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II 試算の概要

1.給付水準維持方式

 少子化等の様々な社会経済情勢の変動を前提としつつ、現行の給付水準を維持することとした場合、厚生年金及び国民年金の保険料(率)をどこまで引き上げなければならないか、つまり最終保険料(率)がどれだけになるかを計算した。

2.保険料固定方式

 厚生年金の最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うこととした場合、少子化等の社会経済情勢に変化が生じたとき、その程度に応じて給付水準の調整が必要となる。次期制度改正時に厚生年金の最終保険料率の水準を前回平成11年財政再計算と同水準の年収の20%として法定した場合、少子・高齢化が一層進行するという見通しが示された新人口推計を反映すると、その負担の範囲内では現在の給付水準を維持できず、給付水準の調整が必要となる。
 試算では、厚生年金の最終保険料率を20%としたときに、少子化等の様々な社会経済情勢が変動した場合に、給付水準の調整度合いがどの程度になるかについて計算した。(なお、厚生年金の最終保険料率を18%とした場合についても一部試算。)

(1)給付総額(給付現価)の調整割合

 給付総額(給付現価)でみた給付の調整割合がどの程度になるかを示した。この数値は、仮に、平成17年4月に、既に年金を受給している者も含めて、直ちに給付水準の調整を一度に行うこととした場合の給付水準調整割合を示している。

 現実的な政策として、このような急激な給付水準の調整方法はとり得るものではないが、(2)で述べる年金改定率(スライド率)の調整による給付水準の調整方法との比較対象として示したものである。

(2)年金改定率(スライド率)の調整による給付水準の調整

《スライド調整の考え方:マクロ経済スライド》

 高齢期の所得保障の主柱としての公的年金の役割を踏まえれば、給付水準が急激に調整される方法は適切ではないことから、給付水準の調整のための特例期間(=給付水準調整期間)を設け、給付水準調整期間中の年金給付の改定方法を変更することにより、時間をかけて緩やかに給付水準を調整することとして試算した。この場合に、給付水準調整期間がどれくらいの期間になり、給付水準調整期間終了時の給付水準がどの程度になるかを試算した。

 この試算における給付水準調整期間中の年金給付の改定方法は、年金制度を支える力である社会全体の所得や賃金の変動に応じて給付が調整されるように、年金改定率(スライド率)が自動的に設定される仕組みとした。具体的には、少子化等の社会経済全体(マクロ)の変動の実績(または将来見通し)を、一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に反映させることとした。(以下「マクロ経済スライド」という。)この場合、少子化等の社会経済状況が好転すれば、給付水準は改善されることとなる。

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現行の年金給付の改定方法は、新規裁定時(65歳時点)に、厚生年金については一人当たりの可処分所得(手取り賃金)の上昇率に応じて年金額の算定の基礎となる現役時代の賃金を再評価し、国民年金(基礎年金)については国民生活の動向等を踏まえて政策改定し、裁定後は、各受給者の年金額を物価の変動に応じて改定している。




 マクロ経済スライドは、固定した最終的な保険料水準による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立つまでの期間適用されることとし、その後は、一人当たり賃金や物価の上昇を年金改定率(スライド率)としている現行の年金給付の改定方法に復帰することとする。

《マクロ経済スライドの具体的な調整方法》

 この試算では、下記の4種類の給付水準の調整方法をとった場合、それぞれ、給付水準調整期間がどのくらいとなるかを示すとともに、給付水準調整期間終了時の新規裁定者の所得代替率、現在の給付水準と比べたときの最終的な給付水準の調整割合を示した。

(1) 実績準拠法(名目年金額下限型)

【実績準拠法】

 マクロ経済スライドを適用する特例期間(給付水準調整期間)の間、新規裁定年金の年金改定率(スライド率)、即ち厚生年金の賃金再評価及び基礎年金の政策改定を、被用者の総賃金(手取りベース)の伸び率の実績により設定する。また、基礎年金部分と報酬比例年金部分は同じペースで給付水準の調整が行われる。

 実績準拠法では、一人当たり賃金(手取りベース)の伸び率の実績と総賃金(手取りベース)の伸び率の実績に差がある場合は、この差の分だけ、給付水準が調整されることとなる。なお、この差(=スライド調整率)は、労働力人口の変動率に相当する。

