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平成12年11月28日

平成11年度食品からのダイオキシン一日摂取量調査等の調査結果について

 食品からのダイオキシン(ダイオキシン類及びコプラナーPCB)の一日摂取量調査及び個別食品中のダイオキシン汚染実態調査について、平成11年度の調査結果がまとまった。(調査結果の詳細は別添研究報告書のとおり)
 この調査は、平成11年度厚生科学研究費(主任研究者;豊田正武国立医薬品食品衛生研究所食品部長)等により行われたものであり、調査結果の概要は下記のとおりである。

1 調査目的

 ダイオキシンの人への主な暴露経路の一つと考えられる食品について、平均的な食生活における食品からのダイオキシンの摂取量を推計すること。
 ダイオキシンの人への主な暴露経路の一つと考えられる食品について、個別の食品のダイオキシンの汚染実態を把握すること。
 また、食品汚染機構の解明と調理影響の解析に関する研究を実施すること。

2 調査方法

(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)
 全国7地区(16か所)で集めたトータルダイエット試料(14食品群)について、ダイオキシンを分析し、平均的な食生活において食品から摂取されるダイオキシンの量を推計した。
(2) 季節によるダイオキシン摂取量変化に関する調査
 九州地区において、年4回(夏、秋、冬、春)トータルダイエット試料を集め季節ごとのダイオキシンの摂取量の変化を調査した。
(3) 個別食品中のダイオキシン汚染実態調査
 個別食品として、魚介類30種、水産加工品22種、肉類7種、食肉加工品5種、乳類3種、卵類4種、果実類5種、野菜16種、茸類1種、海草類1種について、それぞれ複数地区(一部の品目を除く)で購入し、合計94種288検体についてダイオキシンの汚染状況を調査した。
(4) 食品汚染機構の解明と調理影響の解析に関する研究
 食事を介した暴露状況を正確に把握するため、葉菜類におけるダイオキシン汚染機構及び3種類の食品について調理加工におけるダイオキシン汚染濃度の変化を検討した。

3 調査項目

 ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種)及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種

4 調査結果の概要

(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)
 食品からのダイオキシンの一日摂取量は、2.25pgTEQ/kgbw/日(1.19〜7.01pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、平成10年度と比較して若干増加しているが、平成9年度の平均摂取量(2.41pgTEQ/kgbw/日)よりは若干少なく、平均的な摂取量は過去3年間でほぼ一定していると思われる。
 TDIを超えた関東Aの平成9年度、平成10年度の結果ではそれぞれ、2.12、2.06pgTEQ/kgbw/日で、平成12年度の速報値では、関東A、関西Aでそれぞれ、1.80、2.07pgTEQ/kgbw/日であった。また、関西Aのトータルダイエット試料に用いた魚介類を検討したところ、通常摂取が少ないと思われる食品をサンプリングしていることが分かった。
 平成10年度に実施した関西地区における保存試料の分析により、この20年間でダイオキシン摂取量は約1/3に減少していることが明らかになっている。
 以上のことから、平均的な食生活をしている日本人のダイオキシン摂取量の推計値はTDI(4pgTEQ/kgbw/日)を下回っており、食品衛生上の問題がないと考える。しかしながら、偏りのないバランスの良い食生活が勧められる。
(単位:pgTEQ/kgbw/日)
地域 北海道
地区
東北地方 関東地方 中部地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B
平成9年度 1.42 2.61 2.12 2.68 3.18 2.64
平成10年度 2.67 1.29 2.06 2.14 1.99 2.03
平成11年度 1.29 1.65 1.47 4.04 1.59 1.68 1.53 2.42
地域 中部地方 関西地方 中国四国地方 九州地方
  中部C 関西A 関西B 関西C 中国四国A 中国四国B 九州A 九州B
平成9年度 2.71 3.14 1.37 2.27
平成10年度 1.87 2.72 1.22 1.99
平成11年度 1.57 7.01 1.79 1.89 3.59 1.48 1.84 1.19
注:平成12年度の速報値では、関東Aは1.80pgTEQ/kg/日、関西Aは2.07pgTEQ/kg/日


(3年間の調査結果)
  平成9年度調査結果 平成10年度調査結果 平成11年度調査結果
一日摂取量 120.7pgTEQ/日
(68.7〜158.8pgTEQ/日)
99.8pgTEQ/日
(61.1〜136.0pgTEQ/日)
112.6pgTEQ/日
(59.5〜350.7pgTEQ/日)
体重1kg
当たりの
一日摂取量
2.41pgTEQ/kgbw/日
(1.37〜
 3.18pgTEQ/kgbw/日)
2.00pgTEQ/kgbw/日
(1.22〜
 2.72pgTEQ/kgbw/日)
2.25pgTEQ/kgbw/日
(1.19〜
 7.01pgTEQ/kgbw/日)
数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50Kgとして計算している。

(2) 季節によるダイオキシン摂取量変化に関する調査
 九州地区において、年4回サンプリングを行い、季節的な変動について検討を行った。季節によるダイオキシン摂取量変化については、冬が最も高い数値(2.46pgTEQ/kg/日)を示し、最も低い秋(1.36pgTEQ/kg/日)に比して1.8倍となった。この結果から、試料の採取時期が摂取量の変動要因となる可能性が示唆された。
 結果については以下のとおりであった。
(単位pgTEQ/kgbw/日)
  春(4月) 夏(7〜8月) 秋(10〜11月) 冬(12〜1月)
体重1kg当たりの一日摂取量 1.83 1.84 1.36 2.46
( )内はサンプリング時期を示す
(3) 個別食品中のダイオキシン汚染実態調査

 食品分類毎の平均値では魚介類が最も高く、水産加工品、乳類、肉類、卵類、野菜類、海草類、食肉加工品、果実類、茸類の順であった。個別食品中のダイオキシン汚染実態調査の概要及び詳細は、以下のとおりであった。

(個別食品の概要)
食 品 分 類 ダイオキシン濃度
魚介類30種(アジ、ムロアジ、イワシ、カジキ、マグロ、カツオ、カマス、キス、キンキ、サケ、マサバ、サンマ、キンメダイ、タイ、タラ、ギンダラ、ニシン、ハモ、ヒラメ、フグ、ブリ、メカジキ、ホッケ、マス、イカ、イカ(内臓)、タコ、カニ、エビ及びホタテ) 0.003〜23.093 pgTEQ/g
(1.492pgTEQ/g)
水産加工品22種(アジ干物、カマス干物、塩サケ、塩サバ、塩サンマ、シシャモ、イカ塩辛、シラス干し、ちりめんじゃこ、煮干し、スジコ、タラコ、マグロ缶詰、イワシ蒲焼缶詰、サンマ蒲焼缶詰、蒲鉾、はんぺん、ちくわ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ、小女子佃煮及びあみ佃煮) <0.001〜3.469 pgTEQ/g
(0.452pgTEQ/g)
肉類7種(牛肉、牛レバー、豚肉、豚レバー、鶏肉、鶏レバー及び羊肉) <0.001〜1.434 pgTEQ/g
(0.191pgTEQ/g)
食肉加工品5種(羊肉(缶詰)、鯨肉(缶詰)、ロースハム、ソーセージ、ベーコン) 0.001〜0.030pgTEQ/g
(0.013pgTEQ/g)
乳類3種(牛乳、チーズ、バター) 0.014〜0.853 pgTEQ/g
(0.230pgTEQ/g)
卵類4種(鶏卵、ウズラ卵、乾燥卵黄、卵白粉) 0.005〜0.362 pgTEQ/g
(0.127pgTEQ/g)
果実類5種(マンダリンオレンジ、グレープフルーツ、なし、パパイヤ及びぶどう) <0.001〜0.035 pgTEQ/g
(0.003 pgTEQ/g)
野菜16種(いんげん、キャベツ、ごぼう、春菊、大根、たまねぎ、ちんげんさい、トマト、にら、にんじん、ピーマン、ブロッコリー、ほうれん草、みつば、もやし及びれんこん) <0.001〜0.239 pgTEQ/g
(0.024 pgTEQ/g)
茸類1種(しいたけ) <0.001 pgTEQ/g
(<0.001 pgTEQ/g)
海草類1種(ひじき) 0.001〜0.062 pgTEQ/g
(0.021 pgTEQ/g)
数値は検出範囲、( )内は食品分類中の単純平均値を示す。一部平成12年度の調査結果を含む。

(4)食品汚染機構の解明と調理影響の解析
 ホウレン草におけるダイオキシン汚染機構の解明及び小松菜、魚(サバの切り身)、牛肉の調理による影響について検討した。その結果、(1)ホウレン草における部位別の汚染濃度を測定したところ、可食部は非可食部と比較し汚染濃度は著しく低い、(2)異性体のデータより、ホウレン草の可食部位の汚染は大気に由来している可能性が高い、(3)調理加工により、小松菜のダイオキシン濃度は約60%減少し、サバでは約15〜30%減少し、牛肉では約40%減少し、ダイオキシン摂取量を低減できることが明らかになった。

調理によるダイオキシンの減少率 (調理前重量当たりに換算して計算)

食 品 調理1 調理2 調理3
小松菜 -52.8%(水洗) -61.1%(水洗+煮沸)  
サバの切り身 -30.6%(焼く) -14.4%(煮る) -20.9%(つみれにして煮る)
牛肉 -35.3%(焼く) -39.0%(煮る) -37.9%(ハンバーグにして焼く)

5 今後の予定等

 平成12年度も食品からのダイオキシンの一日摂取量(7地区16カ所)及び個別食品中の汚染実態調査を継続して実施する予定。

以上


【用 語 説 明】

ダイオキシン:
 ダイオキシン類及びコプラナーPCB

ダイオキシン類:
 ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)
 ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB)
 PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ
 通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとにダイオキシンの分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF:
 ダイオキシンは通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価計数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は1997年にWHOで再評価された最新のTEFを用いている。

TEQ:
 ダイオキシンは通常混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシンの毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):
 長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシンのTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。


