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厚生労働科学研究費補助金(食品安全確保研究事業)
分担研究報告書

ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究
(3)ダイオキシン類の迅速測定法及び分析の精密化に関する研究

(3-2)寿司ネタコンポジット試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用

分担研究者  堤 智昭  国立医薬品食品衛生研究所


研究要旨
 魚介類を主原料に用いている寿司試料についてそのダイオキシン類濃度を簡易に知る目的で、CALUXアッセイを用いて測定したダイオキシン類の毒性等量と従来法(HRGC/HRMS法)を用いて測定した毒性等量との相関を検討した。寿司一人前のネタの混合試料である15コンポジット試料を用いて検討した結果、従来法による総ダイオキシン濃度(TEQ換算値)は0.26〜7.23 pgTEQ/g(平均1.74 pgTEQ/g)であった。総ダイオキシンの内Co-PCBsとPCDDs/PCDFsの濃度は、それぞれ0.20〜6.53 pgTEQ/g(平均1.46 pgTEQ/g)及び0.06〜0.96 pgTEQ/g(平均0.28 pgTEQ/g)であった。一方CALUXアッセイによる総ダイオキシン濃度(CALUX-TEQ換算値)は0.69〜2.71 pgCALUX-TEQ/g(平均1.23 pgCALUX-TEQ/g)であった。総ダイオキシンの内Co-PCBsとPCDDs/PCDFsの濃度は、それぞれ0.19〜0.92 pgCALUX-TEQ/g(平均0.38 pgCALUX-TEQ)及び0.50〜1.79 pgCALUX-TEQ/g(平均0.85 pgCALUX-TEQ/g)であった。HRGC/HRMS法とCALUXアッセイとの相関係数はPCDDs/PCDFs濃度についてはr=0.918、Co-PCBs濃度についてはr=0.798であり、総ダイオキシン濃度ではr=0.770となった。このことからCALUXアッセイとHRGC/HRMS法とは良い相関があることが分かり、CALUXアッセイは寿司一人前試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった。
 なお、HRGC/HRMS法による分析値から求めた寿司ネタ一食分からのダイオキシン類摂取量を、日本人の平均体重を50 kgとして体重当たりの摂取量に換算すると、0.4〜18.9 pgTEQ/kgbwであり、一部の試料ではTDIを超えていたことから、バランスの取れた食生活が重要である。なお、総摂取量の内PCDDs/PCDFs由来が16.4%、Co-PCBs由来が83.6%を占めていた。

研究協力者
実践女子大学 豊田正武
(財)冷凍食品検査協会 田形 肇
株式会社日吉 中村昌文

A.研究目的
 迅速・安価にダイオキシン毒性等量(CALUX-TEQ)が測定できるCALUXアッセイは、スクリーニングの手段として広く利用されており、水質・大気・土壌などの環境試料の他、母乳・血液・脂肪などの生体試料、魚類などの食品試料に関する分析においても実績がある。
 本研究では、魚介類を主原料に用いている寿司試料についてダイオキシン類濃度を簡易に知る目的で、CALUXアッセイを用いて測定した毒性等量と従来法(HRGC/HRMS法)を用いて測定した毒性等量との間の相関を検討した。
 さらに、本研究班で平成13、14年度に実施したトータルダイエット調査によると、ダイオキシン類一日摂取量のうち魚介類からの摂取量が77%と大部分を占めており、食品由来のダイオキシン類摂取量には魚介類の寄与がもっとも大きいことから、魚介類摂取の多い代表的な食事として考えられる寿司一食分からのダイオキシン類摂取量をHRGC/HRMS法により得られたダイオキシン類濃度から推定した。

B.研究方法
1.試料

 2002年10月から2003年10月にかけて東京都及び神奈川県で購入した寿司15試料を用いた。12試料はミックス寿司で3試料はマグロ寿司であった。全ての寿司試料はネタとシャリに分け、各寿司試料毎に全てのネタをフードプロセッサーにかけて均一にしたものをコンポジット試料とし、分析に供するまで−80℃で冷凍保管した。
 表1に使用した寿司試料の内訳としてネタの種類と重量及びシャリの重量を示した。

