戻る

年単位の長期休暇制度をめぐるこれまでの議論の整理について


 検討の趣旨
 少子高齢化、経済・産業構造の変化が進展する中で、企業組織の改編や倒産の増加等により、勤労者は、失業や予期しない処遇の変化に見舞われるなど、全生涯を見通して安心して働き続けることが出来なくなっているとともに、働くことによるストレスも大きくなっている。
 こうした変化の中で、勤労者が意欲と確信を持って働くことが出来るようにしていくためには、現行の年休や長期連続休暇にとどまらず、今後は、職業生活に入ってから一定期間経過後に区切りをつけて、年を単位とする長期休暇を付与する制度等の導入を図ることにより、個人の全生涯を見据えた働き方と生活の在り方の見直しの機会の確保について検討する必要がある。

 我が国における長期休暇の現状について
 我が国の主な長期休暇制度には、休職とされているものを含めると、育児・介護のためのもの、教育訓練のためのもの、ボランティアのためのものなどがある。

 これらの休暇は、各々固有の社会的意義に基づき設けられており、例えば育児・介護休業は、仕事と家庭生活の両立のため、教育訓練休暇は従業員の能力開発のため、ボランティアは社会問題の解決のため設けられたものである。

 一方、我が国では、個人の全生涯を見据えた働き方と生活の在り方の見直しの機会として目的を広く認める長期休暇制度については、自己啓発や社会貢献のための「自己実現休暇」を設けているケース(大阪ガス)など若干見られるものの、一般的に普及しているとはいえない状況にある。

 ヨーロッパの長期休暇制度
 ヨーロッパでは、従来の育児休業に加え、個人の様々な目的を許容する長期休暇制度を導入する動きが見られ、イギリスでは法律ではなく、労使の話合いを通じて長期休暇制度の普及促進が図られているのに対して、ベルギーやフランスでは法律上の権利として導入されていることなど、各国ごとにその制度の位置づけや運用状況が様々なものとなっている。

 導入の背景としては、ヨーロッパでは、少子高齢化が進行する中で、職業人生を長くする方向に向かっており、長期化する生涯を通じて生産性を維持したまま職業生活を送るためには、生涯を通じた効果的な時間配分を行うために、必要に応じ職業生活における働き方の再設計を行う必要があるとの問題意識が高まっていることがある。

 また、豊かな社会の中で個人の価値観や、ライフスタイルが多様化する中で、家庭生活だけではなく、ボランティア活動なども含め、仕事と生活全般の調和を図ることの重要性が認識され、制度上も、ファミリーフレンドリー施策だけでなく、家族の有無を問わず、全ての個人が対象となるワークライフバランス施策への広がりが見られる。

 なお、各国ごとに長期休暇制度の位置づけや運用状況が異なることについては、制度を導入する際の意思決定過程のあり方など、各国ごとにその基盤にある社会制度や歴史の違いが反映されていることに留意する必要がある。

 我が国における長期休暇の意義について
 (休暇制度の意義について)・・・資料1
 我が国でも、物の豊かさよりも心の豊かさを求める傾向が強まるなかで、個人を企業に依存した存在として捉えることや、家族との関係だけで個人の生活を捉えることはますます困難になりつつある。
 このような中で、自らの生き方を主体的に選択した個人が安心・納得した生涯を送るためには、企業との関係を保ちながらも、家庭や地域社会との連帯を深めながら社会参加することにより、仕事と生活のバランスを確保することが重要である。
 休暇制度には、精神的肉体消耗を回復させるとともに、人たるに値する社会的文化的生活を営むための時間的余裕を保障する機能がある。
 これは、個人が仕事と生活のバランスを確保する上で不可欠なものであるが、より長期の休暇であればその効力はより大きなものとなると考えられる。

 (現行の長期休暇制度と新たな長期休暇制度との関係について)
  ・・・資料2
 我が国の長期休暇は、取得目的別に設けられている各種の休暇制度が、運用において結果として長期にわたったものであり、その効果も個別の休暇制度の目的との関係で認知されるにとどまり、長期休暇自体の効果としては認知されてはいない。
 しかしながら、これらの長期休暇を見ると、各々の制度の取得目的に沿った実践を通じ、仕事と生活の関係、あるいは仕事そのもののあり方の見直しが行われ、これが休暇を取得した個人のその後の生涯における仕事と生活のバランスの確保に寄与しているものと考えられる。このように、既存の各種の長期休暇に共通する効果に着目すると、新しい長期休暇制度のあり方が認識できるのではないか。
 すなわち、長期休暇は、個人が自らの生き方・働き方を主体的に見直すために用いるのであれば、現行の休暇制度が想定する目的に限らず、個人がその生涯にわたり仕事と生活のバランスを確保することを通じて、個人、ひいては企業及び経済社会に大きな効用をもたらすことにつながるのではないか。

