の救済命令を発した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委も初審命令を支持した。
 これに対し、会社はこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社が、計画残業に反対している支部組合員を計画残業に組み入れなかったことには理由があるとして、救済命令を取り消した。
 本件は、同地裁判決を不服として、中労委及び組合がそれぞれ東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は原判決を取り消した。 
判決主文  1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じすべて被控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 本件不当労働行為の成否に関する中労委の判断の適否
(1) 不当労働行為の性格とその成否に関する労働委員会の判断
 使用者の特定の行為が不当労働行為と目すべきものであるかを判断する場合には、当該行為の外形や表面上の理由のみをとりあげてこれを表面的、抽象的に観察するだけでは足りず、使用者が従来とり来たった態度、当該行為がなされるにいたった経緯、それをめぐる使用者と労働者ないしは労働組合との折衝の内容および態様、右行為が当該企業ないし職場における労使関係上有する意味、これが労働組合活動に及ぼすべき影響等諸般の事情を考察し、これらとの関連において当該行為の有する意味や性格を的確に洞察、把握したうえで上記の判断を下だすことが必要である。
 労働委員会は、労使関係において生ずべきこの種の問題につきとくに深い専門的知識経験を有する委員をもって構成する行政委員会として法が特に設けたものであるから、不当労働行為の成否に関する労働委員会の判断は、尊重すべきものであり、その判断の当否が訴訟上争われる場合においても、裁判所は、委員会の作成した命令書における理由の記載のみに即してその当否を論ずべきではなく、命令書中に明示的にはあらわれていないが、労働委員会の考慮の中にあり、判断の一基礎となったと想定される背景的事情や関連事実の存否にも思いをいたし、これらとも関連づけて当該認定もしくは判断が十分な合理的根拠を有するものとして支持することができるかどうかという見地からその適否を審査、判断すべきものと考える。
(2) 中労委の認定の適否
 ア 一般に、同一企業内に自主性をもつ複数の企業労働組合が併存している場合には、使用者は、各組合に対して中立的態度を保持すべく、そのうちの一組合をより好ましいものとしてことさらにその組織の強化を助けたり、他の組合の弱体化を図るような行為を避止すべきことは、労組法(7条3号)の規定の要求するところである。他方具体的な労使関係または労働条件に関する問題についてそれぞれの労働組合の主張内容や主張態度が異なるかぎり、これに対する使用者の対応のし方にもおのずから相違を生ずることを免れず、したがって、使用者の行為が上記中立性のわくを逸脱するものでないかぎり、右の対応のし方の相違やその結果がそれぞれの組合に利不利を生ずることはやむをえない成り行きというべきものである。それらは使用者と労働組合との間の自由な取引活動の帰結にすぎないものとみられ、これをもって直ちに組合に対する不当な差別ということはできない。
 しかしながら、他方団体交渉の推移や帰結が、使用者において後者の労働組合ないしはその組合員に及ぼす影響とそれが多かれ少なかれ右組合の組織を弱体化させる効果を生ずべきことを予測し、むしろ主としてはそのような計算ないしは意図のもとにことさらに団体交渉を難航させたり、これを不成功に終わらせるような行動態度をとったものと認められる場合には、上記中立性のわくを逸脱した行為といわざるをえず、労組法7条2号の団体交渉応諾義務の違反にとどまらず、更に同条3号の労働組合に対する支配介入行為に該当する。
 イ これを本件についてみるに、会社の支部組合員に対する残業組入れ拒否も、それだけを切り離して抽象的、外形的に観察すればそれなりの合理性をもつ措置であると考えられ、支部に対する不当な差別と目すべきものではないとすることも、一応成り立ちうるみ方であると考えられる。
 しかしながら、他方①日産労組は支部より会社の措置に対して理解的かつ協力的態度をとっていること、②この間会社は終始日産労組に対して好意的態度をとり、反面支部に対しては非好意的であり、団体交渉も概して消極的、受身の態度に終始しているようにみうけられること等の事実に照らし、とくに会社の旧プリンス事業部門においては支部に属する者は極く少数であるため、これらの者を残業に組み入れないために生ずる不足分をリリーフマンの投入という異常措置によってカヴァーする方法をとったとしても、会社としては大きな負担ではなく、したがってあえて支部との意見の対立を解消してその協力をとりつける特段の必要や利益がなく、他方このままの状態が続けばかえって支部組合員の方が経済的に打撃を受け、ひいては組合内部の動揺や組合員の退職ないしは脱退による組織の弱体化が生ずるであろうことも十分に予測されることに徴するときは、会社が本件残業組入れ拒否の理由につき支部が上記勤務体制に反対しているからというのは、形式的、表面的理由にすぎないか、ないしはその理由の一部をなすにとどまり、会社がこの問題に関する団体交渉においても甚だしく消極的態度をとり、解決を遷延せしめている背後には、上述のような効果発生についての計算ないし意図が伏在しており、むしろそれが会社の主たる動因をなしているものと推断せしめるに足りる合理的根拠があるものといわなければならない。