2.試験方法
 HRGC/HRMS法については、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(厚生労働省,平成11年10月)に従った。CALUXアッセイについては平成13年度の分担研究(1-2)の報告書と同じ方法を用いた。
 HRGC/HRMS法は1連の結果を用い、CALUXアッセイは3連の結果の平均値を用いた。CALUXアッセイでは不検出は定量下限値の1/2の0.08 pgCALUX-TEQ/gを用いた。

C.研究結果及び考察
1. HRGC/HRMS法による寿司コンポジット試料中のダイオキシン類濃度

 表2に15試料の総ダイオキシン濃度(TEQ換算値)を示した。その範囲と平均値は0.26〜7.23 pgTEQ/g及び1.74 pgTEQ/gであった。総ダイオキシンの内Co-PCBsとPCDDs/ PCDFsの濃度範囲と平均値は、それぞれ0.20〜6.53 pgTEQ/g(平均1.46 pgTEQ /g)及び0.06〜0.96 pgTEQ/g(平均0.28 pgTEQ/g)であった。TEQにおける各異性体の占める割合では、Co-PCBsの内3,3’,4,4’,5-PeCB(♯126)が最も多く、No.8、13、11の3試料でそれぞれ57.3%、55.3%、49.0%とほぼ半分を占めた。
 なお、寿司コンポジット試料にダイオキシン各異性体0.5 pg/g及びCo-PCBs 各異性体500 pg/gを添加した場合、回収率は2連の平均値で77.7〜108.8%と良好であった。

2.CALUXアッセイによる寿司コンポジット試料中のダイオキシン類濃度
 CALUXアッセイでは分析値の変動係数(C.V.)が4.3〜66.1%と大きなバラツキが認められたため、同一試料について3連で分析しその平均値を用いることとした。
 表2に示すように15試料の総ダイオキシン濃度(CALUX-TEQ換算値)の範囲は0.69〜2.71 pgCALUX-TEQ/g、平均値は1.23 pgCALUX-TEQ/gであった。総ダイオキシンの内Co-PCBsとPCDDs/PCDFsの濃度範囲と平均値は、それぞれ0.19〜0.92 pgCALUX-TEQ/g(平均0.38 pgCALUX-TEQ /g)及び0.50〜1.79 pgCALUX-TEQ/g(平均0.85 pgCALUX-TEQ/g)であった。
 なお、寿司コンポジット試料に添加したPCDDs/PCDFs及びCo-PCBs(♯126)の回収率は2連の平均値でそれぞれ70.5%及び67.2%と良好であった。

3.HRGC/HRMS法とCALUXアッセイによるダイオキシン類濃度の相関
 寿司コンポジット15試料についてHRGC/ HRMS法とCALUXアッセイとで求めたダイオキシン類濃度の相関係数はPCDDs/PCDFsについてはr=0.918、Co-PCBsについてはr=0.798であり、総ダイオキシンでは、r=0.770となった(図1)。このことからCALUXアッセイとHRGC/HRMS法とは良い相関があることが分かり、CALUXアッセイは寿司一人前試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった。

