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事例コメント

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事例51:(核医学検査キャンセル及び作業手順)

発生部署  (放射線部門)  キーワード(検査)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

 核医学検査の薬液を医師が注入する前に前処置として利尿剤ダイアモックスと蒸留水を10分前に注入する検査があるが、利尿剤ダイアモックスが溶解されていると思い、蒸留水だけを注入しようとした。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

 核医学検査はキャンセルが多いので蒸留水のみ10mlを注射器に吸って準備をしていて、ダイアモックスは直前に溶解しようと思い、箱から出して注射器の側に置いた。検査が順々に進められていくうちに溶解してあるものと思い込んで医師に渡してしまった。
 核医学検査は特に間違えないようにといつも緊張している検査なので緊張が逆に間違いにつながってしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策

 箱から出した薬液ビンを置いたため、溶解したものと思い込んでしまったので直前に出す。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 内容がヒヤリ・ハット発生場面だけですが、要因分析をするためには核医学検査の通常の作業手順を記入すると良いでしょう。その場合は、手順全てに関係する職員を含めるべきです。具体的には通常行われている(1)核医学検査の予約方法、(2)検査のキャンセルの手順、(3)検査当日の作業手順を書くと良いでしょう。そして、通常と違ったのはどこか、エラーに気付いたきっかけは何かも記入しましょう。
 ここではキャンセルの手順がポイントと思われます。患者の状態によって当日のキャンセルはあるでしょうが、作業手順の見直しが他部門にも係わると思われますので、当日キャンセルの割合・その理由などの状況も分かると良いでしょう。
 さらに、報告者の経験(配属)年数、職場での教育体制なども書くことも必要です。

■改善策に関するコメント

作業中断をしない作業手順の作成
 作業の中断(事前に溶解液を準備し、使用直前に溶解する)はエラー発生の要因と言われています。基本的には作業中断をしなくて良い手順を作りましょう。

心理学的エラーを防ぐ対策
 思い込みエラー予防には、記憶に頼らない、誰が見ても分かる表示が重要です。たとえば「一患者一トレイ」を原則とし「溶解未」などの札を利用するなども役立ちます。

組織としての見直し(キャンセルのシステム構築)
 検査キャンセルが作業手順に影響している場合は、検査の関係者だけではなく、安全管理委員会に上げ、キャンセルの仕方(場合によっては、核医学検査基準)を見直すことが必要でしょう。

教育体制の見直し
 核医学検査を担当する職員に必要な知識・技術を明らかにし、一定期間、指導者とともに業務できる体制整備も必要です。


事例125:(指示伝達の確認及び口頭指示)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード(情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

朝10時頃、診察からナースステーションに帰ってこられたDrがカルテをかかえたまま口頭で「Aちゃんの点滴は抜いて、Bちゃんは24から側注中止」の指示をだされた。指示を受けた時、救急カートの辺りにおり距離があったり、スタッフが数人出入りをしていたせいか「14から中止」と聞こえたが、復唱せず「はいわかりました」と返事をした。退院の対応や10時の側注などを数人したあとBちゃんの注射薬の返納処理とAちゃんの点滴抜去をし、その後もケア等をした。カルテの指示簿を確認したのが準夜勤者への申し送り時で、本日は側注中止ではないことを準夜勤者から指摘された。すぐ主治医にお連絡報告し、「1回飛ばしてよい」との指示で14時と22時の残り2回の抗生剤が18時のみとなった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

口頭指示をうけた時、復唱し確認しなかった。思い込んでいたため、実施前にカルテの再確認をしなかった。指示うけを他のスタッフが行い、受け持ちである自分がしなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

口頭指示は復唱し、必ずメモにとる。指示を実行する前にカルテを確認する。指示うけの際、チェック、ダブルチェックのどちらかは受け持ちナースが行う。できない場合は指示棒を差したままにしておいてもらう。「思いこみをする。あわてて実施する」という自分の傾向を知り、そうならないよう業務を行う。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 発生要因で「指示受けは他のスタッフが行い」とありますが、通常の指示・伝達のルールはどうなっているのかを書き、このときは通常と何が違っていたのかを記入すると良いでしょう。さらに、なぜ距離が離れたところで受けたのか、そのときあなたは何をしていたのか、その後何をしようとしていたのかも書くと良いでしょう。
 また、口頭指示はどのような時に受けるのかのルールがあればそれも記入しましょう。

■改善策に関するコメント

業務調整(業務の同時進行)及び作業環境の整備
 指示を受けた時、救急カートの近くにいたのは何か別の業務をしていたと思われますが、複数業務の同時進行はエラー発生の原因の一つといわれています。(退院のための薬の準備や10時に側注する注射薬の準備などをされている時に口頭指示を受けた状況と推測されます)作業を同時に行わない、また、作業を中断しないよう業務調整が必要です。特に注射薬の準備をするときには、作業に集中できる環境整備も必要です。

口頭指示
 基本的には口頭指示を受けないルールを作りましょう。
 要因で「実施前にカルテの再確認をしなかった」とありますが、口頭指示を日常的に受けていると、「実施前にカルテを確認する」というルールを習慣化することが難しくなります。臨床現場では、患者の急変等口頭指示で処置をせざる得ない場面があります。その時も、記録者を決めるメモする等のルールが必要です。また、ナースステーション以外で指示を受ける場合は、決められたメモ用紙で、メモ書き出でも書いてもらう方法も考えられます。
 口頭指示時の復唱は基本行為ですが、指示変更時には「なぜ変更するのか」の確認も必要です。(患者の病態の変化は診療や看護ケアにも反映されることです)

指示・伝達手順の明確化(遵守できるルールの作成
 「実施前にカルテの再確認をしなかった」というルール違反がヒヤリ・ハットの要因の一つですが、上記をふまえ遵守できるルールを作成することが肝要です。

【指示受けのルール例】

  • 指示受けは、原則として担当看護婦(士)が受けましょう。
  • 指示内容は、診療録記載を原則とし、口頭指示は極力避けましょう。
  • やむを得ず口頭で指示をする場合は、必ずメモをとり復唱をしましょう。
  • 口頭指示内容は看護記録に明記し、あとで指示医に記載を求めましょう。
  • 指示内容の確認は慎重に行いましょう。
     (1)患者氏名 (2)薬品名 (3)一回与薬量 (4)与薬時間 (5)与薬
     (6)方法(内服・舌下・座薬・外用) (7)新規・継続・変更
  • 不明確な指示は再確認することを徹底しましょう。
  • 同姓同名の患者さんがいないか、再確認を徹底しましょう。
「投薬・与薬における 事故防止マニュアル(処方から服薬まで)」
 東京都衛生局病院事業部、2002年1月より


