III まとめ


2.雇用慣行と労使関係 〜変化と持続〜

 では、雇用慣行や労使関係にかんしてはどうか。企業が変えようとしているものあるいは変わっていくとみているもの、逆に、これからも維持していこうとしているものはなにか。
 
変わっていくもの)
 第1に、雇用関係の個別化が進んでいる。そのため、人事考課における評価結果の本人への開示が行われ、さらにそれにともなって個々人の処遇や評価をめぐる苦情処理への対応が必要になっている。今後、この傾向に一層拍車がかかるものとみられる。
 第2に、この個別化が示唆していることとして、集団的労働関係の新たな再構築といった課題、総額人件費の抑制と人材格差にもとづく年功秩序の「後退」をふくむだろう報酬格差の拡大、社内分社・子会社における労働条件の親会社からの自立化などがある。
 第3に、60歳代の雇用機会にかんして、定年後の再雇用・勤務延長によってか、あるいは企業グループとしての雇用機会の確保・拡充という形でか,その機会を広げようという動きがみとめられる。
 第4に、企業グループ人事管理の成熟ぶりが注目される。企業グループあるいは連結子会社をふくむ総人員計画、採用・配属など一元的人事管理、企業年金制度、さらには役員育成計画といったものがすでに一部で動き出しており、いま検討中という企業も少なくない。
 第5に、企業年金制度の運用方法が改革されている。この企業年金制度に関わりがあるが、法定外福利厚生費の大幅削減の動きもみられる。
 第6に、企業内労使関係については、上記の雇用関係の個別化とパラレルに労働組合の存在感が薄らいでいる。
 第7に、企業グループ労使関係も構築されつつあるが、企業グループ人事管理の成長ぶりに比べてその立ち遅れがめだつ。
 
変わらないもの)
 こういった変化とは逆に、大きく変化していくとはみられないものがある。
 第1に、終身雇用慣行が、近い将来大きく崩れるとは考えにくい。企業の基本的な考え方からして、また個別労働力銘柄別の定着率見通しからみて、さらに60歳代の雇用機会拡大にかんする企業の姿勢などから判断して、終身雇用が急激に崩壊するとはみられない。
 第2に、企業年金制度の運用方法をめぐって多くの工夫が凝らされている。しかし、この制度を廃止するという企業はごく少ない。また、確定拠出型年金の導入率や今後の普及率(見通し)もけっして高くない。
 第3に、労使関係については、一方で未組織セクターが拡大しながら、他方では企業グループ労使関係の形成と成熟の必要が生まれているが、なおこれからも企業別労使関係が中心的な重みをもつだろう。
 したがって、終身雇用または長期安定雇用、企業別労使関係、企業年金制度といった要素は――雇用関係の個別化、年功秩序の「後退」、労働条件決定の多元化、企業グループ人事管理の成長、複線型キャリア形成の進展、企業年金制度の運用方法の改革、企業別組合の存在感の希薄化などにもかかわらず――、急激な変化を被ることになるだろうとは思われない。



目次へ | 戻る | 次へ

ホームページへ