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平成16年12月27日
厚生労働省食品安全部
南 監視安全課長
担当:渕岡、土井(内2477)


平成15年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について



 我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成15年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。
 平成15年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.33±0.59pg TEQ/kgbw/日(0.58〜3.05pgTEQ/kgbw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました
 なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。







 本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品・化学物質安全総合研究事業)「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」(主任研究者 佐々木久美子国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長)において実施されたものです。









(別紙)
ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究
(概要)

主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長

 目的
 ダイオキシン類の人への主な暴露経路の一つと考えられる食品について
(1)平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること
(2)個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

 方法
(1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)
 全国7地域の11機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成12年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。
 なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。
(2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究
 個別食品として、国内産及び輸入食品合計170試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。

 ダイオキシン類の調査項目
 従来通り、世界保健機構(WHO)が毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種の合計29種。

 結果の概要
(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)
 食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.33±0.59pgTEQ/kgbw/日(0.58〜3.05pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、14年度の調査結果(1.49±0.65pgTEQ/kgbw/日)と比べ、ほとんど同レベルであり、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。
 なお、同一機関で調製した試料であっても、魚介類、肉類、卵類及び乳、乳製品類として採取した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類の摂取量には約1.4〜3.9倍の差が生じることが分かった。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>

(5年間の調査結果)
  平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度
一日摂取量
(pgTEQ/日)
112.6
(59.5〜350.7)
72.66
(42.1〜100.5)
81.47
(33.3〜169.9)
74.45
(28.42〜169.82)
66.51
(28.95〜152.41)
体重1kg当たりの
一日摂取量
(pgTEQ/kgbw/日)
2.25
(1.19〜 7.01)
1.45
(0.84〜 2.01)
1.63
(0.67〜 3.40)
1.49
(0.57〜 3.40)
1.33
(0.58〜 3.05)
 数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50Kgとして計算している。


<表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移>

(単位:pgTEQ/kgbw/日)
地域 北海道
地区
東北地方 関東地方 中部地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B
平成10年度 2.77 1.26 2.06 2.14 2.00 1.87
平成11年度 1.29 1.47 1.65 4.04 1.59 1.68 1.53 1.57
平成12年度 0.84 1.10 1.92 1.30 1.72 1.48 1.44 1.41
平成13年度 0.67 2.02 1.08 1.99 1.42 1.65
平成14年度 0.88
0.94
1.44
1.16
1.46
2.05
1.46
2.01
2.76
1.34
2.33
3.40
0.90
1.17
1.51
1.40
1.67
1.93
平成15年度 0.84
1.03
1.33
0.72
0.84
1.35
0.78
1.86
3.05
0.90
1.01
2.93
1.02
1.06
2.05
1.34
1.48
1.86

地域 中部地方 関西地方 中国四国地方 九州地方
中部C 関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度 2.03 2.72 1.22 1.99
平成11年度 2.42 7.01 1.79 1.89 3.59 1.48 1.84 1.19
平成12年度 1.80 2.01 1.43 2.01 0.98 1.40 1.55 0.86
平成13年度 1.53 1.33 2.00 0.88 1.60 3.40
平成14年度 0.62
0.68
1.28
0.96
1.39
2.75
1.40
1.78
2.02
0.79
0.98
1.22
0.73
1.54
2.12
0.57
1.18
1.81
平成15年度 0.58
1.15
1.50
0.77
1.15
1.58
0.62
1.22
1.56
1.03
1.51
2.05
0.85
1.04
1.83
(注) 平成15年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量を用いて換算されたものである。表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県、東京都、横浜市、中部地方:石川県、名古屋市、関西地方:大阪府、中四国地方:山口県、香川県、九州地方:福岡県

  (2) 個別食品中のダイオキシン類濃度調査
 個別食品の測定結果は別添のとおりであった。

以上



【用語説明】

ダイオキシン類:
ダイオキシン及びコプラナーPCB

ダイオキシン:
ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB):
PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ:
通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF(毒性等価係数):
ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は1997年にWHOで再評価された最新のTEFを用いている。

TEQ(毒性等量):
ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):
長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。



表1 平成15年度 食品中のダイオキシン類の濃度 (pgTEQ/g)

