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欧州委員会
保健・消費者保護総局

理事会C−科学的意見



反芻動物組織中のTSE感染性分布に関する意見
(2001年12月における知見状況)



2002年1月10日・11日の会合において
科学運営委員会により採択


序文

科学運営委員会は、2001年5月から9月の間に反芻動物組織中のTSE感染性分布及び反芻動物組織のTSEリスクに関する安全性に関連する問題について科学的助言を求める数件の要請を受け取った。これらの要請は、(1)ヒツジ及びウシ組織におけるTSE感染性及び(2)反芻動物頭部の安全性に関するものである。

これらの要請は、複数の委員会部門1から出された異なる問題(食品、医療機器の安全性など)への回答を求めるものであったことから、当初は別個の報告書を作成した。しかし、各要請への回答はほぼ同じ科学的文献及び同じ範囲の実験に基づくものであったことから、単一の報告書及び意見にまとめた。


意見

科学運営委員会(SSC)は以下の要請を受けた。

(1) 1999年7月22日・23日付けのヒツジの血統と遺伝子型分類に関するSSC意見書に示されたヒツジ組織感染性力価の表を最新の科学データに基づいて更新すること。
(2) ウシに関する同様の表を既存のすべての科学的証拠に基づいて作成すること。
(3) ウシ、ヒツジ、ヤギの骨格筋、舌及び関連の神経分布を含む頭部全体を特定危険部位(SRM)とみなすべきだとする1997年12月9日付けの特定危険部位一覧に関するSSC意見書採択以降、新しい証拠が得られたかを検討すること。

SSCはTSE/BSE特別部会に対し、上記要請に対する回答の基礎となる科学的を作成することを求めた。この報告書を添え付ける。この報告書は、TSE/BSE特別部会が2001年12月13日の会合において最終的に承認したものである。

SSCは、上記要請に対して以下の回答を採択する。

(1) 小型反芻動物に適用できる組織感染性の表

小型反芻動物におけるスクレイピー


2001年2月以降に得られた新しい証拠はないことから、SSCは2001年2月8日・9日の先制リスク評価に添付した表が現在でも有効であると考える。参考のために、この表を表 1として添付する。

小型反芻動物におけるBSE

更に多くの実験データが得られるまでの間、表 1に示すスクレイピー感染性の組織分布とそのレベルに関する値がBSEも代表するものとみなし、最新の証拠として採用することが賢明であろう。ただし、重要な例外として、ヒツジBSEではリンパ網内組織も中枢神経系組織と同等レベルの感染性を有するとみなすことが、少なくとも当面は必要になる。

(2) ウシBSEに関連する組織感染性の表

既存のデータは不完全であり、情報の多くは実験的経口曝露後の感染性分布に関する単一の試験から得られたものである。実験的に曝露したウシで感染性を示した少数の組織についての生物学的検定から得られた潜伏期間の値に基づくと、大半の感染組織の感染性は生物学的検定の検出限界に近く、中枢神経系組織もその例外ではないと思われる。ウシの生物学的検定で早期に得られたこのような組織評価結果はマウスのデータを補足するものであるが、この生物学的検定を完了させるには今後5年以上を要すると思われる。しかし、その間にも更に陽性の結果が得られると思われる。BSEに自然感染したウシに関して入手できる感染性データを暫定的に要約し、表 2(確定例における非感染性組織)及び表 3(実験的曝露及び自然曝露後の組織感染性に関する暫定的推定値)に示す。

(3) ウシ、ヒツジ及びヤギの骨格筋、舌及び関連神経分布を含む頭部全体を特定危険部位(SRM)とみなす可能性

BSEが発症したか潜伏期間にあるウシに関しては、(脳、眼、硬膜、下垂体及び頭蓋に加えて)他の頭部組織をSRMとみなす必要性を示唆する新しい組織感染性試験所見は得られていない。一方、ウシ感染性生物学的検定の結果は、BSEの臨床的段階でも頭部リンパ節を含む局所リンパ節からは感染性は検出されないという見解を裏付けるものである。実験的BSEが前臨床的段階及び臨床的段階にあるウシから採取した下垂体、脳脊髄液(CSF)、前頚神経節、顔面神経、舌、唾液腺及び頭部リンパ節のマウス生物学的検定が完了したが、これらの組織の感染性は明らかにされなかった。更に、三叉神経節の生物学的検定に基づくと、臨床的段階においてのみ、おそらくCNS侵襲に続発すると思われる低い感染力価がこの組織に存在すると思われる。

