労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和5年(行ウ)第322号
ジェイアールバス関東労働委員会命令取消請求事件 
原告  X(個人) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会)  
被告補助参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和6年12月5日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Xは、会社の白河支店でバスの運転手として勤務し、C1組合に加入し、C2地方本部(C2地本)に所属していた。平成30年11月、バスの回送運転中に喫煙及び私用の携帯電話による通話を行った。当時の白河支店長は、同月2回にわたって、Xに、上記行為を会社に報告しない条件として、C1組合の脱退届を出すよう求める内容を含む発言をした(本件各発言)。

2 X、C2地本らは、令和元年11月、本件各発言が支配介入の不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てを行った。
 都労委は、XとC2地本の申立を分離の上で、令和3年8月、Xの申立てを認容する命令を発した(なお、C2地本の申立ては却下された)。
 なお、Xは令和2年2月にC1組合を脱退し、A1組合に加入した。

3 会社はこれを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却した。

4 Xはこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁はXの請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点
 本件における争点は、Xが本件各発言を受けた後、C1組合を脱退したことにより、救済の利益が失われたかどうかである。

2 争点に対する判断
 ⑴ア 労働委員会による不当労働行為救済制度の趣旨に照らし、使用者が労組法7条3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをするについては、その労働組合のほか、その組合員も申立適格を有するものと解される(最二小判平成16年7月12日)。

イ Xは、白河支店長から本件各発言により、当時所属していたC1組合から脱退するよう勧奨され、脱退届の提出を求められた者であり、都労委への救済申立て当時、その申立適格を有していたといえる。そして、本件各発言には、XがC1組合又はC2地本あるいはC3分会の役職に就いていたことを指摘し、C1組合について、テロ集団と関わりがあるなどと否定的な見解を述べていたのであって、本件各発言は、XがC1組合の組合員であることを捉えて脱退を促すものといえ、C1組合の団結力、組織力を損なって弱体化させるおそれのある行為だったといえる。

ウ もっとも、Xは、都労委への救済申立て後、C2地本に所属していた執行部の組合員らがC1組合を脱退したことに続き、C1組合を自ら脱退した上、同組合員らがC1組合の活動方針を批判して新たに結成したA1組合に別途加入したのであるから、Xは、C1組合との関係で、その団結の前提となる活動方針を異にする状況に至ったものというべきである。
 そうすると、救済命令によってXとC1組合との関係における団結を回復する必要性は、もはや失われたものと認めるのが相当である。
⑵ア これに対し、Xは、本件各発言はC1組合に限らず、労働組合一般への加入について躊躇させるもので、労働組合一般へ加入する権利の侵害であり、救済の利益は否定されないと主張する。
 しかしながら、本件各発言の内容をみても、C1組合について否定的な意見を述べた上、XがC1組合に関係する役職に就いていたことを指摘し、C1組合からの脱退届の提出を求めたものであって、C1組合に限らず、労働組合一般への加入について禁じる趣旨のものはなく、Xの労働組合一般への加入を躊躇させるようなものと評価することは困難である。
イ Xは、A1組合は本件各発言当時にXが所属していたC2地本と実質的に同一であるとして、団結権の回復の必要性に欠けるところはないと主張する。
 しかしながら、A1組合は、C2地本に所属していた執行部の組合員らがC1組合を脱退して別途設立したものであり、C2地本と同一組織ではないことは明らかである。また、A1組合が、C2地本の上部組織であるC1組合と活動方針について対立した前記組合員らにより設立されたもので、同組合員らのうちには、C1組合との間で組合費を巡り対立している者もいたのであって、A1組合は、C1組合の下部組織であるC2地本と対立関係にあるものといえ、実質的にC2地本と同一組織ということもできない。
 そもそも、A1組合は、本件各発言の当時、未だ設立されておらず、その設立に向けて活動していたところもないのだから、本件各発言によってA1組合との関係で団結を回復すべき必要性を認めることもできない。
ウ Xは、C1組合が本件各発言について方針を異にしたことから、救済の申立てを維持すべく、A1組合に加入したのであって、自己の意思に基づき救済利益を放棄してC1組合を脱退したものではないと主張する。
 しかしながら、Xは、当初からC1組合に所属しつつ、C1組合の方針に反して、個人としてC1組合から別個独立して、C1組合との関係における団結を回復する旨の救済の申立てをしていたのであるし、C1組合から何らかの統制処分を受けたこともなく、C2地本の役員を除く組合員やC3分会に所属する組合員も同申立てに関する処分を受けておらず、C1組合が個人としての救済の申立てを否定する意見を表明したことをうかがわせる証拠も見当たらない。
 そうすると、C1組合に所属しつつ救済申立てを維持することが困難であったとの事情はうかがえず、自らの判断でC1組合を脱退し、C1組合との団結を解消したXについて、なおもC1組合との関係で団結を回復する内容の救済の必要性があると認めることができない。

3 小括
 以上によれば、救済の利益が失われたとしてXの救済の申立てを棄却した中労委の判断は正当であり、Xの主張は理由がない。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和元年(不)第82-1号 全部救済 令和3年8月17日
中労委令和3年(不再)第35号 全部変更 令和5年1月11日
 
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