個 別 食 品 調 査 の 詳 細

(単位:pgTEQ/g)
食 品 名 ダイオキシン濃度 食 品 名 ダイオキシン濃度
アジ 2.703 タラ 0.086
イワシ 2.548 0.046
1.476 0.038
2.450 0.096
2.752 平 均 0.067
0.784 ハモ 0.594
平 均 2.002 ヒラメ 0.121
カジキ 1.277 1.498
0.173 0.365
0.243 2.334
4.273 平 均 1.079
平 均 1.491 フグ 0.048
カツオ 1.241 ブリ 1.147
1.885 3.371
1.736 4.193
0.101 3.264
平 均 1.241 3.891
カマス 0.773 4.611
2.193 平 均 3.413
2.996 マグロ 23.093
0.730 0.160
平 均 1.673 平 均 11.627
キス 2.411 マサバ 2.713
2.448 マス (輸入) 2.545
2.165 ムロアジ 0.607
平 均 2.341 メカジキ 4.271
キンキ (輸入) 0.320 ホッケ 0.613
ギンダラ(輸入) 3.816 0.818
0.171 平 均 0.716
1.892 イカ 0.012
平 均 1.960 イカ(内臓) 4.439
キンメダイ 5.215 4.298
0.396 0.849
0.221 1.394
平 均 1.944 平 均 2.745
サケ 2.027 エビ (輸入) 0.055
0.663 0.143
0.155   0.061
平 均 0.948 平 均 0.086
サンマ 0.183 カニ (輸入) 0.086
0.271 0.032
0.289 0.091
0.314   1.595
0.355 平 均 0.451
平 均 0.283 タコ 0.023
タイ 0.576 0.150
0.311 0.356
1.118 0.153
平 均 0.668 0.004
ニシン (輸入) 0.223 0.245
0.153 平 均 0.155
0.227 ホタテ 0.028
0.380 0.174
2.369 0.135
3.372 0.003
平 均 1.121 0.023
  平 均 0.072

(単位:pgTEQ/g)
食 品 名 ダイオキシン濃度 食 品 名 ダイオキシン濃度
アジ干物 0.226 スジコ 0.135
3.469 0.766
1.336 0.180
0.372 0.240
0.724 平 均 0.330
0.538 タラコ 0.236
平 均 1.111 0.134
イカ塩辛 0.519 0.196
0.712 0.064
0.255 平 均 0.157
0.327 ちりめんじゃこ 0.191
平 均 0.453 煮干し 1.140
カマス干物 0.972 あみ佃煮 0.259
塩サケ 0.087 イワシ蒲焼缶詰 1.349
0.148 蒲鉾 0.013
0.209 魚肉ソーセージ 0.034
0.073 0.022
0.206 平 均 0.028
0.196 小女子佃煮 0.482
平 均 0.153 さつま揚げ <0.001
塩サバ 0.808 サンマ蒲焼缶詰 0.154
0.642 ちくわ 0.013
平 均 0.725 0.002
塩サンマ 0.305 平 均 0.007
シシャモ (輸入) 0.629 はんぺん 0.017
0.771 マグロ缶詰 0.086
  1.129  
  1.055
平 均 0.896
シラス干し 0.846
0.103
0.118
0.106
平 均 0.293

(単位:pgTEQ/g)
食 品 名 ダイオキシン濃度 食 品 名 ダイオキシン濃度
牛肉 0.150 豚(肝臓) 0.022
0.941 0.085
0.202 1.033
1.235 平 均 0.380
0.384 鶏(肝臓) 0.009
0.090 0.395
1.057 0.251
0.238 0.095
0.167 平 均 0.187
0.187 羊肉 (輸入) 0.001
平 均 0.465 0.001
牛肉 (輸入) 0.129 0.274
0.164 平 均 0.092
0.001 羊肉(缶詰) 0.010
0.066 鯨肉(缶詰) 0.030
0.024 ロースハム 0.001
平 均 0.077 ソーセージ 0.017
豚肉 0.001 ベーコン 0.009
0.009 牛乳 0.014
0.030 0.029
1.434 0.042
0.001 0.050
0.008 0.041
0.001 0.024
0.005 0.047
<0.001 0.042
平 均 0.165 0.044
豚肉 (輸入) 0.001 平 均 0.037
<0.001 チーズ (輸入) 0.390
0.001 0.519
<0.001 0.621
0.020 平 均 0.510
0.047 バター (輸入) 0.853
0.077 0.090
0.003 0.651
0.040 平 均 0.532
平 均 0.021 鶏卵 0.115
鶏肉 0.033 0.079
0.294 0.104
0.071 0.158
0.136 平 均 0.114
0.180 ウズラ卵 0.046
0.021 乾燥卵黄 (輸入) 0.362
平 均 0.123 0.249
鶏肉 (輸入) 0.129 平 均 0.306
0.002 卵白粉 (輸入) 0.028
0.002 0.005
0.003 平 均 0.017
0.077  
平 均 0.043
牛(肝臓) 0.013
0.726
0.304
平 均 0.348

(単位:pgTEQ/g)
食品名 ダイオキシン濃度 食品名 ダイオキシン濃度
いんげん <0.001 みつば 0.024
<0.001 <0.001
平 均 <0.001 0.009
キャベツ <0.001 平 均 0.011
<0.001 もやし <0.001
<0.001 <0.001
平 均 <0.001 <0.001
ごぼう (輸入) <0.001 平 均 <0.001
春菊 0.239 れんこん 0.001
0.153 0.063
<0.001 0.005
平 均 0.130 平 均 0.023
大根 <0.001 しいたけ (輸入) <0.001
<0.001 <0.001
<0.001 平 均 <0.001
平 均 <0.001 ひじき(乾) 0.062
たまねぎ <0.001 (乾) 0.001
<0.001 平 均 0.032
<0.001 ひじき(生) 0.002
<0.001 マンダリンオレンジ(輸入) <0.001
平 均 <0.001 グレープフルーツ (輸入) <0.001
ちんげんさい 0.020 <0.001
0.009 <0.001
<0.001 平 均 <0.001
平 均 0.010 なし <0.001
トマト (輸入) <0.001 <0.001
にら 0.001 <0.001
0.003 <0.001
<0.001 パパイア (輸入) <0.001
平 均 0.001 ぶどう 0.001
にんじん (輸入) <0.001 0.001
ピーマン (輸入) <0.001 0.035
ブロッコリー <0.001 平 均 0.012
<0.001  
0.001
平 均 <0.001
ほうれん草 0.112
0.115
0.182
0.008
0.002
0.056
0.036
平 均 0.073
(注:検疫所で採取したものは「(輸入)」と記載)


ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書(平成11年度)
主任研究者 豊田正武 国立医薬品食品衛生研究所 食品部長

その1:ダイオキシン類の摂取量等に関する実態調査研究
その2:野菜、魚介等個別食品中ダイオキシン濃度等に関する調査研究
その3: 食品汚染機構の解明と調理影響の解析に関する研究

1 研究要旨:

その1:ダイオキシン類の摂取量等に関する実態調査研究
 我が国における、通常の食品から摂取されるダイオキシン(PCDD7種、PCDF10種及びCo-PCB12種)の量を把握するために、昨年より試料数を増やし7地区16ヶ所で集めたマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料(14食品群、16試料)について、ダイオキシンを分析し結果を集計し1日摂取量を求めた。同時にダイオキシン摂取量の季節変化 を把握するため、平成11年夏から平成12年春までの4季節のトータルダイエット試料(14食品群、4試料)についても分析し摂取量の季節変化の有無を推計した。
 平成11年度トータルダイエットからのダイオキシンの1日摂取量は、平均112.6pgTEQ/day(範囲59.5〜350.7pgTEQ/day)であった。日本人の平均体重を50kgとして、本研究から得られたダイオキシンについて体重kg当たりの1日摂取量に換算すると、平均2.25pgTEQ/kgbw /day(範囲1.19〜7.01pgTEQ/kgbw/day)で、平均摂取量は昨年度と比較し、若干増加しているが、平成9年度より若干少ない。また、食事由来摂取量の全国平均値は我が国のTDIの4pgTEQ/kgbw/day以下となっているが、2カ所ではそのTDIを超えていた。
 このため、群ごとのダイオキシン摂取量が他地区より大きい関西地区A点の第10群(魚介類)、第11群(肉・卵類)及び関東地区A点の第10群について、トータルダイエット試料と同一ロットのものではないが、同一食品を同一の入手先で再度サンプリングし、構成食品ごとのダイオキシン摂取の寄与の推定を行った。
 その結果、関西地区A点の第10群の再サンプリング品で、ダイオキシン濃度が2pgTEQ/g以上であったのはサケ、マグロ、ヒラメ、サバ、ハマチであった。これら構成食品のダイオキシン濃度を用いた第10群の1日推定摂取量は202.82pgTEQ/dayとなる。この数値はトータルダイエット調査の第10群由来の摂取量237.60pgTEQ/gと良く一致した。
 このなかで、特にマグロのダイオキシン濃度は23.09pgTEQ/gであった。マグロを全てこの濃度で摂取すると仮定すると、計算上の摂取量は168.56pgTEQとなる。普通のマグロの脂肪含有率は21〜28%であるのに対しこのマグロは、約2倍の49.2%と特に多いため、ダイオキシン濃度が高かったものと思われる。
 また、国民栄養調査の魚種は「さけ、ます」「たい、かれい類」等、12カテゴリーに分類され、それぞれのカテゴリーごとに摂取量が集計されている。通常、各カテゴリー内で、複数の食品をサンプリングするが、関西地区A点では、「まぐろ類」は、通常摂食量が少ないと思われる脂肪含有率の特に高いマグロの1サンプルしか行っておらず、この食品の濃度が高かったため、摂取量に与える影響が大きくなったと思われる。
 なお、平成10年度調査におけるマグロの平均ダイオキシン濃度は0.307pgTEQ/gで、水産庁が今年10月に発表した平成11年度の調査によると、マグロ類の平均は1.242pgTEQ/gであることから、一般にマグロのダイオキシン濃度が高いというわけではない。
 関東地区A点の第10群の構成食品の再サンプリング品の調査結果では、ダイオキシン濃度が2pgTEQ/g以上のものはメカジキ、アジ、ブリであったが、これらを含めた構成食品ごとのダイオキシン濃度を用いた第10群の1日推定摂取量は76.91pgTEQ/dayとなり、トータルダイエット調査の第10群由来の摂取量176.93pgTEQ/gと大きく異なった。また、関西地区A点の第11 群の構成食品の調査結果では、牛肉(ロース)1検体で1.057pgTEQ/gが検出されたが、それ以外の濃度は、平成8〜10年度の調査結果と大きく異なるものは無かった。これは、同一産地の試料を一部入手出来なかったことや、産地が同一のものでも、同一ロットを入手出来なかったためと考えられる。
 なお、関東地区A点については、平成9年度よりトータルダイエット調査を実施しており、平成9年度調査では、2.12pgTEQ/kgbw/日、平成10年度調査では、2.06pgTEQ/日であった。また、本年度(平成12年度)実施中のトータルダイエット調査の速報値によると、関西地区A点は103.27pgTEQ/日(2.065pgTEQ/kgbw/日)、関東地区A点は、90.03pgTEQ/日(1.801pgTEQ/kgbw/日)であり、当該地域の食品由来のダイオキシン摂取量が恒常的にTDIを上回るとは確認されていない。
 また、平成10年度に実施された関西地区における保存試料の分析により、この20年間でダイオキシン摂取量は約1/3に減少していることが明らかになっている。
 TDIは、一生涯にわたって連続摂取し続けた場合の健康に対する影響の指標であるため、本調査でTDIを超えた地域について、この単年度の結果をもって健康に影響が起こるとはいえない。
 食品からの日本人の平均的なダイオキシン摂取量はTDI(4pgTEQ/kgbw/日)を下回っており、現在の所、食品衛生上の問題はないと考える。
 また、これまでの調査では、調査検体数は充分ではないものの、魚種や摂食部位の違いにより、ダイオキシン濃度が大きく異なることや加工魚介類には比較的濃度が低い傾向が示唆されているので、偏りのないバランスの良い食生活が勧められる。

