「遺伝子解析による疾病対策・創薬等に関する
研究における生命倫理問題に関する調査研究」
中間報告書
遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針
平成12年2月4日
主 任 研 究 者 垣 添 忠 生
検討委員会名簿
雨宮浩 | 国立小児病院小児医療研究センター長 | |
位田隆一 | 京都大学大学院法学研究科教授 | |
宇都木伸 | 東海大学法学部法律学科教授 | |
◎ | 垣添忠生 | 国立がんセンター中央病院長 |
金澤一郎 | 東京大学大学院医学系研究科教授(神経内科学) | |
木谷健一 | 国立療養所中部病院長寿医療研究センター長 | |
島崎修次 | 杏林大学医学部教授(救急医学) | |
竹田美文 | 国立感染症研究所長 | |
寺尾允男 | 国立医薬品食品衛生研究所長 | |
埜中征哉 | 国立精神・神経センター武蔵病院長 | |
福嶋義光 | 信州大学医学部教授(衛生学) | |
眞崎知生 | 国立循環器病センター研究所長 | |
矢崎義雄 | 国立国際医療センター病院長 | |
山口建 | 国立がんセンター研究所副所長 |
作業委員会名簿
味木和喜子 | 大阪府立成人病センター調査部調査課集検整合係長 | |
池田恭治 | 国立療養所中部病院長寿医療研究センター老年病研究部長 | |
稲田俊也 | 国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健部老化研究室長 | |
上田実 | 名古屋大学医学部口腔外科教授 | |
岡慎一 | 国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター臨床研究開発部長 | |
岡本高宏 | 東京女子医科大学内分泌外科講師 | |
掛江直子 | 早稲田大学人間総合研究センター助手 | |
菅野康吉 | 栃木県立がんセンター遺伝子検査・DNA解析室医長 | |
駒村和雄 | 国立循環器病センター研究所循環動態機能部心臓動態研究室長 | |
斎藤博久 | 国立小児病院小児医療研究センター免疫アレルギー研究部長 | |
斎藤有紀子 | 明治大学法学部兼任講師 | |
佐藤恵子 | 国立がんセンター臨床試験管理室臨床試験コーディネーター | |
鈴木盛一 | 国立小児病院小児医療研究センター実験外科・生体工学研究部長 | |
祖父江友孝 | 国立がんセンター研究所がん情報研究部がん発生情報研究室長 | |
田中秀治 | 杏林大学医学部救急医学講師 | |
田村友秀 | 国立がんセンター中央病院特殊病棟部11A病棟医長 | |
塚田俊彦 | 国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部受容体研究室長 | |
津金昌一郎 | 国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部長 | |
外口崇 | 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構研究振興部長 | |
中川徹 | 日立製作所日立健康管理センター主任医長 | |
ぬで島次郎 | 三菱化学生命科学研究所社会生命科学研究室主任研究員 | |
橋本雄之 | 国立感染症研究所遺伝子資源室長 | |
長谷川知子 | 静岡県立こども病院遺伝染色体科医長 | |
福田治彦 | 国立がんセンター研究所がん情報研究部がん臨床情報研究室長 | |
二見仁康 | 国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部増殖因子研究室長 | |
前川真人 | 国立がんセンター中央病院臨床検査部生化学検査室医長 | |
松野吉宏 | 国立がんセンター中央病院臨床検査部細胞検査室医長 | |
真弓忠範 | 大阪大学副学長・薬学部教授 | |
丸山英二 | 神戸大学法学部教授 | |
水沢博 | 国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部第3室(細胞バンク)室長 | |
森崎隆幸 | 国立循環器病センター研究所バイオサイエンス部長 | |
山縣然太朗 | 山梨医科大学医学科保健学II講座教授 | |
◎ | 山口建 | 国立がんセンター研究所副所長 |
山口直人 | 国立がんセンター研究所がん情報研究部長 | |
山本順司 | 国立がんセンター中央病院第一領域外来部通院治療センター医長 | |
吉田輝彦 | 国立がんセンター研究所分子腫瘍学部長 |
目 次
1.はじめに
2.基本方針
3.用語の定義
遺伝子の本態解明とヒトゲノムの全塩基配列の解読が進む中で、個体の持つ遺伝学的な多様性と様々な疾病との関連を研究し、それを疾病の予防、早期発見、早期治療に結びつけ、さらには薬剤の開発にも役立たせる努力が開始されている。このような研究の成果は、患者一人ひとりの体質や薬剤の副作用の強さの違いなどをより科学的に明らかにし、その違いに応じた医療の提供、医薬品の適正使用などを通じて人々の福祉に大きく貢献することが期待されるため、厚生省では、平成12年度から開始されるミレニアム・プロジェクトの一環として、国立高度専門医療センター、国立病院、国立試験研究機関及びその共同研究機関等による「遺伝子解析による疾病対策・創薬等に関する研究」を実施する予定である。
一方、遺伝子解析研究は、従来の医学研究が経験していない側面を有している。すなわち、ある種の病態では、ヒト由来試料等提供者が将来罹患するであろう疾病を予測でき、同時に、遺伝子の一部を共有するその血縁者についても、疾病の罹患を予測できるという点である。この事実は、遺伝子解析研究の結果が、様々な倫理的・法的・社会的問題を招く可能性を示しており、研究に当たっては、ヒト由来試料等提供者、その家族・血縁者又は同様の疾病に罹患している他の患者(以下「ヒト由来試料等提供者又はその家族等」という。)の尊厳、人権及び利益を保護することが重要となる。
