労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]   [顛末情報]
概要情報
事件名 西日本旅客鉄道(西労岡山脱退勧奨等)
事件番号 東京高裁平成19年(行コ)第429号
控訴人 西日本旅客鉄道株式会社
被控訴人 国(処分行政庁:中央労働委員会)
被控訴人補助参加人 ジェーアール西日本労働組合
被控訴人補助参加人 ジェーアール西日本労働組合中国地域本部
判決年月日 平成20年5月29日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 X組合及び平成18年の組織改編前のX組合岡山県地方本部は、平成12年2月22日及び平成13年2月26日、岡山県労委に対し、①Y会社の岡山支社の津山鉄道部等において、現場管理者らがX組合の組合員に対して、転勤等の人事権を利用して組合からの脱退を慫慂したこと及びこれに応じなかった組合員を転勤、転職させたこと。②平成11年11月のダイヤ改正に伴う津山鉄道部縮小に当たり、同組合員を多数転勤させたこと、③Y会社岡山支社が岡山地方から申し入れられた団体交渉に応じなかったことが、いずれも不当労働行為であるとして、救済申立てを行った。岡山県労委は、Y会社に対し、上記①のうち、X1組合員に対する脱退慫慂が不当労働行為に当たるとし、救済命令を発したが、X組合及びY会社双方がこれを不服として、平成16年11月22日、中労委に再審査を申し立てた。中労委は、上記①のうち、X1組合員のほか、X1組合員に対する脱退慫慂も不当労働行為に当たるとして、岡山県労委の命令を一部変更した。Y会社はこの命令の取消を求めたが、原審はY会社の主張を認めず、中労委命令は適法であると判断し、Y会社の請求を棄却した。本件は、Y会社がこれを不服として控訴した事件である。
判決主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は補助参加によって生じた費用を含め,控訴人の負担とする。
判決の要旨 ① 当裁判所は、Y会社の請求は理由がないから棄却すべきと判断する。その理由は、一部補正し、当審におけるY会社の主張について判断を付加するほか、原判決事実及び理由「第3 当裁判所の判断」に記載のとおり(平成19年12月7日更正決定後のもの)であるから、これを引用する。
② X1組合員に対するY1区長らの言動について
  Y会社は、Y1区長は個人的な関係でX1宅を訪問し、そこでの会話はX 1による誘導的な発言であり、これを録取した記録を事実認定の基本とし、X1の供述を信用をするのは誤りであると主張するが、Y1区長がX1との個人的な関係から苦言を述べるためX1宅を訪問したものでないことは、その会話内容から明らかである。X1がY2科長に渡した脱退届を正式にX組合に出すよう、その時期が来ていることを告げるための訪問というべきである。このことやその経緯を述べるX1の供述には、不自然な点はなく十分に信用することができる。
  また、Y会社は、Y1区長が個人的な関係で発言したものと主張するが、この時、X1宅を訪問すべき具体的な理由があったと認めるに足りる証拠はなく、しかも、Y2科長を同伴し、Y2科長もY1区長と同趣旨の発言をしており、両名に共通の目的があっての訪問と考えられる。Y1区長は、X1宅の会話において「ただわしも、そうは言うても会社の中ではいろいろ回してきとるからのお。わしの責任云々という話ではないけど、それでのわしもけじめをつける。」と発言しており、それまでのY1区長やY2科長のX1への接触からみても、Y1区長らがY会社の組織の一員として、Y会社の意を体して発言してものというべきである。
 さらにY会社は、Y1区長らは、職場が異なり、一体になって行動することはあり得ない旨、X組合と対立関係のある別組合の組合員としてした行為はY会社とは無関係であると主張するが、Y1区長らは、X1に対して、X組合から脱退することを求め、どの組合にも属さないグループを作ることも働きかけていたものであり、このことはY会社の岡山支社のX組合の組合員全体にかかわることである。
Y1区長、Y2科長、Y3科長は、職場が違うといえ、時期を接してX1の上司の地位にあったものであり、X1との接触経緯や本件X1宅での会話の内容からすれば、現に人事に関して事実上の権限を有している者、X1の前任地で同様の権限を有していた者が一体となって上記のような意図を共に共有して行ったものと認めることができる。
  Y2科長やY3科長は別組合の組合員であるが、その各発言は、Y1区長と意を通じ、組織上の上司としての立場でX1にX組合からの脱退を慫慂したものというべきであり、個人的な関係からの発言でないことは明らかであり、本件全証拠によっても別組合の組合員としての発言といえる特段の事情は認めることができない。
   Y会社は、X組合に対する嫌悪がないと主張するが、別組合がスト権確立を是認しない立場に対し、これに対立し、別組合から脱退した組合員により結成されたX組合の影響力が弱まることを望んでいたものと考えられる。そして、Y会社とX組合との不当労働行為の救済に関する事件や訴訟が継続して係属していたことに照らせば、X組合に嫌悪感を抱いていことは十分に推認できる。
③ X2組合員に対するY4区長らの言動について
   Y会社は、X2が作成したノートには証拠価値がないと主張するが、X2は、日勤勤務中にY4区長からX組合からの脱退慫慂を受け、これをノートに記載したことを説明し、そのノートの記載内容やX2が述べる作成状況等の説明について信用性を疑う事情は認められない。
  また、Y会社はX2の事故歴からみて再乗務は考えられなかったから、このことを材料にX2に脱退を慫慂する発言をしたとは考えられない旨を主張し、Y4区長も同旨の供述をする。しかし、X2について再乗務がないことが当時確定していたと認めるに足りる証拠はない。
  さらにY会社は、Y5総括助役、Y6指導助役は別組合の組合員であり、非組合員であるY4区長とは立場を異にし、一体となることはあり得ないと主張するが、Y5総括助役、Y6指導助役は、日勤中のX2に対し、個人的な関係からではなく、組合について考え直すよう求め、Y5総括助役はY4区長ともう一度よく話しをするように求めており、Y4区長は両助役の発言を認識、認容していたと考えられ、一体となって脱退を慫慂したものといえる。両助役には、別組合の組合員として発言したといえる特段の事情は認めることはできない。
  Y会社のX組合に対して有していた嫌悪感に照らせば、Y4区長らはY会社の意を体してX2に対する脱退慫慂を行ったと認めることができる。
④  区長、助役らの地位及び権限について
   Y会社は、人事の権限を有するのは岡山支社長であり、Y1区長らには現業社員につき何ら権限はないと主張するが、Y1区長は人事について一定の事実上の権限を有していると認められ、その運転区の助役は、現場長の指示により、具体的事実の把握を行うものであり、事実上の影響力を有していたことが明らかである。津山鉄道部長及び同鉄道部の助役も、同鉄道部内の人事については、同様に一定の権限を有していたものである。したがって、Y1区長やY4区長がこの事実上の権限を行使して、Y会社の意を体してX1、X2に対する脱退慫慂を行ったと認めるのが相当である。

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岡山県労委平成平成12年(不)第1号、平成13年(不)第1号 一部救済 平成16年10月14日
中労委平成16年(不再)第73・74号 一部変更 平成18年2月15日
東京地裁
(基本事件 平成18年(行ウ)第160号)
参加申立ての却下 平成19年3月14日
東京地裁平成18年(行ウ)第160号 棄却 平成19年11月26日
最高裁平成20年(行ツ)第263号
     平成20年(行ヒ)第305号
上告棄却、不受理 平成20年11月25日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約220KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。