食品 産地 ダイオキシン類 (pgTEQ/g)
PCDD/Fs Co-PCB Total
魚介類
(鮮魚)
あなご 国産 0.739 1.899 2.638
あなご 国産 0.476 0.939 1.415
うなぎ 輸入 0.128 0.205 0.333
うなぎ 輸入 0.200 0.292 0.493
うなぎ 輸入 0.152 0.285 0.437
かじき 国産 0.936 3.381 4.317
かじき 国産 1.916 3.569 5.484
かじき 国産 0.142 1.024 1.166
かつお 国産 0.046 0.230 0.276
かつお 国産 0.058 0.266 0.323
かます 国産 0.163 0.415 0.578
かます 国産 0.368 0.932 1.300
かます 国産 0.428 1.277 1.705
かれい 国産 0.061 0.050 0.111
かれい 国産 0.100 0.109 0.209
きす 国産 0.083 0.162 0.245
きす 国産 0.284 0.520 0.804
きす 国産 0.112 0.161 0.272
金目鯛 国産 0.050 1.106 1.156
金目鯛 国産 0.070 1.761 1.831
金目鯛 国産 0.205 1.018 1.222
さけ 国産 0.014 0.053 0.067
さけ 国産 0.015 0.052 0.067
さけ 国産 0.008 0.026 0.034
さけ 輸入 0.070 0.383 0.453
さけ 輸入 0.007 0.085 0.092
さば 国産 0.845 1.672 2.517
さば 国産 0.441 1.194 1.635
さば 国産 0.323 0.790 1.113
すけとうたら 国産 0.002 0.027 0.029
すけとうたら 国産 0.011 0.366 0.377
すずき 国産 1.185 6.126 7.310
すずき 国産 1.672 5.520 7.192
たちうお 国産 0.156 0.645 0.801
たちうお 輸入 0.042 0.034 0.076
ひらめ 国産 0.054 0.133 0.187
ひらめ 国産 0.056 0.147 0.202
ぶり 国産 0.831 2.735 3.566
ぶり 国産 1.043 3.347 4.391
ぶり 国産 0.717 1.951 2.668
ほっけ 国産 1.306 3.305 4.612
ほっけ 国産 0.084 0.210 0.293
ほっけ 国産 0.102 0.160 0.261
まあじ 国産 0.228 0.450 0.679
まあじ 国産 0.613 0.694 1.308
まあじ 国産 0.311 0.457 0.767
まいわし 国産 0.173 0.595 0.768
まいわし 国産 0.093 0.229 0.322
まいわし 国産 0.139 0.468 0.607
まぐろ 国産 0.091 0.304 0.395
まぐろ 国産 0.321 1.177 1.498
まぐろ 国産 <0.001 0.013 0.013
まだら 国産 0.002 0.065 0.067
まだら 国産 0.004 0.075 0.079
まだら 国産 <0.001 0.027 0.027
魚介類
(貝類)
あさり 国産 0.190 0.054 0.244
あさり 国産 0.001 <0.001 0.001
かき 国産 0.099 0.262 0.361
かき 国産 0.410 0.204 0.614
かき 国産 0.033 0.047 0.080
しじみ 国産 0.519 0.369 0.888
しじみ 国産 0.549 0.430 0.979
しじみ 国産 0.126 0.130 0.256
ホタテ貝 国産 0.044 0.068 0.112
ホタテ貝 国産 0.094 0.193 0.288
ホタテ貝 国産 0.014 0.001 0.015
魚介類
(甲殻類)
かに 国産 1.408 2.062 3.471
かに 国産 0.249 0.220 0.469
魚介類
加工品
塩さけ 国産 0.011 0.040 0.051
塩さけ 国産 0.136 0.256 0.392
塩さけ 輸入 0.168 0.296 0.463
塩さば 国産 1.222 1.475 2.697
塩さば 国産 0.457 0.969 1.426
塩さば 輸入 0.173 0.296 0.469
塩さば 輸入 0.082 0.371 0.453
ししゃも 輸入 0.572 0.866 1.438
ししゃも 輸入 0.559 0.820 1.379
ちりめんじゃこ 国産 0.283 0.492 0.775
ちりめんじゃこ 国産 0.055 0.204 0.258
ちりめんじゃこ 国産 0.238 0.217 0.455
煮干し 国産 1.033 1.668 2.702
めざし 国産 0.433 0.648 1.081
鯨肉 鯨肉 国産 <0.001 0.013 0.013
鯨肉 国産 <0.001 0.038 0.038
鯨肉 国産 <0.001 0.013 0.013
鯨肉 国産 0.082 2.271 2.353
