労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  根岸病院
事件番号  東京地裁平成18年(行ウ)337号
原告 医療法人社団根岸病院
被告 東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会)
被告補助参加人 東京地方医療労働組合連合会
被告補助参加人 根岸病院労働組合
判決年月日  平成19年7月5日
判決区分  棄却
重要度   
事件概要   本件は、X組合がY病院に対し、組合員X1に係る嘱託再雇用問題について団体交渉を申し入れたところ、Y病院が応じなかったことが不当労働行為であるとして争われた事件である。
 東京都労委は、病院に対し、①X1の嘱託雇用契約に関する誠実団交応諾、②①に関する文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。Y病院は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はY病院の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(参加費用を含む。)は原告の負担とする。
判決要旨  (争点1)Y病院が、本件不更新に関する団体交渉の申し入れに対し、応じなかったことについて正当な理由があるか(本件不更新に関する事項が義務的団体交渉事項といえるか、いえるとしてY病院とX組合が本件不更新の理由につきこれ以上説明ができない程度に議論を尽くしたといえるか)について
① X組合がY病院に対して12月7日に行った不更新に関する事項についての団体交渉の申入れは、Y病院の定年退職後の嘱託再雇用制度を定めている就業規則23条に基づく基準、条件及び本人の意思の確認等の手続き等について、協議を求める趣旨のものであり、Y病院では、ほぼすべての従業員に対して定年後1年間の嘱託再雇用が実施され、その期間終了後に、嘱託再雇用される者も比較的多かったことからすれば、1年間の嘱託再雇用終了後に嘱託再雇用を拒絶された者が、就業規則23条の運用の実際を確認するとともにその相当性について協議を求めることは、使用者に処分可能な労働者の労働条件に係る事項につき協議を求めるものとして、義務的団体交渉に該当するとされた例。
② Y病院は、定年退職者を嘱託再雇用するかどうかの問題は、原告の自由裁量であると主張するが、その裁量に基づいて判断すべき事項であるとしても、従業員にとって、事実上契約期間が延長されるかどうかという、労働条件そのものに関わる事項であるから、その採否の基準や、嘱託再雇用が現実しなかった場合にその理由の説明を求めることは、まさに使用者に処分可能な労働条件その他の待遇に関する事項について説明を求めるものというべきであり、本件不採用に関する事項は義務的団体交渉事項といえるとされた例。
③ Y病院は就業規則23条について、退職時の給与、健康、能力・勤務態度の3要素を重視する運用をしていたと認められるのであって、このような一般的事項を説明することによる支障はおよそ考えにくく、X1について、健康状態、勤務態度及び能力に問題はないが、退職時の給与が異例と言えるほど高いということを考慮して不更新の判断をしたことを団体交渉申入れ当時に説明が不可能であったと解す理由もなく、Y病院は、嘱託再雇用期間が満了した者は、定年退職同様に嘱託再雇用を行わない理由を説明する必要がないと主張するが、嘱託再雇用は更新されることが予定されており、実際に、満61歳時には、希望者のうち相当数が採用されていた以上、これを単純な期間満了による退職と同視することは出来ないし、また、X1と他の職員を比較することとなると、プライバシー侵害のおそれがあると主張するが、交渉の課程で、公開する情報を限定する等の工夫をすることによって、回避し得る問題であって、一律に団体交渉拒否する理由となり得るものではないとされた例。
④ Y病院は、別件の不更新に関する組合員の事件が審理中であり、不更新に関する議論が平行線になっているので、本件不更新に関する団体交渉に応じなかったことに正当な理由があるというが、そもそも、嘱託再雇用をするかどうかは、Y病院が、東京都労委の審査手続から一貫して述べているとおり、一定の基準、条件によりつつも、人員の充足状況等を考慮し、個別判断される者であるから、本件不更新の個別情報についての説明、協議を十分することと嘱託再雇用問題についてY病院と従業員との間で一般的に協議が困難になっていることを混同して論じることが許されるものでもなく、別件の不更新に関する組合員の事件において、Y病院が、嘱託再雇用の判断基準を開示できないと立場を堅持していたことからすれば、本件不更新においても同様に、議論が平行線になることは容易に想像できたということができるが、嘱託再雇用の判断基準を開示できないとのY病院の立場に正当な理由があったとは認められない以上、原告が団体交渉を拒否したことに正当な理由は認められないとされた例。
⑤ 右記により、Y病院が本件不更新に関する団体交渉に応じなかったことに正当な理由は認められないから、Y病院がX組合からの団体交渉申入れに応じなかったことは労働組合法7条2号の不当労働行為となるとされた例。
(争点2)
 東京都労委命令主文1項の団体交渉応諾命令についての救済の利益はY病院が基準を明示したことによって消滅したか)について
⑥ 平成13年3月には、就業規則23条に基づく運用基準や嘱託者に関する考課表が作成、公表されるに至ったと認められ、X1組合員の給与が准看護師の平均年俸を大幅に超えて高額であったこと等の組合が団体交渉で説明を求めた事項については一定程度の回答が事実上得られているが、就業規則23条は、本人の希望を前提として嘱託再雇用することを定めているのだから、団体交渉において、Y病院がX1の希望を確認しなかった理由等について、質問し、説明を受ける必要性があるというべきであるが、Y病院から説明されていないことから、団体交渉応諾義務ついての救済利益が消滅したとはいえないとされた例。

[先頭に戻る]

顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
東京都労委平成12年(不)第5号 一部救済 平成18年5月23日
東京高裁平成19年(行コ)第253号 棄却 平成20年1月16日
最高裁平成20年(行ツ)第126号
平成20年(行ヒ)第133号
上告棄却、不受理 平成20年5月30日
中労委平成18年(不再)第43号 棄却 平成20年9月17日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約168KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。