 季節別のトータルダイエット4試料(夏、秋、冬、春)14食品群からの摂取量は、それぞれ92.2、68.2、123.1、91.5pgTEQ/dayである。体重(kg)当たりの1日摂取量に換算すると、それぞれ1.84、1.36、2.46、1.83pgTEQ/kgbw/dayとなり、冬試料からの摂取量は秋試料からの1.8倍となっている。従って、試料の採取時期が摂取量の変動要因となる可能性を示唆しているが、更に試行数を多くして確認する必要がある。

その2:野菜、魚介等個別食品中ダイオキシン濃度等に関する調査研究
 我が国に於けるダイオキシン(PCDD7種、PCDF10種及びCo-PCB12種)の食品を介した人への暴露状況を把握するために、昨年に引き続き個別食品の汚染状況を調査した。個別食品として、魚介類30種、水産加工品22種、肉類7種、食肉加工品5種、乳類3種、卵類4種、果実類5種、野菜類等16種、茸類1種、海草類1種について調査した。
 ダイオキシン濃度は2,3,7,8-TCDDに換算した値として示し、不検出(定量限界未満の場合:ND)に、ゼロを当てはめた場合の数値で示した。
 調査食品では魚介類中濃度が最も高く、総ダイオキシンが平均1.492pgTEQ/g、0.003〜23.093pgTEQ/gであり、以下、水産加工品では平均0.452pgTEQ/g、〈0.001〜3.469pgTEQ/g、乳類では平均0.230pgTEQ/g、0.014〜0.853pgTEQ/g、肉類では平均0.191pgTEQ/g、〈0.001〜1.434pgTEQ/g、卵類では平均0.127pgTEQ/g、0.005〜0.362pgTEQ/g、野菜類では、平均0.024pgTEQ/g、〈0.001〜0.239pgTEQ/g、海草類では平均0.021pgTEQ/g、0.001〜0.062pgTEQ/g、食肉加工品では、0.013pgTEQ/g、0.001〜0.030pgTEQ/g、果実類では平均0.003pgTEQ/g、〈0.001〜0.035pgTEQ/g、茸類では、〈0.001pgTEQ/gであった。

その3 : 食品汚染機構の解明と調理影響の解析に関する研究
 ダイオキシン(PCDD 7種、PCDF10種及びCo-PCB 12種)の食事を介した暴露状況を正確に把握するため、葉菜類におけるダイオキシン汚染機構及び、3種食品の調理加工によるダイオキシン汚染濃度の変化を検討した。
 ホウレン草の可食部(葉及び茎)の汚染濃度は非可食部(赤茎、根、ひげ根)に比べ汚染濃度は低かった。汚染機構の検討では、ホウレン草の各部位におけるダイオキシンの異性体別データを用い、汚染因子の解明を試みた。その結果、可食部である葉及び茎における汚染は、1,2,3,7,8-PeCDF及び2,3,4,7,8-PeCDFが大きな割合を占めることが判明した。これらの異性体は大気中のダイオキシンにおいても大きな割合を占めることから、ホウレン草の可食部における汚染は大気に由来であることが示唆された。
 調理加工による汚染濃度変化は、小松菜を用い水洗浄操作並びに水洗浄及び煮沸操作による影響を検討した。その結果、水洗浄操作では、ダイオキシン汚染濃度が未洗浄試料の約47%に減少し、さらに、煮沸操作により約40%に減少した。調理加工を行うことにより、小松菜におけるダイオキシン汚染濃度は、大きく減少することが明らかになった。サバの切り身については焼く、煮る及びつみれに加工して煮る操作による影響を検討した。ダイオキシン濃度は焼く操作で30.6%、煮る操作で14.4%、つみれに加工して煮る操作で20.9%減少した。牛肉については煮る、焼く、ハンバーグに加工して焼く操作による影響を検討した。ダイオキシン濃度は煮る操作で39.0%、焼く操作で35.3%、ハンバーグに加工して焼く操作で37.9%減少した。魚及び肉では調理加工により約15〜40%程度減少することが明らかとなった。

ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書(平成11年度)
主任研究者 豊田正武 国立医薬品食品衛生研究所 食品部長
その1:ダイオキシン類の摂取量等に関する実態調査研究報告書(案)

研究班構成
分担研究者 : 豊田正武 国立医薬品食品衛生研究所
研究協力者 : 内部博泰、柳俊彦、中村宗知、河野洋一 (財)日本食品分析センター
飯田隆雄、中川礼子、堀 就英 福岡県保健環境研究所
松田りえ子、堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所
A.研究目的

 ダイオキシンについては、急性毒性の他に発癌性、催奇形成等の毒性が報告されていることから、我が国でも1999年生活環境審議会・食品衛生調査会・中央環境審議会の合同専門家会合が開催され、当面の間ダイオキシンのTDIを4pgTEQ/kgbw/dayとすることが適当であると結論された。我が国におけるダイオキシンの食品経由の暴露量は、1996年度より厚生省研究班によりトータルダイエット試料による調査が実施されている。本年度は、昨年度に引き続きマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料について、調査箇所を6ヶ所増やしより全国的かつ詳細なダイオキシンの含量調査を行い摂取量を従来のデータと比較すると共に、同一地区において年間摂取量の変動を調べる目的で、4季節毎にトータルダイエット試料を集め含量調査を行い我が国におけるダイオキシン摂取量の季節変化の実態を把握することとした。

B.研究方法

1.試料

 平成11年度のトータルダイエット試料は、約120品目を厚生省の平成8年または9年度国民栄養調査による食品群別摂取量表を基にして、7地区16機関で購入した。実際の食事形態に従い、各食品をそのまま又は調理した後、13群に大別し、混合しホモジナイズし、−20℃で保存したものを分析用試料とした。13食品群の内訳は、1群は米・米加工品、2群は米以外の穀類・種実類・芋類、3群は砂糖類・菓子類、4群は油脂類、5群は豆類・豆加工品、6群は果実類、7群は緑黄色野菜類、8群は他の野菜類・きのこ類・海草類、9群は調味料・嗜好飲料、10群は魚介類、11群は肉類・卵類、12群は乳・乳製品、13群はその他の食品(カレールー等)であり、なお14群として飲料水(水道水)を加えている。
 季節変動調査用のトータルダイエット試料は九州地区で平成11年7〜8月(夏試料)、10〜11月(秋試料)、平成11年12月〜平成12年1月(冬試料)及び平成12年4月(春試料)に集めた4試料を用いた。

2.試験方法

 試験方法は1昨年度の報告書(平成9年度)と同様に行った。ダイオキシンの試験項目は昨年同様PCDDs7種、PCDFs10種及びCo-PCBs12種とした。
 ただし、定量値については、1997年におけるWHOの毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalence Factor)を用い、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)当量に換算して示した。なお数値はNDの場合、ゼロを用いた値及び定量限界値の1/2を用いた値の両者を併記して示した。
 また、これらダイオキシンの定量限界は、1〜3群及び5〜13群が、TetraCDDとTetraCDF、PentaCDDとPentaCDFが0.01pg/g、HexaCDDとHexaCDF、HeptaCDDとHeptaCDFが0.02pg/g、OctaCDDとOctaCDFが0.05pg/g、Co-PCBのうちノンオルト体が0.1pg/g、モノオルト体が1pg/gであった。4群では、TetraCDDとTetraCDF、PentaCDDとPentaCDFが0.05pg/g、HexaCDDとHexaCDF、HeptaCDDとHeptaCDFが0.1pg/g、OctaCDDとOctaCDFが0.2pg/g、Co-PCBのうちノンオルト体が0.5pg/g、モノオルト体が5pg/gであった。また、14群では、TetraCDDとTetraCDF、PentaCDDとPentaCDFが0.0001pg/g、HexaCDDとHexaCDF、HeptaCDDとHeptaCDFが0.0002pg/g、OctaCDDとOctaCDFが0.0005pg/g、Co-PCBのうちノンオルト体が0.001pg/g、モノオルト体が0.01pg/gであった。