鯨(脂肪) 国産 4.943 119.950 124.893
鯨肉 国産 <0.001 0.003 0.003
鯨肉 国産 <0.001 0.039 0.039
鯨肉 国産 0.107 1.735 1.842
国産 0.011 0.215 0.226
国産 0.006 0.246 0.252
畜産食品 牛肉 国産 0.161 0.057 0.219
牛肉 国産 0.067 0.038 0.105
牛肉 国産 0.004 0.003 0.006
豚肉 国産 0.001 0.002 0.003
豚肉 国産 <0.001 0.002 0.002
豚肉 国産 <0.001 0.003 0.004
鶏肉 国産 0.024 0.053 0.077
鶏肉 国産 0.003 0.168 0.171
鶏肉 国産 0.034 0.052 0.086
牛レバー 国産 0.009 <0.001 0.009
牛レバー 国産 0.177 0.021 0.198
牛レバー 国産 0.018 <0.001 0.019
豚レバー 国産 0.110 0.010 0.120
豚レバー 国産 0.232 0.071 0.303
豚レバー 国産 0.114 <0.001 0.114
鶏レバー 国産 0.008 <0.001 0.008
鶏レバー 国産 0.012 0.613 0.625
鶏レバー 国産 0.018 0.025 0.043
コンビーフ 国産 0.065 0.023 0.087
サラミ 国産 0.062 0.076 0.139
ソーセージ 国産 0.006 0.003 0.008
ベーコン 国産 0.001 0.002 0.002
うずら卵 国産 0.035 0.038 0.074
うずら卵 国産 0.044 0.039 0.083
鶏卵 国産 0.005 0.024 0.029
鶏卵 国産 0.133 0.038 0.171
乳製品 アイスクリーム 輸入 0.065 0.033 0.098
アイスクリーム 輸入 0.006 0.001 0.007
アイスクリーム 国産 0.018 0.001 0.019
アイスクリーム 国産 0.045 0.017 0.062
アイスクリーム 国産 0.039 0.001 0.040
アイスクリーム 輸入 <0.001 <0.001 <0.001
アイスクリーム 輸入 0.061 0.033 0.095
アイスクリーム 国産 0.102 0.035 0.137
アイスクリーム 国産 0.044 0.021 0.066
アイスクリーム 国産 0.018 0.013 0.031
牛乳 国産 <0.001 <0.001 0.001
牛乳 国産 0.031 0.001 0.032
牛乳 国産 0.001 <0.001 0.001
乳製品 チーズ 国産 0.031 0.040 0.071
チーズ 国産 0.038 0.081 0.119
チーズ 国産 0.103 0.037 0.140
ヨーグルト(はっ酵乳) 国産 0.010 0.001 0.011
ヨーグルト(はっ酵乳) 国産 <0.001 <0.001 0.001
ヨーグルト(はっ酵乳) 国産 0.021 <0.001 0.021
野菜 ちんげんさい 国産 0.011 <0.001 0.011
ちんげんさい 国産 0.001 <0.001 0.001
ちんげんさい 国産 <0.001 <0.001 <0.001
ほうれんそう 国産 0.033 0.001 0.034
ほうれんそう 国産 0.002 <0.001 0.002
ほうれんそう 国産 0.105 <0.001 0.105
ほうれんそう 国産 0.002 <0.001 0.002
果実 国産 <0.001 <0.001 <0.001
国産 <0.001 <0.001 <0.001
ぶどう 国産 <0.001 <0.001 <0.001
ぶどう 国産 <0.001 <0.001 <0.001
りんご 国産 <0.001 <0.001 <0.001
りんご 国産 <0.001 <0.001 <0.001
加工食品 切り干し大根 国産 0.023 <0.001 0.024
切り干し大根 国産 0.022 <0.001 0.022
切り干し大根 国産 0.087 <0.001 0.087
茶葉 国産 0.069 0.017 0.086
茶葉 国産 0.056 0.020 0.076
茶葉 国産 0.078 0.026 0.104
茶葉 国産 0.031 0.022 0.053
クッキー 国産 0.004 <0.001 0.005
クッキー 国産 0.081 0.138 0.219
クッキー 国産 0.002 <0.001 0.002
ビスケット 国産 0.001 <0.001 0.002
ビスケット 国産 0.002 <0.001 0.002
乾昆布 国産 0.001 <0.001 0.001
乾昆布 国産 0.007 0.001 0.008
乾海苔 国産 0.170 0.002 0.172
乾海苔 国産 0.096 0.013 0.108
乾ひじき 国産 0.028 0.001 0.029
乾ひじき 国産 0.032 0.001 0.033
乾わかめ 国産 0.002 0.001 0.003
乾わかめ 国産 0.009 0.021 0.030



