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重要事例情報の分析について

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重要事例情報の分析について

1 重要事例情報の収集の概要

1)収集期間

 平成14年 3月26日より平成14年 5月28日まで

2)施設数

参加登録施設: 269施設
報告施設数 : 99施設

3)収集件数

区分 件数
総収集件数 831件
  無効件数 205件
  重複件数 12件
有効件数 614件

2 分析の概要

1)分析の方法

 医療事故を防止する観点から、報告する医療機関が広く公表することが重要と考える事例について、発生要因や改善方策などを記述情報として収集した。
 収集されたヒヤリ・ハット事例より、分析の対象に該当するものを選定し、より分かりやすい表記に修文した上でタイトルやキーワードを付した。
 さらに、専門家からのコメントとして、事例内容の記入のしかたや記入の際に留意すべき点などを「記入方法に関するコメント」として、また報告事例に対する有効な改善策の例や現場での取り組み事例、参考情報などを「改善策に関するコメント」として述べた。

2)分析対象事例の選定の考え方

 収集された事例から、分析し公開することが有用な事例を選定した。選定の考え方は以下の基準によった。

(1)ヒヤリ・ハット事例の具体的内容や発生した要因、改善策がすべて記載されており、事例の理解に必要な情報が含まれていること。
(2)次のいずれかに該当する事例であること。
・発生頻度は低いが、致死的な事故につながる事例
・他施設でも活用できる有効な改善策が提示されている事例
・専門家からのコメントとして有効な改善策が提示できる事例
・専門家からのコメントとして参考になる情報が提示できる事例
(3)なお、個人が特定しうるような事例は除く。

 なお、報告された事例にはモノ(薬剤、機器等)に関する事例も含まれていた。
 これらは、ヒトがモノを取り扱う際のヒューマンエラーを防止するという観点から、当検討会においても有効な知見やコメントが得られると判断して事例を検討することとした。

3)事例のタイトル及びキーワードの設定

 第1回報告と同様に、各事例にタイトル及びキーワードを付した。キーワードは以下のリストから選択した。

■発生場所

大項目 分類項目
外来部門 (1) 外来部門一般
入院部門 (2) 入院部門一般
(3) 救急部門
(4) 集中治療室
(5) 手術部門
(6) 放射線部門
(7) 臨床検査部門
(8) 薬剤部門
(9) 輸血部門
(10) 栄養部門
(11) 内視鏡部門
(12) 透析部門
事務部門 (13) 事務部門一般
その他 (14) その他

■手技・処置など

大項目 分類項目
日常生活の援助 (1) 食事と栄養
(2) 排泄
(3) 清潔
(4) 移送・移動・体位変換
(5) 転倒・転落
(6) 感染防止
(7) 環境調整
医学的処置・管理 (8) 検査・採血
(9) 処方
(10) 調剤
(11) 与薬(内服・外用)
(12) 与薬(注射・点滴)
(13) 麻薬
(14) 輸血
(15) 処置
(16) 吸入・吸引
(17) 機器一般
(18) 人工呼吸器
(19) 酸素吸入
(20) 内視鏡
(21) チューブ・カテーテル類
(22) 救急処置
(23) リハビリテーション
情報と組織 (24) 情報・記録
(25) 組織
その他 (26) その他

4 分析結果及び考察

1)収集された重要事例情報の概要

(1)全体の概要

 報告件数は前回からさらに増加し、2ヶ月間の報告期間で収集された件数は831件で、うち614件が有効な報告であった。
 改善策として有効な対策が検討されている事例が前回以上に多く見られた。
 報告数が比較的多かった事例として、手技・処置区分別に見ると以下のような事例が挙げられる。チューブ・カテーテル類、転倒・転落、与薬に関する事例が依然として多く、全事例のほぼ半数を占めている。また、手技・処置区分に横断的に、手書きの指示の誤読、伝達不十分、記載の誤りといった「医療従事者間の連絡・伝達ミス」に関する事例が依然として多い(56件9.1%)。

チューブ・カテーテル類に関する事例 93件(15.1%)
転倒・転落に関する事例 89件(14.5%)
与薬(点滴・注射)に関する事例 67件(10.9%)
与薬(内服・外用)に関する事例 51件( 8.3%)
調剤に関する事例 30件( 4.9%)
処方に関する事例 27件( 4.4%)

 ヒヤリ・ハット事例発生要因については、「忙しかったため」「疲れていたため」と指摘する事例が依然として見受けられたが、この改善策として「確認の徹底、集中力の持続、教育」だけでなく「声を出して作業、他者への声掛け・申し送り、メモを取る」など業務遂行上の工夫をあげる事例もあった。
 これらについては、いずれも多くの医療機関で共通の問題であり、有効な改善策を公開・共有することで同様の事故を防止することに貢献できると考えられる。

(2)チューブ・カテーテル類、転倒・転落に関する事例

 チューブ・カテーテル類に関する事例は、自己抜去によるものが多いが、体位変換や沐浴など療養上の世話を行なう過程で誤って外してしまう事例も見受けられた。患者の側を離れるときに抜去する可能性を考え、固定方法を再考することも重要である。
 転倒・転落のトラブルについては、患者本人の自発的行動によるものが多く、特に医療従事者が「目を放したすき」に発生している。そのため、その発生を100%防止することは困難である。報告事例でも、ベッド高の調整、ベッド柵の取付といった設備側の対策は依然として少なく、「頻回に訪室して観察する」「ナースコール利用の指導」といった対策にとどまる事例が多い。
 転倒・転落、チューブトラブルとも職員側で防ぎうるものとそうでないものを明確に区別し、それぞれに応じた対策を講じることが重要である。
 患者の自発的行動によるものは、アセスメントシートなどを利用した患者の特性別のリスク評価と事前の予防的対応が有効であり、今後とも効果的なアセスメント方法及び予防策の検討を行っていくことが必要である。

