III まとめ


3.持続と変化が示唆するもの

株主価値最大化か)
 日本の経営と労働は大きな曲がり角にさしかかっている。しかし、そのすべてが変わるわけではない。
 第1に、企業がその自主的判断にもとづいて選び取っている持続的なものに注目すれば、経営理念としての優先的ステークホールダー(従業員、株主、経営者)、安定株主との良好な関係、「発言しない」安定株主、内部昇進型の役員輩出パターンなどのほか、終身雇用、企業別労使関係、企業年金制度などがふくまれる。
 これら持続的なものが物語っているのは、ひとことでいって、企業経営の修正日本モデルではあっても、けっして株主価値の最大化でもなければ株主資本利益率の最優先でもない。ほとんどの企業のめざしているのはそれとは基本的に違っている。
 第2に、変化していく側面に注目したら別のものがみえてくるか。経営やコーポレート・ガバナンスをめぐる変革、また雇用・労使関係に関わる変化はいったい何のためか。第一義的には企業(グループ)としての市場競争力強化のためであり、それにもとづく企業の繁栄のためであり、ひいてはステークホールダーへの利益還元のためである。
 このように、持続と変化いずれの側面からみても、新たに構築されつつある企業モデルがめざしているのは企業経営の修正日本モデルではあっても、株主価値の最大化ではない。
 
企業のあり方の基本的視点)
 したがって、企業行動の評価や格付けにあたって経営が第一義的にめざしてはいない株主価値基準によってそれを行うことは説得力に欠ける、といわなければならない。
 それでは今後の企業のあり方とは何か、今までふれてきた企業自身がめざしている内容を踏まえ、今後の企業のあり方について考える際の基本的視点をあげれば次のようなものとなろう。
 第1は、企業(グループ)としての市場競争力強化とステークホールダーへの利益還元に向けた経営改革への包括的取組(自己責任経営の明確化、連結経営の強化など)が積極的に行われているかという視点である。
 第2は、個々の企業レベルはもとより、企業グループまでふくめた雇用機会の確保が企業経営の柱として重視されているか、また、そのための最大限の努力がなされているかという視点である。
 第3は、雇用関係の個別化と企業グループとしての連結経営の強化、それにともなう集団的労働関係の「後退」と企業グループ人事管理の台頭という大きな潮流のなかで、人事評価など人事管理の基準の明確化、透明化の確保等にかんし、集団的「発言」の機会の再構築に向けた新たなルール作りに労使間で十分な協議や取組が行われているかという視点である。
 これらは、いずれも今後の政策上の課題とも密接に関連するものであるといえよう。



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