厚生労働科学研究費補助金(食品安全確保研究事業)
総括研究報告書

ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究

主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所 食品部第一室長


研究要旨
 ダイオキシン類による食品汚染実態及び食事経由一日摂取量を把握するための調査研究を実施するとともに,ダイオキシン測定の迅速化,精密化及びダイオキシン類の摂取低減化を図ることを目的として,下記の5課題の研究を実施した.

 (1)ダイオキシン類のトータルダイエットによる摂取量調査
 (2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 (3)ダイオキシン類の迅速測定法及び分析の精密化に関する研究
(3-1)ELISAによる市販魚中のコプラナーPCBs及び総PCBsのスクリーニング法の開発
(3-2)寿司ネタコンポジット試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用
 (4)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究

 (1)では,全国11機関で調製したトータルダイエット試料による調査を実施し,食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均が,1.33±0.59 pgTEQ/kgbw/dayであることを明らかにした.
 (2)では,魚介類,畜産物,野菜・果実,及びそれらの加工品等170試料中のダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.
 (3-1)では,市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsに対するスクリーニング法として,ELISAキット(EnBio Coplanar-PCB EIA system)の検討を行った結果,本法は安価で簡便に多数検体のCo-PCBs毒性等量及び総PCBs濃度を測定できるため,スクリーニング法として有用であると考えられた.
 (3-2)では,寿司ネタ試料中のダイオキシン類を測定した結果,CALUXアッセイとHRGC/HRMS法とによい相関を認めた.また,HRGC/HRMSによる分析値を用いて寿司ネタ一食分からのダイオキシン類摂取量を算出した結果,0.4〜18.9 pgTEQ/kgbwであった.
 (4)では,Ahイムノアッセイを利用したインビトロの系で,2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)によるバイオアッセイ系活性化に対する植物性食品成分の抑制効果について検討した.95種の植物性食品成分について評価した結果,フラボン類,フラボノール類,アントラキノン類,piperine,coumestrol,brevifolincarboxylic acid,resveratrolに,TCDDによるアッセイ系活性化に対する抑制効果が認められた.また,curcumin,carnosol,capsaicinも抑制効果を示した.


分担研究者
米谷 民雄 国立医薬品食品衛生研究所
食品部長
飯田 隆雄福岡県保健環境研究所
保健科学部長
堤 智昭国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
天倉 吉章国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官

A.研究目的
 ダイオキシン類の摂取は,そのほとんどが食事経由であり,わが国では魚介類を介したダイオキシン類の摂取が多い.本研究では,ダイオキシン類の摂取量及び個別食品の汚染実態を把握するための調査,ダイオキシン類測定の迅速化,ダイオキシン類の摂取低減化を図ることを目的として,次の5課題の研究を実施した.
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
(3)ダイオキシン類の迅速測定法及び分析の精密化に関する研究
(3-1)ELISAによる市販魚中のコプラナーPCBs及び総PCBsのスクリーニング法の開発
(3-2)寿司ネタコンポジット試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用
(4)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究

B.研究方法
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 全国7地区の11機関で,それぞれ約120品目の食品を購入し,厚生労働省の平成12年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて,それらの食品を計量し,そのまま,または調理した後,13群に大別して,混合し均一化したものを試料とした.さらに第14群として飲料水を試料とした.なお,魚介類の10群,肉・卵の11群及び乳・乳製品の12群は,各機関で魚種,産地,メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した.これらについて,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し,一日摂取量を算出した.