しかるに、我が国においては、遺伝子解析研究において、倫理面を重視した統一的な指針がなく、研究機関及び研究者が、独自の対応をとることを余儀なくされているのが現状である。このような状況に鑑み、厚生省ではミレニアム・プロジェクトとして遺伝子解析研究を推進するに当たって生じ得る倫理的・法的・社会的な問題に配慮し、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権を保護するため、研究機関及び研究者が遵守すべき指針を定めることとした。このため、厚生科学特別研究事業として、「遺伝子解析による疾病対策・創薬等に関する研究における生命倫理問題に関する調査研究」を平成11年度に実施することとした。この研究においては、国立高度専門医療センターや国立試験研究機関等の長、生命倫理に関する有識者からなる検討委員会を設け、具体的な指針起草に係る作業は、検討委員会に設置された作業委員会で行うこととした。この研究報告書に示された指針を基に、今後、厚生科学審議会での審議を経て、厚生省において方針を決定する予定である。
本指針は、平成12年度に開始される「遺伝子解析による疾病対策・創薬等に関する研究」のために起草されたものである。その指針に盛られる基本理念と内容は、遺伝子解析研究を含む先端医科学研究に携わる国立、公立又は私立を問わずすべての研究機関及び研究者が遵守すべきものであり、この指針をきっかけとして、生命倫理問題への理解が進み、人権を保護し、生命の尊厳を守るための意識の高まりを期待したい。あわせて関係省庁との緊密な連携の下に、健康の保持・増進を責務とする厚生省が中心となって、積極的な取り組みが進められることが必要であることを指摘しておきたい。
「遺伝子解析による疾病対策・創薬等に関する研究における生命倫理問題に関する調査研究」によって提示されるこの指針においては、ヒト由来試料等の提供を通じて遺伝子解析研究への協力を要望された者及びその家族等の視点に立って、以下の6点を基本方針とし、それが研究現場で理解され、遵守されるよう、具体的な表現で記載することを旨とした。
(2−1)ヒト由来試料等の提供を通じて研究への協力を要望された者は、研究遂行者より、十分な情報の提供を受けた上で、自由意思に基づいて協力又は非協力を決定することとする。研究に協力する者は、研究を進めるために不可欠な協力をする者として尊重される。
(2−2)研究責任者は、責任体制及び実施体制を明確にした研究計画を策定し、事前に倫理審査委員会の審査を受ける。また、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護の徹底を図るため、研究の実施状況は、外部の有識者によって実地に調査され、研究実施機関の長に報告される。
(2−3)研究遂行者は、法令、この指針及び研究計画を遵守する。研究の遂行に当たっては、適切なインフォームド・コンセント、身体的安全性、プライバシーの保護の確保等ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護に最大限の配慮を払う。
(2−4)既に採取されているヒト由来試料等の研究利用の可否は、既採取のヒト由来試料等の提供者の同意の内容を踏まえ、倫理審査委員会の審査に基づいて研究実施機関の長が決定する。
(2−5)ヒト由来試料等採取機関は、必要に応じ、ヒト由来試料等提供者又はその家族等を対象とした遺伝カウンセリング体制を整備しなければならない。
(2−6)研究遂行者は、遺伝子解析研究の実施状況について、ヒト由来試料等提供者又はその家族等に対し様々な機会をとらえて説明し、またヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護に支障が生じない範囲で、広く社会に公開しなければならない。
この指針においては、次のように用語を特に定義し、用いている。
(3−1)ヒト由来試料等研究に利用するために、生存している人の体又は死体(脳死した者の死体を除く。)から取り出した組織、細胞、体液及び排泄物並びにこれらから抽出したDNA等をいい、これらに付随する診療情報を含む。ただし、学術的価値が確定し研究実績が十分に認められ、普遍的かつ広範に利用され、さらに一般に入手可能な組織、細胞、体液及び排泄物並びにこれらから抽出したDNA等を除く。
(3−2)診療情報
診断及び治療を通じて得られた疾病名、投薬名、検査結果等をいう。
(3−3)遺伝子情報
ヒト由来試料等を用いて行われる遺伝子の解析を通じて得られた情報をいう。
(3−4)遺伝子解析研究
疾病の予防・診断・治療法の向上又は新薬の開発を目的として、ヒト由来試料等を用いて行われる、遺伝子発現解析研究、体細胞遺伝子解析研究及び生殖細胞系列遺伝子解析研究等をいう。ヒト由来試料等の採取を含む。
(3−4−1)遺伝子発現解析研究
ある特定の遺伝子の機能を調べるため、mRNA量を調べる研究をいう。
(3−4−2)体細胞遺伝子解析研究
体細胞のDNAに起きた病的な変化を調べるため、DNA又はmRNAから調製された相補DNAの塩基配列等の構造を解析する研究をいう。
(3−4−3)生殖細胞系列遺伝子解析研究
生殖細胞系列におけるDNAの変化又は個体差を調べるため、DNA又はmRNAから調製された相補DNAの塩基配列等の構造を解析する研究をいう。遺伝子多型を調べる研究もこれに含める。
(3−5)個人識別情報