4.寿司ネタ由来のダイオキシン類摂取量の推定
 HRGC/HRMS法による分析値から求めた寿司ネタ一食分からのダイオキシン類摂取量を表3及び図2に示す。日本人の平均体重を50 kgとして体重当たりの摂取量に換算すると、0.4〜18.9 pgTEQ/kgbw(平均5.0 pgTEQ /kgbw)であった。なお米のダイオキシン類濃度はかなり低いことから、寿司のシャリ由来の摂取量は0.1 pgTEQ/kgbw以下と考えられ、殆ど無視できると考えられた。総摂取量の内PCDDs/PCDFs由来が16.4%、Co-PCBs由来が83.6%を占めていた。
 No.7(5.2 pgTEQ/kgbw)、No.8(18.9 pgTEQ/kgbw)、No.13(11.2 pgTEQ/kgbw)、No.15(18.6 pgTEQ/kgbw)の4試料では日本のTDIである4 pgTEQ/kgbw/dayを超えた。しかし、TDIは一生涯摂取し続けた場合を想定していることから、寿司一食分からのダイオキシン類摂取量がTDIを超えても直ちに問題にはならない。No.8、13はマグロのみの寿司であるため、また、No.7、15は地場物等の表示があり東京湾周辺で採れた魚介類が多く入っているために摂取量が多くなったと思われる。1999年から実施されている水産庁の調査によると、脂の多いマグロ類やブリなどの大型魚類や、東京湾、大阪湾などの大都市周辺で採れた魚介類のダイオキシン類濃度が高いことが分かっている。しかし、No.12のようにマグロ寿司であるにもかかわらず濃度が低いものもあった。
 包装に地場物、マグロ寿司等の強調表示の見られないNo.1〜No.6、No.9〜No.11及びNo.14の普通のミックス寿司10試料からの平均摂取量は1.82 pgTEQ/kgbwとなり、平成13、14年度のトータルダイエット調査による我が国のダイオキシン類の平均一日摂取量1.63及び1.49 pgTEQ/kgbw/dayと比べてそれほど多くない。ミックス寿司由来の摂取量を1.9 pgTEQ/kgbwとし、他の二食由来の摂取量をトータルダイエット調査の数値の2/3である1.0 pgTEQ/kgbwと仮定すると、それらをあわせた三食からの一日摂取量は2.9 pgTEQ/kgbw/dayとなりTDIより低く、著しく多い量とはなっていない。
 ダイオキシン類濃度は寿司ネタの魚種あるいは摂食部位の違いにより異なることと、体内のダイオキシン類濃度は食物繊維等のような同時に摂取する食品によっては減少することから、偏りのないバランスの取れた食生活が望まれる。

D.結論
 魚介類を主原料に用いている寿司試料についてそのダイオキシン類濃度を簡易に知る目的で、CALUXアッセイを用いて測定したダイオキシン類の毒性等量と従来法(HRGC /HRMS法)を用いて測定した毒性等量との相関を検討した。寿司コンポジット15試料についてHRGC/HRMS法とCALUXアッセイとで求めたダイオキシン類濃度の相関係数はPCDDs/PCDFsについてはr=0.918、Co-PCBsについてはr=0.798であり、総ダイオキシンではr=0.770となった。このことからCALUXアッセイとHRGC/HRMS法とは良い相関があることが分かり、CALUXアッセイは寿司一人前の試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった。またダイオキシン類の寿司由来摂取量については、一部の試料では一食分の摂食によりTDIを超えていたことから、偏りのないバランスの取れた食生活が望まれる。

E.参考文献
1)Tsutsumi, T., Yanagi, T., Nakamura, M., Kono, Y., Uchibe, H., Iida, T., Nakagawa, R., Tobiishi, K., Matsuda, R., Sasaki, K., Toyoda, M., Update of daily intake of PCDDs, PCDFs and dioxin-like PCBs from food in Japan, Chemosphere, 45, 1129-1137 (2001)
2)Fujino, J., Tsutsumi, T., Amakura, Y., Nakamura, M., Kitagawa, H., Yamamoto, T., Sasaki, K., Toyoda, M., Application of the CALUXTM assay to the analysis of DXNs in fish(the first report), Organohalogen Compounds, 51, 348-351 (2001)
3)Yabushita, H., Tsutsumi, T., Amakura, Y., Nakamura, M., Fujino, J., Murata, H., Sasaki, K., Maitani, T., Toyoda, M., Application of the CALUXTM assay to the analysis of DXNs in fish (the second report), Organohalogen Compounds, 58 , 385-388 (2002)
4)平成13年度厚生科学研究費補助金研究報告書「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」
5)平成14年度厚生労働科学研究費補助金研究報告書「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」

F.研究業績
1.論文発表
1) Toyoda, M., Nishida, K., Tagata, H., Kawakami, H., Nagasaki, T., Nakamura, M., Yabushita, H., Murata, H., Amakura, Y., Tsutsumi, T., Sasaki, K., Application of the CALUXTM assay to the analysis of DXNs in a composite from sushi samples (the third report), Organohalogen Compounds, 60, 251-254 (2003)



