4−6.既存化学物質に係る取組について
(1) 政府における有害性評価・リスク評価の取組の現状
政府における有害性評価の取組としては、厚生労働省、経済産業省及び環境省において、既存化学物質を対象とする有害性試験の実施等により有害性データの取得を進めてきているほか、経済産業省においては化学物質安全性評価シートの作成・公表を行っている。また、リスク評価についても経済産業省及び環境省において取組が進められつつある。
対象物質の選定基準は必ずしも一致していないが、いずれの省においても原則として取扱数量が多く、安全性に懸念のある物質の優先度が高く設定されている。
1.有害性試験 |
1) 化学物質審査規制法関連 化学物質審査規制法に基づく審査においては、環境経由での人への健康影響が対象となっており、既存化学物質に対する同法の適切な執行の観点から、分解性・蓄積性に関しては経済産業省が、毒性に関しては厚生労働省が試験を実施している。これらの結果は、既存化学物質の化学物質審査規制法上の判定に活用されている。 (1)分解性・蓄積性 取扱数量の多い物質を中心に実施し、これまでに1,279物質の点検結果を公表している。対象物質の選定については、現在は以下の基準に基づき行われている。
(2)毒性 取扱量の多い物質を中心に、191物質(673試験)の点検結果を公表している。現在の選定基準は以下のとおり。
2) 労働安全衛生法関連 厚生労働省では、労働者にがんその他の重度の健康障害を有する恐れの有無を確認するため、労働安全衛生法57条の3に基づく事業者による調査のほかに、同法第57条の4の規定に基づき、国自ら行う既存化学物質の有害性調査を実施している。対象物質については、製造量、製造事業者数、用途、これまでに得られている有害性の知見等を勘案して選定され、変異原性試験、がん原性試験、生殖発生毒性試験を実施している。 3) 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律関連 厚生労働省では、上記法律の対象となる家庭用品に使用される化学物質の安全性評価のための試験検査を行っており、平成3年度から平成12年度までに実施した57物質の結果を公表している。 <試験項目> 変異原性試験、生殖発生毒性試験、皮膚感作性試験、細胞毒性試験、連続投与毒性試験等(試験項目は物質によって異なる) 4) 環境省が実施している生態毒性に関する試験 主としてOECD・HPV物質を対象として環境残留状況等を踏まえて物質を選定し「生態影響試験事業」を実施しており、これまでに平成7〜10年度に実施した185物質について結果を公表している。 <試験項目> 藻類生長阻害試験/ミジンコ急性遊泳阻害試験/ミジンコ繁殖試験 |
2.化学物質安全性評価シート |
経済産業省では、文献調査等により収集した化学物質の総合的な安全性についての情報に専門家による評価を加え、その結果を既存化学物質安全性(ハザード)評価シートとしてまとめている。これまでに化学物質排出把握管理促進法の第一種指定化学物質を中心に256物質の評価シートを作成・公表してきている。
<記載項目>
|
3.暴露評価の取組 |
1) 各種法令等に基づく数量データの把握
2) 環境モニタリング
3) 環境濃度予測モデル等の開発
|
4.リスク評価の取組 |
1)経済産業省 平成13年度より、上述の化学物質総合評価管理プログラムにおいて、化学物質排出把握管理促進法の対象物質のうち、特に人への健康リスクが高いと考えられる高生産量化学物質(約180物質)を中心に、当該物質の有害性情報、暴露情報等リスク評価のための基礎データを収集・整備し、初期リスク評価、詳細リスク評価を行うこととしている。 2)環境省
|
5.内分泌かく乱作用が疑われる化学物質に関する取組 |
内分泌かく乱作用が疑われる化学物質については、未だ科学的不確実性が多く指摘されているのが現状であり、科学的な検討評価を積み重ねつつ、内分泌かく乱作用によってもたらされる悪影響を明らかにした上で、適切なリスク評価の結果に基づいた対応をとることが必要である。