(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 国内産食品(156試料)及び輸入食品(14試料)について,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析した.

(3-1)ELISAによる市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsのスクリーニング法の開発
 魚試料をアルカリ分解後,濃硫酸洗浄,多層シリカゲルカラム,アルミナカラムを用いてクリーンアップを行い,Co-PCBsを含む分画をELISAに供した.再現性試験,希釈試験,添加回収試験等で本ELISAキットの性能を評価した.また,HRGC/HRMS分析によるCo-PCBs毒性等量濃度及びGC-ECD分析による総PCB濃度との相関を検討した.

(3-2)寿司ネタコンポジット試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用
 市販の寿司15試料をネタとシャリに分け,各寿司試料毎にネタを均一化したコンポジット試料について,CALUXアッセイとHRGC/HRMS法でダイオキシン類を測定した.

(4)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究
 Ahイムノアッセイを利用し,TCDDによるバイオアッセイ系活性化に対する各種植物性食品成分の抑制効果について検討した.すなわち,Ahイムノアッセイのマイクロプレートウェルに,活性化サイトソル及び試料溶液を加え,20分間振とう後,TCDDを暴露した.さらに,2時間インキュベートした後,ELISAキットにより吸光度を測定し,AhRのリガンド活性を求めた.
 試料無添加で得られた値をコントロール100%とし,化合物濃度−AhR活性の反応曲線より,TCDDによるAhRリガンド活性を70%に抑制する濃度をEC70とし,化合物の活性度を表した.

C.結果及び考察
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 ダイオキシン類の平均一日摂取量は1.33±0.59 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.58〜3.05 pgTEQ/kgbw/day)であった.これらの値は,平成13,14年度の調査結果(1.63 ± 0.71 ,1.49 ± 0.65 pgTEQ/kgbw/day)とほとんど同じレベルであり,日本における耐容一日摂取量(4 pgTEQ/kgbw/day)より低かった.なお,同一機関で調製したTDS試料でも,10〜12群に選択した食品の種類,産地等の差により,ダイオキシン類摂取量には約1.4〜3.9倍の差があった.
 一日摂取量はこの3年間横這いであることから,今後も調査を継続し,推移を見守る必要がある.

(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 鮮魚(55試料)から,0.013〜7.310 pgTEQ/g(平均1.287 pgTEQ/g),魚干物(13試料)から,0.051〜2.697 pgTEQ/g(平均0.872 pgTEQ/g)のダイオキシン類が検出された.畜肉及びレバー各9試料のダイオキシン類濃度はそれぞれ平均0.075,0.160 pgTEQ/gであった.牛乳,アイスクリーム等19試料中15試料からは0.007〜0.139 pgTEQ/g検出された.ほうれんそう及びちんげんさいから0.002〜0.0104 pgTEQ/g検出されたが,ぶどう,りんご及び柿からは検出されなかった.
 茶葉と切り干し大根からは,それぞれ0.053〜0.104 pgTEQ/g,0.022〜0.088 pgTEQ/gが検出された.
 乾燥昆布,海苔,ひじき及びわかめ8試料中7試料から,0.003〜0.172 pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.

(3-1)ELISAによる市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsのスクリーニング法の開発
 本ELISAキットは,本研究で行った前処理法との組み合わせで,魚試料中のPCB 118を良好に測定することが可能であった.本法は魚試料中のCo-PCBsのTEQ濃度に対し良好な相関性が見られたことから,TEQ濃度の推定法としての利用が期待できた.さらに,本法は総PCBsに対しても良好な相関を示したことから,総PCBs濃度の推定法としての利用も期待できた.今後はより多くの比較検体を測定し,TEQ濃度を推定する場合の誤差範囲をより明らかにしていく必要があると考えられる.

(3-2)寿司ネタコンポジット試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用
 寿司コンポジット15試料についてHRGC/HRMS法とCALUXアッセイとで求めた濃度の相関係数はPCDDs/PCDFs:r=0.918,Co-PCBs:r=0.798,総ダイオキシン:r=0.770であり,CALUXアッセイは寿司試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった.寿司ネタ一食分からのダイオキシン類摂取量は0.4〜18.9 pgTEQ/kgbw(平均5.0 pgTEQ /kgbw)であった.