経口曝露後のBSE潜伏期間にウシから採取した一定の組織に関するウシ生物学的検定の結果を待たなければ結論は下せないが、今までのところマウス生物学的検定で感染性が検出された組織でのみ感染性が確認されている。このように、骨格筋、舌又は関連神経を齢に関係なくSRMとみなす必要性を示唆する新たなウシ感染性データは得られていない。

屠殺時にCNSによる汚染を避けられるのであれば、ウシの舌及び頬肉をSRMから除外することは引き続き妥当と考えられる。従って、ウシに関する頭部SRMリストは引き続き適切である。

ヒツジについては実験的BSEの潜伏期間早期において頭部リンパ組織の侵襲が認められており、ヒツジのBSEは感染性組織分布の点で自然発生スクレイピーと同等の病原性を示すという見解と一致する。体性末梢神経幹の感染性はスクレイピーでは「低」に分類されるが、臨床的段階になると屠殺体に広く分布する可能性がある。これが推定されるようにCNSからの「遠心性」の広がりによるものであり、実験的ヒツジBSEの潜伏期間のおよそ40〜50%を通してCNSの感染性を検出できるのであれば、この段階の体性末梢神経線維に感染性が存在すると言えよう。これらの所見が得られたことから、任意の集団においてBSEが確認されるか可能性があると思われる場合には、齢の下限推奨値を提言し、その齢未満のヒツジの頭部組織のいずれかをSRMから除外することは困難となる。

更に、小型反芻動物の屠殺実施法から見て、齢にかかわらず動物の頭部全体をSRMとして除去することが必要になると思われる。また、小型反芻動物では貫通スタンニング法の使用の有無にかかわらずBSE潜伏期間早期に感染性を持つ可能性のある組織と舌との交差汚染が生じるリスクが高いと思われる。

従って、ヒツジでBSEが発生したと考えられる場合には、反証が得られない限り、すべての齢のヒツジの舌を含む頭部全体を屠殺実施法にかかわらずSRMリストに含めるべきである。

ヤギに関して得られているデータはきわめて少ない。従って、ヒツジに関する結論を近似的な結論とみなし、ヤギにも適用するのが妥当であると思われる

表 1 ヒツジ及びヤギにおける自然発生スクレイピー−各齢のサフォーク種ヒツジ及びヤギのスクレイピー前臨床的/臨床的症例の組織分類をSwiss系マウスにおける病原体力価で示す2(1999年7月22日・23日付け付属文書「ヒツジの血統及び遺伝子型分類の方針に関する意見書」より修正を加えず再編集)(EC 1999年)

感染力価*   A =  高(≧104.0
  B =  中程度(103.2〜104.0
  C =  低(≦103.2又は不明)
  D =  検出されず

  前臨床的症例 臨床的症例
齢(月) < 8 10-143 25 > 25 34-37 38-39
陽性症例数/検査症例数 0/16 8/15 1/13 1/6 9/9 3/3
        A A
脳(髄質)   D C      
脳(髄質/間脳)     C      
脳(中脳皮質)     D      
下垂体         C B
脊髄     D   A A
脳脊髄液         C C
坐骨神経         C C
胸腺 D   D   C** C**
甲状腺         D  
脾臓 D B C   B B
扁桃 D C B   B  
リンパ節(RP/MP) D B B   B B
リンパ節(BM)   D C   B B
リンパ節(PS/PF) D C C      
リンパ節(PF、9例中1例陰性)         B  
リンパ節(PS、9例中2例陰性)         B  
リンパ節(乳房上)     D   C B
近位結腸   B B   B B
遠位結腸   D D   C C
回腸 D          
遠位回腸   B B   B  
近位回腸           B
遠位直腸         B+ B
膵臓         C**  
副腎     D   C C
鼻粘膜     D   C C


表1(続き)  ヒツジ及びヤギにおける自然発生スクレイピー−各齢のサフォーク種ヒツジ及びヤギのスクレイピー前臨床的/臨床的症例の組織分類をSwiss系マウスにおける病原体力価で示す(1999年7月22日・23日付け付属文書「ヒツジの血統及び遺伝子型分類の方針に関する意見書」より修正を加えず再編集)(EC 1999年)

