事例編-1


A 社
化学工業
従業員3,055 人
事業の内容 合成ゴム、合成樹脂などの石油化学製品の製造
●健康状態が良くなったなど社員の評判も上々

 A社では、昭和63年に仕事の効率化と社員の意識向上を図るため、研究・開発部門にフレックスタイム制を導入。平成2年には、本社・支店及び工場の日勤者を含めた制度とした。導入により、健康状態が良くなったなど社員の身体的・精神的な面での効果が目ざましい。

 A社は、昭和63年4月に研究・開発部門でフレックスタイム制度を導入。その後、対象者を順次拡大していき、平成元年7月には本社及び支店の日勤者、平成2年には三交替勤務者以外の工場日勤者までも含めたフレックスタイム制度としました。
 制度導入の目的は、当時行っていたCI活動の一環として、社員の意識改革と仕事の効率化を図ることでした。
 この社員の意識改革とは、自分自身で始業や終業の時刻を決めることができる自由の部分と、自分自身で時間管理をしなければならないという責任を負うことにより、社員が仕事に対し、より積極的に取り組む意識を持ってもらいたいということです。

試行期間を3か月設ける
 フレックスタイム制度を導入するに当たって、同社ではまず、3か月の試行期間を設け、制度が十分に活用できるかどうかの調査を行いました。調査の内容は、フレックスタイム制度の運用に誤りがないか、社員同士のコミュニケーションが十分に行われているかなどといったものです。
 さらに、「決まった時間に会議を行うことができるのか」、「私用により、遅く出社してもよいのか」などといった管理者や社員が実際の運用上で生じる問題に対し、「Q&A集」も作成しました。
 このような試行期間と調査は、対象者を拡大するごとに行い、導入に際しては常に慎重を期しています。

時間管理は個人が記入するカードでチェック
 同社のフレックスタイム制度の清算期間は、毎月1日から末日までの1か月です。1日の標準労働時間は7時間45分で、月の所定労働時間は7時間45分にその月の所定労働日数を乗じた時間です。
 例えば、ある月の所定労働日数が20日としますと…7時間45分×20日=155時間
がその月の所定労働時間となります。
 ただし、カレンダーの関係で月の労働日数が23日になる場合には、月の所定労働時間は177時間としています。
 ところで、その月の所定労働時間に満たなかった場合の賃金の取扱いについては、同社では、原則として賃金カットなどはせずに通常の賃金を支払うことにしていますが、制度導入から現在まで、そのような社員は出ていません。
 このことについて、同社人事部では、「時間管理について、社員個人が責任感を持って行っているということの表れだと思います」と話しています。また、月の所定労働時間を超えた場合には、当然のことながら時間外労働として割増賃金を支払っています。
 社員個々の労働時間管理をどのようにして行っているかという点についてみますと、同社では、社員1人ひとりがその日の勤務時間帯を記入する「勤労カード」をつけており、これを毎日各課の上司に提出することにしています。この勤労カードには、月の労働時間の累計を毎日記入することになっているため、上司も社員自身も、労働時間を常に把握していることになり、とくに上司にとっては労働時間が不足しないように指導する役割を果たす上でも役立っています。

制度の概要
対象労働者の範囲研究・開発、システム部門、本社・支店及び工場の日勤者
1日の標準労働時間7時間45分
清算期間1か月(1日〜末日)
清算期間の労働時間7時間45分×清算期間内の所定労働日数
(ただし、所定労働日数が23日になる場合は177時間)
コアタイム10:00〜15:00
休憩時間
本社・支店 12:15〜13:00(45分)
工場・研究部門 12:00〜13:00(60分)
労働時間の清算方法超過の場合は、時間外手当(時間分)
不足の場合は、基本的に賃金カットなし

各社の風土に合わせて導入を
 次に、フレックスタイム制度導入に対し予想された問題点をどのように解決したかという点についてみてみますと、同社では、導入前に予想された問題として、社員の出退勤時間がバラバラになることによる社員同士のコミュニケーション不足などが予想されました。このコミュニケーション不足とは、例えば、出社する時間がいつなのか分からないとか、退社したのか取引先に出掛けたのか分からないといったことで、この解決策としては、各職場の事情に合わせた対応をお願いしました。そうしたところ、各職場で工夫がみられましたが、ホワイトボードを活用し、何時頃出社するのか、退社する場合には退社したということを個人個人が記入する形式をとる職場が多いようです。
 同社が行ったフレックスタイム制度に関するアンケート調査をみますと、フレックスタイム制度を利用する理由としては、「通勤ラッシュ回避」が19.6%、「仕事の効率化」が18.0%、「自己開発」が6.0%などであり、とくに利用しない理由についてみますと、「今までどおりで差し支えない」が35.5%、「業務に支障がでる」が20.4%で、とくに営業部門についていえば、約半数の51.6%が「業務に支障がでる」としています。  しかし、「仕事の効率が上がった」39.2%、「健康状態が良くなった」36.0%、「夫婦の触れ合いが増えた」26.4%となっており、フレックスタイム制度の導入は精神的な面で大きな効果がでていると言えます。
 また、同社では、成果を重視する観点から、現在、研究・開発部門の希望者に対し裁量労働制を試行的に行っており、今後、評価制度の問題などがクリアされれば本格的に拡大していきたいとしています。
 最後に、今後フレックスタイム制度を導入する企業に対し、同社人事部は「各社の風土や考え方に応じた仕組みで導入を図るべきであり、他社の事例は参考程度にした方がよいでしょう」と言います。



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