個人の氏名、生年月日、住所等の記述又は個人別に付された診療録番号等の符号などその個人を識別できる情報をいう。ヒト由来試料等に付随する情報のうち、単独では個人を識別できない情報であるが、容易に入手できる他の情報と組み合わせることにより、個人を識別できる場合には、組合せに必要なヒト由来試料等に付随する情報を含む。
(注)死者について、その識別情報が法律上どのような理由に基づいて保護されるべきか議論がある。この指針においては、死者の個人としての尊厳や遺族の感情を踏まえ、死者の識別情報も個人識別情報として保護することとする。
(3−6)匿名化
ある者の個人識別情報を含む情報が法令、この指針又は研究計画に反して外部に漏洩しないように、その者に関する情報から個人識別情報の全部又は一部を取り除くことをいう。ヒト由来試料等に付随する情報のうち、単独では個人を識別できない情報であるが、容易に入手できる他の情報と組み合わせることにより、個人を識別できる場合には、組合せに必要なヒト由来試料等に付随する情報の全部又は一部を取り除いて、個人が識別できないようにすることをいう。
匿名化の方法には、元の個人識別情報と連結できる方法で匿名化する連結可能匿名化及び元の個人識別情報と連結できない方法で匿名化する連結不可能匿名化がある。
(3−7)個人識別情報管理者
ヒト由来試料等採取機関において、所属する機関の長の指示を受け、そのヒト由来試料等提供者の個人識別情報を含む情報がその機関の外部に漏洩しないように個人識別情報を含む情報を管理し、匿名化を行う者をいう。
(3−8)インフォームド・コンセント
ヒト由来試料等提供者が、倫理審査委員会により認められた研究遂行者から遺伝子解析研究に関する十分な説明を受け、その研究の目的、方法、予測される成果・不利益等を理解し、自由意思に基づいてなされるヒト由来試料等提供の同意をいう。
(3−9)代諾者
ヒト由来試料等提供者がインフォームド・コンセントを与えることができない場合に、その者に代わってインフォームド・コンセントを与える者をいう。
なお、代諾者は、あくまでもヒト由来試料等提供者の人権保護の観点から、その者の代わりに同意する者であり、代諾者自身の遺伝的問題については、別途の対応の考慮が必要である。
(注)代諾者の選定は、そのヒト由来試料等提供者が置かれている状況によって、個別に判断されるべきであり、この指針で一義的に定義しない。
(3−10)研究実施機関
共同研究機関を含む遺伝子解析研究の実施機関をいう。
(3−11)共同研究機関
倫理審査委員会により認められた遺伝子解析研究を共同して行う国公立又は民間の研究実施機関(大学を含む。)をいう。ヒト由来試料等採取機関をこれに含む。
(3−12)ヒト由来試料等採取機関
ヒト由来試料等の採取を行う機関(保健所を含む。)をいう。同一の機関において、ヒト由来試料等の採取及びその遺伝子解析等を行う場合には、ヒト由来試料等の採取を担当する部門をいう。
(3−13)倫理審査委員会
研究実施機関の長の諮問に応じ、遺伝子解析研究の実施の適否その他の事項について、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護等の倫理的観点を中心に、科学的観点を含めて調査審議するため、研究実施機関に置かれた合議機関をいう。
(3−14)研究遂行者
研究責任者及び研究実施担当者をいう。
(3−15)研究責任者
個々の研究実施機関において、遺伝子解析研究を遂行するとともに、その研究に係る業務を統括する者であって、遺伝子解析研究の有用性と限界及び生命倫理について十分な知識を有する研究者をいう。
(3−16)研究実施担当者
研究責任者の指示や委託に従って遺伝子解析研究を実施する者であって、業務の内容に応じて必要な知識と技能を持つ研究者、医師、薬剤師、看護婦(士)、臨床検査技師等をいう。
(3−17)ヒト由来試料等提供者
遺伝子解析研究のためにヒト由来試料等を提供した者又は提供を要望された者をいう。第一群ヒト由来試料等提供者から第四群ヒト由来試料等提供者に分かれる。
(3−17−1)第一群ヒト由来試料等提供者
遺伝素因の関与が明らかな、遺伝性疾患や重篤な薬剤反応性異常等を有する者及びその可能性のある者をいう。遺伝子解析研究を通じた原因遺伝子の特定等が、その者の健康状態の評価及び疾病の予防・診断・治療方針に影響すると予測される。
(3−17−2)第二群ヒト由来試料等提供者
遺伝素因の関与の程度が明らかでない疾病や、薬剤反応性異常等を有する者及びその可能性のある者(第一群ヒト由来試料等提供者に該当する者を除く。)をいう。遺伝子解析研究の結果は、その者の健康状態の評価や疾病予防・診断・治療方針に直ちには影響しないと予測される。
(3−17−3)第三群ヒト由来試料等提供者
健康の維持や疾病の罹患における、環境要因と遺伝素因との相互作用等の解明を目的とした疫学研究に、自発的に協力する者をいう。遺伝子解析研究の結果は、その者の健康状態の評価や疾病の予防・診断・治療方針に一般的に影響しないと予測される。
(3−17−4)第四群ヒト由来試料等提供者
集団検診等の健康診断受診者及びこの研究に自発的に協力する者であって、研究の対象となる疾病に罹患しているかどうか明らかでない者をいう。遺伝子解析研究の結果は、その者の健康状態の評価や疾病の予防・診断・治療方針に一般的に影響しないと予測される。
(3−18)既採取ヒト由来試料等
研究実施機関において、過去に採取され、現在保存されているヒト由来試料等をいう。採取時における同意の状況からA群ヒト由来試料等からC群ヒト由来試料等に分かれる。
(3−18−1)A群ヒト由来試料等
採取時に、遺伝子解析研究での利用が明示された同意が得られた者から提供を受けたヒト由来試料等をいう。
(3−18−2)B群ヒト由来試料等
採取時に、「医学的研究に用いることに同意する」などのように遺伝子解析研究での利用が明示されない同意のみを得られた者から提供されたヒト由来試料等をいう。
