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第4章 生産性、労働コストと雇用


 先進国と比較すると、日本の労働生産性は相対的に低く単位労働コストも高くなっている。これは、貿易財部門と非貿易財部門の生産性の格差によるものであると考えられる。また、製造業では、国内的には、労働生産性が上昇し、単位労働コストが低下しているものの、為替レートを考慮すると、必ずしも他国に比べて単位労働コストが低下しているとはいえない。
 中国をはじめとするアジア諸国では、技術水準が向上し、日本の製造業は賃金等のコストの差を考慮すると優位に立てなくなっている。いわゆる「空洞化」が進展すると、国内の雇用に及ぼす影響が大きい。
 また、一般労働者ではパート労働者に比べ賃金の下方硬直性が強いため、現下のデフレ下においては、賃金調整が行われにくく、一般労働者の雇用の減少と、パート労働者への労働需要のシフトに結びついている可能性がある。


(労働生産性、単位労働コストの国際比較)

 日本の労働生産性は、ヨーロッパ諸国とは近い水準にあるが、アメリカと比べると低く、おおむね70%程度である(第18図)。また、日本の単位労働コストは、全産業では、アメリカ、ヨーロッパ主要国のいずれと比べても2〜3割程度高くなっている。ただし、製造業の単位労働コストを国際比較すると、ドイツ、イギリスとは逆転し、他国と差も縮小している(第19図)。このことから、日本において労働生産性が相対的に低く、単位労働コストが高いのは、主として、非貿易財部門の分野であると考えられる。さらに、日本の非貿易財部門の賃金は、貿易財部門(製造業)と比較して相対的に高くなっている。
 日本の製造業の労働生産性は、諸外国と比べても比較的堅調に上昇しており、単位労働コストも比較的堅調に減少している。しかし、1990年代前半に円高が進行したことから、米ドルベースでの単位労働コストは低下しているとはいえない。
 以上のような労働生産性・単位労働コストの動きは、90年代において、欧米では比較的雇用情勢が良く、日本では厳しいことと対応している。


(空洞化と雇用)

 アジア諸国の技術水準が向上する中で、これまで日本の得意分野であった製造業も、賃金コスト等の差を考慮すると優位に立てなくなっている。製造業の海外生産比率は1990年度の6.4%から2001年度には14.3%(見込み)に上昇しており、鉱工業の輸入浸透度も1990年の7.1%から2001年には12.9%に上昇している。
 海外生産比率が上昇している要因としては、市場拡大への対応が最も多いものの、ASEANや中国では低廉な労働力確保による競争力強化が多くなっている。労働コストの差につき、製造業の賃金格差を試算すると、日本を100とした場合、NIES諸国で40から50、ASEAN諸国でおおむね10以下、インド、中国で約1から2となっている。
 海外生産比率の上昇や製品輸入の増加は、製造業の国内就業者数にマイナスの影響を与えている可能性がある。海外生産比率の上昇幅が大きい産業では、おおむね就業者数の減少が大きく(第20図)、輸入浸透度の上昇幅が大きい産業では、就業者数の減少が大きい(第21図)。


(デフレの影響と賃金の下方硬直性)

 賃金上昇率と失業率の関係(フィリップス曲線)をみると、現在では、失業率が急激に高まっているにもかかわらず、賃金上昇率がそれほど下がっておらず(第22図)、賃金が下方硬直的である可能性がある。
 一般労働者とパート労働者の賃金格差は拡大している(第23図)。この背景として、パート労働者の賃金が1998年以降大きく減少しているのに対し、一般労働者ではほとんど減少していないことがある(第24図)。すなわち、一般労働者の賃金はパート労働者に比べて下方硬直的であり、デフレ傾向のもとでは賃金調整が行われにくいことから、一般労働者の雇用が減少し、パート労働者への労働需要のシフトや失業の増大に結びついている可能性がある。



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