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4−2.化学物質管理に関する国際的な取組みについて

(1) OECDにおける新規化学物質の審査・規制に係る理事会決定等

(1) 化学物質の人及び健康に及ぼす影響を予測する方法及び、その必要性に関するガイドライン作成についての理事会勧告(1977年7月7日)

 本勧告においては、国際的に合意されたガイドラインの有用性、一つの国で発生した情報の他の国への受入方法の改善の必要性及び貿易における非関税障壁の発生を防ぐことを考慮して、以下のとおり勧告されている。

1. 加盟国が化学物質の影響予測に関し新たな方法の確立又は現存の方法を拡大する際にこの勧告の重要な部分である別添I及びIIに含まれているガイドラインを考慮することを勧告する。


別添I: 化学物質の人及び環境に及ぼす影響を予測するための方法及びその必要性に関するガイドライン
  • 適用範囲
  • 進め方及びデータ要求
  • 行政上の要求
  • 情報の流布
  • 監視及びモニタリング
別添II: 化学物質の潜在的な人の健康への危害及び自然界への放出についてスクリーニングするために必要であると思われるデータのタイプ
  • データのタイプ(物理/化学的性質、人の健康に関係あるデータ、自然界への放出)
  • 環境評価へのデータのタイプ(物理/化学的性質、自然環境に関する性質)

<参考>

これまでに作成されているテストガイドラインの内訳は以下のとおり。

(2) 化学品評価におけるデータ相互受け入れ(MAD:Mutual Acceptance of Data in the Assessment of Chemicals)に関する理事会決定(1981年5月12日)

 本決定においては、化学品の評価及び人と環境の保護に関連しその他の利用に供される試験データのOECD加盟国間での相互受け入れの利点と必要性を考慮して、以下のとおり決定されている。

1. OECDテストガイドライン及びOECD優良試験所基準に基づいて、あるOECD加盟国で得られた化学品の試験データは他の加盟国により人と環境の保護に関連した評価の目的、又は他の使用目的で受け入れられるべきことを決定する。

2. この決定及び他の理事会活動の目的のために用いられる”OECDテストガイドライン”と”OECD優良試験所基準”という用語は理事会により採択されたガイドライン及び指針であることを決定する。

<OECD−GLPの項目>

(3) 化学物質の評価における上市前最少データセットに関する理事会決定
(1982年12月8日)

 本決定において、加盟国は、新規化学物質が上市される前に、新規化学物質の人及び環境への有害性の意味ある評価をなしうるように新規化学物質の性状についての十分な情報を入手すべきであることを決定している。その履行に当たり、上市前最少データセット(MPD:Minimum Pre-Marketing Set of Data)は、化学物質の健康と環境への潜在的有害性の意味ある初期評価の基礎して役立つものであると勧告している。

<上市前最少データセット>

  • 化学物質の同定データ(名称、構造式等)
  • 製造/使用/廃棄データ(予定生産量、用途、廃棄方法、輸送方法)
  • 推奨される予防方法及び緊急時の方法
  • 分析方法
  • 物理/化学データ(融点、沸点、密度、水への溶解度、分配係数等)
  • 急性毒性データ(急性経口毒性、急性経皮毒性、急性吸入毒性、皮膚刺激性、皮膚感作性、眼刺激性)
  • 反復投与毒性データ(14〜28日の反復投与)
  • 変異原性データ
  • 生態毒性データ
    −魚類(LC50少なくとも96時間暴露)
    −ミジンコ(14日間繁殖テスト)
    −藻類(4日間生長阻害性)
  • 分解性/蓄積性データ
    −生分解性(スクリーニング段階の生分解性データ(易分解性)) −生物蓄積性(スクリーニング段階の生物蓄積性データ(分配係数、n-オクタノール/水分配係数、脂肪への溶解性、水への溶解性、生分解性))