表1 寿司ネタの種類と重量
(g)
食材 試料No.
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12 No.13 No.14 No.15
マグロ 30.0 32.4 19.2 25.4 46.0 16.4 130.9 34.4 28.6 22.4 117.6 119.1 19.9 35.2
ハマチ 13.9 12.9 15.3 19.7
アナゴ 7.5 53.0 10.9 7.4 8.8 14.1 11.8 29.0
アジ −  9.4 12.6
サケ 24.5 16.3 6.4 9.9 6.8 14.2
サバ 10.3
タイ 10.2 10.9
ヒラメ 8.8 12.6
コハダ 12.8
キンメダイ 11.0
イカ 25.5 10.0 12.2 8.3 8.6 7.3 10.9 11.1 7.2
タコ 7.2 10.9
イクラ 15.0 12.6 10.0 20.1
エビ(ボイル) 19.3 6.9 9.2 6.6 7.4 11.8 18.4 16.3 16.0
エビ(生) 11.2
シャコ 7.7
カニ 11.3
ウニ 10.8 9.8 23.0
ホタテ 9.0 15.5 11.6 14.4 14.1
ミル貝 8.2 4.8
赤貝 14.6
タイラ貝 11.2
アワビ 9.4
数の子 11.1
ネギトロ −  −  −  8.4
鉄火巻き 3.0 26.6 27.6 18.0
ゲソ巻き 13.5
カリフォルニア巻き 21.0
たまご 65.0 30.4 24.3 14.0 13.4 65.2 39.9 48.9 33.8 45.2
シャリ(飯) 122.8 236.0 145.7 226.6 163.5 162.1 213.3 144.9 158.0 185.1 222.0 101.9 132.2 180.3 128.1


表2 HRGC/HRMS及びCALUXアッセイによる寿司コンポジット試料中ダイオキシン濃度の比較

試料
番号
PCDDs/PCDFs濃度 Co-PCBs濃度 総ダイオキシン濃度
HRGC/MRMS CALUXアッセイ HRGC/MRMS CALUXアッセイ HRGC/MRMS CALUXアッセイ
(pgTEQ/g) (pgCALUX-TEQ/g) (pgTEQ/g) (pgCALUX-TEQ/g) (pgTEQ/g) (pgCALUX-TEQ/g)
n=1 n=3 n=1 n=3 n=1 n=3
No.1 0.12 0.69 0.52 0.28 0.64 0.97
No.2 0.16 0.67 0.48 0.26 0.64 0.93
No.3 0.18 0.69 0.57 0.34 0.75 1.02
No.4 0.08 0.56 0.28 0.30 0.36 0.86
No.5 0.08 0.64 0.20 0.22 0.28 0.86
No.6 0.12 0.85 0.47 0.39 0.59 1.24
No.7 0.54 1.61 1.19 0.42 1.73 2.03
No.8 0.74 1.27 6.53 0.71 7.23 1.98
No.9 0.24 0.63 0.51 0.20 0.75 0.83
No.10 0.06 0.50 0.20 0.19 0.26 0.69
No.11 0.16 0.73 0.92 0.35 1.07 1.08
No.12 0.08 0.60 1.08 0.42 1.15 1.02
No.13 0.46 1.02 4.27 0.43 4.71 1.45
No.14 0.23 0.57 0.80 0.25 1.01 0.82
No.15 0.96 1.79 3.95 0.92 4.91 2.71
平均値 0.28 0.85 1.46 0.38 1.74 1.23


図1 寿司ネタコンポジット試料の総ダイオキシン含量の相関関係


表3 HRGC/HRMS法による寿司由来ダイオキシン類摂取量
試料番号 ダイオキシン類濃度
(pgTEQ/g)
ネタ重量
(g)
1食中のダイオキシン類量
(pgTEQ)
摂取量
(pgTEQ/kgbw)
No.1 0.64 192.6 123.3 2.5
No.2 0.64 144.8 92.7 1.9
No.3 0.75 130.6 98.0 2.0
No.4 0.36 97.7 35.2 0.7
No.5 0.28 75.4 21.1 0.4
No.6 0.59 79.5 46.9 0.9
No.7 1.73 151.7 262.4 5.2
No.8 7.23 130.9 946.4 18.9
No.9 0.75 125.3 94.0 1.9
No.10 0.26 141.1 36.7 0.7
No.11 1.07 178.4 190.9 3.8
No.12 1.15 117.6 135.2 2.7
No.13 4.71 119.1 561.0 11.2
No.14 1.01 169.0 170.7 3.4
No.15 4.91 189.5 930.4 18.6
平均摂取量 249.7 5.0


図2 HRGC/HRMS法による寿司1食中のダイオキシン類量


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