感染力価*   A =  高(≧104.0
  B =  中程度(103.2〜104.0
  C =  低(≦103.2又は不明)
  D =  検出されず

  前臨床的症例 臨床的症例
齢(月) < 8 10〜144 25 > 25 34-37 38-39
陽性症例数/検査症例数 0/16 8/15 1/13 1/6 9/9 3/3
骨髄         C** D
肝臓         C**  
血餅   D     D D
血清   D       D
唾液腺     D   D D
唾液         D  
骨格筋         D D
心臓         D  
腎臓         D D
        D  
卵巣         D D
子宮         D D
胎盤         C**°  
胎仔         D  
乳腺         D D
初乳       D    
          D
精液嚢         D  
精巣         D  
糞便   D       D

*  =  組織30mg当りのマウス脳内LD50のlog10値(力価はおよその範囲で示す)
**  =  微量又はきわめて微量
 =  分析を行わなかったが、リンパ網内系組織の含量が多い
°  =  他の試験では陰性
MP  =  腸間膜/門脈
PF  =  大腿前
CSF  =  脳脊髄液
PS  =  肩前
LN  =  リンパ節
RP  =  咽頭後
BM  =  気管支縦隔


表 2  BSE確定症例から採取した組織のうち、脳内及び腹腔内に接種したマウスの生物学的検定で感染性が検出されなかった組織
(Kimberlin 1996年より)

神経組織
脳脊髄液
馬尾
末梢神経
− 坐骨
− 脛骨
− 内臓
リンパ網内系組織
脾臓
扁桃
リンパ節
− 大腿前
− 腸間膜
− 咽頭後
消化管
食道
第ニ胃
反芻胃(筋柱)
反芻胃(食道溝)
第三胃
第四胃
近位小腸
遠位小腸
近位結腸
遠位結腸
直腸
生殖組織
精巣
前立腺
精巣上体
精液嚢
精液
卵巣
子宮小丘
胎盤葉
胎盤液
− 羊水
− 尿膜腔液
乳房
その他の組織
血液
− バフィーコート
− 血餅
− ウシ胎仔
− 血清
骨髄
脂肪(腸間膜)
心臓
腎臓
肝臓

筋肉
− 半腱
− 横隔膜
− 最長
−咀嚼
膵臓
皮膚
気管


表 3  BSE病原体への実験的経口曝露又は自然曝露後の感染性に基づくウシの組織分類に関する予備推定の暫定的要約*

感染性力価**
A = 高   マウスで103.0〜105.0   ウシで105.7〜107.7***
B = 中   マウスで101.5〜103.0   ウシで103.3〜105.6***
C = 低   マウスで101.5以下   ウシで103.2以下***
D = 検出されず
? = データ未発表

  実験的 自然
        臨床的 臨床的
曝露後経過月数 6-14 18 32 36-40
    B / C C A
網膜         ?
脊髄     C C A
背根神経節     C C C
三叉神経節       C  
遠位回腸 B / C C   C  
リンパ節(咽頭後)         D
リンパ節(腸間膜)         D
リンパ節(膝窩)         D

感染性が検出されなかった組織のリストについては、本意見書の表 1及び表 2、添付報告書表 5及び付属文書参照。


* 詳細については報告書参照。
** ウシBSE症例における感染性の範囲はヒツジスクレイピー症例に比べ非対称的であったため、ここで使用した分類は暫定的で任意なものある。この分類は、表 1のグループ又は分類とは一致しない。
*** 太字で示した表の値はウシ生物学的検定に基づく。


──────────
1  主として保健・消費者保護総局及び企業総局
2  Hadlow他(1979年,1980年,1982年)、Pattison他(1964年,1972年)、Groschup他(1996年)による。DRGについては報告書参照。
3  更に感度の高い感染性測定法が使用されるようになってきたため、検査対象の齢範囲が10ヵ月未満まで引き下げられると思われる。16週齢のラムで扁桃の感染性が検出された例がある。胎盤はグループCに分類されているが、力価は不明である。
4  更に感度の高い感染性測定法が使用されるようになってきたため、検査対象の齢範囲が10ヵ月未満まで引き下げられると思われる。16週齢のラムで扁桃の感染性が検出された例がある。胎盤はグループCに分類されているが、力価は不明である。


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