(注)MPDでの弾力的運用条項

1. 試験の必要性及びその範囲に影響を及ぼす科学的、経済的要因に対し、ケースバイケースで正当な考慮が払われうること。

2. 加盟国はその行動を正当化しうる限りにおいて、ある種のテストを省略、代替又は初期評価の後段階において要求しうること。

(4) 既存化学物質の点検とリスク削減のための協力に関する決定
(1991年1月31日)

 本決定においては、加盟国で現在行われている評価、リスク削減戦略の構築、及び適切な場合にはリスク削減活動の実施のための共同作業が、この点で更なる努力のために重要であることを考慮して、既存化学物質の共同点検について以下の決定、勧告がされている。

A.共同点検

1. 加盟国においては、環境及び/又は一般市民若しくは労働者の健康に対して潜在的に有害な化学物質を同定するために、協力して高生産量(HPV)化学物質を点検しなければならないことを決定する。

2. 加盟国においては、1.で提示した作業を実施するに当たって、以下の事項を実行しなければならないことを決定する。

@. 協力して点検対象HPVを選定する。

A. 既存のデータの収集又は試験を確実に実施することにより、各化学物質の潜在的な有害性を情報に基づいて判断するために必要な、合意された基本データセットを入手する。

B. 基本データセットに基づく各化学物質の潜在的な有害性に関する初期評価を共同で行う。

3. 加盟国は、初期評価において潜在的に有害であると認められたHPV化学物質について、さらなるデータの導出及びその有害性やリスクについてのより詳細で系統的な評価の完了を含む、追加的な共同作業を行うことを勧告する。

4. 加盟国は、関心を共有するHPV以外の既存化学物質の点検作業についても、共同で行うことを勧告する。

5. 加盟国は、既存化学物質の共同点検によって得られた情報を、機密データの保護のための正当な要求を尊重しつつ、国連環境計画−国際有害化学物質登録組織(UNEP/IRPTC)を介して、一般に利用できるようにしなければならないことを決定する。

6. 国際化学物質安全性計画(IPCS)に対し、既存化学物質の健康及び環境への影響評価を準備するために、OECD加盟国による既存化学物質の点検結果を用いることを求める。

(5) OECD環境保全成果レビュー・対日審査報告書における「結論及び勧告」
(化学物質関連部分の仮訳)

2.3 化学物質

 日本は化学物質の重要な生産国、利用国及び輸出国であり、日本の化学産業の産出額(日本の製造業の総産出額の10%を占める)は、世界で12%を占め、一人あたり需要量もOECD諸国中最も多い。1990年代において、日本は新規化学物質の上市及び新たな農薬の登録に係る規制を引き続き実施した。近年、日本は、PRTR、ダイオキシン類及びPCBに係る法律を制定するとともに、有害化学物質の排出を削減するための対策を強化した。その結果の一例として、1997年から1999年にかけ、各産業部門からのダイオキシン類の排出量は60%から65%削減された。12種類の有害化学物質の大気への排出について、産業界の自主的取組は相当量の削減をもたらした。PCBの安全な処分は、関連する法制度及び技術の確立により再開された。日本は、内分泌かく乱作用の疑われる物質の問題に対して対応を始めた。また、化学物質管理(例えば、高生産量化学物質の安全性点検)に関する国際的なプログラムについて、OECDのプログラムも含め、引き続き積極的に参加している。有害化学物質の環境モニタリングは体系的で徹底している。
 いくつかの分野で引き続き進展が求められている。生態系の保全は、日本の化学物質管理政策の目的に、一般的には健康と並ぶ形で含まれていない。有害化学物質の排出削減に係る数量目標は、ダイオキシン類やその他のわずかな物質を除き設定されていない。(新規化学物質の上市前に必要な)試験手続を他のOECD諸国と調和させる日本の努力は、積極的に続けられるべきである。リスク評価は現在までにごくわずかの有害化学物質に対して行われただけである。製品中の有害化学物質に係る消費者へのリスクに関する情報は不十分である。化学物質の生産及び消費に係るデータは、健康リスクの評価に体系的には活用されておらず、また、より良いリスクコミュニケーションのための公表もなされていない。既存化学物質の大半は、いまだに安全性評価を受けていない。農薬使用のための実施基準は制定されており、多年にわたり農業者への教育プログラムにより推進されてきている。同基準の実施の確保が重要である。これまでの取組(インベントリー、処理技術の開発等)に続いて、廃残留性農薬の環境上適切な廃棄を促進すべきである。