事例170:(患者評価及び管理不十分による自己抜管)

発生部署  (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類 人工呼吸器)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

人工呼吸器使用中で、挿管されている患者さま。日中は、ウィーニング中。セデーションも中止されていた。消灯後は、浅眠していた。手の抑制もされていたが、体をずらして、手に近づき、自己抜管してしまった。抑制もはずれていた。すぐに酸素マスク10L開始血ガスの結果もよく再挿管されなくてすんだ。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

わずらわしかった。必要性が十分理解できていなかったのか?人工呼吸器を使用するが、セデーションしていなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

セデーションされていないので不穏になることを予測して抑制をもっと確認する。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 患者の意識状態、姿勢の保持、挿管の固定状態、抑制箇所と抑制の適切な使用がなされていたか、また巡回時間はどの程度の間隔で行われていたのでしょうか。抑制時のナースコール等の看護師と患者のコミュニケーション手段について等、自己抜去前後の状況が具体的に記述されていると良いでしょう。
 また要因の「わずらわしかった。必要性が十分理解できなかった」について主語を明確にして記載しましょう。

■改善策に関するコメント

ウィーニングに関する患者評価のためのカンファレンスの企画実行
 患者の状態に応じて、医療チームでウィーニング計画に関する評価修正をしましょう。また、麻酔科医へのコンサルトなども有効ですし、ウィーニングの基準をもつことも有効です。手術後の患者であれば、クリティカルパスは包括的に処置がプログラム化されているので、わかりやすい目安となります。現行の治療や看護が適切に行われているかを常に評価していきましょう。この事例では、患者の自己抜管という非常に危険な事態となりましたが、結果として血ガスの状態も良く再挿管せずにすんでいます。「抜かれる前に抜こう」という標語を掲げ、「本当に必要な処置なのか」という視点で現行の治療や看護をもう一度見直してみましょう。

人工呼吸器装着中及びウィーニング中の観察項目及び看護技術の再確認
 人工呼吸器装着中の患者についての看護師の観察時間や観察項目、体位変換についての基準があると良いと思います。
 また、ウィーニング計画について適切な評価がなされていたでしょうか。特定の状況下では、意識清明な患者でも十分に説明しても出来なかったり苦痛のあまり自己抜去する事があります。限界があることを理解しましょう。特にウィーニング中の患者の不安感はさらに強くなり精神的ストレスが増強すると言われています。せん妄などの意識状態をアセスメントするツールを活用するなどしてリスクを事前に把握して対策をとることも有効です。
 さらに、ウィーニング中の不眠は大敵とされています。日常生活にリズムをつけ睡眠できるように援助することは重要な視点の一つです。眠剤の検討を行い、昼夜のバランスをとるようにしましょう。
 抑制下での患者とのコミュニケーション手段は、どのようにおこなっていたのでしょうか。夜間であったことや意思疎通が可能な患者であることが文脈から推測されますが、ナースコールの設置あるいは鈴等を利用して患者が困った時に何らかの連絡手段がとれることは患者の人権を守るためにも、患者の自己抜去という事故を防止するためにも必要です。

人工呼吸器装着及びウィーニングに関する研修会の企画実行
 人工呼吸器装着中の患者の観察項目、体位変換時の姿勢の保持等に関する教育研修を行うことも有効です。

抑制の製品の検討
 場合によっては、体幹の抑制の使用が有効です。また、抑制帯にも手指用ミトン型でチューブ等は握ることのできない製品(HOGY)もあります。また、医療用具メーカーなどへ事故防止のための製品開発について提案してみましょう。

参考: 日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケール
<ウィーニング基準>C.F.Mackenzie,P.C.Imle,N.Ciesla(1989)./石田博厚監訳,丸川征四郎(1991).胸部理学療法―ICUにおける理論と実際―,総合医学社,p32


事例172:(同姓同名患者の取り違え)

発生部署  (外来部門一般)  キーワード(情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

同じ科に同姓同名の患者さまが受診していた。Aさまが、医師に呼ばれた時、Bさまが診察室に入り、Aさまの病状説明を聞いて、Aさまの診察券・会計票を持って会計を済ませて帰宅した。その後、別の医師が、Bさまを呼び込むと、Aさまが入室し、「何度呼んでも違う患者さまが入室してくる」と言われ、初めて同姓同名者がいたことに気付いた。カルテに同姓同名の印もなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

カルテ作成時、同姓同名者がいることのチェックができていない。忙しいとできない。予約カルテを前日、医師ごとに準備するため、医師が違うと同姓同名者がいることに気付かない可能性がある。患者さまも同姓同名の方がいらっしゃると思っていないので、ID番号まで確認しない。医事課も会計票でしか確認できないので会計をする時点では気付けない。カルテ作成時に同姓同名のチェックを行うと作業時間が延びて患者さまの待ち時間が長くなる。

■実施したもしくは考えられる改善策

医事課コンピュータが氏名入力で同姓同名者のチェックアラームを出せるものだと良い。同姓同名者のカルテには、マニュアル通りに印をつけること。本日受診者の名前をチェックして同姓同名者がいないか、気にしておく。

専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 患者確認の手順について、マニュアルで定められていた手順と、ヒヤリ・ハット発生時に行われた確認手順をもう少し詳述すると、第三者による分析が容易になります。また、最初の医師が同姓同名患者と気づかずに病状説明を行ってしまった経緯や要因についても、詳述してください。

■改善策に関するコメント

同姓同名者の現状
 まず、同姓同名者は例外ではなく、意外に多くいるという認識を持ちましょう。横浜市立大学医学部附属市民総合医療センターの調査1)によると、1年間に同センターで受診した患者60,466人のうち、姓名とも読み方が一致する人がほかに一人でもいた人は4,245種類:10,784人に上っています。したがって、同姓同名の患者がいるのは「あたりまえ」と考えるべきです。「気をつける」「気にしておく」といった個人的な努力も重要ですが、患者確認システム全般の見直しと遵守が求められます。

患者確認方法の実際
 同姓同名者がかなり多くいる以上、患者を確認したり呼び出したりする際に、氏名以外に患者を同定するための情報が必要になります。
 患者確認の基本は、氏名ではなく「患者ID」を使用して処理・手続きを行うことにあります。当然、1患者1IDとなっている必要があります。氏名はあくまでもIDの補助情報と捉えるべきです。以下に患者確認方法の具体例を紹介します。

【事例1】外来診察室等に入室した際、まず診察券を提示していただき、同時にフルネームを名乗っていただいて、IDおよび氏名を診療録と照合することで、確実に患者確認ができます。