かかる観点から、政府における内分泌かく乱作用が疑われる化学物質に関する取組は、関係各省の連携の下で実施されており、環境実態調査や作用機序の解明を目的とした研究のほか、国際的な協調を図りつつ、試験法開発、リスク評価等の科学的知見の充実のための取組が実施されている。
(2) 事業者における有害性評価・リスク評価の取組事例
事業者においては、自主的取組として、個別事業者としての対応のほか、事業者団体の活動を通じた事業者間の協力や国際的な連携の中で化学物質の有害性情報の収集等に取り組んできている。対外的に取組内容を公表している主要例は以下のとおり。
1.我が国の産業界におけるHPV点検プログラムの取組状況 |
我が国化学業界もICCAの取組に参画しており、2002年11月の時点で、我が国企業は43物質の取りまとめ(リードカンパニー)と318物質の協力(メンバーカンパニー:外国企業がリードカンパニーになったものについて試験等を分担)を行うことを表明している。
産業界が作成したSIARドラフトについては、関係各省及び試験機関等によって構成されるレビュー委員会で評価された後、OECDへ報告されており、2002年3月に開催されたSIAM14までに14物質(ICCA全体では66物質)の評価が行われている。
2.事業者団体等における取組 |
1)「ビスフェノールA安全性5社研究会」 1997年に国内メーカー5社により設立され、ビスフェノールAの内分泌かく乱問題に関して、海外とも連携を図りながら試験の実施をはじめ、科学的事実の調査・情報提供等を行っている。 2)可塑剤工業会 代表的なフタル酸エステルであるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)を中心に20数年前から環境、安全問題に関して調査、研究に取り組んでおり、近年においても定期的な環境モニタリング調査のほか霊長類を用いた非発がん性に関する長期毒性試験を実施するなど、安全性の確認を行っている。 3)日本スチレン工業会 スチレンダイマー・トリマーの内分泌かく乱作用の評価のための各種試験を実施するなど、ポリスチレン製品の安全性に関する情報の収集・提供を行っている。 4)日本難燃剤協会 臭素系難燃剤の安全性に関して、海外のBFRIP(アメリカ臭素系難燃工業会)やBSEF(臭素・科学環境フォーラム)と協力し、科学的なデータの収集や毒性研究プログラム等への参加に努め、その環境安全性に関する情報提供を行っている。 5)日本石鹸洗剤工業会 化学物質排出把握管理促進法の対象物質となっている界面活性剤に使用されている主要洗浄成分について、ハザードデータの収集と評価、環境モニタリング並びにそれらの環境及び人の健康影響に関するリスク評価を行い、結果を公表している。
|
(3) 日米欧における既存化学物質に関する取組状況
日米欧のいずれの場合にも、新規化学物質の審査・規制制度の制定以前に製造・輸入されていた物質は、既存化学物質とされ、審査の対象外とされており、別途、有害性やリスクの評価が行われている。既存化学物質の有害性情報の収集に関しては、各国において相違があるが、リスク評価に関してはいずれも政府が行っている。なお、事業者に対して試験の実施を求める場合は、いずれにおいてもリスクが懸念される場合とされている。
米国においては、法律に基づき事業者への試験実施の指示が行える一方で、近年、産業界の自主的な取組を通じて既存化学物質の有害性評価を進めるためのプログラムが実施されている。
日本 | 米国 | EU |
○1973年の化学物質審査規制法公布の際に現に業として製造され、又は輸入されていたものを既存化学物質名簿に収載。約2万種 | ○1979年以前の米国における工業化学品を収載してインベントリーを作成。(1980年以降に審査が終了し製造・輸入が開始された新規化学物質も随時追加。約7万物質) | ○1981年にEUの市場にあった物質を欧州既存商業化学物質インベントリ(EINECS)に掲載。約10万物質 |
○年間生産・輸入量1万ポンド(約5t)以上等の要件に該当する15,000物質から、省庁間試験委員会が優先物質リストを作成 | ○高生産量化学物質(年間生産輸入量1000トン超)について事業者に対し所有している毒性データの提出を要求し、これらに基づいて欧州委員会が人や環境に影響を与えるおそれがあると考えられリスク評価を行うべき優先物質リストを作成(現在141物質) | |