C.研究結果

1.平成11年度トータルダイエット調査

 本研究は、通常の食事から摂取されるダイオキシンの量を把握するために行ったものであり、日本全国7地区、各地区1〜3試料からの16試料を用いて全国規模で推定することとした。
  表1〜3に7地区14食品群からのダイオキシンについて、NDをゼロとして計算した場合(以下、ND=Oと略す)の摂取量データと各群からの摂取割合を示した。同様に表4〜6にNDに定量限界の1/2を用いて計算した場合(以下、ND=LOD/2と略す)の数値を示した。
 ダイオキシン類の1日摂取量は、ND=Oの場合、平均44.7±20.8pgTEQ/day(範囲27.5〜98.5pgTEQ/day)である。本研究から得られたダイオキシン類について日本人の平均体重を50kgとして、体重(kg)当たりの1日摂取量に換算すると、平均0.89±0.42pgTEQ/kgbw/day(範囲0.55〜1.97pgTEQ/kgbw/day)となる。ND=LOD/2の場合は、平均81.9±21.0pgTEQ/day(範囲58.3〜133.0pgTEQ/day)であり、体重(kg)当たりでは平均1.64±0.42pgTEQ/kgbw/day(範囲1.17〜2.66pgTEQ/kgbw/day)である。
 各食品群別のダイオキシン類の1日摂取量は、ND=Oの場合多い順に10群(魚介類)が69.3%、11群(肉・卵)が19.3%、12群(乳・乳製品)が7.7%となり、これらの群で全体の96.2%を占めている。ND=LOD/2の場合は、10群が37.1%、1群(米)が13.3%、11群が11.6%、12群が6.2%となり、昨年同様第1群からの摂取割合が計算上増加する結果となった。
 Co-PCBについては、1日摂取量は平均67.9±55.6pgTEQ/day、範囲27.6〜252.2pgTEQ/dayであり、体重(kg)当たりの摂取量は、平均1.36±1.11pgTEQ/kgbw/day(範囲0.55〜5.04pgTEQ/kgbw/day)となる。食品群別の摂取量は、多い順に10群84.0%、11群13.6%であり、両群で全体の97.5%を占める。ND=LOD/2の場合は、平均79.3±55.3pgTEQ/day(範囲39.8〜263.0pgTEQ/day)であり、体重(kg)当たりの摂取量は、平均1.59±1.11pgTEQ/kgbw/day(範囲0.80〜5.26pgTEQ/kgbw/day)である。食品群別には多い順に10群71.4%、11群13.3%であり、両群で全体の84.7%を占める。
 ダイオキシン類とCo-PCBを合わせたダイオキシンの1日総摂取量は、平均112.6±74.8pgTEQ/day(範囲59.5〜350.7pgTEQ/day)であり、体重(kg)当たりに換算すると、平均2.25±1.50pgTEQ/kgbw/day(範囲1.19〜7.01pgTEQ/kgbw/day)である。食品群別摂取量は、多い順に10群78.2%、11群15.8%、12群4.3%で、これら3群で全体の98.3%を占める。ND=LOD/2の場合は、平均161.2±74.2pgTEQ/day(範囲104.0〜395.9pgTEQ/day)であり、体重(kg)当たりのダイオキシンの1日総摂取量は平均3.22±1.48pgTEQ/kgbw/day(範囲2.08〜7.92pgTEQ/kgbw/day)となる。食品群別では多い順に10群53.9%、11群11.7%、1群8.8%、12群4.3%、2群(雑穀・芋)4.9%であり、やはり1群からの寄与が多くなる。
 食事由来摂取量の全国平均値は2.25pgTEQ/kgbw/dayであり、我が国のTDIの4pgTEQ/kgbw/day以下となっているが、関東地区A試料と関西地区A試料の2ヶ所からの試料ではそのTDIを超えている。

2.摂取量の季節変化

 表7に同一地区で4季節毎に集めたトータルダイエット試料からのダイオキシンの1日摂取量について、4試料の結果を示した。なおNDを定量限界の1/2として計算した場合の数値を参考に付記した。
 夏、秋、冬、春の4試料からのダイオキシンの総摂取量は、ND=Oの場合それぞれ92.15、68.19、123.06、91.52pgTEQ/dayであり、ND=LOD/2の場合145.7、121.0、174.0、141.0pgTEQ/dayである。体重(kg)当たりの1日摂取量に換算すると、ND=Oの場合それぞれ1.84、1.36、2.46、1.83pgTEQ/kgbw/dayとなり、ND=LOD/2の場合2.91、2.42、3.48、2.82pgTEQ/kgbw/dayとなる。 ND=Oの場合4季節の平均摂取量は1.87±0.45pgTEQ/kgbw/dayであり、季節変動は±24.1%となり、摂取量の最も少ない秋試料と最も多い冬試料では1.8倍の摂取量差となっている。従ってトータルダイエットスタディーにおいては、試料の採取時期が摂取量の変動要因となる可能性を示唆していた。なおND=Oの場合、4季節試料からのダイオキシン類の摂取量は、43.37、27.37、51.87、38.86pgTEQ/dayであり、平均摂取量は40.37±10.21pgTEQ/kayである。最少の秋試料と最高の冬試料との差は1.9倍となっている。また同様に4季節試料からのCo-PCBの摂取量は、48.78、40.82、71.2、52.66pgTEQ/dayであり、平均摂取量は53.37±12.87pgTEQ/dayである。最少の秋試料と最高の冬試料との差は1.7倍となっている。しかし、この季節差については更に試行数を多くして確認する必要がある。