【事例2】外来にインスタント写真シール撮影機を設置し、任意で患者に撮影を求めている病院もあります。撮影した写真を診療録と診察券に貼ることで、本人確認に利用できます。

【事例3】同姓同名を院内システムでチェックできるようにしておき、画面上に注意を促すメッセージが出るようにします。また、診察券やカルテに「同姓同名に注意」の表記をするとよいでしょう。

【事例4】何らかの理由で氏名による確認をせざるをえない場合は、氏名とともに住所や生年月日などを患者本人に名乗っていただくことで、ある程度確実に患者を同定することができます。ただし、この方法を行う際には、プライバシーの問題がありますので、他の患者に聞こえないような配慮も必要となります。

同姓同名者の事前点検について
 診療録作成時に同姓同名者の有無を確認し印をつける、あるいは本日受診者の名前を事前に点検し、同姓同名者をチェックしておくということも二重三重のチェックをするという意味で有効です。ただし、情報システムによって自動的にチェックされ警告される方式でなければ、かえってチェック作業の手間がかかり、結局「守られないマニュアル」となってしまうおそれがあります。まさに今回のケースがこれに該当します。もし、現在の情報システムが同姓同名患者のチェックができないのであれば、情報システムの改善が必要です。
 同姓同名の確認は患者さんの参加が不可欠です。院内掲示などにより患者さんの協力を呼びかけることも必要です。

患者−医療者のパートナーシップの構築
 最初の医師がAさまを呼び出したときにBさまが入室した際、なぜ気がつかなかったのでしょうか?第2の医師は気がついていますが、二人の医師の患者確認方法の違いは何だったのでしょうか?詳しい状況がわかりませんが、最初の医師は、患者とのパートナーシップ形成が十分にできていなかった可能性があります。
 医療安全管理者はマニュアルの浸透度を評価し、結果を全職員に報告することも必要です。

全部門・全職種でマニュアルの遵守を
 患者の確認・同定は、外来部門のみならず全部門で遵守しなければならない事項です。組織としてより確実な方法・手順を確立したら、全部門・全職種がそれを遵守するよう、医療安全管理者による定期的な指導・教育が必要です。“マニュアルには書いてあっても、忙しいときには守らなくてもよい”という習慣が生まれてしまうと、あらゆる標準化が無駄になります。安全文化が醸成されるように、定期的・継続的な教育を実施してください。

参考資料:1)横浜市医師会報,2001.12


事例310:(不明になった麻薬の空シート)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード(麻薬)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

カディアンカプセル(麻薬)内服後、麻薬の空シートを食事トレーに置いたまま放置したため下膳されてしまい、シートが不明になった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

麻薬に対する認識が薄かった。薬剤の種類や薬効、副作用など薬剤全般についての理解も関心も薄かった。

■実施したもしくは考えられる改善策

麻薬マニュアルを再度チェックしなおす。麻薬をシートから出し、患者には中身だけを薬袋に入れて渡すようにする。薬剤部との話し合いをもった。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 麻薬服用後からの記載になっていますが、それ以前の指示表を見て服用させるまでのプロセスが記載されていません。そのプロセスも大事な分析の資料となりますので記載を加えてください。このケースではおそらく服用させたのは看護師だと思いますが、主語である誰が(名前ではなく職種および役割)を記入するのを忘れないでください。どの職員が本事例にかかわったかで対策が異なります。

■改善策に関するコメント

 このケースでは麻薬の取扱いが不十分ということと、与薬と食事が平行業務として行われていたということが問題です。麻薬の取扱いに関しては改善策に盛り込まれていますが、後者の平行業務に関しては盛り込まれていません。事故の分析にあたっては直接的な要因だけでなく、間接的な要因を探ることが大切です。そのことを忘れないでください。

麻薬マニュアル
 マニュアルというものは用意されていたとしても、細かい内容までは覚えられないものです。そのため冊子はマニュアル集として置いておくだけではなく、簡素化されたものを一覧表にしたり、携帯できるタイプのものを作成したりして、常に手順を心掛けてダブルチェックや空シートの回収・保管といった行動が取れるようにすることが必要です。

与薬と食事
 目的の異なる二つの行為を同時に行うことを平行業務と言い、ミスを誘発しやすくなります。このケースでは与薬と食事を分けて行えば、このような事故は防げたと考えられます。人員、時間的余裕、スケジュールなどを考慮して現在のシステムが考えられていると思われますが、事故を契機にシステムの見直しを図ることも必要な対策です。

チームとしての取り組み
 本件の根本的な要因はチームとしての医療が十分に機能していなかった点と思われます。すなわち、栄養士、看護師、薬剤師が食事の時間、服薬のタイミングと運用を打ち合わせし業務として標準化し、共有するシステムが欠けていたことによる管理上のエラーと考えます。
 したがって、院内でチームを立ち上げ職種別の役割分担も含め標準業務手順書、実務運用を作成し、院内に周知徹底するよう改善すべきです。幸い、今回は、ヒヤリ・ハットであり「アクシデント」に至っていないので早急に対応策を実施されることが望まれます。


事例331:(バイタルサインへの影響の大きい薬剤と輸液ラインの管理)

発生部署  (入院部門一般 集中治療室)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

基本がST3500の中にドブトレックス3.3ml混入したものを40/Hで行っていた。9時にアタラックスPの切り替えの指示が出ており、訪室した。基本輸液ルートとは別にヘパ生の指示が出ていたが、ヘパ生が留置されていなかったため、基本輸液ルートと合流でいくのだろうと自己判断してしまい、三方活栓をつけ、基本輸液ルートと切り替えを合流で行った。ミニプリントと伝票には三活禁の指示が出ていたが見落としてしまった。なお、ヘパ生は前日の夜留置予定であった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

朝の情報収集の際、基本は三活禁という情報を見逃す。ヘパ生の指示が出ているが、本人に留置されていないのを確認していない。ドブトックスは合流で行ってはいけないと知っていたが、アタP用ルートがない時点で自己判断している。ヘパ生が前夜留置予定であったため、留置されていないことを申し送りされていない。

■実施したもしくは考えられる改善策

情報収集後、抗生剤の伝票のみでなくすべての伝票をチェックし、自己の情報と照合する。処置をする際事実と違いがあったら、医師・リーダーに確認し、事実を明確にする。点滴を申し送る際、誰がどこに行われているか申し送る。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 指示者(医師)は何を改善する目的で、どのような指示を出したのか、具体的に記入します。医薬品の規格何mg、何ml、投与方法は末梢からか、またアタラックスPは希釈せず三活から注入したのか等です。これらの情報は事の重大さを意味しますので正確な記載が必要です。
 ヘパ生の指示とかヘパ生の留置は「末梢静脈カテ−テル留置の目的でヘパリンロックをする」、ミニプリント、伝票は「指示箋・指示伝票」といった正確な記載を心掛けましょう。