○国が必要と認める物質について、厚生労働省が毒性、経済産業省が分解性及び蓄積性の試験を実施 ○指定化学物質に指定されたものについては、一定のリスクが見込まれる際に、製造・輸入事業者に対して有害性(長期毒性)調査を指示 |
○優先物質リストに掲載の物質について人の健康又は環境を損なう不当なリスクが懸念される場合に、製造・輸入業者等に毒性試験の実施を指示することができる。 | ○リスク評価に必要な追加情報については、事業者に追加試験の実施を要求することができる。 |
○1998年からは政府と産業界の合意に基づき年間生産・輸入量が100万ポンド(454トン)以上の高生産量化学物質について事業者の自主的取組(HPVチャレンジプログラム)を開始。 |
(4) OECDのHPV点検プログラムとICCAイニシアティブ
1.経緯 |
OECD高生産量化学物質(HPV:High Production Volume Chemicals) 点検プログラムとは、1991年のOECD理事会における既存化学物質の点検とリスク削減のための協力に関する決定に基づいて1992年から行われている国際的な取組。高生産量化学物質(OECD加盟国の少なくとも1ヶ国で年間1000トン以上生産されている化学物質)について、有害性の初期評価を行うために必要と考えられるデータを加盟国で分担して収集し、初期評価を行っている。
2.OECD・HPV対象物質 |
当初1000t/年以上の生産量が2ヶ国以上あるいは1ヶ国での生産量が10,000t/年以上のもののうち有害性情報の少ないものが対象とされた。その後、1993年にEUの既存化学物質の評価制度が設けられたことに対応して、1ヶ国(又は1地域)の生産量1000t/年以上の物質に変更され、現在、約5,200物質が対象となっている。
3.評価項目と評価スキーム |
1)評価に求められる項目 既存化学物質を最初に評価する際に、その潜在的な有害性を判定するための最低限必要なデータセットとしてSIDS(Screening Information Data Set)が定められており、以下の項目からなる。これらの項目について既存データを収集した上で適切性を評価し、必要な場合に追加テストを実施してデータを取得することとなる。試験費用については、全ての項目を実施した場合、物質当たり約4,000万円とされている。
2)評価スキーム 収集されたSIDSに基づき評価レポートであるSIAR(SIDS Initial Assessment Report)がまとめられ、OECD加盟国による初期評価会合SIAM(SIDS Initial Assessment Meeting)で評価を行った上、OECD化学品合同会合で承認される。 |
4.ICCA・HPVにおける取組 |
OECDにおけるHPV点検の加速化に貢献するため、ICCAでは1998年の総会において、2004年までに約1000物質を対象に、データ取得・初期評価を行うことを決定し、2001年よりSIARとしてOECDへの報告を開始したところ。
ICCAイニシアティブを実施していく一義的責任はそのHPV製造者にあるとされており、その企業は有害性データの収集、必要な場合には追加試験の実施が求められる。通常、これらの企業は特定の化学物質についてスポンサーとなることを表明し、同一物質を製造する他社あるいはグループと国際コンソーシアムを形成して取り組むこととなる。その中で、データの収集から有害性評価までの取りまとめに責任をもつリーダー企業を決定するとともに、役割分担とコスト負担についての合意がなされる(これらの方式は、欧米での既存化学物質の評価で従来行われている方式でもある。)。
5.計画と目標 |
1)OECD・HPV 具体的な計画としては、1994年のIFCSにおいて1997年末までに200物質、2000年末までにさらに300物質の評価を実施することとされた。 2)ICCA・HPV ICCAでは、1998年に、2004年までに1,000物質のHPVの有害性評価を実施する方針を打ち出している。
|