以下のとおり勧告する。

  • 化学物質管理の効果及び効率をさらに向上させるとともに、生態系保全を含むように規制の範囲をさらに拡大すること。

  • 化学業界の自主的取組を強化するとともに、化学品製造者に対し(既存化学物質等の)安全性点検へのより積極的な役割を付与すること。

  • 消費財に使用されている化学物質の環境及び健康へ与えるリスクを、製品のライフサイクルのあらゆる段階において削減するよう、製造業者を奨励するための対策を導入すること。

  • 農薬の使用に関する規制及びガイドラインについて、農業者への指導を続けるとともに、農業者の遵守状況を引き続き監視すること。

  • 住民が利用しやすい化学物質に関するデータベース(例えば、毒性、リスク評価、ライフサイクルのあらゆる段階における排出等)を引き続き整備するとともに、有害化学物質に関するリスクコミュニケーションを強化すること。

  • 他のOECD諸国との協力(例えば、新規及び既存化学物質に関する試験手続の調和)を継続するとともに、東アジアにおける環境上適切な化学物質管理を引き続き促進すること。


2.3 Chemicals

 Japan is an important producer, user and exporter of chemicals, accounting for 12% of world output value in the chemical industry (10% of total Japanese manufacturing value) and with higher demand per capita than any other OECD country. In the 1990s, Japan continued to implement regulations on the introduction of new chemicals to the market and registration of new pesticides. In recent years, Japan has also adopted laws on a PRTR, dioxins and PCBs, and strengthened measures to reduce emissions/discharges of hazardous chemicals. As an example of the results, dioxin emissions from a range of industrial sectors were reduced by 60-65% from 1997 to 1999. Voluntary initiatives by industry concerning air emissions of 12 hazardous chemicals have led to substantial reductions. Safe disposal of PCBs has been put back on track with the development of related legislation and technologies. Japan has begun to address the issue of suspected endocrine disrupters, and has continued to be very active in international programmes concerning chemical management, including that of the OECD (e.g. safety investigation of high production volume chemicals). Environmental monitoring of hazardous chemicals is systematic and thorough.
 Progress is still required in several areas. Protection of ecosystems is not generally included alongside health in the objectives of Japanese chemical management policy. Quantitative targets for the reduction of releases of hazardous chemicals have not yet been set, except for dioxins and a few other substances. Japan's efforts towards harmonisation of test procedures (required before the introduction of new chemicals to the market) with those of other OECD countries should be actively continued. Risk assessment has been completed only for a few hazardous chemicals so far. Risk information to consumers concerning hazardous chemicals in products is insufficient. Data on production and consumption of chemicals are not systematically used to assess health risks, nor made public for better risk communication. The great majority of existing chemicals have yet to undergo safety assessment. A code of practice for pesticide application has been in place, and has been promoted through educational programmes for farmers, for many years. It is important to secure the implementation of the code. Following efforts made (e.g. inventory, development of disposal technologies), the environmentally sound disposal of obsolete persistent pesticides should be promoted.

It is recommended to:

  • further improve the effectiveness and efficiency of chemical management and furether extend the scope of regulation to include ecosystem protection;

  • strengthen voluntary initiatives in the chemicals industry and grant a more active role to chemical producers in safety investigations (e.g. of existing chemicals);

  • introduce measures to encourage manufacturers to reduce the environmental and helath risks posed by chemicals used in consumer products, at all stages of the products' life cycle;

  • continue to instruct farmers about and moniter their compliance with regulations and guidelines concerning the application of pesticides;

  • continue to develop publicly accessible databases on chemicals (e.g. on toxicity, risk assessment, emissions at all stages of the life cycle) and strengthen risk communication concerning hazardous chemicals;

  • continue to co-operate with other OECD countries (e.g. on harmonisation of test procedures for new and existing chemicals) and continue to promote environmentally sound chemical management in East Asia.