■改善策に関するコメント

 指示出し者は、ドブトレックスのような循環器用薬など重要な薬剤を使用している場合や配合変化が起こりやすい薬剤には、三活禁のような曖昧な指示を出すのではなく、投与ラインの呼称(例 主管、側管、右前腕、右内径等)を取り決め明確な指示を出す事が必要です。
 指示受け及び実施者は、各勤務帯において指示内容がすべて終了しているか最終確認をして(指示箋をチェックする)申し送ります。このシステムにすると、前日の末梢静脈カテーテル留置の指示漏れは防げたでしょう。これは看護師のみではなく、医師においても同様で、指示を出して後はすべて看護師任せではこの種のヒヤリは少なくなりません。医師・看護師双方で検討することが大切と考えます。
 当事者への教育では、「おや変だな?」と思った時に、第三者の確認を必ず取る習慣を身につけるよう指導する事が大切です。


事例372:(眠剤使用中患者の転倒)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード(転倒・転落)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

眠剤使用中にトイレにいき、ドアを開けてバランスを崩し転倒した

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

薬剤使用中の援助が不十分

■実施したもしくは考えられる改善策

トイレ誘導と、ベッドから離れないように指導管理の強化


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 転倒は多くの要因が重なって起こる事故です。しかし、このケースでは転倒の原因が眠剤、トイレ、ドアを開けたときのバランスでしか伺えません。知りうる限りの状況と情報をできるだけ多くレポートには記入しましょう。患者さんの情報として年齢、病名、理解度、履き物、転倒した時間、転倒は初めてなのかなど、また薬剤の情報として薬剤名、服用時間、服用回数など、さらにトイレや病棟の環境面での情報もあると分析しやすいでしょう。

■改善策に関するコメント

 転倒事故の発生要因を調べると、患者が自ら起こすケースや看護師の不十分な説明などで発生するケースが多く、そのため看護師は転倒を起こさないための対策を優先し、患者の意思に反した対応になってしまうという状況に陥りやすくなります。ベッドから離れないように指導管理の強化をするとありますが、患者さんはそれを受けて安心して夜間睡眠が取れるでしょうか。患者さんの満足度もリスクマネジメントでは評価の対象になります。お互いが納得のいく対策を考えることが必要です。また「強化」という言葉は使いやすいですが具体性にかける言葉です。それ以外にも「必ず」「徹底を」「周知する」なども同様です。気をつけましょう。
 このケースでは次のことを考えてみてください

転倒アセスメント・スコアシートの活用
 転倒防止のためには転倒アセスメント・スコアシートを使用することが有効とされています。患者さんの年齢、理解度、機能障害、活動領域、ADL、使用薬剤などから転倒リスクをポイントで表していくシートです。

不眠患者への対応
 眠剤を使用しているからといって、常に不眠状態にあるとは限りません。不眠は病的に眠れないか、不安要因から眠れないかによって対応が異なります。不眠の状況をアセスメントして対策を考えてください。後者の場合は、不安の解消や体内の時間間隔リズムを取り戻すことによって不眠を解消することができます。

簡易ナースコールの設置
 夜間の転倒は、患者さんが排泄行為を取るときに置きやすいものです。ベッドにはナースコールがありますが、トイレや廊下には看護師を緊急時に呼ぶものはありません。そこで音の出るものを廊下やトイレに設置しておくのはどうでしょう。鈴やタンバリン、市販のブザーなど、ナースコールシステムの改良によりはるかに用意で安価に済みます。

トイレの改修
 昼夜を問わずトイレでの転倒は多いものです。その原因としては、排泄のために衣類を脱ぐという行為がバランスを崩しやすいことがあげられます。さらに高齢者は足下がふらつきやすく、転倒リスクが高くなります。トイレの環境はそれらのことを考慮して、段差の解消や手すりの設置などの回収に取り組んでもらいたいものです。
 大部屋で排泄する心理的な苦痛は、失禁や転倒・転落のリスクになります。ADLを考慮した病床の管理も重要です。


事例416:(輸液速度間違え)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード( 機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

AC電源で充電不足のアトムシリンジポンプ使用中→接続不完全→注入ストップ→再スタートのボタンを押した→ストップ前の表示スピード(1ml/h)と異なる設定(4ml/h)で注入

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

1.スタート時at randomな流量設定で注入される
2.再スタート時流量確認をしなかった

■実施したもしくは考えられる改善策

1.At randomな流量設定でなくテルモ製のように0設定とする
2.再スタート時の確認


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 通常シリンジポンプは電圧が低下すると電圧低下のアラームが作動しますが、この事例の場合はどうだったのでしょうか?まったく充電されていない時は、電圧低下のアラームは作動しません。アラームが作動したか、しなかったかは大切な情報ですので記載しましょう。
 ヒヤリ・ハットの発生した要因としてスタート時at randomな流量設定で注入されたとありますが、メーカに確認したところ、アトムシリンジポンプの場合一旦電源を切り、再度電源を入れたときは前回の流量設定値が表示されるようです。1ml/hが4ml/hになってしまった要因は他になかったのか、さらに踏み込んだ情報収集分析が必要です。

■改善策に関するコメント

流量設定の確認
 シリンジポンプ等輸液ポンプ使用時は、重要な薬剤が投与されていることが多いので、流量を設定する場合や一旦電源を切って再度スタートさせる場合はダブルチェックを行うなどのルールづくりが必要です。

機器の操作の周知徹底
 病院には様々な医療機器がありますが、機器を理解し使用することは事故防止の上でとても重要です。今回のような事例があった時は、取扱い説明書で確認をする、業者に問い合わせてみるなどの対策をとり何が問題であった明確にしておく必要があります。その情報をスタッフで共有し機器の操作、特徴を理解するための機会としてください。
 実物を用いた機器の操作指導も重要です。新人・経験者を問わず、扱い方をきちんと理解してもらいましょう。また使用開始前の確認点検を習慣づけるよう指導しましょう。

機器のメンテナンス
  この事例は充電がされていない理由として、バッテリーが不良だったのか、充電をしていなかったのかは不明ですが、日ごろから機器のメンテナンスを計画的に実施していく必要があり、また、機器は中央管理として保管、整備が確実にされるシステムにできると良いでしょう。
 従来のシリンジポンプには残りの電量が表示されないものがありましたが、現在では充電量がわかるタイプのシリンジポンプも製品化されています。また、アトムシリンジポンプも、新しい型では電源を入れたとき流量設定が0に設定されるものに改良されています。事故を防止するために何が必要かアセスメントし、新しい機器の購入も考慮する必要があります。