(3−18−3)C群ヒト由来試料等
採取時に研究利用に係る同意が得られていない者から提供されたヒト由来試料等をいう。
(3−19)遺伝カウンセリング
遺伝学に関する知識及び技能により、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の求めに応じ、対話と情報提供を繰り返しながら、遺伝子解析研究や遺伝性疾患をめぐって生じ得る倫理的・法的・社会的・精神心理的諸問題の解消又は緩和を目指し、援助・支援することをいう。
(3−20)細胞・遺伝子・組織バンク
匿名化された細胞・遺伝子・組織を一般的に研究用資源として分譲するために保存し、分譲する事業をいう。
(4−1)研究実施機関の長の責務
(4−1−1)研究実施機関の長は、当該機関の研究遂行者に対し、遺伝子解析研究が、倫理的・法的・社会的問題を引き起こし得ることを周知徹底しなければならない。
(4−1−2)研究実施機関の長は、当該機関の研究遂行者が、法令、この指針又は研究計画に反して遺伝子解析研究を実施した場合には、その研究に対する公的な研究費の返還義務が課され、また、職務上の処分を受ける可能性があることを周知徹底しなければならない。さらに、ヒト由来試料等提供者に身体的、精神的又は財産的損害を与えた場合には、民事上又は刑事上の責任を負う可能性があることを周知徹底しなければならない。
(4−1−3)研究実施機関の長は、当該機関における遺伝子解析研究の実施の適否その他の事項に関する調査審議を行わせるため、倫理審査委員会を設置しなければならない(この指針の倫理審査委員会の規定に適合している既存の類似する他の審査委員会を活用する場合を含む。)。ただし、当該研究実施機関が小規模であることにより倫理審査委員会を設置できない場合は、共同研究機関に設置されたこの指針の倫理審査委員会の規定に適合している倫理審査委員会に代えることができる。
(4−1−4)研究実施機関の長は、当該機関の研究責任者から遺伝子解析研究の実施又は研究計画の変更について許可を求められた場合には、倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。研究実施機関の長は、その意見を尊重して許可又は不許可の決定をしなければならない。特に、倫理審査委員会の意見に反し、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の不利益になるような決定をしてはならない。
(4−1−5)研究実施機関の長は、ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を国内外の民間の研究実施機関に提供する場合には、提供元において行われる匿名化の方法、提供先における利用目的、責任体制等について、書面で契約を結ばなければならない。
(4−1−6)研究実施機関の長は、ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を国内外の民間機関に提供して遺伝子解析研究の業務の一部を委託する場合には、委託する業務の内容、提供元において行われる匿名化の方法、提供先における責任体制等について、書面で契約を結ばなければならない。
(4−1−7)研究実施機関の長は、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護を図るため、遺伝子解析研究の実施状況について、定期的に、研究責任者に報告を求めなければならない。さらに、外部の有識者(過去5年間当該機関に所属していなかった者)を調査担当者に指名し、1年に1回以上、遺伝子解析研究が研究計画書に沿って行われているかどうかを実地調査させ、その結果を報告させるものとする。また、研究実施機関の長は、必要に応じ、遺伝子解析研究の実施状況について、研究責任者に報告を求めなければならない。それらにより、必要と認められる場合には、改善の勧告、中止又は研究計画の変更を命じなければならない。中止を命じた遺伝子解析研究の再開を許可する場合には、あらかじめ倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。
(4−1−8)研究実施機関の長は、ヒト由来試料等提供者又はその家族等から、提供したヒト由来試料等の取扱い、個人識別情報を含む情報の取扱い、研究遂行者又は遺伝カウンセリング部門の対応等についての苦情の適切な処理に努めなければならない。
(4−1−9)ヒト由来試料等採取機関の長は、遺伝子解析研究に係る個人識別情報を含む情報の保護を図るため、個人識別情報管理者を置かなければならない。
(4−1−10)ヒト由来試料等採取機関の長は、ヒト由来試料等提供者又はその家族等に対して、必要に応じ遺伝カウンセリングを行える体制を整備しなければならない。
(4−2)研究責任者の責務
(4−2−1)研究責任者は、法令、この指針及び研究計画に従って研究を進めなければならない。このため、所属する機関において、研究実施担当者を指導し、遺伝子解析研究に係る業務を統括しなければならない。
(4−2−2)研究責任者は、法令、この指針又は研究計画に反して遺伝子解析研究を実施した場合には、その研究に対する公的な研究費の返還義務が課され、また、職務上の処分を受ける可能性がある。さらに、ヒト由来試料等提供者に身体的、精神的又は財産的損害を与えた場合には、民事上又は刑事上の責任を負う可能性がある。
(4−2−3)研究責任者は、遺伝子解析研究の実施に当たって、あらかじめ、次の事項を記載した研究計画書を作成し、所属する機関の長に許可を求めなければならない。変更する場合も同様とする。ただし、研究実施担当者の異動、ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を提供する共同研究機関(民間の研究実施機関を除く。)の追加等軽微な変更である場合には、事後の報告に代えることができる。