(2) 国連における化学物質管理を巡る最近の動向

 化学物質審査規制法の制定後、国際的にも化学物質管理に関する取組は大きく進展してきている。
 近年においては、(1)人と環境の保護をその目的とすること、(2)透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価・管理の手法を用いること、(3)その際、予防的取組方法(precautionary approach)に留意すること等の基本的な考え方に基づき、国際的な政策協調や協力が進められている。

「アジェンダ21(1992) 第19章」(抜粋)

「19.11 化学物質が引き起こすかもしれない人の健康への被害と環境への悪影響のリスクを評価することは、その化学物質の安全かつ有益な使用を計画するのに欠くことはできない。」

「環境と開発に関するリオ宣言(1992) 第15原則」

「環境を保護するために、予防的取組方法は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻なあるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化防止のための費用対効果が大きい対策を延期する理由として使われてはならない。」

「アジェンダ21実施計画(1997)」(抜粋)

「57 化学物質の適正な管理は持続可能な開発に不可欠であり、人間の健康と環境保護にとって基本的に必要なものである。化学物質に対して責任を持つすべての者は、化学物質のライフサイクルを通じて、その目的を達成するための責任を負っている。」

「持続的な開発に関する世界首脳会議(WSSD)実施文書(2002)」(抜粋)

「環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することを目指す。」
別紙参照)


(別紙)

持続可能な開発に関する世界首脳会議のための実施計画
(化学物質関連抜粋−経済産業省仮訳)


22.持続可能な開発と人の健康と環境の保護のために、ライフサイクルを考慮に入れた化学物質と有害廃棄物の健全な管理のためのアジェンダ21で促進されている約束を新たにする。とりわけ、環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することを目指す。また技術及び資金協力を行うことにより、開発途上国が化学物質及び有害廃棄物の適正な管理を行う能力を高めることを支援する。これは、あらゆるレベルにおける以下の行動を含む。

(a)国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約が2003年までに発効することが可能となり、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が2004年までに発効することが可能となるように、これらを含む化学物質と有害廃棄物に関する関係国際文書の批准と実施を促進するとともに、これらの実施に際して開発途上国を支援するとともに、調整を促進し、改善すること。

(b) 化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)によるバイア宣言及び2000年以降の優先行動事項に基づき、2005年までに国際化学物質管理への戦略的アプローチを更に発展させること、また、このために国連環境計画(UNEP)、IFCS、化学物質の管理に携わるその他の国際機関、その他関係国際機関及び主体が、適切な形で、緊密に協力するよう促すこと。

(c)化学物質の分類及び表示に関する新たな世界的に調和されたシステム(GHS)を2008年までに完全に機能させるよう、各国に対し同システムを可能な限り早期に実施するよう促すこと。

(d)化学物質及び有害廃棄物の環境上適正な管理を向上させ、環境関連の多国間協定を実施し、化学物質及び有害廃棄物に関連する諸問題についての人々の意識を高め、更なる科学的データの収集と利用を促進することを目的とし、そのための活動を促進するためのパートナーシップを促進すること。

(e)有害廃棄物の国境を超える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約等の関係国際文書に基づく義務と合致する形で、有害化学物質と有害廃棄物の国際的不法取引を防止し、有害廃棄物の国境を超える移動と処分により生ずる損害を防止するための努力を促進すること。

(f) 国内におけるPRTR制度(注:我が国では化学物質排出移動量届出制度)のような、化学物質に関する一貫し統合された情報の取得を促すこと。

(g) 水銀とその化合物に関するUNEPのグローバル・アセスメントなどの関係する研究をレヴューすること等を通じて、人間の健康と環境に害を及ぼす重金属によるリスクの軽減を促進すること。



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