事例449:(複数診療科から同一薬剤の処方)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード(与薬(内服・外用)情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

同じ薬が2科から処方されており、二重に配薬されていたかもしれない。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

薬の整理がされていなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

配薬ボックスを整理した。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 ヒヤリ・ハットの具体的内容については、正確で誰が読んでも誤解のない解釈が可能となるように記述します。「配薬されていたかもしれない」の表現は、ここでは配薬しなかったが配薬の危険性があったと解釈しましたが、配薬されていた可能性があるとの解釈もできます。ヒヤリ・ハットがどのように発見されたかが記述されていれば、より正確に解釈することができます。
 改善策欄から推測して入院患者さんの事例と考えられますが、同じ薬剤が2科から処方された経過、処方箋の処理、薬剤部門からの薬剤の払い出し、(同じ薬が2科から処方されることに対するチェック機能は設けられているか)病棟の受領、ヒヤリ・ハットに気付いたプロセスなどの記述が必要です。また2科併診が行われるときの薬剤処方上の手続きなどの記述があるとこのような状況に陥ることを防止する対策が立てられます。
 ヒヤリ・ハットを含め事故の記述にはポイントがあります。
(1)本来あるべき姿と事故事象を時間順に対比させて記述する。
(2)いつ(行為や事象の発生したタイミング)(when)、場所(where)、行為者(who)、何(what)を、どうしたか(how)の4W1Hを明確にする。(もうひとつのWである「なぜ(why)」は要因で記述する)
(3)情報の利用者を想定し分かりやすい言葉で書く。
(4)事実のみを明確に記述する。
 さらに、これらは簡単にできるものではないので、報告書式を用意したり、記述の練習をしたりする必要があります。

■改善策に関するコメント

複数科併診時の責任体制の確立
 この事例では二重に配薬されることの問題以前に、2科で処方された問題があると考えます。患者が複数科に受診し、検査や処方の指示が出されることは、しばしば行われることです。オーダリングシステムが取り入れられている所では、コンピュータが機能して二重の指示はカットされます。1患者1カルテの場合も、医師記録をさかのぼって、先行指示をみることができます。
 コンピュータや1患者1カルテシステムがない場合は、勿論、システムをもっている場合であっても、複数科併診時は誰が総合的に患者の責任をもつのかといった体制の確立が必要です。それには、院内全体のレベルで取り決めが必要でしょう。

指示伝達経路の明確化
 複数科の受診の必要性が生じた時、誰が誰にどのような方法で指示し、指示が滞りなく行われるように、誰がどのように伝達し、実施されたことの確認をするのか、そのルールを作っておくことが必要です。
 例えば、主治医が伝票を書いて看護師を通して併診依頼し、併診結果は主治医に一旦返されるシステムにする。伝票には現病歴や、使用薬剤などの記載をすることをルール化すれば、二重の処方は防げます。誤って、同一薬が処方されても、主治医が併診結果を見て二重の処方に気付くことができましょう。ただし、チェックシステムに関しては、二重三重のチェックは逆に責任が分散し、甘くなったチェックに過度の信頼を置くという非常に危険なものにもなりかねません。最適なチェックシステムは人ではなくバーコード等を利用した機械によるものですが、すぐにこのようなハードウェアを導入できない場合は、個々のチェック者の責任の所在を明確にするような工夫が必要になります。

病棟における薬剤管理
 病棟に複数診療科からの同一薬剤の発見を期待するのは適切ではありません。病棟看護師の多重課題による配薬の患者間違えは最も多いヒヤリ・ハットです。病棟でも、患者別保管、配薬と残薬チェック、患者が確実に服用したかのチェックシステムの確立が必要と考えます。病棟における薬剤管理の方法として、薬剤部門で1回配薬単位で配薬カートにセットされ、病棟へ運ばれる方法もあります。


事例477:( 点滴ラインの誤認)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード( チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

CVラインから静注なのにPTCDラインから注入した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

確認不足

■実施したもしくは考えられる改善策

ライン洗浄実施PTCDのマーク変更


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 ヒヤリ・ハットが発生した具体的状況が表現されていません。発生した時間、何を間違えて注入したか、PTCD(経皮的胆道ドレナージ)ラインにはどのようなマークが付いていたのかを記載するとヒヤリ・ハットの要因が明らかになり改善策につなげることができます。
 また、要因としてあげている確認不足は何の確認不足なのか具体的に記載してください。

■改善策に関するコメント

 この事例は、静注をPTCDラインから注入したものですが、注入の指示静注してしまう事故のリスクも高いと考えます。情報では不明ですが、PTCDラインに三方活栓がついていたことが想像されます。事故防止に向けて三方活栓は色付きの物など種々のタイプがあります。PTCDラインのマークの変更の他にそのような製品を導入されると良いと思います。導入される場合は、どのように使用するかマニュアルを作成し、院内で統一する必要があります。

 また、視点を変え点滴ラインに三方活栓を使用しない(クローズドシステム)方法も感染防止の点、誤注入の点で有効と思います。事例の内容の情報不足で発生した時間がわかりませんが、CV(中心静脈ライン)とPTCDラインを間違えた要因に作業環境は影響していなかったのでしょうか?(たとえば夜間で暗い環境だった等)いろいろな方面から要因を探り改善策を考える必要があると思います。


事例481:(放射線照射部位間違い)

発生部署  (放射線部門)  キーワード( 機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

治療方法を毎日交互に行う所を前日と同じ方向から照射してしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

コンピュータの誤入力

■実施したもしくは考えられる改善策

翌日別方向から実施。照射前に再確認実施


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 ヒヤリ・ハットが発生する場合、直接要因と間接・潜在的要因があります。ヒヤリ・ハットを分析するためには、充分な情報を収集し、直接要因だけではなく、間接・潜在的要因まで検討する必要があります。

放射線照射に関する手順を見直す
 通常の放射線照射に関するプロセスを振り返ってみましょう。放射線照射に関する院内での手順書はどうなっているか、具体的にエラーを防止するような手順になっているか、照射計画に関して放射線技師と医師、看護師の間での情報を共有しているか、患者さんに照射計画が伝えてあるか、医師の指示内容の確認方法、照射部位の確認の方法がどうなっているか等、具体的にあげてみましょう。そのことにより、どのプロセスにエラーが生じる要因があるか明らかになります。

物理的環境要因を洗い出す
 物理的環境のなかで照射部位を間違う要因はないか検討してみましょう。狭いテーブルの上で何人もの患者さんの指示書があり、取り違えてしまう可能性がないか等、設備面での検討も必要です。

