事件名 |
東海旅客鉄道(中津川運輸区脱退勧奨) |
事件番号 |
東京地裁平成15年(行ウ)第615号
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原告 |
東海旅客鉄道株式会社 |
被告 |
中央労働委員会 |
被告補助参加人 |
ジェイアール東海労働組合 |
判決年月日 |
平成16年11月29日 |
判決区分 |
請求の棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、東海旅客鉄道株式会社(会社)が、中津川区運輸区の区長や
首席助役らをして、ジェイアール東海労働組合(組合)に所属する運転士2名に対し、組合からの脱退を慫慂することにより組合
への支配介入をしたこと、区長をして、組合掲示板の掲示物を撤去要請したことが、不当労働行為であるとして申立てのあった事
件で、愛知地労委は、このうち首席助役の運転士1名に対する発言が不当労働行為であるとして、会社に対し、脱退を慫慂するこ
とによる組合への支配介入の禁止を命じ、その余の救済申立てを棄却した。会社は、これを不服として再審査を申し立て、中労委
は、再審査申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として行政訴訟を提起した。東京地裁は、会社の請求を棄却し
た。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じたものを含め、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
2625 非組合員化の言動
3410 職制上の地位にある者の言動
Y1区長は中津川運輸区の現場の長として、同区における業務運営を行っていたところ、Y2首席助役は同区のナンバー2として
区長の職務を補佐する地位にあったこと、Y2首席助役は、同区の社員からは、同区の人事考課の査定について強い影響力を有し
ているものと考えられていたが、このような地位にあるY2首席助役が、区長同席のもと、区長室における主任運転士昇進試験の
面接試験練習という場で、「40代でこうありたい(例えば助役)なら、自分が今どうすべきか考えなければいけない。私の同期
でも組合の役員をやっている者もいる。組合で生きていくなら別だがそうでなければ考えた方がよい」、「私は多治見機関区時
代、動労青年部で頑張っていたが、現在は首席をしている。現在頑張れば、それ以前のことは会社は問わない。」等の組合からの
脱退を慫慂しているとみうる言動をし、X1自身も所属する組合からの脱退を慫慂されていると受け取った本件にあっては、Y2
首席助役の同発言は、X1が当時所属していた組合からの脱退を慫慂したものと認めるのが相当であるとされた例。
2625 非組合員化の言動
3410 職制上の地位にある者の言動
会社は、本件面接試験練習が実施されたころ、組合を嫌悪していたと推認できること、Y1区長は毎朝Y2首席助役らと助役会を
開き、そこで指示事項、連絡事項の周知徹底を図っていたこと、Y2首席助役のX1に対する組合脱退慫慂と評価することができ
る第1回面接試験練習での発言は、Y1区長同席のもと、Y1区長の組合の方針に対するX1の考えを聞く質問に続けてなされた
ものであること、本件面接試験練習は、単に社員の個人的利益のためになされた個人的行為にすぎないということは困難であり、
社員の指導育成としての側面をも有していたと解されるところ、2回とも区長室で行われたこと、Y2首席助役は中津川運輸区の
ナンバー2として区長を補佐して現場の業務運営を区長とともに行っており、同区の社員からも社員の人事考課の査定に強い影響
力を有する人物であると考えられていたこと等に照らすと、Y2首席助役と会社ないしその利益代表者との間には、X1に対する
組合脱退慫慂について、意思の連絡があるか、少なくとも、Y2首席助役は会社又はその利益代表者の意を体して、X1に対し組
合からの脱退を慫慂したものと推認するのが相当であり、他にこの認定を覆すに足りる証拠はなく、以上によれば、Y2首席助役
の本件面接試験におけるX1に対する組合からの脱退慫慂発言を、会社に帰属させるのが相当であるとされた例。
6226 救済方法の適法性
労働委員会の救済命令について定める労組法は、事実認定の記載方法について何ら具体的な定めを設けておらず、また、使用者及
び申立人は、地労委の命令の交付を受けているから、中労委命令において地労委命令の認定した事実が引用されていても、中労委
命令の認定判断を理解することについて支障はなく、したがって、中労委命令において初審命令の記載を引用することは許されな
いものではないとされた例。
6223 支配介入
本件初審命令及びこれを是認した本件命令は、理由を含めた命令全体から判断すれば、会社に対し、区長や助役らをして、面接試
験練習等において、組合に所属することにより昇進試験等について不利益を受けることを示唆するなどして、組合からの脱退を慫
慂してはならない旨命じたものと判断することができ、本件初審命令及び本件命令によって禁止される事項は特定されているとい
え、これを遵守することが社会通念上不可能であるということはできず、また、会社と組合との労使関係、本件脱退慫慂行為の態
様、地労委及び中労委における会社の態様等に鑑みれば、会社が将来再び区長や助役らをして、面接試験練習等において、組合員
に対し、同組合に所属することにより昇進試験等について不利益を受けることを示唆するなどの脱退慫慂に及ぶことを繰り返すお
それがあると認められ、将来予想される同種の不当労働行為をあらかじめ禁止した本件初審命令及び本件命令に違法はなく、さら
に、労働委員会には、労働者の権利保護という目的達成のため、広範な裁量権が与えられており、救済命令についても、その裁量
によって、申立ての趣旨に反しない限り、不当労働行為がなかったと同じ状態に回復するために適当な処分を命じることができる
と解するのが相当であり、本件初審命令及びこれを是認した本件命令は、組合の申立ての趣旨に反するとはいえず、むしろ申立の
趣旨に沿う適切妥当な救済ということができるとされた例。
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業種・規模 |
鉄道業 |
掲載文献 |
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評釈等情報 |
中央労働時報 2005年 8月10日 1046号 30頁
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