労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  中部日本放送(CBC管弦楽団・合唱団) 
事件番号  名古屋地裁昭和41年(行ウ)第9号・第10号 
原告  CBC合唱団労働組合
CBC管弦楽団労働組合 
被告  愛知県地方労働委員会 
被告補助参加人  中部日本放送株式会社 
判決年月日  昭和46年12月17日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 放送会社が、合唱団員をもって結成された組合及び管弦楽団員をもって結成された組合からの団交申入れを拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、愛知地労委に救済申立てがあった事件である。
2 愛知地労委は、放送会社が労組法7条の使用者に当たらないため不当労働行為の成立する余地はないとして、各組合の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、合唱団労組及び管弦楽団労組が名古屋地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は愛知地労委の各命令を取り消した。 
判決主文  1 被告が愛労委昭和40年(不)第4号(申立人原告CBC合唱団労働組合、被申立人中部日本放送株式会社)同(不)第5号(申立人原告CBC管弦楽団労働組合、被申立人中部日本放送株式会社)各不当労働行為救済申立事件につき昭和41年2月19日付でなした各命令は、いずれもこれを取消す。
2 訴訟費用中補助参加によって生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。 
判決の要旨  1 本訴の適否について
(1) 不当労働行為救済申立事件についてなす労働委員会の審決は、その内容が認容たると、棄却又は却下たるとをとわず、等しく行政機関である労働委員会のなす行政処分であると解すべきである。
 この見地からすれば不当労働行為が存するのに、救済申立を棄却又は却下する労働委員会の審決は行政事件訴訟法3条に規定する抗告訴訟の対象となる行政処分である。そして現行労組法の下にあっては、労働者又は労働組合は、地方労働委員会の申立棄却又は却下の命令に対し中央労働委員会に再審査の申立をしないときは、直接取消を求める行政訴訟を提起できることは法文上も明白である。
 本件命令は行政処分であり、もし不当労働行為が存在するにかかわらず、その救済申立を棄却又は却下するならば、それは行政庁の違法な行政処分に外ならず、原告らは救済を受けるべき法律上の地位、利益を害されたことになるから、取消を求める法律上の利益を有する。
(2) 放送会社は、合唱団労組の構成員と放送会社との契約は、すべて昭和41年3月末日限り終了しているから、合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上の利益を有しない旨主張する。
 元来、団体交渉権は、労働者の団結体がその対抗する相手方である使用者に対してのみ主張し得る権利であるから当該使用者との間に具体的に労働関係を有する労働者の団結体がこれを有することは言うまでもない。しかし当該使用者に対し団体交渉権の主体たり得るものは、それに止まらず、当該使用者に対しいわゆる対向的労働関係を有する労働者の団結体、別言すれば労使関係の可能性を有する労働者の団結体もすべてこれに含まれると解するのが相当である。
 けだし、労働権保護のためには、現存する労働関係のみならず、労働関係への結びつき、ないしそれからの離脱に対しても、共に団結力による自主的解決を認める必要があるからである。
 そして、放送会社と合唱団労組の構成員との間の契約関係は、使用従属の関係と目すべきことは後述のとおりであり、右契約関係が現に消滅しているか、存続しているかについては、別件において係争中であることは当裁判所に顕著である。
 このように、労使関係の存否につき労使に争いが存するときは、労使の対向関係は未だ確定的に失われていないのであるから、かかる労働者の組織する組合である合唱団労組は、当然に団体交渉権の主体たり得るものと解するのが相当である。
 してみると、合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上の利益を有する。
2 当裁判所の結論について
 演唱契約者ないし演奏契約者と放送会社との間の契約関係は、本件命令のなされた昭和41年2月19日の時点においては、すべて自由出演契約と称される出演契約であり、これは民法の典型契約である雇傭契約と目し得るかどうかは別として、その出演の実態に照らすと、専属出演契約時代に存していた使用従属の関係は自由出演契約においても、なお同質的に存続しており、その限りにおいて右各契約者は労組法3条にいう労働者と認められる。
 従って、これらの者の組織する労働組合である原告らは、当然に団体交渉権の主体たり得るものと解される。また右各契約者と放送会社との間には労使の対向関係が存するものと認められるから、放送会社は、労組法7条2号にいう使用者にあたると解される。
 従って、放送会社が、同条同号にいう使用者にあたらないことを理由に原告らの各不当労働行為救済申立を棄却した本件各命令は、失当であるから取消すべきものである。
3 その理由について
(1) 労組法の保護を受ける労働者性について
 放送出演契約に基づいて演唱ないし演奏技能を提供する者が、労組法の保護を受ける労働者であるか否かを決するためには、単に出演契約書の文言のみの考察に止まることなく、これと併せて、契約締結の実際の経緯、契約当事者の契約内容に対する理解の仕方ないし出演の実態、及び従前の契約関係との対比等諸般の事情を総合して判断することが肝要である。