他の業務との関連から見たエラー誘発要因を洗い出す
 ヒヤリ・ハットが発生した時の当事者や当事者以外の関係者の業務遂行状態、身体的な状態も含めて考えてみましょう。いくつもの課題を抱えながら、時間切迫の中で多重課題を遂行している場合、エラーが発生しやすくなる心理特性があります。ヒヤリ・ハットに関することのみを検討するのではなく、その時の自分が行なっていた業務内容、職場環境、疲労の状態なども含めて検討しましょう。その結果、ヒヤリ・ハットが発生した直接要因だけでなく、間接・潜在要因が明らかになります。

■改善策に関するコメント

業務の全工程をリスクアセスメントする
 改善策は、実施する個人が確認するという個人の注意に特化するのではなく、業務の全工程を分析し、事故発生防止システムとしての改善策を検討する必要があります。また、事故を誘発するような環境要因がないかアセスメントし、ヒヤリ・ハットが発生した業務以外でも改善すべき業務内容はないかということも検討します。

手順書を定期的に見直す
 放射線照射に関する手順を明文化し、各過程における潜在的なリスクを洗い出し、照射部位間違いが起きないような手順書を作成し、周知徹底しましょう。また手順書は、定期的に見直し、業務を遂行されている現状と照らし合わせながら、新たなリスクが発生していないか継続的にアセスメントし、事故の発生を予防することも必要です。また、手順の変更が職員へ周知徹底されるよう、実施状況の評価や部署での説明会を行うことも有効です。

【放射線事故防止のための指針の例】
 「放射線事故防止のための指針」(日本医学放射線学会、2002年4月)


事例691:(医薬品の製剤量と成分量の取り違えによる過量投与)

発生部署  (入院部門・薬剤部門)  キーワード(処方・調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

他院より紹介入院の小児の患者へテオドールドライシロップ20%(商品名)を処方しようとした。前医処方による院外調剤薬局の薬剤情報提供書には「テオドールドライシロップ20% 0.4g×2回/日」と表示されており、主治医はそのまま成分量と思い処方した。薬剤師からの疑義照会があったが、照会の意味が理解されず、そのまま調剤され配薬に至った。家族が1包の量が多いと指摘し、薬剤師、医師が確認したところ、本来1日量として160mgのところ800mg処方されていたことが判明した。家族へ説明謝罪の上、処方修正後、与薬された。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

1.当院では秤量散剤は成分量でオーダ入力し、その後の薬袋等の表示もすべて成分量で統一されている。院外薬局の表示が希釈量であることの知識がなく、気が付かなかった。商品名もテオドールドライシロップ20% であった。2.当院では内服薬の用量は1日量でオーダしているが、院外薬局の表示は1回量の表示であり、換算時の混乱があった。3.薬剤師の疑義照会での照会内容が適切でなかった。成分量800mgは小児では過量投与になると、具体的な照会でなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

1.処方時には正しい投与量を医薬品集等にて確認すること、特に秤量散剤、小児へのオーダ時。2.薬剤師と医師の疑義照会時に確認会話を徹底すること。3.処方オーダ画面で秤量散剤には「成分量で入力のこと」の情報を表示。4.処方オーダのシステム上で、秤量散剤に対して年齢による基準値を設定し、基準値を超えた値が入力された場合には警告を出す。5.今後、厚生労働省レベルで1)秤量散剤の表記を成分量に統一。(医療機関、薬局を問わず全国的に)レセの表示を優先ではなく、臨床優先にする。2)用量の表記をどちらかに統一。(1日量or1回量)


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 紹介入院された小児患者の年齢、病名が不明です。
医師や薬剤師の経験年数、ヒヤリ・ハット発生時の時間帯、多忙度など背景を具体的に記載することが要因の分析や検討に役立ちます。
 事例の報告書には、テオドルドライシロップ20%の用量が「薬剤情報提供書」に記載されていたとありますが、「薬剤情報提供書」は薬局から患者に渡すもので、前医からの情報は「診療情報提供書」に記載されていなければなりません。紹介されて入院した患者の「診療情報提供書」はどのようになっていたのでしょうか。
 「薬剤師からの疑義照会があったが、照会の意味が理解されず、そのまま調剤され配薬に至った」とありますが、これでは誰が照会の意味を理解し得なかったかがはっきりしません。医師が理解できなかったとしたら、薬剤師がどのように問い合わせたかも問題になります。問い合わせの内容も不明確ですし、照会の内容が理解されなかった理由も不明です。
 更に、薬剤師は疑問に思いながら何故処方したのでしょうか。この辺りを正確に記載することにより、医療事故の原因の一つを明らかにして、警鐘とすることが出来るはずです。

■改善策に関するコメント

 ヒヤリ・ハットは複数の要因が重なり合った時、起こりやすくなります。
医師が製剤量と成分量を混同したことに加え、薬剤師の疑義照会が不十分であったことがヒヤリ・ハット発生の要因とうかがえます。
 さらに、テオフィリンという薬が、小児の年齢によっては成人量よりも多く服用する場合がある特殊な薬であったことも一因と考えられます。

処方医師による検討内容
 まず第一に処方した医師の投薬の根拠が問題です。医師はテオドールドライシロップ20%0.4g×2、すなわちテオフィリン800mgがこの患者の適量なのか本当に検討したのでしょうか。また、薬剤師はテオフィリン800mgになることを、正確に医師に伝えたのでしょうか。

処方箋の記載内容
 通常医師が紹介状に記載する内服薬の用量は1日量ですが、保険薬局が患者向けに発行する薬剤情報の多くは1回量を記載しています。処方せんの記載形式も施設により異なるため、他施設より照会の患者には十分な注意が必要です。
 また、現在処方せんの用量記載に関しては製剤量と成分量が混在していますが施設内での統一は過誤防止に役立つでしょう。
 改善策として処方時には正しい投与量を医薬品集等にて確認することは重要ですが、処方オーダリング時に確認できるシステムや、警告を再度了解してからでの入力が必要なシステム作りが必要です。

疑義照会

 薬剤師が医師への疑義照会時に確認会話を徹底する際、本事例の場合「過量投与になる」と照会するだけでなく、投与したい量を問い合わせることや「1日量800mgは通常成人量の2倍に相当する」など具体的に注意喚起する必要があります。もっとも、処方箋には、年齢・性別の記載はありますが、体重の記載はありません。しかし疑義を感じたのでしたら納得するまで問い合わせるべきでありましょう。医師と薬剤師とのコミニュケーションがうまくとれているか確認してください。
 疑義照会する場合、内容のあいまいさや行き違いのないよう次の点に注意し記録します。

