労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和3年(不再)第35号
ジェイアールバス関東不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y会社(「会社」) 
再審査被申立人  X(個人) 
命令年月日  令和5年1月11日 
命令区分  全部変更 
重要度   
事件概要  1 Xは、会社の白河支店でバスの運転手として勤務し、C1組合に加入し、C2地方本部(C2地本)に所属していた。Xは、平成30年11月5日、バスの回送運転中に喫煙及び私用の携帯電話による通話を行った。当時の白河支店の支店長(白河支店長)は、同月11日及び12日、Xに対し、Xの上記行為を会社に報告しない条件として、C1組合の脱退届を出すよう求める内容を含む発言をした(本件各発言)。
2 X、C2地本及びC5(C2地本C3支部C4分会の分会長)は、令和元年11月11日、本件各発言が支配介入の不当労働行為に当たるとして、東京都労働委員会(都労委)に対し、救済申立てを行った(C5は初審都労委において申立てを取り下げた。)。都労委は、XとC2地本の申立てを分離の上で、Xの申立てを認容する命令を発した(なお、C2地本の申立ては却下された。)。本件は、初審命令を不服であるとして会社が再審査を申し立てた事案である。
3 Xは、本件申立後の令和2年2月16日、C1組合を脱退し、その後、C6組合に加入した。 
命令主文  初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 争点1(本件各発言は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。)について
本件各発言の内容は、白河支店長が、Xに対し、非違行為を会社に報告しない条件として、C1組合の脱退届を提出するよう求めたものであり、本件発言は、組合員に対し、C1組合からの脱退を促し、その運営に干渉して労働組合を弱体化させる行為であるというべきである。
(2) 争点3(争点1において会社の不当労働行為が認められる場合に、Xの救済利益が認められるか。)について
ア 本件各発言は労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するが、Xは、本件初審申立て後の令和2年2月16日にC1組合を脱退し、その後、新たに結成されたC6組合に加入したことが認められる。そこで、Xとの関係での救済利益がなお残存しているかについて、以下検討する。
イ 本件各発言は、当時C1組合の組合員であったXに対し、C1組合からの脱退届を提出するよう求めるものであり、XがC1組合の組合員であることを問題視するものである。このことからすると、本件各発言は、C1組合の団結力、組織力を損ねて弱体化させるおそれのある行為であり、本件の申立人たるXに対しては、C1組合との関係での団結を損なうおそれのある行為であるというのが相当である。
ウ そして、本件では、Xが令和2年2月16日にC1組合を脱退し、その後、C2地本執行部の組合員らがC1組合を脱退して結成したC6組合に加入したことが認められる。このことからすると、救済命令によってXとC1組合との関係における団結を回復する必要性は、もはや失われたといわざるを得ない。
エ Xは、本件各発言による団結権侵害は、C1組合のみならず、労働組合一般へ加入する権利の侵害であると主張するが、本件各発言をそのように評価することはできない。
また、Xは、本件各発言当時に所属していた水戸地本と、C6組合とは実質的同一性があるとして、団結権回復の必要を主張するが、本件各発言によって、XがC6組合との間の団結までもが脅かされたということはできないのであって、C6組合との関係で、団結を回復すべき必要性を認めることはできない。
Xは、C1組合が本件各発言を巡る問題は「解決済」と表明していること等からして、自身のC1組合脱退はやむを得ない旨を主張するが、C1組合がそのような立場に立っていたとしても、Xは、C1組合との関係での団結を志向しつつ、個人で救済申立てを行う余地はあったのであるから、自らの判断によって別組合に移籍したXについて、なおC1組合との関係で団結を回復する内容の救済の必要があるとは認められない。
以上のとおり、Xの主張はいずれも採用できない。
オ 本件において、Xに対する救済の利益は認められないため、その余の争点(争点2:Xの申立人適格、争点4:救済方法)について判断するまでもなく、Xによる本件救済申立てを認めることはできない。
もっとも、本件各発言が労組法第7条第3号に該当する行為であることは、上記(1)のとおりである。本件ではすでに救済の利益が失われているものの、会社においては、今後同様の行為が繰り返されることがないよう、徹底することが望まれる。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和元年(不)第82-1号 全部救済 令和3年8月17日
 
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