(4)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究
 ダイオキシン類毒性バイオアッセイ系のTCDDによる活性化に対して,フラボノイド類,アントラキノン類,加水分解性タンニン類等が抑制効果を示した.昨年度のAhRと植物性食品成分との相互作用についての検討では,フラボン類,アントラキノン類などのいくつかの化合物が高濃度でAhR活性化作用を示すことを報告した.一方,coumestrol,piperine,carnosol,capsaicin等はAhR活性を示さず,抑制効果のみを示した.
 このように,いくつかの植物性食品成分は,インビトロアッセイ系において,アゴニストとアンタゴニストの両作用を示すことが示され,それらは通常の摂取レベルではアンタゴニスト様に作用している可能性が推測された.今回の結果は,あくまでも予備的な検討であるが,いくつかの食品成分は,ダイオキシンのリスク低減のために作用している可能性が示された.

D.結論
 5課題について研究し,下記の成果を得た.
(1)トータルダイエット調査により,ダイオキシン類の一日摂取量が1.33 ± 0.595 pgTEQ/kgbw/dayであることを明らかにした.
(2)個別食品中のダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.
(3-1)ELISAキット(EnBio Coplanar-PCB EIA system)の性能を評価した結果,市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsに対するスクリーニング法として有用であった.
(3-2)寿司試料のダイオキシン類スクリーニングにはCALUXアッセイが有用であった.
(4)Ahイムノアッセイを用いてTCDDによるアッセイ系活性化に対する植物性食品成分の抑制効果について検討した結果,フラボン類,フラボノール類,アントラキノン類,piperine,coumestrol,brevifolincarboxylic acid,resveratrolに顕著な抑制効果が認められた.また,curcumin,carnosol,capsaicinも抑制効果を示した.

F.健康危険情報
 なし

G.研究発表
1.論文発表
1) Tsutsumi, T., Amakura, Y., Okuyama, A., Mizukami, H., Tanioka, Y., Ueda, K., Sakata, K., Sasaki ,K., Maitani, T., Applicability of ELISA to screen for dioxin-like PCBs in retail fish,Organohalogen Compounds,66, 603-607(2004)
2) Toyoda, M., Nishida, K., Tagata, H., Kawakami, H., Nagasaki, T., Nakamura, M., Yabushita, H., Murata, H., Amakura, Y., Tsutsumi, T., Sasaki, K., Application of the CALUXTM assay to the analysis of DXNs in a composite from sushi samples (the third report), Organohalogen Compounds,60, 251-254 (2003)
3) Amakura, Y., Tsutsumi, T., Sasaki, K., Yoshida, T., Maitani, T.: Screening of the inhibitory effect of vegetable constituents on the AhR-mediated activity induced by 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, Biol. Pharm. Bull.,26, 1754-1760 (2003).
4) Amakura, Y., Tsutsumi, T., Nakamura, M., Sasaki, K., Yoshida, T., Maitani, T.: Interaction of some plant food extracts with aryl hydrocarbon receptor determined by in vitro reporter gene assay, Natural Medicines,58, 31-33 (2004).

2.学会発表
1) Tsutsumi, T., Amakura, Y., Yanagi, T., Nakamura, M., Kono, Y., Uchibe, H., Iida, T., Toyoda, M., Sasaki, K. and Maitani, T.: Levels of PCDDs, PCDFs and dioxin-like PCBs in retail fish and shellfish in Japan
23rd International Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutants & POPs (2003.8)
2)奥山 亮,水上春樹,谷岡洋平,上田和恵,坂田一登,堤 智昭,天倉吉章,佐々木久美子,森田昌敏,米谷民雄.ELISAによる市販魚中のコプラナーPCB簡易測定法の開発,第6回環境ホルモン学会(2003.12)
3)堤 智昭,天倉吉章,奥山 亮,水上春樹,谷岡洋平,上田和恵,坂田一登,佐々木久美子,米谷民雄.ELISAによる市販魚中のコプラナーPCBs及び総PCBsのスクリーニング
第124回薬学会(2004.3)
4)天倉吉章,堤 智昭,佐々木久美子,吉田隆志,米谷民雄:ダイオキシンのAhR結合活性に対する植物性食品成分の抑制効果,日本薬学会第123年会(2003. 3).

H.知的財産権の出願,登録
 なし


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