 (長期休暇制度の個人にとっての意義)・・・資料3資料4
 変化の激しい経済社会の中で、個人にとっては、自らの職業生活を企業に委ねることのリスクが高まり、自らの職業生活を将来にわたって主体的に形成していくことが求められている。
 また、現在、心の豊かさを重視する傾向が強まる中で、個人にとっては、自ら生き方、働き方を選択できることの重要性はこれまで以上に大きくなっていると考えられる。
 長期休暇制度は、個人が自らの生き方・働き方を見直すという明確な目的のもとに取得した場合には、取得期間中の経験そのものが個人の充実感を高めるとともに、将来的にも自らの仕事と生活のバランスを確立し、ひいては安心・納得した職業生活の実現に寄与することとなる。

 (長期休暇制度の企業にとっての意義)・・・資料3
 企業にとっても、個人が、長期休暇を通じて生き方・働き方の見直しを行うことにより、業務に取り組む意欲が高まる結果、生産性の向上が期待できる。また、個人が長期休暇を通じて、業務では得られない知識、経験等を得て、企業に多様性をもたらし、当該企業に新たな付加価値を生み出す素地を作り出す効果も期待できる。
 こうした効果は、一部企業では、留学の実施などを通じて既に認識されているものと考えられる。
 企業にとっての長期休暇制度は、人材への投資と考えられ、一定のコストやリスクを伴うものと考えられるが、以上の効果が一般的なものとして検証・認知され、適切な枠組みのもとに実施できる環境が整えば、将来的に企業が人材投資の一環として定着することもありうるのではないか。
 また、投資という観点からは、優秀な人材を獲得するという面でも、そのような企業の姿勢は有利に働くのではないか。
 また、近年は、社会の価値観が多様化する中で、企業は経済的利益の追求だけでなく、社会の多様な価値との調和が求められるようになってきている。このため、個人が自らの幸福を追求する自由の実現が社会的な要請として広く認識される中で、企業がこれを社会的責任として支援する際の手段の一つとして、長期休暇制度も位置づけられるのではないか。

 (長期休暇制度の経済社会にとっての意義)
 人材が付加価値を生む現代においては、個人が意欲を持ってその能力を最大限発揮することが我が国経済社会の活性化に資するものである。また、その効果は、経済活動のみならず、様々な社会貢献活動にも反映され、社会的価値を増大させることにつながるものと考えられる。
 さらに、ヨーロッパと同様に少子高齢化が進行している我が国において、長期化する職業生活の中で、個人がその能力を最大限に発揮することが今後ますます重要になると考えられる。その観点からは、生涯を通じて効果的に時間配分を行う仕組みを用意しておくことは今後必要になるのではないか。
 上記のように個人がその能力を最大限発揮するためには、十分な環境整備が必要である。このためには今後様々な取組が必要になるが、長期休暇制度についても、その中の一つの方策として位置づけることができるのではないか。

 (長期休暇制度の導入の必要性について)
 このように、長期休暇制度は、個人の生き方・働き方の再構築の機会を提供することを通じて、個人の職業生活を充実させ、企業・経済社会の活性化をもたらすものと考えられることから、我が国にも長期休暇制度を導入する必要があるものと考えられるのではないか。

 導入すべき長期休暇制度のあり方について(P)・・・資料5
 導入すべき長期休暇のあり方について、上記の意義を踏まえて検討すべきではないか。

 長期休暇制度の導入促進策について(P)

 (政策支援の根拠について)
 長期休暇制度が、個人の仕事と生活の調和を通じて中長期的な経済社会の発展につながるものであることから、導入に当たり勤労者、企業のそれぞれの側に障害がある場合には、それを取り除くための政策支援が必要ではないか。

 (普及啓発について)
 長期休暇制度は、まだ我が国には十分なじみのないものであるが、そもそも我が国では、諸外国と比較しても有給の消化率が低くなっており、一般に休暇の取得に対する抵抗感が根強いと考えられる。このため、企業としても、職場や顧客の理解が長期休暇制度の普及の妨げとなることも想定される。このため、長期休暇制度の普及に当たっては、我が国社会全体の休暇の取得への抵抗感と払拭するための普及啓発が必要ではないか。

 (個人・企業向けの導入策)
 長期休暇の個人や企業にとっての意義を踏まえ、どのような支援が必要か検討する必要があるのではないか。

資料6

資料7


トップへ
戻る