(3)与薬に関する事例

 与薬に関する事例としては、薬の種類・量や患者の間違い、三方活栓や輸液ポンプなどの操作の間違い、患者の自己管理下での服用忘れなどが報告された。
 薬の種類・量や患者の間違いについては、ラベル、伝票、薬剤それぞれの取り扱いが錯綜することによって発生する事例が多く報告された。作業を中断しない手順、記憶に頼らない手順を作るとともに、組織体制も検討することが重要である。
 薬の種類や量に関するヒヤリ・ハット事例に対しては、間違えやすい名称の薬、複数の規格がある薬のリスト等を作成し研修で活用する、病棟内の間違いやすい薬をリストアップして掲示するなどの工夫が必要である。
 間違えやすい薬剤や三方活栓の扱い方、医療機器操作などモノに関するヒヤリ・ハット事例は、人がモノを取り扱う際のヒューマンエラーを防止するという観点からモノの仕様や操作性を検討していく必要がある。
 患者による薬剤(インスリン注射、内服薬)の自己管理に関するヒヤリ・ハット事例(服用の未実施等)が報告されている。患者に自己管理をさせるかどうかの判断基準や服用の確認も含めた与薬システムについて検討することが重要である。

(4)医療従事者間の連絡・伝達ミスに関する事例

 医療従事者間の連絡・伝達ミスに関する事例としては、手書き指示による間違いや伝達が不十分で受け手の解釈が異なっているなどの事例が見られた。
 発生要因として、急な変更指示・受けの際に起こるコミュニケーション不足(口頭指示のみ、「半分」などあいまいなまま指示受け、復唱しない)と、対応措置が不十分(受けた指示をあとで記録、指示の見落とし、申し送りせず、責任の所在が不明確で誰も実施せず)であったと指摘する事例が多い。
 指示、申し送り、カルテ・伝票等への記録、処置の実施までの間には多くのスタッフやモノが介在しており、この状況下でヒヤリ・ハット事例が発生している。チーム医療を進めていく上で、確実な指示伝達や情報の共有が重要であり、指示伝達系統の明確化が必要である。
 医師と薬剤師、看護師、検査技師などコメディカルとの連携により、伝達ミスを未然に発見した事例など、チーム医療による相互チェックが有効に機能している事例も報告された。
 情報の確実な伝達や共有に関しては、情報化を推進することは対策として有効である。しかし、情報を過度に信頼したり、あるいは情報化の後も転記を併用しており役割分担が不明確である場合には、ダブルチェックをしても不具合を発見できない可能性がある。
 与薬準備や同姓同名患者の取り扱いなど、すでに手順等のマニュアルが存在している中でヒヤリ・ハット事例が発生しているという報告があった。現場では遵守できないマニュアルや、参照されない形骸化したマニュアルについては、見直しや再評価が必要である。

(5)その他の報告事例

 病棟における麻薬の取り扱い、紛失等のヒヤリ・ハット事例が報告されていた。麻薬の取り扱いや管理方法に対して、改めて体制の確認が必要である。
 患者とのコミュニケーションがうまくとれないというヒヤリ・ハット事例が報告された。療養上の世話は、相互の信頼関係が必要であり、患者側に「忙しそうなので呼びにくい、お願いしにくい」という意識を持たせないようにすることも重要である。
 転院患者の薬剤情報に関するヒヤリ・ハット事例では、他院からの情報のあり方、調剤薬局を含めた疑義照会といった院外とのコミュニケーション方法の重要性が示唆された。
 情報端末の入力や操作に起因する事例が多く報告されたが、それに加えて情報入力端末にウイルスがいたという新たなリスクを伴う事例も報告された。

(6)まとめ

 前回報告後に収集されたヒヤリ・ハット事例の分析を行った。報告件数は前回からさらに増加した。
 改善策として有効な対策が検討されている事例が前回以上に多く見られた。
医療安全対策ネットワーク整備事業を通じて、ヒヤリ・ハット事例の分析および改善策の質が向上しつつあることがうかがわれる。
 さらに、収集事例を専門的な立場から分析することで、有効な改善策を提案したり参考情報を紹介した。
 「確認不足であったため今後は確認を徹底する」という当事者個人の努力の範囲で今後の改善策を検討するのではなく、人間はミスを犯しうることを前提に、ミスを犯せないようなしくみの構築や、ミスがあってもそれが実施される前に発見されるようなしくみの構築を引き続き検討することが必要である。そのためには、医療現場の資源(人、モノ)を有効に活用していくのも工夫の一つである。
 医療の主体者を患者と考え、患者に十分な説明を行い、患者からも率直に意見が言えるような関係を醸成することがヒヤリ・ハットを防止する上でも重要である。

2)今後の課題

 前回と同様に、収集事例の中には次のとおり記載の改善が必要なものが見られた。

・事例の具体的な内容についての記述が不足している、あるいはあいまいで、事例の状況が分からないもの。
・要因を「確認不足」「大丈夫だと思った」「思い込み」としており、なぜそうせざるを得なかったのかという背景要因の分析がなされていないもの。
・改善策についての記述が不足している、あるいは改善策の具体的内容が分からないもの。
・組織的な背景や要因を分析しておらず、改善策が「確認の徹底」など個人の責任に帰するような表面的なものになっているもの。

 今回の分析にあたっては、記入の際の参考となるよう各事例に「記入方法に関するコメント」を付している。「記載用紙」のフォーマットについては、今後、記入者がより報告しやすい形に変更していく必要がある。


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