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広報誌「厚生労働」

特集
生きがいを感じながら働けるように
「治療と仕事の両立」を実現しよう

日本の労働人口の約3人に1人が、何らかの疾患を抱えながら働いています。病気を抱えた方も、誰もが生きがいを持って、その能力を最大限に発揮できる社会を実現するため、国はさまざまな施策を展開しています。企業としても労働者本人の病気への理解と就業を継続する意思の表明を原則として、働きながらも通院できる仕組みづくりや、身体への負担を考慮した配属とするなど、環境整備に取り組むことも必要です。こうした取り組みが相まって、病気を持ちながらも働き続けることが可能となります。本特集では、「治療と仕事の両立」を実現するために国が行っていること、企業・医療機関・支援機関ができることなどを紹介します。

Part1 治療中の働き手を支える国の仕組み

国は、治療しながら働く労働者や、治療と仕事の両立を進めようとしている企業に向けて、さまざまな施策を展開しています。その一部を紹介します。

働き方改革実行計画で示された両立支援策

 労働者の3人に1人――。多くの人が、何らかの病気を抱え、治療しながら仕事をしています。近年の医療技術の進歩により、かつては「不治の病」とされていた病気においても「長く付き合う病気」に変化しつつあり、病気になったからといって、すぐに離職しなければならないという状況は必ずしも当てはまらなくなってきています。また、労働人口の高齢化が進むなかで、職場において病気を抱えながら働く労働者は、今後も増えることが予測されています。
 しかし、病気を治療しながら働く労働者のなかには、仕事上の理由で適切な治療を受けることができない人や、職場の理解が足りず、治療と仕事の両立に困難さを感じている人も少なくありません。場合によっては離職したり、治療を中断してしまうこともあります。また、職場での対応は個々の労働者の状況に応じて進めるため、支援の方法やかかりつけ医療機関等との連携に悩む企業担当者も少なくありません。
 病気を抱えながらも、体調や症状などに応じて仕事を継続することは、企業にとって継続的な人材の確保や生産性の向上につながるものであり、病気になっても安心して暮らせる社会の構築は、社会全体で取り組むべき課題です。
 このような状況も踏まえ、国は2017年3月に「働き方改革実行計画」を決定し、これに基づいて、「1 会社の意識改革と受け入れ体制の整備」、「2 トライアングル型支援などの推進」に取り組んでいます。
 1では、企業のトップや管理職の意識改革、受け入れ体制の整備の推進に加え、企業と医療機関が情報のやりとりを行う際の参考資料として疾患別サポートマニュアルの作成・普及などにも取り組みます。
 2の「トライアングル型支援」とは、両立支援コーディネーターが労働者(患者)に寄り添いながら、継続的に相談支援を行いつつ、主治医、企業・産業医と連携・調整を行い、治療と仕事の両立プランの作成などを進めていくことです。医療や心理学、労働関連法令などの一定の知識を身につけた両立支援コーディネーターを全国で養成・配置していきます。

症状や治療内容に合わせた個別の対応が求められる

 両立を進めるにあたって、労働者(患者)や企業はどんなことに注意をすればいいのでしょうか。

◎労働者(患者)の注意点
 治療と仕事の両立支援は、私傷病(労働者の業務以外での病気やケガ)に関わるものです。そのため、労働者本人からの支援の申し出を受けたことをきっかけに取り組むことが基本です。そして、本人の申し出のうえで、本人を介して企業と医療機関が情報のやりとりをして最終的に具体的な就業上の措置や配慮の内容を決めていくことが必要です。
 病気を抱える労働者本人が、主治医の指示に基づいて、治療を受けること、服薬すること、適切な生活習慣を守ること等、治療や病気の増悪防止について取り組むことが重要です。

◎企業の注意点
 企業では、労働者本人からの申し出が円滑に行われるよう、たとえば企業内ルールの作成と周知、研修の開催による両立支援の意識の啓発を行う、相談窓口をわかりやすくする等、環境を整備すること、また、労働者の理解を得たうえで、支援の基本ルールを定めることが大切です。ただし、症状や治療方法などは人によって異なるため、個別の対応を心がけましょう。仕事を続けながら治療する労働者に対しては、仕事によって疾病が増悪したり再発したりしないよう、本人の意向や主治医の意見を聞きながら仕事量や内容を見直すことも不可欠です。
 両立支援は、社内の上司や人事労務担当者、産業医と社外の医療機関や地域の支援機関などが連携することで、労働者本人の症状や仕事の内容に応じた、支援の実施が可能となります。

ニーズに即した支援策を活用しよう

 治療と仕事の両立に向けたさまざまな支援策を、どんな場面で使えばよいのか説明します

◎自社の両立支援策づくりに参考にしたい「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」
 治療と仕事の両立支援を目的とした自社のルールを定めるにあたって、ぜひ参考にしてほしいのが、「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」です。
 企業・医療機関における両立支援のためのやりとりの流れは、大きく3段階あります(図表)。


(1)労働者からの申し出を前提とし、事業者(人事労務担当者)と労働者がよく話し合って、労働者の業務の状況(職務上最低限必要となる作業や要件、勤務時間、職場環境等)を記載した勤務情報提供書を作成し、主治医に情報提供を行います。
(2)主治医は、勤務情報提供書を参考にして、労働者の業務の状況を踏まえ、就業継続の可否、就業上の措置及び治療に対する配慮に関する意見書を作成します。
(3)事業者は、主治医の意見書をもとに、産業医の意見も勘案し、労働者の就業継続・職場復帰の可否、就業継続・職場復帰する場合の就業上の措置や配慮事項について検討し、両立支援プランを作成します。

