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第3章 ミスマッチと経済変動の雇用への影響


 構造的・摩擦的失業の高まりは、公共職業安定所の利用が少ない層におけるミスマッチの拡大を背景としている可能性がある。また、需要不足失業だけでなく、構造的・摩擦的失業も経済状況の影響を強く受けている。
 労働投入、雇用の生産に対する弾性値や雇用調整速度はバブル崩壊後に高まっているとはいえず、近年の雇用情勢の悪化には、生産変動そのものが大きかったことが影響していると考えられる。


(高まる構造的・摩擦的失業率)

 構造的・摩擦的失業率と需要不足失業率を推計してみると、構造的・摩擦的失業率が1990年代、特にバブル崩壊後に上昇基調にあることがわかる。また、需要不足失業率は、景気後退を背景として、98年と2001年に大幅に上昇している(第13図)。


(ミスマッチはどこで拡大しているのか)

 公共職業安定所における就職率と充足率の動向をみると、バブル崩壊後に特に安定所におけるミスマッチが増大しているとはいえない(第14図)。また、年齢、職業別の求人・求職の分布をみても、バブル崩壊後特にミスマッチが高まっているとはいえない。
 これらのことから、安定所においてミスマッチが拡大しているとはいえず、安定所を経由せずに求人と求職のマッチングが行われている層、つまり安定所の利用が少ない層でミスマッチが拡大している可能性がある。


(構造的・摩擦的失業の推計の限界)

 構造的・摩擦的失業率には、推計上の限界があることにも留意が必要である。本来、構造的・摩擦的失業は、経済変動の影響を受けないはずであるが、実際には、経済状況の影響を強く受けている。この背景には、景気状況によって賃金など労働条件面での求人の質が異なることや、失業の長期化によるミスマッチの拡大などが影響している可能性がある。また、構造的・摩擦的失業率の推計方法に起因するものもあり、97年以降の構造的・摩擦的失業率が過大に推計されているおそれもある。従って、構造的・摩擦的失業率や需要不足失業率の水準や変化は、ある程度の目安を示すものと考えるべきである。


(ミスマッチはなぜ生じるか)

 ミスマッチの生じる理由としては、大きく、職業能力の不一致、情報の不完全性、労働者や企業の選好の三つが考えられる。その解決策を考えた場合、まず、職業能力の不一致に対しては、多様な教育訓練機会の確保のほか、キャリア・コンサルティングの充実や職業能力評価システムの開発などによる職業能力開発の充実が重要である。次に、情報の不完全性に対しては、安定所の機能の充実や労働力需給に関する官民の連携強化のほか、キャリア・コンサルティングの充実や職業能力評価システムの確立など、求職側の職業能力を求人側により正確に伝えるための取組みが重要である。さらに、第三の労働者や企業の選好については、綿密な職業相談のほか、ポジティブ・アクションの推進や年齢制限の緩和に向けた取組みが必要である。


(景気変動と雇用・失業)

 生産に対する雇用、労働投入量などの弾性値(生産の変化率に対する雇用などの変化率の比率)を計測してみると、どちらについてもバブル崩壊前後で高まっているとはいえない(第15表)。
 もう一つの指標として、雇用調整速度を推計してみると、97年7〜9月期以降では、雇用調整速度がバブル崩壊前に比べて大きくはなく、98年以降の失業率の急上昇が雇用調整速度の高まりに起因しているとは必ずしもいえない(第16表)。
 生産に対する雇用の弾性値、雇用調整速度の結果から、近年の雇用・失業情勢の悪化の背景としては、生産変動に対する企業の雇用調整が敏感になったというより、生産変動そのものが大きかったことが影響していると考えられる。実質成長率を国際比較すると、70年代、80年代には、日本は他国と比べ高い成長率を維持していたが、90年代特に95年以降は、他国と比べ経済成長率がかなり低くなっている(第17図)。


(失業の社会的コスト)

 失業の社会的コストとしては、まず、潜在的な生産能力が活用されない、または、消費水準が低下するといったマクロ経済への影響や、税収や社会保険収入の低下といった財政への影響が考えられる。また、失業・転職による技能の損失が起こる可能性もあるほか、失業によって受ける心理的な影響も無視できないものと考えられる。



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