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4−5.事業者が入手した有害性情報の取扱い
(1) 有害性情報の取扱いに関する日米欧の制度比較
欧米の制度においては、事前審査段階のほか、万が一高いリスクが懸念される場合に関して、新規化学物質の届出者や既存化学物質の製造・輸入事業者に対して、有害性に関する新たな科学的知見や数量・用途等の暴露条件に関する情報の提供を求めることができる制度が整備されている。
日本 |
米国 |
EU |
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- 新規化学物質に関する以下の情報の報告義務付け
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− |
年間上市数量/累積数量の変化 |
− |
新たな用途 等 |
- 既存化学物質に関する製造・輸入数量(3年毎に更新)及び新規用途
(随時)の報告義務付け
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○ |
事業者が自ら取得した有害性・リスクに関する情報 |
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- 指定化学物質に対する有害性調査指示(一定のリスクが見込まれる際に事業者に、長期毒性調査を指示)
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- 人又は環境への重大な影響(リスク)が懸念される場合の事業者に対する毒性試験指示
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- 既存化学物質のリスク評価に必要な場合、又は重大な影響(リスク)を呈するおそれがあるとの評価が示された場合の追加情報の提出義務付け
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(2) 米国における情報収集措置
有害物質規制法(TSCA)においては、事業者が自ら取得した有害性・リスクに関する情報を行政が適切に収集できるよう、以下のような制度が設けられている。
1)健康及び安全性に関する調査の報告(8条(d)) |
米国環境保護庁(EPA)は、事業者に対して、事業者自らが実施、あるいは知り得た健康、安全性調査結果の写し及びその一覧を提出することを要求できることとされている。
具体的には、第4条に基づく有害性評価(試験規則)のために優先物質として選ばれたもの、又はTSCAの目的達成のためEPAが安全性情報を要求する化学物質であってリストで公表された化学物質の製造・輸入、加工業者は、60日以内に要求された資料を提出しなければならない。
製造、加工、流通業者に対して、化学物質が健康又は環境を損なう相当な(substantial)リスク(※)を呈することを裏付ける情報を入手した場合、直ちに(原則として15日以内)、EPAに報告することを要求している。ただし、行政庁が既に把握していることを当該事業者が確実に分かっている情報(※※)についての報告は不要とされている。
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※相当なリスク: |
影響の深刻さと影響発生の事実又は蓋然性を考慮して決定される。例えば、がん、出生異常、突然変異、死亡、重度/長期の身体障害、環境汚染の非常事態等に化学物質が強く関与していることを裏付ける情報が考慮される。 |
※※例えば、運用上、以下の情報については、報告は不要とされている。
- EPAの研究や報告に含まれているもの
- 文献により一般に公開されているもの
- TSCA又は他法に基づき、既にEPAに提出されているもの
- 他の行政機関の公式な出版物や報告書で公開されているもの
- 既知の悪影響についての暴露経路などの傍証
- 安全保障の観点からEPAが免除するもの
など
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(3) EUにおける情報収集措置
EUにおいては、事業者が提出したデータの更新や新たな情報を得た場合の報告義務等について、以下のような制度が設けられている。
1)危険な物質の分類、包装、表示指令(67/548/EEC)におけるフォローアップ情報 |
新規化学物質の上市(製造又は輸入し、販売すること)の際に届出を行った者は、その新規化学物質について、以下の情報を所管当局に報告することが義務付けられている。
- 共同体市場に上市された年間数量又は累積数量の変化
- 人又は環境への化学物質の影響についての新たな知見
- 上市される化学物質に関する新たな用途
- 化学物質の組成の変化
- 製造・輸入業者の状況の変化
2)既存物質の評価と管理に関する理事会規則(793/93/EEC)に基づく措置 |
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(1)提出情報の更新等
上記の規則に従って既存化学物質に関して定められた情報を提出した製造及び輸入業者は、提出情報を3年毎に更新することが求められるとともに、特に以下の情報を必要に応じ提供することとされている。
- 人又は環境の物質への暴露を実質的に変化させるような新たな用途
- 物質が呈する潜在的なリスクの評価に関連する物理化学性状、毒性影響、生態毒性影響等について得られた新たなデータ
- 指令67/548/EECに基づく分類の何らかの変化
(2)重大なリスク情報の報告
既存化学物質の製造業者又は輸入業者は、当該化学物質が人の健康又は環境に重大なリスクを呈するおそれがある結論を裏付ける知見を得た場合には、直ちにこのような情報を欧州委員会(EC)及び所在国に報告しなければならない。
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(4) 事業者から有害性を裏づける情報の報告を受けた場合に想定している国の対応
化学物質の類型 |
報告情報(事業者の取得情報) の例 |
報告情報を踏まえた行政側の 対応の例 |
白告示物質 |
○ |
分解性、蓄積性、スクリーニング毒性、長期毒性のいずれかに関する試験成績 |
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○ |
新たな判定の根拠として十分であれば、判定を見直し |
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指定化学物質 |
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○ |
長期毒性の判断の根拠として十分であり、かつ、暴露の状況に関する情報と併せて必要な場合には、当該指定化学物質を第二種特定化学物質に指定 |
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既存化学物質 |
分解性・蓄積性の点検済み |
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○ |
新たな判断の根拠として十分であれば、判定を見直し |
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- 難分解性・低蓄積性が判明している化学物質→指定化学物質に指定
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- 難分解性・低蓄積性が判明している化学物質→指定化学物質に指定
- 難分解性・高蓄積性が判明している化学物質→第一種特定化学物質に指定
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分解性・蓄積性の点検未了 |
○ |
分解性、蓄積性、スクリーニング毒性、長期毒性のいずれかに関する試験成績分解性・蓄積性の点検未了 |
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○ |
新たな判定の根拠として十分であれば、指定化学物質等に新たに指定 |
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※ |
スクリーニング毒性:新規化学物質の審査の際に必要なスクリーニング毒性試験(ほ乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験、細菌を用いる復帰突然変異試験及びほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験による変異原性試験)において示される毒性 |
※※ |
毒性については、「環境中の生物への影響に着目した化学物質の審査・規制」に関する検討結果を踏まえ、環境中の生物への影響についても人の健康への影響と同様に対応を行う。 |
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