(4−2−3−1)研究の目的、方法、期間、予測される成果、予測されるヒト由来試料等提供者に対する危険・不利益及び個人識別情報を含む情報の保護の方法
(4−2−3−2)共同研究機関の名称(あらかじめ共同研究機関を特定できない場合にはその理由及び想定される共同研究機関)
(4−2−3−3)採取しようとするヒト由来試料等の種類とそれぞれの量
(4−2−3−4)インフォームド・コンセントに係る一連の手続きにおける説明者の氏名及びその者に対する説明項目、その他の研究遂行者及び遺伝カウンセリング部門の担当者の氏名及び役割。
(注)説明項目は、別添資料(第一群から第四群に対する説明者用説明資料例)を参考に研究責任者が作成する。
(4−2−3−5)インフォームド・コンセントに係る一連の手続きにおいて用いる説明文書及び同意文書。
(注)説明文書は、別添資料(第一群から第四群用説明文書例及び同意文章例)を参考に研究責任者が作成する。
(4−2−3−6)痴呆等により有効なインフォームド・コンセントを与えることができない者又は未成年者から提供を受けたヒト由来試料等を主な研究対象とする場合には、そのヒト由来試料等が研究のために必要である理由及び代諾者の選定に関する原則的な考え方。
(4−2−3−7)既採取ヒト由来試料等を研究に用いる場合にはそのヒト由来試料等を採取した時の同意の有無、同意を得ている場合にはその内容、同意がないか若しくは不十分な場合には研究対象として用いる必要性。
(4−2−3−8)ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を国内外の公的研究機関又は大学に対して提供する場合(同一の機関において、ヒト由来試料等の採取及びその遺伝子解析等を行う場合には、採取を行う部門から遺伝子解析等を行う部門への提供を含む。また継続的に提供する場合を含む。)には、提供する理由、提供元において行われる匿名化の方法、提供先の機関名、匿名化しない場合はその理由及び個人識別情報を含む情報の保護の方法。
(4−2−3−9)ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を国内外の民間の研究実施機関に提供する場合には、提供する理由、提供先の機関名、提供元において行われる匿名化の方法、提供先における責任者の氏名、責任体制及び予定する契約の内容。
(4−2−3−10)ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を国内外の民間機関に提供して遺伝子解析研究の業務の一部を委託する場合には、提供する理由、提供元において行われる匿名化の方法、提供先の機関名、提供先における責任者の氏名、責任体制及び予定する契約の内容。
(4−2−3−11)研究期間内又は研究期間終了後のそれぞれにおいて、研究遂行者が、ヒト由来試料等を研究実施機関内で保存する場合、保存の方法及び保存の必要性
(4−2−3−12)研究遂行者が、ヒト由来試料等を細胞・遺伝子・組織バンクに寄託することを予定している場合には、当該バンクが設置されている機関の名称及び責任者の氏名。
(4−2−3−13)研究遂行者が、ヒト由来試料等を廃棄する場合、廃棄の方法及び匿名化の方法
(4−2−3−14)第一群ヒト由来試料等提供者からヒト由来試料等の提供を受ける場合は遺伝カウンセリングの体制。第二群から第四群ヒト由来試料等提供者からヒト由来試料等の提供を受ける場合は遺伝カウンセリング体制の必要性の有無、必要性がある場合にはその体制。
(4−2−4)研究責任者は、提供されたヒト由来試料等の数、匿名化を行った試料の数、所属外の機関への提供数、遺伝子解析が行われた試料の数、それらの実施に伴う問題の発生の有無等を、定期的に所属する機関の長に報告しなければならない。
(4−2−5)研究責任者は、インフォームド・コンセントに係る一連の手続きにおける説明者に対し、インフォームド・コンセントの手続きの際に説明項目を作成の上周知しなければならない。
(4−3)研究遂行者等の責務
(4−3−1)研究遂行者は、ヒト由来試料等提供者及びその家族等の人権の保護の観点から重大な懸念が発生した場合等には、速やかに所属する機関の長及び研究責任者に報告し、その対処方法について判断を仰がなければならない。
(4−3−2)ヒト由来試料等採取機関の研究遂行者は、所属外の研究機関(同一の機関において、ヒト由来試料等の採取及びその遺伝子解析等を行う場合には、採取を行う部門から遺伝子解析等を行う部門への提供を含む。また継続的に提供する場合を含む。)にヒト由来試料等を提供する場合は、所属する機関の個人識別情報管理者により匿名化されたヒト由来試料等を提供しなければならない。ただし、倫理審査委員会が認めた研究計画書において匿名化をしないことが認められており、かつ、ヒト由来試料等提供者又はその代諾者が、匿名化しないヒト由来試料等の提供を認めている場合は、この限りではない。
(4−3−3)研究遂行者は、所属する機関の長が指名した外部の調査担当者が行う実地調査に協力しなければならない。
(4−3−4)研究実施担当者は、法令、この指針、研究計画及び研究責任者の指示・委託に従って遺伝子解析研究を行わなければならない。法令、この指針又は研究計画に反して遺伝子解析研究を実施した場合には、その研究に対する公的な研究費の返還義務が課され、また、職務上の処分を受ける可能性がある。さらに、ヒト由来試料等提供者に身体的、精神的又は財産的損害を与えた場合には、民事上又は刑事上の責任を負う可能性がある。
(4−3−5)研究実施機関の長が指名した外部の調査担当者は、実地調査を行う上で知り得た個人に関する情報を正当な理由なく漏らしてはならない。
