労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 慈恵会新須磨病院
事件番号 東京地裁平成18年(行ウ)第594号
原告 医療法人社団慈恵会
被告 国(処分行政庁 中央労働委員会)
被告補助参加人 関西合同労働組合兵庫支部
判決年月日 平成20年1月31日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 X組合らは、Y医療法人が①X組合らが配布したビラにY医療法人の名誉を毀損する記載がある旨抗議して、ビラの記載部分の撤回と謝罪が行われるまで団体交渉を拒否することを通告したこと、②団体交渉に理事長及び理事を参加させていないこと、③施設内のビラ配布を一律に禁止していることが、不当労働行為であるとして、兵庫県労委に救済を申立てた。
 同委員会が、上記①と③に関して、不当労働行為に当たるとして救済を命じたところ、Y医療法人は、これを不服として中労委に再審査を申立てた。
 中労委は初審命令を維持し、Y医療法人の申し立てを棄却したところ、Y医療法人はこれを不服として、その取消しを求めて提訴した。
判決主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は原告の負担とする。
判決の要旨 (争点1)
 本件団体交渉の申入れに対し、Y医療法人(以下「Y法人」という。)がX合同労働組合兵庫支部(以下「X組合」)らが配付して本件ビラの記載の撤回及び謝罪がない限り団体交渉の応じないとすることに、正当な理由があるか。
①  使用者が労働組合の不誠実な行動を理由として団体交渉を拒否することが許されるのは、労働組合が、交渉過程において、重大な背信行為を行い、これによって、以後の継続した団体交渉を維持することを困難にさせる程度に労使間の信頼関係が破壊されたような場合に限定されるべきである。
② 上記を本件についてみると、本件ビラの記載は、Y法人が経営する病院の医療体制に関する信頼を損なうばかりか、その体質を隠蔽体質であるかのように批判するものとして、病院の社会的評価を低下させる表現であることは明らかである。
 また、ビラの内容は真実とは認められないし、X組合が真実と考えたことに相当な理由は認められない。そうすると、本件ビラの記載の一部は、Y法人に対する名誉毀損となる可能性がある。
  しかし、本件ビラの病院における慢性的な人員不足や労働条件の改善がされていないことを批判し、そのような現状を打破すべく団体交渉を求めたことを宣伝するためのものであり、病院においてインシデントや医療事故が多発していることを宣伝すること自体を目的としてものとも認められない。 また、本件ビラは、原則として従業員を対象に配布されたものに過ぎず、一般人からは、医療体制を不安視する問い合わせもなかったと認められるのであるから、ビラが配布されたことによって、病院の運営に具体的な支障が生じたとも認めがたい。
  よって、本件ビラの記載の撤回及び謝罪を団体交渉開催の条件とするY法人に態度は、正当な理由なく団体交渉を拒否するものといわざるをえず、これを労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するという労働委員会の判断に違法はなく、謝罪の意を停止条件とする救済命令を付さずに救済命令を発することが労働委員会の裁量を逸脱、濫用したものとも認めがたい。
(争点2)
 労働委員会は、任意的団体交渉事項を含む団体交渉の申し入れに対して応じる旨を使用者に命じる救済命令を発することができるか。
③ 使用者が労働組合法により、誠実団体交渉義務を負うのは、義務的団体交渉事項であり、任意的団体交渉事項については、その性質上、団体交渉に応じるか否かは使用者の自由な裁量に委ねられるべきことからすれば、本来、任意的団体交渉事項について、使用者の誠実交渉義務を観念することはできないのであって、任意的団体交渉事項の応じないこと自体を不当労働行為とすることはできないというほかない。
 しかし、労働委員会は、不当労働行為を事実上是正することによって将来の労使関係を労働組合の承認尊重・団体交渉関係の円滑化の基本理念に即して正常化することを目的として救済命令を発することができるのであって、その目的に資する限り、救済方法の関する裁量権を有するものである。本件の要求書に記載された事項は、義務的団体交渉事項が圧倒的多数を占め、一部に任意的団体交渉事件が含まれているにすぎないところ、Y法人は理由なく一律に団体交渉を拒否したものである等を考え併せると、労働委員会が、義務的団体交渉事項と任意的団体交渉事項を特に区別することなく、包括して団体交渉の応じる旨命じたことが、直ちに、労働委員会の裁量の範囲を逸脱、濫用したとはいえない。

(争点3)
 Y法人がX組合らに対して、施設管理権を理由に病院敷地内の本件スロープ下でのビラ配布行為を一律禁止したことが不当労働行為に当たるか。
④ 使用者は、その施設管理権を理由として、物的施設を業務の目的や許可した目的以外に利用してはならない旨を一般的に定め、又はこれを具体的に指示命令することができる。しかし、労働組合が使用者との合意等により、物的施設の利用を許容されている場合に、使用者が、施設管理上や業務遂行上の具体的な支障がないにも関わらず、その使用を許可しないなど、使用者が施設管理権を濫用したと評価し得る場合は不当労働行為になると解される。
  これを本件についてみると、病院は、施設の目的外使用について、これを許可する場合があることを前提とした就業規則を定めている。X組合らの本件スロープ下での95回の情宣活動により、救急患者搬送や重篤患者の通行に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証拠はないことや、このような支障が生じる可能性は全く否定することはできないけれども、ビラ配布に関する人数や配布方法等を合理的に制限することにより、通行に関する支障はある程度回避可能であると解されることによれば、ビラ配布等の情宣活動を一律に禁止することに合理性があるとは認めがたい。また、Y法人は、そのような方法を取り得るか否かにつきX組合らと一切協議することもなく、ビラ配布を一切認めないとの立場を堅持し続けていると認められ、X組合らの組合活動を嫌悪していることも窺える。
 以上によれば、Y法人が、本件ビラ配布を一律に禁止していることは、支配介入の不当労働行為というべきであり、これと同旨の判断をした労働委員会に判断に誤りはない。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成15年(不)第4号 一部救済 平成17年3月15日
中労委平成17年(不再)第24号 棄却 平成18年9月20日
東京地裁平成19年(行ク)第9号 緊急命令申立ての認容 平成20年1月31日
東京高裁平成20年(行コ)第89号 棄却 平成20年7月10日
最高裁平成20年(行ツ)第308号
最高裁平成20年(行ヒ)第355号
上告棄却、上告不受理 平成21年7月7日
 
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