D.考察

 東京都は食品からのダイオキシン類摂取状況調査を実施しており、平成11年度のトータルダイエット試料による1日摂取量調査結果では東京都民の摂取しているダイオキシンが2.18pgTEQ/dayであると報告している。本報告の平成11年度の全国平均値2.25pgTEQ/dayはこの値と良く一致している。また地区別ダイオキシン摂取量については、全国の平均値が2.25±1.50pgTEQ/kgbw/dayであり、摂取量の変動が66.7%もある。従って摂取量が1.5pgTEQ/kgbw/day未満の試料が4、1.5以上2.0pgTEQ/kgbw/day未満の試料が7と両者で全体の8割を占めるにも拘わらず、摂取量が2.0以上4.0pgTEQ/kgbw/day未満の試料が2試料あり、またTDIの4pgTEQ/kgbw/dayを超える例が関東地区で1試料、関西地区で1試料あった。1日摂取量の多い例として、スペインのバスク地方では1994〜1995年度におけるダイオキシン(7種PCDDs、10種PCDFs、5種Co-PCBs)の1日摂取量が6.5pgTEQ/day(PCDDs+PCDFs 4.6pgTEQ/day、Co-PCBs 1.9pgTEQ/day)であり、食品別の寄与率は乳製品由来が40%、魚介類由来が27%、肉製品由来が23%であったと報告している。
 試料について、食品群別で比較した場合、摂取寄与の多い群は関東地区Aの第10群、関西地区Aの第10群及び第11群であり、他の試料の同一群の数値よりはるかに高くなっている。そこで、これら3群についてデータの信頼性を調査する目的で、他の分析機関による同一試料の分析を実施した。その結果、関東地区Aの第10群由来のダイオキシンの摂取量は129.7pgTEQ/dayであり、176.9pgTEQ/dayとの差は26.5%と30%以内の変動であり、分析データに信頼性のある事が分かった。関西地区Aの第10群由来のダイオキシンの摂取量は186.5pgTEQ/dayとなり、237.6pgTEQ/dayとの差は21.5%のみであり、同様に信頼性のある事が分かった。更に第11群由来のダイオキシンの摂取量は68.59pgTEQ/dayとなり、100.3pgTEQ/dayとの差は32.7%と若干大きい。しかし、精度管理用の試料として市販されているコイの標準試料では、必ずしも十分均一な試料とならないため、認証値の95%信頼区間の上限と下限の差がダイオキシンの種類によって18.2%から114.3%であることから、トータルダイエット試料のようにそれほど均一とはならない試料では±50%程度の数値の変動は許容できると考えられる。以上のことから、上記3群の分析数値には信頼性があると結論できる。
 食事由来の1日摂取量が2地域で我が国のTDIの4pgTEQ/kgbw/dayを超えているため、群ごとのダイオキシン摂取量が他地区より大きい関西地区A点の第10群(魚介類)、第11群(肉・卵類)及び関東地区A点の第10群について、トータルダイエット試料と同一ロットのものではないが、同一食品を同一の入手先で再度サンプリングし、構成食品ごとのダイオキシン摂取の寄与の推定を行った。
 その結果、関西地区A点の第10群の再サンプリング品で、ダイオキシン濃度が2pgTEQ/g以上であったのはサケ、マグロ、ヒラメ、サバ、ハマチであった。これら構成食品のダイオキシン濃度を用いた第10群の1日推定摂取量は202.82pgTEQ/dayとなる。この数値はトータルダイエット調査の第10群由来の摂取量237.60pgTEQ/gと良く一致した。
 このなかで、特にマグロのダイオキシン濃度は23.09pgTEQ/gであった。マグロを全てこの濃度で摂取すると仮定すると、計算上の摂取量は168.56pgTEQとなる。普通のマグロの脂肪含有率は21〜28%であるのに対しこのマグロは、約2倍の49.2%と特に多いため、ダイオキシン濃度が高かったものと思われる。
 また、国民栄養調査の魚種は「さけ、ます」「たい、かれい類」等、12カテゴリーに分類され、それぞれのカテゴリーごとに摂取量が集計されている。通常、各カテゴリー内で、複数の食品をサンプリングするが、関西地区A点では、「まぐろ類」は、通常摂食量が少ないと思われる脂肪含有率の特に高いマグロの1サンプルしか行っておらず、この食品の濃度が高かったため、摂取量に与える影響が大きくなったと思われる。
 なお、平成10年度調査におけるマグロの平均ダイオキシン濃度は0.307pgTEQ/gで、水産庁が今年10月に発表した平成11年度の調査によると、マグロ類の平均は1.242pgTEQ/gであることから、一般にマグロのダイオキシン濃度が高いというわけではない。
 関東地区A点の第10群の構成食品の再サンプリング品の調査結果では、ダイオキシン濃度が2pgTEQ/g以上のものはメカジキ、アジ、ブリであったが、これらを含めた構成食品ごとのダイオキシン濃度を用いた第10群の1日推定摂取量は76.91pgTEQ/dayとなり、トータルダイエット調査の第10群由来の摂取量176.93pgTEQ/dayと大きく異なった。また、関西地区A点の第11群の構成食品の調査結果では、牛肉(ロース)1検体で1.057pgTEQ/gが検出されたが、それ以外の濃度は、平成8〜10年度の調査結果と大きく異なるものは無かった。これは、同一産地の試料を一部入手出来なかったことや、産地が同一のものでも、同一ロットを入手出来なかったためと考えられる。
 なお、関東地区A点については、平成9年度よりトータルダイエット調査を実施しており、平成9年度調査では、2.12pgTEQ/kgbw/日、平成10年度調査では、2.06pgTEQ/日であった。また、本年度(平成12年度)実施中のトータルダイエット調査の速報値によると、関西地区A点は103.27pgTEQ/日(2.065pgTEQ/kgbw/日)、関東地区A点は、90.03pgTEQ/日(1.801pgTEQ/kgbw/日)であり、当該地域の食品由来のダイオキシン摂取量が恒常的にTDIを上回るとは確認されていない。
 また、平成10年度に実施された関西地区における保存試料の分析により、この20年間でダイオキシン摂取量は約1/3に減少していることが明らかになっている。
 TDIは、一生涯にわたって連続摂取し続けた場合の健康に対する影響の指標であるため、本調査においてTDIを超えた地域について、この単年度の結果をもって健康に影響が起こるとはいえない。
 食品からの日本人の平均的なダイオキシン摂取量はTDI(4pgTEQ/kgbw/日)を下回っており、現在の所、食品衛生上の問題はないと考える。
 また、これまでの調査では、調査検体数は充分ではないものの、魚種や摂食部位の違いにより、ダイオキシン濃度が大きく異なることや加工魚介類では比較的濃度が低い傾向が示唆されているので、偏りのないバランスの良い食生活が勧められる。
 平成10年度と摂取量を比較できる10試料について年度比較を実施したところ、摂取量には1.2〜2.5倍の差があり、平均で約1.5倍の差がある。従って、年度により摂取量の殆ど変わらない試料と2.1〜2.5倍も変化する試料とがある。これらの変動には試料の採取時期の影響も考えられる。地区別変動の有無を知るにはさらに継続して調査する必要がある。
 同一地区における季節別トータルダイエット試料について摂取量に変動が見られたことから、摂取量に対する寄与の大きい第10群の魚介類で採取された食品項目名を比較した。ハマチ、ヒラマサとサザエ以外に季節による使用食品種に殆ど差はなく、冬試料の魚介類の群で摂取量の多い理由は、魚介類自体のダイオキシン汚染レベルの季節変動または個体差によると考えられた。
 そこで、本年全国規模で使用したトータルダイエットの16試料について、その採取時期別にダイオキシン1日摂取量を比較した。6月から8月の夏期に採取した7試料では、1日摂取量が平均1.67±0.41pgTEQ/kgbw/day、9月から11月の秋期に採取した3試料で平均2.40±1.42pgTEQ/kgbw/day、12月から1月の冬期に採取した6試料で平均2.85±2.19pgTEQ/kgbw/dayであり、冬期試料が最も摂取量が高いデータとなっている。しかし冬期試料では摂取量の変動が78%と非常に大きく、極端に摂取量の高い1試料を除くと平均値は減少し、季節差はそれほど明確にならない。従って1日摂取量は秋から冬期の一部の試料で若干ダイオキシン摂取の高い傾向も散見されたが、必ずしも全試料に共通する現象ではなく、個別に使用した魚介類のダイオキシン汚染レベルの変動が摂取量に大きく影響しているものと推定される。

E.結論

 平成11年度トータルダイエットからのダイオキシンの1日摂取量は、平均112.6pgTEQ/day(範囲59.5〜350.7pgTEQ/day)である。日本人の平均体重を50kgとして、本研究から得られたダイオキシンについて体重kg当たりの1日摂取量に換算すると、平均2.25pgTEQ/kgbw/day(範囲1.19〜7.01pgTEQ/kgbw/day)で、食事由来摂取量の全国平均値は我が国のTDIの4pgTEQ/kgbw/day以下となっている。平成11年度のダイオキシンの平均1日摂取量は昨年度と比較し、若干増加しているが、平成9年度より若干少ない。なお参考として不検出(定量限界未満の場合)を定量限界の1/2として計算した場合(以下、ND=LOD/2と略す)は、それぞれ平均161.2pgTEQ/day(範囲104.0〜395.9pgTEQ/day)、平均3.22pgTEQ/kgbw/day(範囲2.08〜7.92pgTEQ/kgbw/day)である。
 この結果、ダイオキシンの平均的な1日摂取量は最近2〜3年の間は殆ど変化していないものと考えられる。食品からの日本人の平均的なダイオキシン摂取量はTDI(4pgTEQ/kgbw/日)を下回っており、現在の所、食品衛生上の問題はないと考える。
 また、これまでの調査では、調査検体数は充分ではないものの、魚種や摂食部位の違いにより、ダイオキシン濃度が大きく異なることや加工魚介類には比較的濃度が低い傾向が示唆されているので、偏りのないバランスの良い食生活が勧められる。
 季節別のトータルダイエット4試料(夏、秋、冬、春)らの摂取量は、それぞれ92.2、68.2、123.1、91.5pgTEQ/dayである(ND=LOD/2の場合145.7、121.0、174.0、141.0pgTEQ/dayである)。体重(kg)当たりの1日摂取量に換算すると、それぞれ1.84、1.36、2.46、1.83pgTEQ/kgbw/dayとなり(ND=LOD/2の場合2.91、2.42、3.48、2.82pgTEQ/kgbw/dayとなる)、冬試料は秋試料の1.8倍となっている。

F.研究発表

1.論文発表

 M.Toyoda, H.Uchibe, T.Yanagi, Y.Kono, T.Hori, T.Iida, Decreased daily intake of PCDDs, PCDFs and Co-PCBs from foods in Japan from 1977 to 1998, J.Food Hyg. Soc. Japan, 40、494-499(1999)
 T.Hori, T.Iida, T.Matsueda, M.Nakamura, H.Hirakawa, K.Kataoka, M.Toyoda, Organohalogen Compounds, 44, 145-148(1999)

謝辞

 本研究は、平成11年度厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)及び試験検査費により行った。トータルダイエット試料の作製にご協力願いました7地区の16研究機関の方々に感謝致します。またデータの整理にご協力頂きました浅野里佐子氏に深謝します。

参考文献

1)厚生省生活衛生局:食品中のダイオキシン汚染実態調査研究(平成9年度)

2)厚生省生活衛生局:食品中のダイオキシン汚染実態調査研究(平成10年度)

3)中央環境審議会環境保健部会・生活環境審議会・食品衛生調査会:ダイオキシンの耐容1日摂取量(TDI)について(平成11年6月)

4)東京都衛生局:平成11年度食品からのダイオキシン類摂取状況調査結果

5)Health Department Basque Government:Food chBical surveillance in the Basque Country,1990-1995

(その1の表1〜7)


ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書(平成11年度)
主任研究者 豊田正武 国立医薬品食品衛生研究所 食品部長
その2:野菜、魚介等個別食品中ダイオキシン濃度等に関する調査研究報告書(案)
分担研究者 飯田隆雄 福岡県保健環境研究所

研究班構成
分担研究者: 飯田隆雄 福岡県保健環境研究所
協力研究者: 内部博泰、柳俊彦、中村宗知、河野洋一(財)日本食品分析センター
中川礼子、堀就英、飛石和大 福岡県保健環境研究所
堤智昭 国立医薬品食品衛生研究所

A.研究目的

 ダイオキシンは発癌性、催奇形性、内分泌かく乱作用等をもつことが報告されていることから、我が国でもそのTDI(耐容1日摂取量)を当面の間4pgTEQ/kg bw/dayとしているが、より厳密な安全性評価が必要な状況となっている。ダイオキシンによる人への主な暴露源は食品であることがこれまでの本事業の成果から明らかとなっている。そこで昨年に引き続き魚介類を主体に、食肉、乳・乳製品、卵・卵製品、野菜、果実等についてCo-PCBsを含むダイオキシンの汚染レベルを調査した。

B.研究方法

1.試料

 個別食品試料は、魚介類として30種類、アジ、イワシ、カジキ、カツオ、カマス、キス、キンキ、ギンダラ、キンメダイ、サケ、サンマ、タイ、タラ、ニシン、ハモ、ヒラメ、フグ、ブリ、マグロ、マサバ、マス、ムロアジ、メカジキ、ホッケ、イカ、イカ内臓、エビ、カニ、タコ及びホタテ貝、加工魚介類として22種類、アジ干物、イカ塩辛、カマス干物、塩サケ、塩サバ、塩サンマ、シシャモ、シラス干し、スジコ、タラコ、ちりめんじゃこ、煮干し、あみ佃煮、イワシ蒲焼缶詰、蒲鉾、魚肉ソーセージ、小女子佃煮、さつま揚げ、サンマ蒲焼缶詰、ちくわ、はんぺん及びマグロ缶詰、肉類として7種類、牛肉、牛レバー、豚肉、豚レバー、鶏肉、鶏レバー及び羊肉、食肉加工品として5種、羊肉(缶詰)、鯨肉(缶詰)、ロースハム、ソーセージ及びベーコン、乳類として3種類、牛乳、バター及びチーズ、鶏卵及び卵加工製品として4種類、鶏卵、ウズラ卵、乾燥黄卵及び卵白粉、野菜類として16種類、いんげん、キャベツ、ごぼう、春菊、大根、たまねぎ、ちんげんさい、トマト、にら、にんじん、ピーマン、ブロッコリー、ほうれん草、みつば、もやし及びれんこん、果実類として5種類、ブドウ、梨、グレープフルーツ、パパイア及びマンダリンオレンジ、海草類としてヒジキ(乾燥及び生)、茸類として椎茸を購入し試料とした。