(4−4)個人識別情報管理者の責務
(4−4−1)個人識別情報管理者は、ヒト由来試料等採取機関に置かれ、刑法により業務上知り得た秘密の漏示を禁じられている医師、薬剤師等であって、研究遂行者以外の者でなければならない。
(4−4−2)個人識別情報管理者は、所属外の研究機関(同一の機関において、ヒト由来試料等の採取及びその遺伝子解析等を行う場合には、採取を行う部門から遺伝子解析等を行う部門への提供を含む。また継続的に提供する場合を含む。)にヒト由来試料等が提供される場合には、そのヒト由来試料等の匿名化を行わなければならない。ただし、倫理審査委員会が認めた研究計画書において匿名化をしないことが認められており、かつ、ヒト由来試料等提供者又はその代諾者が、匿名化しないヒト由来試料等の提供を認めている場合は、この限りではない。
(4−4−3)個人識別情報管理者は、匿名化により取り除かれた個人識別情報を所属する機関(同一の機関において、ヒト由来試料等の採取及びその遺伝子解析等を行う場合には、採取を行う部門から遺伝子解析等を行う部門への提供を含む。また継続的に提供する場合を含む。)の外部に提供する場合は、所属する機関の長に、提供先の機関名、提供の目的及び必要性を説明して、その許可を得なければならない。
(4−4−4)個人識別情報管理者は、所属する機関の長が指名した外部の調査担当者が行う実地調査に協力する場合には、その者に個人識別情報を含む情報を開示できる。
(4−4−5)個人識別情報管理者は、所属する機関の長の指示を受け、ヒト由来試料等提供者の個人識別情報を厳重に管理しなければならない。個人識別情報管理者が、法令、この指針又は研究計画に反して個人識別情報を含む情報を漏洩した場合には、その研究に対する公的な研究費の返還義務が課され、また、その個人識別情報管理者は、職務上の処分を受ける可能性がある。さらに、その個人識別情報管理者は、ヒト由来試料等提供者に身体的、精神的又は財産的損害を与えた場合には、民事上又は刑事上の責任を負う可能性がある。
(4−5)倫理審査委員会の責務及び構成
(4−5−1)倫理審査委員会の責務
(4−5−1−1)倫理審査委員会は、研究実施機関の長から研究計画の実施の適否その他の事項について意見を求められた場合は、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権保護等の倫理的観点を中心に、科学的観点を含めて、厳格に審査し、文書により意見を述べなければならない。
(4−5−1−2)倫理審査委員会は、運営方法等(委員長の選任方法、会議の成立要件、議決方法、審査に係る記録の保存期間等)に関する規則を定め、それを公開しなければならない。
(4−5−1−3)倫理審査委員会は、研究実施機関の長から、遺伝子解析研究を遂行する上で生じた倫理上の疑問等につき意見を求められた場合には、意見を述べなければならない。
(4−5−1−4)倫理審査委員会の議事要旨は、公にすることによって、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の人権、研究に係る独創性又は知的所有権の保護に支障が生じるおそれがある部分を除き、公開するものとする。
(4−5−1−5)倫理審査委員会の委員は、審査を行う上で知り得た個人に関する情報を正当な理由なく漏らしてはならない。
(4−5−2)倫理審査委員会の構成等
(4−5−2−1)倫理審査委員会は、遺伝子解析研究に関する倫理的事項を総合的に審査するに必要な優れた識見を有する人文科学、社会科学等の専門家、遺伝子解析研究に関する科学的事項を総合的に審査するに必要な優れた識見を有する専門家、ヒト由来試料等提供者の人権保護について広く一般の人々の意見を反映できると考えられる者等により構成されなければならない。
(4−5−2−2)委員のうち、半数以上は外部の者(過去5年間当該機関に所属していなかった者)とし、外部の者のうち半数以上は倫理的事項を審査するに必要な優れた識見を有する人文科学、社会科学等の専門家又はヒト由来試料等提供者の人権保護について広く一般の人々の意見を反映できると考えられる者としなければならない。
(4−5−2−3)審査の対象となる遺伝子解析研究の研究遂行者は、倫理審査委員会の求めに応じて会議に出席し、当該研究計画の説明等科学的意見を述べることはできるが、倫理審査委員会の審議及び採決に参加してはならない。
(4−5−2−4)倫理審査委員会は、倫理的事項を審査するに必要な優れた識見を有する人文科学、社会科学等の外部専門家又はヒト由来試料等提供者の人権保護について広く一般の人々の意見を反映できると考えられる外部の者が1名以上出席しなければ、審議又は採決のための会議を開くことができない。
(5−1)インフォームド・コンセントに係る一連の手続きに関する原則
(5−1−1)説明事項
倫理審査委員会により認められた研究遂行者は、ヒト由来試料等提供者又は代諾者に対して、説明文書を用いて、次の事項のうち研究の実施上必要な事項について適切かつ十分な説明を行い、ヒト由来試料等提供者又は代諾者が自由意思に基づいて文書を用いてヒト由来試料等の提供の同意を表明するようにすること。ただし、身体障害等により説明文書を読むことができない者のインフォームド・コンセントに係る一連の手続きは、研究遂行者でない者を立ち会わせた上で行われなければならない。
(5−1−1−1)ヒト由来試料等の提供は任意であっていつでも同意は撤回でき、提供に同意しないこと又は同意の撤回により不利益な対応を受けないこと。撤回した場合、その撤回に係るヒト由来試料等及びその研究結果は廃棄されること。ただし、既に研究結果が公表されている場合、廃棄しないことにより個人識別情報を含む情報が明らかになるおそれが小さく、かつ廃棄作業が極めて過大である場合等やむを得ない場合には、研究結果の廃棄はできないことがあること。