(1)問い合わせ者の氏名
(2)問い合わせ相手の氏名
(3)問い合わせ時刻
(4)問い合わせ内容及び回答
 また保険薬局との問い合わせの場合、FAXによる文書での問い合わせが確実でしょう。疑義照会した記録は回覧したり、上長がチェックするシステムがあると良いでしょう。

調剤薬局を含めたルールづくり
 処方箋への成分量記載は利点もありますが、上記のように剤型によって成分量の異なる薬剤のある場合の注意を強く指摘する必要があります。オーダリングでは薬価基準(倍散量)が処方箋記載量の基準になっているシステムが多いようですし、また、合剤については成分量では処方できないものもあります。
 今回のように調剤薬局が関与する例もありますので、広く認証されるルールを作り徹底する必要があります。とりあえず現状では、各病院で関連する調剤薬局も含め統一したルールを作り、それを徹底することが肝要でしょう。

【指示記載ルールの例】

  • 内服薬の分量は1日量で記載し、1回量の記載は不可とする。ただし、頓服薬の分量は1回量を用いる。また、同一薬品に規格単位の異なる剤形があれば、( )内に必ず規格単位を記載する。

  • 内服薬の服用回数は、1日3回の場合「分3」と記載し、「3×」や「×3」は使用しない。
    *頓服薬の場合は、1日における最大許容服用回数を指示する。
    *服用時点は、朝・昼・夕・就寝前、食前・食間・食後、疼痛などと日本語で記載する。
  • 注射薬の記載について
    *用量の単位は、g、mg、μg、ml、%、IU、KEなどを用いるが、用量を剤形単位で示す場合は、原則としてアンプル、バイアル、ボトル、本、袋など日本語で記載する。
     また、同一薬品に規格単位の異なる剤形があれば、( )内に必ず規格単位を記載する。
    *投与回数は、「1日2回、朝・夕」などと記載し、「2×/日」や「×2/日」は用いない。
    *点滴注射では、点滴速度や点滴時間を正確に記載する。
「都立病院における診療録等記載マニュアル」
(東京都衛生局病院事業部、2001年2月)


事例692:(医療用ガスの取り違え)

発生部署  (集中治療室)  キーワード(人工呼吸器)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

医師がNICUにて保育器に取り付ける為の一酸化窒素ガスボンベを病棟倉庫より持ち出して取り付けた。その時、看護師が「窒素ガス」という標示であること、標示ラベルがピンクであること(N2Oガスは黄色)に気付き、間違っていることが判明し、一酸化窒素ガスボンベに交換した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

一酸化窒素ガスボンベの収納場所が窒素ガスボンベと同じ場所になっていた。普段は窒素ガスボンベは7,000で納入されていたが、この時期予備的に1,500の小ボンベが納入されていた。

■実施したもしくは考えられる改善策

一酸化窒素ガスボンベの収納場所を独自の場所に変えた。ボンベのバルブが同じ規格である為、間違っていても接続が可能な為、業者に安全面での対策を確認する。医療用と工業用の区別ができないのか業者に確認(※笑気・炭酸ガスボンベについてはバルブが特化されるとのこと、その他は予定になっていない。)


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 医師の経験年数やヒヤリ・ハット発生時の時間帯、多忙度、さらに病棟倉庫の管理状況など背景を具体的に記載することが要因の分析、検討に役立ちます。
 また、院内における医療用ガスの取扱手順や看護師が気付いたタイミングなども記載すると、ヒヤリ・ハット発生の要因がどこにあるか分かりやすくなります。

■改善策に関するコメント

 吸入ガスの取り違えは大きな事故につながります。一酸化窒素ガスボンベの収納場所を独自の場所に変えるという物理的対策は有効ですが、払い出しから施用まで全て一人で行うというシステムに問題はなかったのでしょうか。どんなに優秀な人間でも間違いはおこします。複数のスタッフがチェックする体制づくりが肝心でしょう。院内における医療用ガスの取扱手順の確認も必要です。

視覚的類似性
 人は特にタイムプレッシャーや考慮すべき事象の増加などのパニック場面では、手に入りやすい情報を元に判断を行い、さらに一度行った判断に固執する傾向があります。視覚的な類似性は特に思い込みを起こしやすい要因です。まずこのような類似性を排除する工夫が必要になります。

形状の工夫

 現在手術室で使用される集中配管の医療用ガス等についてはバルブが特化され間違った接続が不可能になっています。色分けも緑が酸素、青が笑気、黄が空気、黒が吸引と共通ですが、ガスボンベの色は高圧ガス保安法で緑が炭酸ガス、黒が酸素、窒素、笑気、一酸化窒素等はねずみ色となっており整合性がありません。バルブの特化と共に今後の課題と考えます。
 ラベルの色やボンベの形や大きさによる類似性排除の工夫は、個々の現場での工夫ではなく、医療界での統一規格が必要となります。病院ごとや課ごとにやり方が異なっていたのでは、異動のたびに再学習が必要となり、混乱が生じます。少なくとも病院内で統一したやり方を工夫する必要があります。
 また、予備的に納入されていた小ボンベが類似性による誤判断に拍車をかけています。予備的な納入を検討する際に、現場の意見を聞くことができれば、ヒヤリ・ハットすら事前に防げたかもしれません。

保管上の注意点
 これら医療用ガスは火災の際も不燃性もしくは支燃性なので安全ですが高圧ガスとして貯蔵されているので直射日光の当たらない風通しの良い35℃を超えない場所に保存することが必要です。


事例815:(気管内チューブ固定時のカフチューブの切断)

発生部署  (入院部門一般、救急部門、集中治療室、手術部門)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

看護師(経験0年11ヶ月)は、22時20分(深夜勤)に患者Aの気管内挿管チューブの固定が不十分であった為、担当看護師と共にテープ貼り替えを行った。テープは既に切ってあるものを使用したが、固定終了後テープが長すぎた為切ろうとし、誤ってカフチューブまで切断した。直ちにアンビューバックで加圧し、医師により再挿管することでバイタル、SPO2には影響なかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

チューブ誤切断等を防止する為、事前にテープを準備していたが、患者が小柄なこともあり準備したテープが長すぎた。テープを切る際、カフチューブの位置をよく確認しなかった。ハサミの使用方法の基本を知らなかった。教育を受けてなかった。経験年数は11ヶ月であったが、日常的に行っている行為であった為、一緒にいた担当看護師も注意を払っていなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

スタッフに事例を紹介し、チューブ類切断の可能性について再認識を図る。テープはあらかじめ患者に合わせた長さを準備する。ハサミの選択・使用方法について指導する。(ハサミは先端が丸いものを選ぶ。ハサミを使用する際、自分の手のひら上で操作することにより患者の皮膚損傷やチューブ類の切断を予防する。指導したことが実践出来ているか確認する)ハサミを使用する際は、チューブ類の有無を確認し、チューブを避けて使用する。


