労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名 光仁会(懲戒処分)
事件番号 東京地裁平成19年(行ウ)第680号
原告 医療法人光仁会
被告 国(裁決行政庁 中央労働委員会)
被告補助参加人 全国一般労働組合長崎地方本部長崎地区合同支部
判決年月日 平成21年2月18日
判決区分 棄却
重要度 重要命令に係る判決
事件概要  本件は、Y医療法人(以下「Y法人」)が、①X組合の分会長X1に対し、同人が平成16年度夏期一時金交渉中に、Y法人の許可なく病院施設に組合旗を設置したことを理由として、停職3か月の懲戒処分に付したこと、②同懲戒処分に関する団体交渉に応じなかったこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
 初審長崎県労委は、本件申立てを棄却し、中労委は、初審命令を変更して、懲戒処分がなかったものとして取扱い、バックペイ及び文書手交(上記②に関して)を命じ、X組合のその余の再審査申立てを棄却した。
 Y法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。
判決主文 Y法人の請求を棄却する。
判決要旨 1 本件懲戒処分が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか(争点1)
 使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、施設の利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないというべきである。
 本件X組合旗設置は、病院の正門左右両側に4本、さらに公道に面する場所に1本が追加され、約108日間という長期間にわたりそれらが設置され続けたというものである。X組合旗の形態も、縦横それぞれ1、2メートル前後の大きさで、赤字に白抜きで「団結」等と記載されたものであって、一見して労働組合の旗であることが明らかであり、これが通行人等、労使紛争とは無関係の不特定多数の人目に付く場所に公然と掲げられ、病院内での労使対立の存在をことさらに喧伝するような態様のものであり、実際に、本件X組合旗設置がY法人の業務に影響を及ぼした面も否定できない。
 上記のようなY法人の業務への影響に照らせば、法人が組合旗設置を許さないことは、Y法人の有する施設管理権の行使として正当なものであって、権利の濫用と認められるような特段の事情もなく、そのため本件X組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、Y法人がこれにつき懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえない。
 しかしながら、Y法人は、X組合からの団体交渉申入れに応じないまま、一方的にX1組合員の降格処分を公表したばかりか、X組合が長崎県労委に対して降格人事に関する別件救済申立てを行うなど、労使対立が鮮明になっている状況において、一方的に労働協約を解約し、さらに、本件組合旗設置が始まるや、X組合を揶揄するようなビラを作成して配布し、組合旗に対抗する形で横断幕及び立看板を設置しており、これに対してX組合が反発することは、ことの成り行き上いわば自然といえる面がある。X組合が本件X組合旗設置に及び、これが長期化した一因として、上記のようなY法人のX組合に対する対応に問題があったことは否定できない。また、本件X組合旗設置により、Y法人の業務に悪影響が生じたであろうことは否定できないものの、本件X組合旗設置による弊害として取引銀行や職員の採用先である医療技術者養成学校関係者の不審を招いた点などは、本件X組合旗設置だけでなく、Y法人自身が設置した横断幕や立看板が相当程度寄与していることは明らかである。
 加えて、本件懲戒処分は、3か月間にわたる停職を命じ、その間、賃金支払がないという相当に重い処分である。しかも、停職期間中は、組合活動等のため病院施設内に立ち入ることも許されないというものであり、組合活動に与える影響も大きいと考えられる。
 他方、Y法人においては、現理事長の就任前とはいえ、過去にもX組合によるX組合旗設置が行われていたところ、それに対して懲戒処分がされた例はなく、本件懲戒処分に先立ち、Y法人の理事会がその事実を検討したことはうかがわれない。そして、Y法人の理事会は、本件組合旗設置期間が約3か月であったことから停職期間を3か月間としたというにすぎないのであって、停職期間の決定につき客観的に合理性を有する内容の十分な審議がなされた形跡もうかがわれない。
 以上によれば、本件懲戒処分は、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものということができ、本件懲戒処分は、組合及び組合による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認めるのが相当である。しがたって、本件懲戒処分は、労働組合法7条3号の不当労働行為に当たる。
2 本件団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
 特定の組合員に対する懲戒処分に関する事項も、労働者の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準についての事項として義務的団交事項に該当すると解されるところ、本件においては、Y法人における懲戒処分の基準が必ずしも明確でなかったのであって、団体交渉の必要性が高かったことに加え、懲戒処分を行う時期について特段の期限があったというものでもないのであるから、Y法人において、団体交渉を経た後に懲戒処分を行うことに、何らかの不都合があったことはうかがわれない。したがって、懲戒処分後に団体交渉を行う旨のY法人の対応は、X組合の本件団体交渉申入れに対して誠実に対応したとはいい難く、本件団体交渉拒否は、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
 以上のとおり、本件命令が違法であるとはいえない。

[先頭に戻る]

顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
長崎県労委平成16年(不)第9号 棄却 平成18年6月5日
中労委平成18年(不再)第39号 一部変更 平成19年9月19日
東京高裁平成21年(行コ)第121号 棄却 平成21年8月19日
最高裁平成21年(行ツ)第356号・平成21年(行ヒ)第467号 上告棄却、上告不受理 平成22年9月2日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約256KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。