 詳しくは、ガイドラインをご覧ください。

◎医療との連携に役立つ「企業・医療機関連携マニュアル」
 治療と仕事の両立支援を行う際には、労働者本人の理解と同意の下、企業や医療機関等の関係者が必要に応じて連携することで、労働者の個別の状況に応じた支援の実施が可能となります。
「企業・医療機関連携マニュアル」は企業と医療機関が情報のやりとりを行う際の参考になるよう、ガイドラインに掲載している様式例に沿って、その作成のポイントを示すものです。具体的な事例を通じた記載例(事例編)として、がんの事例(4例)を作成しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

◎労働者・企業・医療機関の橋渡し役「両立支援コーディネーター」
 労働者と企業と医療機関がうまく連携することで、より適切な治療と仕事の両立の実施が可能となりますが、実際はなかなか連携が進んでいません。そこで国は、さまざまな機関との連携を総合的に支援する両立支援コーディネーターの養成を進めています。両立支援コーディネーターは、労働者に寄り添いながら、企業、医療機関等との連携をサポートすることがその機能として期待されているため、企業の人事労務担当者、産業保健スタッフ、医療機関の医療従事者または支援機関などが担うことが想定されています。養成研修では、医療や産業保健、労務管理、社会資源などに関する知識を学び、コミュニケーションスキルを身につけます。
 両立支援コーディネーターは、企業、医療機関、産業保健総合支援センター等、さまざまな機関に配置されています。治療と仕事の両立に悩んでいる方や企業は、ぜひ両立支援コーディネーターを活用しましょう。また、企業は自社社員の研修受講も検討してください。
なお、両立支援コーディネーターは、労働者の代理で企業との交渉を行うものではないので、注意が必要です。

◎地域における支援体制を促進する「地域両立支援推進チーム」
 地域全体で病気を抱えながら働く労働者を支援するため、各都道府県労働局には企業関係団体、都道府県(がん等の疾病対策の担当部署など)、地域の医療機関関係者、使用者団体、労働組合、産業保健総合支援センター等の関係者で「地域両立支援推進チーム」が設置されています。地域両立支援推進チームでは、各関係機関のそれぞれの相談窓口・連絡先の一覧や、両立支援のパンフレットなどを作成しています。各都道府県での取り組みは以下のホームページからご覧いただけます。

詳しくは、こちらをご覧ください。

◎情報収集に使いたい「治療と仕事の両立支援ナビ」
 治療と仕事の両立に役立つ情報を一元的に提供する目的でつくられたのが、「治療と仕事の両立支援ナビ」です。企業における両立支援の取り組み事例が読めるほか、企業向けシンポジウムの模様も動画配信されています。


詳しくは、こちらをご覧ください。

がん・難病・若年性認知症の支援にも力を注ぐ

 労働者がかかっている病気によって、働くうえで留意しなければならない点や、企業が配慮すべき点は異なります。疾患別の国の取り組みを紹介します。

◎がん患者の方
・就労支援事業
 医療技術の発達により、がんに罹患した後も、働きたいと考える人は少なくありません。
 そこで、全国に437施設あるがん診療連携拠点病院等に、がん相談支援センターを設置(2018年4月1日現在)し、就労に関する相談に対応しています。また、がん相談支援センターの就労支援に関する機能強化のため、2013年度より、「がん患者の就労に関する総合支援事業」として、そこに社会保険労務士や産業カウンセラー、キャリアコンサルタントなど就労関連の専門家を配置し、仕事と治療の両立の仕方や仕事復帰の時期、復帰に向けた準備や職場への伝え方などをアドバイスしています。
 さらに、同センターは専門機関とも連携してサポートします。2013年度から、ハローワーク(公共職業安定所)に配置された専門相談員とがん診療連携拠点病院等による就職支援モデル事業を実施。2016年度より事業を全国展開。その事業で得た知見を幅広く共有するため、事業主向けのセミナーを開くなどの取り組みも実施し、2017年度の就職率は55.4%に上りました。今年度からは職業相談・職業紹介や求人の開拓などのための体制を強化しています。
・診療報酬改定での支援
 2018年度診療報酬改定において、がん患者の治療と仕事の両立に関する診療報酬が新設されました。診療報酬による評価は、医療機関の主治医と企業の産業医との連携の下で、がん患者の治療と仕事の両立に向けた支援を充実させることをめざしたものです。

◎難病の方
・難病相談支援センター事業
 難病相談支援センターでは、難病を抱えた患者やその家族からの相談に対応し、必要な情報を提供します。患者や家族の多様なニーズに応えられるよう、地域のハローワークや保健所、患者家族会や医療機関などと連携しながら支援も行います。特に就労支援については、ハローワークにいる難病患者就職サポーターと連携し、難病の特性を踏まえた職業相談などに応じます。

◎若年性認知症の方
・若年性認知症支援コーディネーターの配置
 認知症のなかでも現役世代が発症する若年性認知症は、医療や介護のほか、就労や経済的な問題も大きく、若年性認知症の人やその家族が抱える問題に必要な支援を行うため、国は都道府県・指定都市への若年性認知症支援コーディネーターの配置を進めています。
 若年性認知症支援コーディネーターは、医療機関や地域のハローワーク等と連携して若年性認知症の人への就労支援を行うほか、本人やその家族に利用できる制度・サービスを紹介したり、本人や家族が交流できる居場所をつくったりするなど、生活全般について相談に応じ、支援を行います。

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    (発行元の(株)日本医療企画のページへリンクします)

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