(5−1−1−2)提供されたヒト由来試料等を連結不可能匿名化する場合には、その匿名化の後は、ヒト由来試料等提供者又は代諾者が同意を撤回しても、その撤回に係るヒト由来試料等及びその研究結果は廃棄できないこと。
(5−1−1−3)ヒト由来試料等提供者として選ばれた理由
(5−1−1−4)研究の目的及び方法遺伝子解析研究により、遺伝子と特定の疾病(がん、痴呆、高血圧、糖尿病、ぜんそく等)の関連性、遺伝子と薬剤反応の関連性等を調べること。将来、解析対象となる疾病に関連する遺伝子、薬剤反応に関連する遺伝子が追加される可能性がある場合又は研究の目的や方法の変更が予想される場合にはその旨。
(5−1−1−5)研究責任者の氏名及び職名
(5−1−1−6)予測される研究結果及びヒト由来試料等提供者に対して予測される危険・不利益
(5−1−1−7)希望により、そのヒト由来試料等を用いた遺伝子解析研究の研究計画書、遺伝子解析研究の詳しい方法等の資料を入手又は閲覧できること。
(5−1−1−8)連結可能匿名化・連結不可能匿名化の別及びその匿名化の具体的方法。匿名化できない場合にあっては、その旨及び理由。
(5−1−1−9)ヒト由来試料等又はそれから得られた遺伝子情報を他の機関へ提供する場合は、倫理審査委員会により、個人識別情報を含む情報の取扱い、提供先の機関名、提供先における利用目的が妥当であることについて、審査されること。
(5−1−1−10)個々のヒト由来試料等提供者についての遺伝子情報が明らかにならない研究の場合は、当該提供者に係る遺伝子情報は、ヒト由来試料等提供者又は代諾者にも開示できないこと。個々のヒト由来試料等提供者についての遺伝子情報が明らかとなる研究の場合には、ヒト由来試料等提供者又は代諾者の求めに応じて、その者に当該提供者に係る遺伝子情報を開示できること。
(5−1−1−11)ヒト由来試料等提供者の家族等から、ヒト由来試料等提供者の遺伝子情報を開示する求めがあっても開示しないこと。ただし、ヒト由来試料等提供者がこれと異なる意思を明らかにした場合には、それを尊重すること。
(5−1−1−12)将来、遺伝子解析研究の成果が知的財産権を生み出す可能性があること。知的財産権を生み出した場合、当該知的財産権はヒト由来試料等提供者に帰属しないこと。
(5−1−1−13)ヒト由来試料等から得られた遺伝子情報は、匿名化された上、学会等に公表され得ること。また、データベース化された上で、連結不可能匿名化された遺伝子情報として他の研究機関等に公表され得ること。
(5−1−1−14)遺伝子解析研究終了後のヒト由来試料等の保存又は廃棄の方針。保存する場合にあっては、その必要性、方法、場所、匿名化の方法。廃棄する場合にあっては、廃棄の方法及び匿名化の方法。
(5−1−1−15)ヒト由来試料等を細胞・遺伝子・組織バンクへ寄託し、一般的に研究用資源として分譲することがあり得る場合には、バンクの学術的意義、当該バンクが設置されている機関の名称、寄託されるヒト由来試料等の匿名化の方法。
(5−1−1−16)第一群ヒト由来試料等提供者を対象とする場合は、本人又はその家族等の希望に応じ遺伝カウンセリングを利用できること。第二群から第四群ヒト由来試料等提供者を対象とする場合は、倫理審査委員会において遺伝カウンセリングの提供の必要性があるとされたときは、その旨。(5−1−2)遺伝カウンセリング部門の協力(5−1−1−17)ヒト由来試料等の提供の対価はないこと。また、遺伝子解析研究の結果に応じて治療が必要になる場合等におけるヒト由来試料等提供者の費用負担に関する事項
(5−1−3)代諾について
(5−1−3−1)ヒト由来試料等提供者が、痴呆等により有効なインフォームド・コンセントを与えることができないと客観的に判断された場合には、代諾者からヒト由来試料等提供の同意をもらうこと。(5−2)インフォームド・コンセントに係る一連の具体的手続き等(5−1−3−2)ヒト由来試料等提供者が未成年者であるときは、親権者等の代諾者がインフォームド・コンセントを与えるものであること。ただし、未成年者が16歳以上である場合には、親権者等の代諾者とともに、その未成年者本人のインフォームド・コンセントも必要であること。また、未成年者が16歳未満の場合であっても、その未成年者本人に十分な説明を行い、できる限りその未成年者からもヒト由来試料等提供の同意が与えられるように努めなければならない。
(5−1−3−3)倫理審査委員会により認められた研究遂行者は、ヒト由来試料等提供者の家族又は日常生活において深くヒト由来試料等提供者と関わっていた者等の中から、ヒト由来試料等提供者の人権保護の観点から代諾者として適当と考えられる者を選んでもらうように、家族等に依頼すること。
(5−1−3−4)代諾者がヒト由来試料等提供者と血縁関係を有する場合には、代諾者が自らの遺伝的問題を認識し、不安を持つことが予想される場合もあるので、そのような場合にあっては、代諾者自身に対する説明と遺伝カウンセリングについても十分配慮すること。
(5−2−1)第一群ヒト由来試料等提供者の場合
説明項目(別添資料(第一群に対する説明者用説明資料例)を参考に研究責任者が作成)の内容を理解した説明者が、ヒト由来試料等提供者又は代諾者に対し、説明文書(別添資料(第一群用説明文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて説明する。ヒト由来試料等提供者又は代諾者が、同意文書(別添資料(第一群用同意文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて同意することにより、そのヒト由来試料等は遺伝子解析研究に利用できる。この場合、必要に応じて遺伝カウンセリングを行うこと。