 そうであるとすれば、中労委が、会社の一連の行動、態度をもって、支部組合員を残業に就かせない状態を継続させることによって支部組合員を不当に差別して取り扱い、支部に対し労組法7条3号に該当する支配介入を行ったものとしたことには、事実の判断および法令の解釈、適用を誤った違法があるとすることはできない。
2 本件救済命令の適否
(1) 救済命令の内容の適否
 ア 本件再審査命令は、会社による本件支部組合員の残業組入れ拒否が不当労働行為であるとの認定に基づき、これに対する救済措置として命ぜられたものであるから、右の不当労働行為による違法状態を解消ないし是正するため、会社が現に行っている残業組入れ拒否の中止を命ずる趣旨に出たものと解される。
 これを裏返していえば、支部組合員を他の労働組合員すなわち日産労組員と同様に残業に組み入れるべきことを命じているものにほかならない。そのかぎりにおいて右命令には不明確な点はない。
 イ 本件救済命令は、昼夜交替制それ自体については触れるところがなく、専ら残業についての差別の廃止のみを命じており、前者の問題をどうするかは、専ら今後における会社と支部および日産労組との折衝による解決に委ねられているのであるから、会社としては、支部との団体交渉を通じてその承諾をとりつけるか、あるいは日産労組とのそれにおいて同労組の承諾を得られるような形でこの問題を処理する等の調整、解決の方途がなお広く開かれているのであり、その意味においては、残業組入れの問題と交替制の問題とは、中労委のいうように一応可分なのである。
 本件救済命令が会社に対し日産労組員を逆差別することを命じたものとする議論は、独断的前提に立つものであって、採用することができない。
 ウ 本件において不当労働行為とされるのは、会社による誠実な団体交渉義務に違反しているということにとどまらず、解決を徒らに遅延させてその間支部組合員を残業させない状態を継続させることによって支部に圧迫を加えていることにあるのであるから、かかる違法状態を解消するためにはとりあえず右の残業組入れ拒否を中止させる必要があるとしてこれを命じたとしても、救済の必要性を超えるものということはできない。
 のみならず、実際問題としても、単に会社に支部と誠実に団体交渉をすべきことを命じただけでは、会社が現にとっている行動、態度に変更を生ぜしめることにはならず、救済措置としてほとんど実効性を期待することができない。
 それ故、初審命令や本件再審査命令が会社が現に行っている支部組合員の残業組入れ拒否を中止すべきことを命じたことが、救済措置として許される限度を超えて会社の自由を不当に拘束するものとして許されないとする議論は、当たらない。
 エ 以上述べたとおりであるから、本件救済命令の内容にはなんらの違法の廉はない。
(2) 本件救済命令維持の必要性
 会社が初審命令後支部に対して日産労組員と同様に交替制勤務に服することを条件として支部組合員を残業させる旨、また間接部門については無条件で残業させる旨を支部に申し入れたことによって、本件不当労働行為による違法状態が解消したものといえないことは、上記述べ来たったところから明らかである。
 なお附言するに、本件救済命令は、主として現に存在している違法状態(すなわち支部組合員の残業組入れ拒否)の解消を命じたものではあるが、会社がいったん命令に従って右差別取扱をとりやめても、その後において同一不当労働行為意思の継続として再び残業に関する同様の差別取扱をする可能性がある以上、これを防止するためには将来反覆してなされる可能性のある行為の禁止をも命ずることができ、仮に会社が本件救済命令に従っていったん現在の違法状態を解消する措置をとったとしても、それだけでは右命令存続の必要性は当然には失われない。
3 結論
 被控訴人が本件再審査命令の違法事項として主張するところはいずれも理由がないから、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであり、これと結論を異にする原判決は取消を免れず、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由があるから、これを認容すべきである。
業種・規模  輸送用機械器具製造業 
掲載文献  労働委員会関係裁判例集15集273頁 
評釈等情報  労働関係民事裁判例集 28巻5 ・6 号  614頁 
労働判例  288号 56頁 
ジュリスト 萩澤清彦  660号  128頁 
労働判例 道幸哲也  293号  4頁 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京地労委昭和43年(不)第12号 全部救済 昭和46年 5月25日
中労委昭和46年(不再)第38号 棄却 昭和48年 3月19日
東京地裁昭和48年(行ウ)第67号 全部取消 昭和49年 6月28日
最高裁昭和53年(行ツ)第40号 上告棄却 昭和60年 4月23日
 
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