2.分析方法

(1)試験方法
 昨年度の試験方法と同様な方法で行った。
(2)対象項目
 個別食品についてはPCDDs7種、PCDFs10種並びにCo-PCBs12種とした。
(3)定量
 定量用標準混合溶液1μlを、ガスクロマトグラフ・高分解能質量分析計(GC-HRMS)に注入し、各塩素数に応じた設定質量数毎にマスフラグメントグラフィーを行った。得られたマスフラグメントグラムから各塩素数の内標準物質に対する各物質のピーク面積比を求めた。同様に、検体試料溶液についてもピーク面積比を求め定量値を算出した。定量値はいずれもWHO(1997年)のTEFを用い、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)当量に換算して示した。また定量値は各congener毎に定量下限値未満(ND)の場合にゼロを用いた数値(ND=0)で示した。
(4)検出限界
 牛乳以外の個別食品の定量下限値は、TetraCDDとTetraCDF、PentaCDDとPentaCDFが0.01pg/g(畜産物)または0.02pg/g(野菜等)、HexaCDDとHexaCDF、HeptaCDDとHeptaCDFが0.02pg/g、OctaCDDとOctaCDFが0.05pg/g、non-ortho Co-PCBsが0.1pg/g(畜産物)または0.01pg/g(野菜等)、mono-ortho Co-PCBsが1pg/gであった。牛乳はTetraCDDとTetraCDF、PentaCDDとPentaCDFが0.005pg/g、HexaCDDとHexaCDF、HeptaCDDとHeptaCDFが0.01pg/g、OctaCDDとOctaCDFが0.02pg/g、ノンオルト(non-ortho) Co-PCBsが0.05pg/g、モノオルト(mono-ortho) Co-PCBsが0.5pg/gであった。

C.研究結果及び考察

1.個別食品中濃度

1)魚介類中濃度
 表1に本年度調査した27種魚介類について湿重量当たりのダイオキシンの2,3,7,8-TCDD当量濃度(pgTEQ/g)を不検出をゼロとした場合の数値でまとめて示した。いずれの試料からもダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)とCo-PCBs(ホタテガイの1試料を除く)を検出した。
 魚介類におけるダイオキシン濃度については、10pgTEQ/gを超える試料はマグロの1試料(23.09pgTEQ/g)のみである。次いでメカジキの4.271pgTEQ、ブリの3.413pgTEQ/g、イカ内臓の2.745pgTEQ/g、マサバの2.713pgTEQ/g、アジの2.703pgTEQ、マスの2.545pgTEQ/g、キスの2.341pgTEQ/g、イワシの2.002pgTEQ/gである。平均値が1〜2pgTEQ/gの魚介類はキンメダイ1.944pgTEQ/g、ギンダラ、1.960pgTEQ/g、ニシン1.121pgTEQ/g、カツオ1.241pgTEQ/g、カマス1.673pgTEQ/g、ヒラメ1.079pgTEQ/g、カジキ1.491pgTEQ/gであり、平均値が1pgTEQ/g未満の魚介類はキンキ0.320pgTEQ/g、サケ0.948pgTEQ/g、サンマ0.282pgTEQ/g、タイ0.668pgTEQ/g、タラ0.067pgTEQ/g、ハモ0.594pgTEQ/g、フグ0.048pgTEQ/g、ムロアジ0.607pgTEQ/g、ホッケ0.716pgTEQ/g、イカ0.012pgTEQ/g、タコ0.155pgTEQ/g、カニ0.451pgTEQ/g、エビ0.086pgTEQ/g、ホタテ貝0.072pgTEQ/gである。
 本研究における魚介類中のダイオキシン濃度は、これまでの2年間の調査結果と類似し2、3)、また調査対象が必ずしも食用の魚種に限らないが環境庁が発表した平成11年度環境中の水生生物中濃度の検出範囲0.23(フナ)〜25pgTEQ/g(ウナギ)の範囲内にある4)。水産庁の報告した平成11年度の魚介類中濃度と比較した場合は、魚類99試料の平均濃度が1.018pgTEQ/gであるのに対し、本報告の70試料の平均値は1.756pgTEQ/gと幾分高めになっている。一方甲殻類13試料では平均0.752pgTEQ/gであるのに対し、本報告の7試料では平均0.295pgTEQ/gと低くなっている。
 また表2に本年度初めて広範囲に調査した加工食品22種のダイオキシン濃度を示した。1pgTEQ/gを超える加工食品は、アジ干物が平均値1.111pgTEQ/g、煮干しが1.140pgTEQ/g、イワシ蒲焼缶詰が1.349pgTEQ/gである。その他のカマス干物、塩サンマ、シシャモ、塩シャケ、塩サバ、イカ塩辛、シラス干し、ちりめんじゃこ、スジコ、タラコ等は1pgTEQ/g未満の濃度である。蒲鉾、はんぺん、ちくわ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ等の加工調理品では佃煮類が0.259〜0.482pgTEQ/gである以外、ダイオキシン濃度は0.1pgTEQ/g以下である。

2)肉類及び加工肉中の濃度
 表3に国産及び輸入食肉中のダイオキシン濃度を示した。
 国産牛肉9試料のダイオキシン濃度は平均0.496pgTEQ/g、範囲0.090〜1.235pgTEQ/g、輸入牛肉6試料のダイオキシン濃度は平均0.095pgTEQ/g、範囲0.001〜0.187pgTEQ/gであり、平成9及び10年度と同様に輸入牛肉で国産牛肉より低くなっている。この傾向は農林水産省が発表した結果の国産牛肉で平均0.618pgTEQ/g、輸入牛肉で平均0.196pgTEQ/gと良く一致している。牛肉全15試料のダイオキシン濃度は平均0.330pgTEQ/g、範囲0.001〜1.235pgTEQ/gである。
 国産豚肉9試料のダイオキシン濃度は平均0.165pgTEQ/g、範囲0.001〜1.434pgTEQ/g、輸入豚肉9試料のダイオキシン濃度は平均0.021pgTEQ/g、範囲〈0.001〜0.077pgTEQ/gであり、国産豚肉と輸入豚肉のダイオキシン濃度レベルは年度により相違している。しかし、本年度の国産豚肉で輸入豚肉より濃度が高い傾向は、農林水産省の調査結果の国産0.024pgTEQ/g、輸入0.006pgTEQ/gと良く一致している。豚肉全18試料のダイオキシン濃度は平均0.111pgTEQ/g、範囲〈0.001〜1.434pgTEQ/gである。
 国産鶏肉6試料のダイオキシン濃度は平均0.123pgTEQ/g、範囲0.021〜0.294pgTEQ/g、輸入鶏肉5試料のダイオキシン濃度は平均0.043pgTEQ/g、範囲0.002〜0.129pgTEQ/gであり、平成9及び10年度と同様に輸入鶏肉より国産鶏肉で高い。この傾向は、農林水産省の調査結果の国産0.083pgTEQ/g、輸入0.032pgTEQ/gと良く一致している。鶏肉全11試料のダイオキシン濃度は平均0.093pgTEQ/g、範囲0.002〜0.294pgTEQ/gである。
 レバーについては、国産牛レバー3試料のダイオキシン濃度が平均0.348pgTEQ/g、国産豚レバー3試料のダイオキシン濃度が平均0.380pgTEQ/g、国産鶏レバー4試料のダイオキシン濃度が平均0.187pgTEQ/gである。
 羊肉については、輸入羊肉3試料のダイオキシン濃度が平均0.092pgTEQ/gである。

3)畜産加工食品等のダイオキシン濃度
 表4に卵を含む畜産加工食品中のダイオキシン濃度を示した。羊肉缶詰、鯨肉缶詰、ロースハム、ソーセージ、ベーコンではダイオキシン濃度は0.001〜0.030pgTEQ/gの範囲にある。
 牛乳9試料中のダイオキシン濃度は平均0.037pgTEQ/g、範囲0.014〜0.050pgTEQ/gであり、昨年度の12試料の平均値0.069pgTEQ/gの約半分近くとなっている。農林水産省畜産局の市販牛乳中の調査結果の平均値0.049pgTEQ/g、範囲0.006〜0.110pgTEQ/gと比較しほぼ同程度である5)。また輸入チーズ3試料中のダイオキシン濃度は平均0.532pgTEQ/gであり、平成9年度及び10年度の輸入チーズ中濃度よりやや多いが、その原因はチーズの種類の相異と考えられる。輸入バター3試料のダイオキシン濃度は平均0.510pgTEQ/gである。国産鶏卵4試料のダイオキシンの平均濃度は0.114pgTEQ/gであり、農林水産省の調査結果の0.081pgTEQ/gとほぼ同程度である。輸入乾燥卵黄製品2試料のダイオキシン濃度は平均0.306pgTEQ/gであり、農林水産省の調査結果の平均0.200pgTEQ/gに類似している。輸入卵白粉2試料のダイオキシンの平均濃度は0.017pgTEQ/gであり、農林水産省の調査結果の平均0.029pgTEQ/gに近い。
 また国産ウズラ卵のダイオキシン濃度は0.046pgTEQ/gであり、鶏卵中濃度より低い。