(5−2−1−1)解析結果の開示(5−2−2)第二群ヒト由来試料等提供者の場合
遺伝子解析の結果、特定の疾病に罹りやすい体質等であることが明らかとなった場合には、ヒト由来試料等提供者又は代諾者の求めに対して、その意思を十分確認の上、原則としてその結果を医師により開示する。求めはないが血縁者に対する開示が適当と認められる場合には、倫理審査委員会の意見に従って、研究実施機関の長が対応を決定すること。
なお、結果を開示しようとする場合は、当該結果のヒト由来試料等提供者又はその家族等への影響、受け止める体制、治療法の有無等に鑑み、必要な遺伝カウンセリングを行うこと。
(5−2−3)第三群ヒト由来試料等提供者の場合
説明項目(別添資料(第三群に対する説明者用説明資料例)を参考に研究責任者が作成)の内容を理解した説明者が、ヒト由来試料等提供者又は代諾者に対し、説明文書(別添資料(第三群用説明文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて説明する。ヒト由来試料等提供者又は代諾者が、同意文書(別添資料(第三群用同意文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて同意することにより、そのヒト由来試料等は遺伝子解析研究に利用できる。
(5−2−4)第四群ヒト由来試料等提供者の場合
説明項目(別添資料(第四群に対する説明者用説明資料例)を参考に研究責任者が作成)の内容を理解した説明者が、ヒト由来試料等提供者又は代諾者に対し、説明文書(別添資料(第四群用説明文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて説明する。ヒト由来試料等提供者又は代諾者が、同意文書(別添資料(第四群用同意文書例)を参考に研究責任者が作成)を用いて同意することにより、そのヒト由来試料等は遺伝子解析研究に利用できる。
(6−1)A群ヒト由来試料等の場合
既採取のヒト由来試料等の提供者又は代諾者が既に同意した範囲内で、ヒト由来試料等を遺伝子解析研究に利用できる。
(6−2)B群ヒト由来試料等の場合
原則として、既採取のヒト由来試料等の提供者又は代諾者が遺伝子解析研究に用いることの同意を与えた場合は、遺伝子解析研究に利用できる。
ただし、遺伝子発現解析研究と体細胞遺伝子解析研究のみを行う場合は、既に与えられた同意の範囲内で研究に利用できる。
また、次のいずれかの要件が満たされる場合には、 生殖細胞系列遺伝子解析研究にも利用できる。
(1) 連結不可能匿名化されている場合
(2) 連結可能匿名化された場合においては、遺伝子解析研究により既採取のヒト由来試料等の提供者及びその家族等に危険・不利益が及ぶ可能性が極めて小さく、研究に高度の有用性が認められ、他の方法では実際上研究の実施が不可能又は極めて困難であることが倫理審査委員会で確認された場合
(6−3)C群ヒト由来試料等の場合
原則として、既採取のヒト由来試料等の提供者又は代諾者が遺伝子解析研究に用いることの同意を与えない限り、研究に利用できない。
ただし、次の要件のいずれかが満たされる場合には、生殖細胞系列遺伝子解析研究を含む遺伝子解析研究に利用できる。
(1) 連結不可能匿名化されている場合
(2) 連結可能匿名化された場合においては、次の全ての要件を満していることが倫理審査委員会で確認された場合
1) 遺伝子解析研究により既採取のヒト由来試料等の提供者及びその家族等に危険・不利益が及ぶ可能性が極めて小さいこと。
2) そのヒト由来試料等を遺伝子解析研究に用いることが、社会の利益に大きく貢献する研究であること。
3) 他の方法では実際上、遺伝子解析研究の実施が不可能であること。
4) 遺伝子解析研究の実施状況について情報の公開を図り、併せて既採取のヒト由来試料等の提供者に問い合わせ及びヒト由来 試料等の研究利用の拒否の機会を保障するための措置が講じられていること。
(7−1)研究遂行者は、研究実施機関内でヒト由来試料等を保存する場合には、ヒト由来試料等提供者の同意事項を遵守し、研究計画書に定められた方法に従わなければならない。
(7−2)研究遂行者は、ヒト由来試料等を細胞・遺伝子・組織バンクに寄託する場合には、ヒト由来試料等提供者の同意事項を遵守しなければならない。
(7−3)細胞・遺伝子・組織バンクの責任者は、ヒト由来試料等提供者の同意事項を遵守し、保存したヒト由来試料等を一般的な研究用資源として用いる場合には、連結不可能匿名化して分譲しなければならない。
(7−4)研究遂行者は、研究計画書に従い自ら保存する場合及び細胞・遺伝子・組織バンクに寄託する場合を除き、ヒト由来試料等の保存期間が研究計画書に定めた期間を過ぎた場合には、ヒト由来試料等提供者の同意事項を遵守し、匿名化して廃棄しなければならない。
(8−1)遺伝カウンセリング部門の業務
ヒト由来試料等採取機関における遺伝カウンセリング部門では、ヒト由来試料等提供者又はその家族等の求めに応じ遺伝カウンセリングを行うこと。遺伝カウンセリングに習熟した医師、医療従事者は、ヒト由来試料提供者及び家族に正確な情報を提供し、対話を通じて、その者たちが遺伝子解析研究や遺伝性疾患に関する理解を深め、その者自身の不安や悩みを解消できるように支援、援助する。
(8−2)遺伝カウンセリング部門の構成
遺伝カウンセリング部門は、遺伝学に関する十分な知識・技能を有し、遺伝カウンセリングに習熟した医師、医療従事者等により構成されなければならない。
(8−3)遺伝カウンセリング部門の紹介
遺伝カウンセリング体制が整備されていないヒト由来試料等採取機関は、ヒト由来試料等提供者又はその家族等から遺伝カウンセリングの求めがあった場合には、適切な施設を紹介する等の対応をしなければならない。