事例編-2


B 社
福祉・文化・教育事業全般
従業員 1,571 人
事業の内容 福祉・文化・教育を柱とした、介護事業、出版事業、教育関連事業などを幅広く展開。
●コアタイムを設けず、業務特性に応じて働く時間を配分

 B社では、創造性の発揮による生産性向上施策の一環として、平成6年4月よりコアタイムなしのフレックスタイム制を導入。業務の量・進行に応じた仕事配分を個人の裁量に委ね、自己管理能力と計画性の向上、さらにバランスのとれた公・私生活を実現している。

東京支社移転を期に導入
 B社では平成6年4月の、東京支社の東京都内から郊外への移転に伴い、フレックスタイム制が導入されました。東京支社には主に事業部門が集まり、全社員の3分の2近くに当たる約900人が勤務しています。
 同社は、福祉・文化・教育を柱に多岐にわたる事業を展開していますが、こうした事業の性格から、社員には広範な「創造性」が求められます。その創造性を十分に発揮するための環境づくりの一環として、フレックスタイム制の導入があったわけです。

コアタイムなしの完全フレックス
 B社のフレックスタイム制における最大の特徴は、コアタイムを設けていないことです。社員は午前8時から午後9時(所定勤務時間帯=フレキシブルタイム)までの中で、自主的に始業・終業時刻を決めることができます。
 さらに、1日の勤務時間の決定も社員個人に委ねられ、1日当たりの最低勤務時間の規定もなく、業務の量や進行具合に応じて自由に設定することができます。
 目安となる1日の標準労働時間は、法定労働時間から休憩1時間を除いた7時間と設定されていますので、「7時間×当該月の所定労働日数(営業日数)」が1か月の総労働時間となります。完全週休2日制が採られていますので、月当たりの総労働時間は140〜160時間くらいになります。社員は、この月ごとの総労働時間をクリアするように、自らの業務・勤務時間を組み立てていきます。
 従って、清算はこの1か月を単位とし(起算日は毎月1日)、月の総労働時間を超過した場合は残業手当が支払われます。逆に、月の総労働時間に満たなかった場合は、賃金控除というかたちで当該月清算となっており、翌月への不足時間の繰り越しはできません。なお、年次有給休暇取得に際しては、1日の標準労働時間である7時間で換算します。

タイムカードは存在せず
 もう一つの特徴として、B社では、タイムカードによる時間管理を行っていません。1日の就労時間については、同社で作成した「デイリー勤務記録シート」(次頁の図参照)に社員個人が日々記録していく自己申告型です。
 このデイリー勤務記録シートの記入方法を見てみましょう。例えばAさんは、11月1日(月)は午前8時に出社し、11時30分まで就労した後、1時間休憩を取り、再び午後12時30分から3時30分まで就労しました。その後Aさんは、事前に申し込んであった救命救急法講習会への参加のため、会社を出ました。
 この場合、シートには、就労した午前3時間30分、午後3時間の当該箇所に両矢印が引かれ、当日計の欄にその日の合計就労時間「6.5」が記入されます。この作業を月末まで積み上げて、当月の総労働時間が出されます。ここから当月の所定労働時間を差し引いて、その月の残業時間が算出されます。日々それぞれの時間帯にどのような業務を行ったかは、勤務記録シート上ではまったく問われません。

制度の概要
対象労働者の範囲全社員
1日の標準労働時間7時間
清算期間1か月
清算期間の労働時間7時間×当該月の営業日数
フレキシブルタイム8:00〜21:00
コアタイムなし
休憩時間1時間 本人の自由裁量で配分
労働時間の清算超過の場合は、時間外手当
不足の場合は、賃金控除(当該月で清算)

制度を支える2つの柱
 これほどまでに日常の時間管理を社員自身の自己裁量に委ねるB社ですが、それはまったくの放任主義とは違います。
 これまで見てきたことからも分かるように、社員個人の大きな自己裁量の裏には、仕事の有効な配分、自己管理と業務の計画的な遂行による生産性の向上という、制度導入の目的を果たすことが強く求められています。
 そして管理者は、部下のスケジュール管理に責任を負います。社員がフレキシブルタイム以外の労働や休日労働を行う際の指示、直行直帰や社外での作業の際の指示などのほか、日々そして月ごとの部下への仕事配分などにも、常に気を配らなければなりません。管理者としてのマネジメント能力が、大きく問われるわけです。また、会議や業務連絡、コミュニケーション等については、管理者を中心に各部署ごとに調整・設定されています。
 同社のフレックスタイム制は、こうした社員個人と管理者の高いモラールに支えられています。そして制度運用の成否の鍵は、社としての明確な姿勢をいかに社員に植えつけ、浸透させられるかにかかっていると言います。同社では制度の趣旨理解を期し、大略次の6つのガイドラインを設け、社員に示しました。
 (1)最終目標は仕事の成果、(2)社外の人への配慮と尊重を欠かしてはならない、(3)デイリー勤務記録シート記入の徹底、(4)待ちではなく、情報の収集と発信は積極的に、(5)時間を巧く使うことで仕事の価値、自身のキャリアを高める、(6)社会人としての成熟という点にも留意。

公私バランスのとれた生活の充実
 制度導入後の社員の声は上々です。子どもの送り迎えができるようになった、自分が住む地域の行事に参加できるようになった、といった「私」の領域と、自己管理・業務管理がうまくなり、仕事を効率的に進めることができるようになったという「公」の領域とがバランスされ、充実した生活の実現に如実に効果を発揮しています。

(96年11)月 デイリー勤務記録シート(当月の所定労働時間154時間)
デイリー勤務記録シート


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