4)野菜・果実類等中の濃度
 表5に国産野菜12種及び輸入野菜4種、茸類1種、海草類1種、国産果実2種及び輸入果実3種についての結果を示した。
 野菜のチンゲン菜では3試料中2試料から検出され、ダイオキシンの平均濃度は0.010pgTEQ/gである。春菊では3試料中2試料から検出され、ダイオキシンの平均濃度は0.130pgTEQ/gである。ミツバでは3試料中2試料から検出され、ダイオキシンの平均濃度は0.011pgTEQ/gである。レンコンでは3試料いずれからも検出され、ダイオキシンの平均濃度は0.023pgTEQ/gである。ブロッコリーでは3試料中1試料から検出されたが、、ダイオキシンの平均濃度は0.001pgTEQ/g未満である。ニラでは3試料中2試料から検出され、ダイオキシンの平均濃度は0.001pgTEQ/gである。キャベツ、モヤシ、タマネギ、大根、椎茸、インゲン、輸入品のトマト、ゴボウ、ピーマン、ニンジンからはいずれも検出されていない。
 また従来より野菜中でダイオキシン濃度の高いホウレン草7試料では平均0.073pgTEQ/g、範囲0.002〜0.182pgTEQ/gであり、昨年度の調査結果(平均0.213pgTEQ/g)より低くなっている。なお環境庁と農林水産省は、平成11年度調査のホウレン草22試料中のダイオキシン濃度が、平均0.15pgTEQ/gであると報告している。
 海草類については、乾燥ヒジキ2試料では、ダイオキシン濃度は試料による差が大きく平均0.032pgTEQ/g、範囲0.001〜0.062pgTEQ/gであり、生試料中のダイオキシン濃度は0.002pgTEQ/gである。
 果実類のブドウでは3試料のダイオキシン濃度が平均0.012pgTEQ/g、範囲0.001〜0.035pgTEQ/gである。梨では何れからも検出されず、輸入のパパイヤ及びグレープフルーツでも検出されていない。

D.結論

 我が国に於けるダイオキシンの食品を介した人への暴露状況を把握するために、昨年に引き続き個別食品の汚染状況を調査した。ダイオキシン濃度は2,3,7,8-TCDDに換算した値として示し、不検出(定量下限値未満の場合:ND)に、ゼロを当てはめた場合の数値で示した。なお不検出の場合に検出下限値の1/2で計算した数値を参考として( )内に示した。
 調査食品では魚介類中濃度が最も高く、総ダイオキシンが平均1.492pgTEQ/g(1.499pgTEQ/g)、0.003〜23.093pgTEQ/g(0.029〜23.093pgTEQ/g)であり、魚加工品では平均0.452pgTEQ/g(0.462pgTEQ/g)、〈0.001〜3.469pgTEQ/g(0.027〜3.470pgTEQ/g)である。肉類(牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉)の濃度は平均0.191pgTEQ/g(0.206pgTEQ/g)、〈0.001〜1.434pgTEQ/g(0.027〜1.435pgTEQ/g)、食肉加工食品では平均0.013pgTEQ/g(0.032pgTEQ/g)、0.001〜0.030pgTEQ/g(0.009〜0.051pgTEQ/g)である。乳・乳製品(牛乳、チーズ、バター)中濃度は平均0.230pgTEQ/g(0.239pgTEQ/g)、0.014〜0.853pgTEQ/g(0.032〜0.860pgTEQ/g)であり、卵・卵製品中濃度は平均0.127pgTEQ/g(0.137pgTEQ/g)、0.005〜0.362pgTEQ/g(0.032〜0.363pgTEQ/g)である。野菜類等については、平均0.024pgTEQ/g(0.052pgTEQ/g)、〈0.001〜0.239pgTEQ/g(0.027〜0.239pgTEQ/g)、茸類では平均〈0.001pgTEQ/g(0.027pgTEQ/g)、海草類では平均0.021pgTEQ/g(0.045pgTEQ/g)、0.001〜0.062pgTEQ/g(0.027〜0.080pgTEQ/g)、果実類では平均0.003pgTEQ/g(0.030pgTEQ/g)、〈0.001〜0.035pgTEQ/g(0.027〜0.053pgTEQ/g)である。

E.研究発表

1.論文発表

 T.Tsutsumi, T.Iida, T.Hori, T.Yanagi, Y.Kono, H.Uchibe, M.Toyoda, Levels of PCDDs, PCDFs and Co-PCBs in fresh and cooked leafy vegetables in Japan, Organohalogen Compounds, 47, 296-299(2000)

謝辞

 本研究は、平成11年度厚生省厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)により行った。なお分析用食品試料の入手に御協力願いました16研究機関、2検疫所等に感謝致します。またデータの整理にご協力頂きました新井康代氏に深謝致します。

参考文献

1)五十嵐敦子、佐々木久美子、豊田正武、齋藤行生:衛誌報告、114、43-47(1996)

2)食品中のダイオキシン類汚染実態調査研究(平成9年度)報告書

3)食品中のダイオキシン類汚染実態調査研究(平成10年度)報告書

4)環境庁:ダイオキシン類全国一斉調査結果について‐平成11年度実施‐(平成11年8月)

5)農林水産省畜産局:平成11年度畜産物及び飼料等のダイオキシン類実態調査結果について(平成12年8月)

6)環境庁、農林水産省:平成11年度農用土壌及び農作物に係わるダイオキシン類実態調査結果について(平成12年9月)

7)水産庁:平成11年度魚介類中のダイオキシン類の実態調査結果について(平成12年10月)

(その2表1〜5)


ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書(平成11年度)
主任研究者 豊田正武 国立医薬品食品衛生研究所 食品部長
その3 : 食品汚染機構の解明と調理影響の解析に関する研究報告書 (案)
分担研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所
研究班構成
分担研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所
協力研究者 飯田隆雄、中川礼子、堀就英、飛石和大 保健環境研究所
堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所

A. 研究目的

 ダイオキシン(PCDD 7種、PCDF10種及びCo-PCB 12種)の食事を介した暴露状況を正確に把握するため、葉菜類におけるダイオキシン汚染機構及び、3種食品の調理加工によるダイオキシン汚染濃度の変化を検討した。

B. 研究方法

1.試料の調製

1) ホウレン草及び小松菜(露地栽培、各約10kg)は、九州地区で生産者より直接購入した。ホウレン草はダイオキシン汚染機構の検討に、小松菜は調理加工の影響に使用した。
 ホウレン草は水洗いし付着した土壌などを除いた後、無作為に約2.5 kgずつ4群に分けた。各群を、葉、茎、赤茎、根、ひげ根の5つの部位に分離し、部位ごとに集めて均一化した後、各部位の汚染 濃度を測定した。
 小松菜は付着した土壌等を払い落とした後、根部を除去した可食部を調理した。調理試料は水洗浄した試料(水洗浄試料:流水(水道水)で十分に洗い、水を切ったもの)と、水洗浄後に煮沸処理した試料(煮沸試料:水洗浄後、沸騰した水道水(4L)中で3分間ゆで、軽く水を切ったもの)の2種類を 調製した。可食部の試料を無作為に約500gずつ15群に分け、調理前試料(未洗浄試料)、水洗浄試 料及び煮沸試料の各5検体を調製した。
2) 魚の調理加工用には、平成12年1月に九州地区でサバを購入して試料とした(半身の長さ平均20cm)。全体を包丁で3枚におろし、片側の半身は生のまま均一化し対照試料とした。一方の半身は調理を施したのち均一化して分析試料とした。
 調理方法は、(1)半身のまま焼く(焦げ目がつくまで8分程度焼く)、(2)半身のまま煮る(800mlの沸騰水中で10分間煮る)、さらに(3)つみれ(団子状)に加工したのち煮る((2)と同様の条件)の3通りで、それぞれの手法で3回ずつ試行した。調理過程での試料の重量変化を記録した。
 ダイオキシン類分析とは別に各均一試料を5gとり脂肪量を求めた。脂肪量の分析法は以下の通りである。
 均一試料約5gを50ml共栓ガラス遠沈管にとり、4倍量の無水硫酸ナトリウムを加えた。直ちに攪拌して脱水、粉末状とし、ジエチルエーテル・n-ヘキサン(1:2)混液20mlで3回抽出した。抽出液をヘキサン洗浄水10mlで2回洗浄した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウム上で脱水した後、ロータリーエバポレーターで有機溶媒を濃縮、留去し脂肪を得た。
3) 肉の調理加工用には、平成12年1月に九州地区で食用牛肉(ヒレ肉ブロック、約1kg×3)を購入して試料とした。
 肉ブロックを端から厚さ約2mmにスライスし、スライスした順に4つに取り分けた。取り 分けた後の調理操作は、(1)煮る、(2)焼く、(3)ハンバーグの3通りである。

「対照」: スライス片をフードプロセッサーで均一化し分析試料とした。
「煮る」: スライス片をそのまま700mlの沸騰水で5分間煮た後、鍋から取り出し、調理後の重量を記録して均一化した。
「焼く」: スライス片をそのまま焦げ目がつく程度まで鉄板で焼いた後、調理後の重量を記録して均一化した。
「ハンバーグ」: スライス片をフードプロセッサーで均一化し、直ちにハンバーグに成形してフライパンで両面を計10分間焼いた後、調理後の重量を記録して均一化した。

 残りの2つの肉ブロックを用いて同様の操作を行った(試行数計3)。ダイオキシン類分析とは別に均一試料を5gとり脂肪量を求めた。脂肪量の分析法は上記の方法と同様に行った。