 既裁定年金の年金改定率(スライド率)は、物価上昇率からスライド調整率を控除した率とする。ただし、既裁定年金が、その時点の新規裁定年金の8割を下回る水準となるときには、当該既裁定年金に関する改定率(スライド率)は、以後、新規裁定年金と同じ率を適用する。

実績準拠法による年金改定率(スライド率)

  •  新規裁定年金の年金改定率
       = 被用者の総賃金(手取りベース)の伸び率(実績値)

  •  既裁定年金の年金改定率
       = 物価(実績値)−スライド調整率(実績値)

【名目年金額下限型】

 この方法では、新規裁定年金、既裁定年金それぞれについて、上記のスライド調整を行った場合に、前年度の名目年金額を下回ることとなるときは、年金改定率(スライド率)をゼロとすることとして試算している。これは、一人当たりの賃金や物価の水準が下落する場合を除き、名目年金額は下げないという考え方に立っている。

(2) 実績準拠法(物価下限型)

【実績準拠法】

 実績準拠法については、上記(1)と同様。

【物価下限型】

 この方法では、新規裁定年金、既裁定年金それぞれについて、スライド調整を行った場合に、前年度の年金水準を物価改定したものを下回ることとなるときは、物価上昇率により年金を改定することとして試算している。この場合、既裁定年金は、現行と同じく物価の変動に応じて改定されることとなるため、給付水準調整は既裁定者に及ばないことになる。

(参考) 【試算における一人当たり賃金(手取りベース)の伸び率と総賃金(手取りベース)の伸び率の差の見通し】

  高位推計 中位推計 低位推計
〜2025年度(平均) −0.30% −0.30% −0.31%
2026〜2050年度(平均) −0.92% −1.18% −1.50%

(3) 将来見通し平均化法(名目年金額下限型)

【将来見通し平均化法】

 新規裁定年金の年金改定率(スライド率)即ち厚生年金の賃金再評価及び基礎年金の政策改定を、一人当たり賃金上昇率の実績値から、2050年までの労働力人口の変動率の将来見通しの平均値に基づいて設定する一定率(=スライド調整率)を控除することにより設定する。また、基礎年金部分と報酬比例年金部分は同じペースで給付水準の調整が行われる。

 将来見通し平均化法では、人口等の将来見通しに基づいて、実績が判明する前から計画的に給付水準調整を行うこととなる。なお、将来見通し平均化法では、5年ごとの財政再計算期において、労働力人口等の変動の将来見通しの変化に応じて、単年度あたりのスライド調整率を修正していくことが必要となる。

 既裁定年金の年金改定率(スライド率)は、物価上昇率からスライド調整率を控除した率とする。ただし、既裁定年金が、その時点の新規裁定年金の8割を下回る水準となるときには、当該既裁定年金に関する改定率(スライド率)は、以後、新規裁定年金と同じ率を適用する。

将来見通し平均化法による年金改定率(スライド率)

  •  新規裁定年金の年金改定率
       = 被用者の一人当たり賃金(手取りベース)の伸び率(実績値)−スライド調整率(将来見通しを反映)

  • 既裁定年金の年金改定率
       = 物価(実績値)−スライド調整率(将来見通しを反映)

【名目年金額下限型】

 名目年金額下限型については、上記(1)と同様。

(4) 将来見通し平均化法(物価下限型)

【将来見通し平均化法】

 将来見通し平均化法については、上記(3)と同様。

【物価下限型】

 物価下限型については、上記(2)と同様。

(参考)【2050年までの労働力人口の平均変動率の見込み】

高位推計 中位推計 低位推計
−0.5%程度 −0.65%程度 −0.8%程度

注: 「日本の将来推計人口(平成14年1月)」及び「労働力率の見通し(平成10年10月)」より算出した。
 現行の年金給付の改定は、新規裁定時において、直近の財政再計算までの間の賃金や生活水準の変動とその後の物価の変動を反映して年金額が裁定され、受給者が65歳に達した直後の財政再計算において、65歳に達するまでの間の賃金や生活水準の変動とその後の物価の変動を反映した本来の給付水準に改定される仕組みとなっている。この試算では、現行制度のこの仕組みを踏襲しつつ、年金改定率(スライド率)について所要の調整が行われるものとしている。


給付と負担の見直しに関する方式の整理

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