 そして、諸般の事情を総合して契約文言の上からは、民法の典型契約である雇傭契約とは目し得ず、形式的にはいわゆる諾否自由で対等の地位に立つものと考えられるにもかかわらず、実質的には、経済的弱者として相手方による労働条件の一方的決定を甘受せざるを得ない状態にあると認められる場合は、使用従属関係にあるものとして労組法の保護を受ける労働者と認めるのが相当である。
(2) 演唱契約者について
 ア 専属契約時代
 出演、報酬等の実態や、演唱契約者も、社員バッチ、名刺、身分証明書が放送会社から交付され、健康保険、厚生共済会にも加入していることを総合すれば、専属契約は、仕事の完成を目的とする請負ないしこれに類似する契約とは認め難く、契約金、保証出演料は固定給ないし生活給的要素を保持していると解され、かつ発注に対しては、原則として拒否することが許されないため、常時待機を余儀なくされるから、事実上就労時間の定めはなくとも、時間的に拘束され、放送会社の一般的労務指揮の支配下に常時あるものと解されるから、演唱契約者と放送会社との間の契約関係は、雇傭契約関係とみることができ、使用従属関係が存すると解するのが相当である。
 従って、専属契約時代の演唱契約者は、労組法の保護を受ける労働者であった。
 イ 自由契約時代
  a 自由契約においても、専属契約における基本的な契約関係は事実上保持され、社外出演の自由はその限りにおいて自ら制約を受けており、また、出演は、本人に限り代替出演は認められず、しかも発注は、放送会社が一方的に決定した番組、日時、場所に従って出演するを要し、契約の締結は専属契約と同じく附従契約であり、契約金は専属契約時代の契約金と保証出演料に見合う額であって、出来高払賃金制における固定給的要素が保有されている、と考えられる。
 してみると、演唱契約者は、放送会社が一方的に決定した契約内容に基づいて年間を通じ芸術的労働力の提供者として、放送会社が、一方的に指定した日時、場所、番組内容に従い、制作担当者の指揮監督の下に、放送会社に芸術的労働力を提供し、その対価として一定の報酬を受けているものであり、その限りにおいて放送会社に従属する労働者であると解するのが相当である。
 但し自由契約なる出演契約が、専属契約と全く同一であるとは解されないから、専属契約が雇傭契約であったように、自由契約も雇傭契約であると解すべきか否かについては疑問の余地の存することは否定できない。
 しかし、労組法の保護を受ける労働者であるかどうかは、必ずしもその者が雇傭契約関係にあるかどうかによって定まるものではない。
 b 放送会社は、演唱契約者全員に対し、契約期間の終了する昭和41年3月末日をもって契約を終了させ、再契約の締結はしない旨を通告したことが認められ、放送会社の右措置に対し演唱契約者は、再契約締結拒否は実質上解雇であるとなし、現に別件で係争中である。
 してみると、演唱契約者と放送会社との間には、いわゆる労使の対抗関係(労使関係の可能性)が存するものというべきであるから、これらの者の組織する労働組合である合唱団労組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、放送会社は右相手方としての労組法7条2号にいう使用者にあたると解するのが相当である。
 c してみると、これと異る見解に立って、右原告の救済申立を、「放送会社は労組法7条2号の使用者には、あたらない。」との理由で棄却した本件命令は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから取消すべきである。
(3) 演奏契約者について
 ア 専属契約時代
 出演、報酬等の実態や、演奏契約者も演唱契約者と同様な社員バッチ、名刺、身分証明書を放送会社から交付され、健康保険、厚生共済会にも加入していたことを総合して考察すれば、演唱契約者について説示したと同じ理由により演奏契約者と放送会社との契約関係は、雇傭契約関係にあるとみることができるから、使用従属関係が存するものと解するのが相当である。
 従って、専属契約時代の演奏契約者は、労組法の保護を受ける労働者であった。
 イ 優先契約及び自由契約時代
  演奏契約者も、放送会社が一方的に決定した契約内容に基づいて、年間を通じ芸術的労働力の提供者として、放送会社が、一方的に指定した日時、場所、番組内容に従い、制作担当者の指揮監督の下に、放送会社に芸術的労働力を提供し、その対価として一定の報酬を受けているものであり、その限りにおいて放送会社に従属する労働者であると解するのが相当である。
 してみると、演奏契約者と放送会社との間にはいわゆる労使の具体的労働関係が存するというべきであるから、これらの者の組織する労働組合である楽団労組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、放送会社は、右相手方としての労組法7条2号にいう使用者にあたると解するのが相当であるから、これと異る見解の下に、右原告の救済申立を「放送会社は、労組法7条2号の使用者にあたらない」との理由で棄却した本件命令は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから取消すべきである。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知地労委昭和40年(不)第4号 棄却 昭和41年 2月19日
愛知地労委昭和40年(不)第5号 棄却 昭和41年 2月19日
名古屋高裁昭和46年(行コ)第27号 棄却 昭和49年 9月18日
最高裁昭和49年(行ツ)第112号 上告棄却 昭和51年 5月 6日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約241KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。