2.試薬

 文献(1)と同様の試薬を用いた。

3.野菜試料の抽出法

1)ホウレン草(葉、茎、赤茎)及び小松菜
 試料50〜100gを分液漏斗に量り取り、内部標準物質とアセトン:ヘキサン(1:1)(200ml)を加えた後、 振とう機で60分間振り混ぜた。吸引濾過を行い、残さについて上記と同様の抽出操作を行い、抽出液 を合わせた。抽出液は、ヘキサン洗浄水(300ml)を加え10分間振とう後、水層と有機層に分けた。再度、水層に、n−ヘキサン(50ml)を加え5分間振とう後、有機層を分離し、上記の有機層と合わせた。有機層は2%塩化ナトリウム水溶液(100ml)で2回洗浄した後、減圧濃縮した。なお、SchBe 1に方法の概略を示した。
2)ホウレン草(根、ひげ根)
 試料10〜50gをビーカーに量り取り、内部標準物質とアセトン:n−ヘキサン(1:1)(200ml)を加えた後、高速ホモジナイザーでホモジナイズした。吸引濾過を行い、残さについて上記と同様の抽出操作を行い、抽出液を合わせた。抽出液は、ヘキサン洗浄水(300ml)を加え振とう後、水層と有機層に分けた。再度、水層に、n−ヘキサン(200ml)を加え5分間振とう後、有機層を分離し、ヘキサン洗浄水で洗浄後、最初に得た有機層と合わせた。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。なお、SchBe 2に方法の概略を示した。
3)野菜試料の精製法
 抽出液は硫酸処理後、硝酸銀シリカゲルカラムに負荷した。n−ヘキサン(100ml)で溶出後、減圧濃縮し、さらに活性炭カラムに負荷した。10%ジクロロメタン・n−ヘキサン(50ml)でモノオルソCo-PCBsを溶出後(第1画分)、トルエン(150ml)でPCDD/Fs及びノンオルソCo-PCBs(第2画分)を溶出した。第1画分は減圧濃縮後、n−ヘキサン飽和アセトニトリル(2ml)で3回抽出後、n−ヘキサンに転溶した。減圧濃縮後、シリンジスパイクを加え窒素気流下で濃縮しGC/MS試料とした。第2画分は減圧濃縮後、硫酸処理を行い、シリンジスパイクを加えた後、窒素気流下で濃縮しGC/MS試料とした。なお、SchBe 3に方法の概略を示した。

4.魚試料の抽出法はSchBe 4 に示し、精製法はSchBe 3と同様とした。

5.肉試料の抽出法及び精製法は魚試料と同様とした。

6.定量

 各定量用標準混合溶液をGC/MSに注入し、各塩素化物に応じた設定質量数ごとにSIMモードで測定を行った。得られたピークから、各塩素化物の内標準物質に対するピーク面積比と濃度比の検量線を作成した。同様にして、試料溶液についてもピーク面積比を求め、検量線から定量値を算出した。定量値はいずれも、WHO(1997)の毒性等価係数(2,3,7,8-TCDD Toxic Equivalency Factor; TEF)を用い毒性当量(2,3,7,8-TCDD Toxic Equivalent Quantity; TEQ)へ換算した。

C. 結果及び考察

1.ホウレン草におけるダイオキシン汚染機構の解明

 表1にホウレン草の各部位における、ダイオキシンのTEQ濃度を示した。全ての部位において、TEQ濃度における汚染はPCDD/Fs汚染が主で、Co-PCBs汚染はほとんど見られない。また、ホウレン草の可食部(葉及び茎)の汚染濃度は非可食部(赤茎、根、ひげ根)に比べ汚染濃度は著しく低い。最もTEQ濃度の高いひげ根に比べて、それぞれ可食部の葉は21分の1、茎は85分の1に過ぎなかった。また、各部位における総TEQ濃度に占めるPCDD/Fs異性体の割合を調べると、可食部のTEQに占める各異性体の割合と、非可食部に占める各異性体の割合は異なったパターンを示している。即ち可食部においては1,2,3,7,8-TCDD及び2,3,4,7,8-PeCDFのTEQ濃度が大きい割合を占めている。これらの異性体は、大気中におけるダイオキシン汚染の主要な汚染成分の1つとされていることから(2, 3)、汚染源は大気に由来している可能性が示唆される。今回の研究では、試験に使用したホウレン草が生育した周辺の大気及び土壌のダイオキシン分析を行っておらず、さらに測定対象物質も2,3,7,8位塩素置換体しか対象としていないため、正確な汚染源の推定には至っていない。

2. 3種食品における調理影響の解析

1)小松菜の調理による影響
 表2には、調理前及び調理後における小松菜中のダイオキシンのTEQ濃度を示した。調理により試料の重量変化が見られたため、調理試料のTEQ濃度は調理前重量で換算した。水洗浄及び煮沸処理を行うことにより、ダイオキシンの汚染は減少することが判明した。水洗浄及び煮沸試料で調理前と比較し総TEQ濃度に有意差(t-検定)が認められ、水洗浄により調理前の約47%、さらに煮沸処理により約40%に減少することが判明した。また、この減少率は、既に我々が報告(論文発表、Tsutsumi et.al.)している、ホウレン草における調理加工の汚染濃度の減少率とほぼ同程度の値である。今回は、減少に関するメカニズム的な検討は行っていないのでダイオキシン汚染濃度の減少機構は明らかでないが、おそらくは植物体表面に付着したダイオキシン等が洗い流されるためと考えられる。

2)魚の調理による影響
 まず、ダイオキシン、ジベンゾフラン各異性体の定量にあたり、食品中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法の暫定ガイドラインの標準的検出限界値を用いて数値化したところ、数多くの異性体が検出限界以下となり、調理前後の変化量が明確とならなかった。そこで、GC/MSの検出感度ならびに操作ブランク値を勘案のうえ、標準的検出限界値の2分の1までを数値化することとした。一方、コプラナーPCBの定量では、調理前後で比較的高い定量値が得られており標準的検出限界をあてはめても調理前後の比較が可能であること、またPCBの操作ブランク値等を考慮し、標準的検出限界をそのまま用いることが適当と判断した。
 各試料中のダイオキシン濃度は調理後に減少することが予想されたが、実測濃度の一部には増加傾向がみとめられた。これは、ダイオキシンの減少以上に試料の水分減少(重量減少)の寄与が大きく、見かけ上ダイオキシンが濃縮された結果と考えられる。また、魚の脂肪含量は、「焼く」の3例と「煮る」の2例で増加傾向を示した。これは、調理により脂肪は失われるものの、水分減少の寄与も無視できないことを示唆している。
 しかし、表3に示したように総ダイオキシン濃度を調理前重量当たりに換算して比較すると、全試行が減少傾向で一致し、「焼く」で平均30.6%(範囲:26.5〜38.6%)、「煮る」で平均14.4%(範囲:12.8〜15.9%)、「つみれとして煮る」で平均20.9%(範囲:15.4〜24.2%)減少している。
 以上のように、魚を「焼く」、「煮る」、「つみれとして煮る」の3通りで調理した場合、いずれもダイオキシン濃度(調理前重量当たり)は15〜40%の減少傾向を示している。

3)肉の調理による影響
 ダイオキシンの定量は、魚の調理による影響で用いた方法に従い同様に行った。各試料中のダイオキシン濃度は調理後に減少することが予想されたが、実測濃度の一部には増加傾向が認められた。これは、ダイオキシンの減少以上に試料の水分減少(重量減少)の寄与が大きく、見かけ上ダイオキシンが濃縮された結果と考えられる。また、肉の脂肪含量は、全ての試行で増加傾向を示していた。これは、調理により脂肪は失われるものの、それ以上に水分の減少の寄与が大きいことを示唆している。
 しかし、表4に示したように総ダイオキシン濃度を調理前重量当たりに換算して比較すると、全ての試行が減少傾向で一致し、調理前に対して「煮る」で平均39.0%(範囲:31.1〜44.4%)、「焼く」で平均35.3%(範囲:28.5〜46.5%)、「ハンバーグとして焼く」で平均37.9%(範囲:32.3〜42.2%)減少している。
 以上のように、肉を「煮る」、「焼く」、「ハンバーグとして焼く」の3通りで調理した場合、いずれもダイオキシン濃度(調理前重量当たり)は40%程度減少傾向を示している。

D. 結論

1.ホウレン草における部位別の汚染濃度を測定したところ、可食部は非可食部と比較し汚染濃度は著しく低い。

2.ホウレン草可食部の汚染は大気に由来している可能性が高いことが、異性体別データにより示唆された。

3.調理加工により小松菜のダイオキシン濃度は約60%減少し、サバでは15〜40%減少し、牛肉では約40%減少し、ダイオキシン摂取量を低減できることが明らかになった。

E.研究発表

1.論文発表

 Tsutsumi, T., Iida, T., Hori, T., Yanagi, T., Kono, Y., Uchibe, H., Toyoda, M., 2000. Levels of PCDDs, PCDFs and Co-PCBs in fresh and cooked leafy vegetables in JAPAN. Organohalogen Compounds 47, 296-299

謝辞

 本研究は、平成11年度厚生省厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究)により行った。データの整理にご協力頂きました新井康代氏に深謝致します。

参考文献

1.Toyoda, M., Iida, T., Hori, T., Yanagi, T., Kono, Y., Uchibe, H., 1999a. Concentrations of PCDDs, PCDFs and coplanar PCBs in Japanese retail foods. J. Food Hyg. Soc. Japan 40, 111-121 (in Japanese).

2.Lohmann, R., Jones, K.C., 1998. Dioxins and furans in air and deposition: a review of levels, behaviour and processes. Sci. Total. Environ. 219, 53-81.

2.Shibayama, M., Yasuda, N., Inoue, T., Takasuga, T., 2000. Investigation of target as an indicator for dioxins (PCDDs/PCDFs and co-PCBs). Abstract of 9th Symposium on Environmental ChBistry, 170-171 (in Japanese).

(その3表1〜4)

照会先:厚生省生活衛生局
食品保健課長 松原 了
担当者:塚本、吉田(内線2445, 2446)
乳肉衛生課長 高谷 幸
担当者:滝本、宮川(内線2473, 2474)
Phone [現在ご利用いただけません](厚生省代表)

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