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

 この患者は、どれくらいの期間挿管されている人かの記述が欲しい。また気管内チューブの固定が不十分と記述されているが、詳細な内容が欲しい。例えばテープの固定方法が悪いのか、テープがはがれかかっているのか、固定の位置が悪いのか、チューブが抜けかかっているのか等です。また固定のテープの種類の記述があると良いと思います。

■改善策に関するコメント

検討事項
 具体的なテープの固定方法に入る前に、基本的な事を検討する必要があると思います。1.深夜帯にこのような重要な処置が発生する背景について検討が必要と考えます。もし長期に挿管されている患者様であれば、顔面の清拭時定期的にテープを貼り替え、固定の状況も確認していると思います。日勤帯でこの事が行われていれば、よほどの事がない限りテープの貼り替えが深夜帯に食い込む事はないと考えます。2.気管内挿管チューブの貼り替えは何か事が起きた時は重大な事態が免れないので、どんな危険性があるのか新人に指導が必要ですし、スタッフ全体もそのことを認識する必要があります。人手での多い日勤帯、救急対応の準備、医師の待機、あるいは参加が必要な処置です。
テープ貼り替えの手技について
(1)テープを貼る時介助者はカフチューブを持つ。これはテープへの巻き込みをも防ぐ事が出来ます。

(2)出来れば顔のそばでハサミは使用したくないのですが、使用せざるを得ない場合には、ハサミの持ち方を、手術時の剥離する時のような持ち方をする。人差し指をハサミの上に置き、ハサミの先端に注意が向くように使います。必ず手を添えます。

(3)テープの固定末端は、カフチューブの反体側に持って行くようにする。

(4)テープの種類は、手で切れる物を選択するのも一方法ですが、粘着性、皮膚かぶれ等も考えなければなりませんので必須ではありません。

参考として
 AHA心肺蘇生と心血管治療のためのガイドラインでは気管挿管用の保持器具が有用(クラスIIb)とされているが、充分な検討がされていず客観的エビデンスがない。


事例998:(抗生物質溶解キット製品の薬剤調合忘れ)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード(調剤)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

生食100cc中にセフメタゾン1gを溶解して投与すべきところを生食キットだけ投与してしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

内容を確認せず、他の看護師からの指示で生食だけのキットを投与した。指示内容が的確でなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策

 


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

当事者以外に関わった者の状況も記入する
 ヒヤリ・ハットが発生した前後に関わった関係者から情報を収集し、発生要因を検討する必要があります。業務の指示を受けたり、業務を途中から引き継いだ前後の状況も具体的に記入しましょう。

関係する物品は具体的に書く
 輸液容器には、ハーフキット、薬剤バイアル収納型フルキット、ダブルバッグ等、色々な種類があります。単に入れ忘れたというだけでなく、容器の外形や使用方法にもエラーを誘発する要因があることも考えられます。ヒヤリ・ハットに関係した物品は、正確な名称を具体的に書きましょう。

■改善策に関するコメント

キット製品は使用上の注意を確認し、適切に使用する
 輸液容器には、ガラス瓶、プラスチックボトル、ソフトバック等があります。最近では簡易性や合理化を図るために、外気を介さずに、2種類以上の薬液を混合することができるハーフキット、薬剤バイアル収納型フルキット、ダブルバッグ等がありますが、取り扱い方は各製品により異なります。使用上の注意及び取り扱い方は、製薬会社・製造会社のホームページ等で閲覧したり、直接問い合わせることもできます。特に新規に納入した製品などは、使用上の注意を確認し、職員間で周知した上で使用しましょう。また、外見が似た製品があるときには、取り違える恐れがありますので、注意を喚起しましょう。類似品に関する情報は、社団法人日本病院薬剤師会ホームページ「医療関係者向け情報」等にも掲載されています。

途中から業務を引き継ぐ場合は、必ず指示内容を確認する
 業務の指示を受けたり、途中から引き継ぐ場合には、実施する内容だけを確認するだけでなく、その指示内容や計画に間違いがないかまで遡り、確認しましょう。

医薬品等でヒヤリ・ハットが発生したら可能な範囲で製造元に相談する
 ヒヤリ・ハットが発生する場合、何らかのエラーを誘発する潜在的な要因があると考えられます。今回の事例では、抗生物質を溶解しなくても輸液セットをつなぐ事が出きる仕組みにも改善すべき点があるかもしれません。安全な製品やシステムの考え方として、「ユーザビリティ(使いやすさ)」、「フールプルーフ(失敗してもその行為を受け付けない仕組み)」、「フェイルセーフ(失敗しても事故につながらない仕組み)」がありますので、製造元にも相談してみましょう。


事例999:(無投薬)

発生部署  (入院部門一般)  キーワード(与薬(内服・外用))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容

2人の朝食後の薬を配薬車から取り出すのを忘れた。1人は昼の薬があったため日勤者が気付いて服用できたが、もう1人は昼がなかったため、夕食後薬の準備で気付いた

■ヒヤリ・ハットの発生した要因

深夜勤務者が準備を怠った。引継が終わったら朝の薬の準備をして判るところに置く。次の勤務者が内服したか確認できるシステムになっていない。内服したかチェックする。

■実施したもしくは考えられる改善策

 


専門家からのコメント

■記入方法に関するコメント

行為の結果を分析し、発生要因を特定する
 配薬車から薬を取り出すことを忘れた、準備を怠ったとありますが、これはヒヤリ・ハットの「発生要因」ではなく、「行為の結果」になります。忘れてしまったり、怠ってしまうエラー行為が発生する要因は何だったのか、ということがヒヤリ・ハットの発生要因になります。行為の結果を明らかにした上で、その結果を導いた個人の状況、システムの状況等のヒヤリ・ハットが発生した事象の構成要因を明確にしましょう。

■改善策に関するコメント

服用の確認も含めた適切な与薬システムを構築する
 ヒューマンエラーを前提とした与薬システムを構築する必要があります。担当者の記憶に頼るようなシステムではなく、もし担当者が定刻に配薬し忘れるというエラーが発生してもそのエラーを発見し、訂正できるような仕組みを考えましょう。
 例えば、配薬忘れがないかチェックするために、配薬車を点検する時間や担当者を決めることで、その勤務帯で内服する患者の配薬状況を把握することも可能になるでしょう。また、内服する患者を全てリストアップされているシートを作成し、実施後は必ずサインを記入する等のルールを決めた場合、記入漏れがあれば担当者以外でもエラーを発見できるようにするという方法もあります。


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