労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第82-1号
ジェイアールバス関東不当労働行為審査事件 
申立人  個人X3 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年8月17日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社のR支店長が、申立外C組合の組合員で、その下部組織であるC組合M地方本部(以下「X1組合」)に所属していた労働者X3を呼び出し、C組合の脱退届を提出するならば不祥事を握りつぶす旨述べるなどしたことが不当労働行為に当たる、としてX1組合、X1組合T支部K分会長の個人X2、及び個人X3から救済申立てがなされた事案である。その後、X3はC組合を脱退して申立外E組合に加入し、X2は申立てを取り下げた。
 東京都労働委員会は、X1の申立てとX3の申立てを分離の上、X3の申立てに関し、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書の交付、掲示等を命じた。 
命令主文   被申立人Y会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人X3に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル× 80センチメートル(新聞2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社R支店の職員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X3殿
Y会社       
代表取締役 B 
1 平成30年11月11日及び12日に当社R支店の当時の支店長が、当時C組合の組合員であった貴殿に対し、同組合の脱退届を提出するならならば不祥事を握りつぶすなどと述べた行為は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注 年月日は文書を交付した日を記載すること)
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
 
判断の要旨  1 X3の申立適格
(1)会社の主張
 X3の主張する京都市交通局事件の最高裁判所判決(最ニ小判平成16年4月12日)においても、「使用者が同条〔労働組合法第7条〕3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをするについては、当該労働組合のほか、その組合員も申立て適格を有すると解するのが相当である。」と判示するところ、かかる判示中の「当該労働組合」ないし「その組合員」という文言からも明らかなとおり、集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保という不当労働行為制度の目的に照らし、飽くまでも支配介入がなされた相手方たる労働組合及びその構成員である組合員についての申立適格を肯定したものに過ぎず、その射程はその範囲にとどまる。
 また、同事件は、京都交通労働組合の組合員が管理職に昇格させられたことに伴いその意思に反して自動的に組合資格を喪失させられたものの、当該組合員は依然として当組合の組合員として活動することを志向していたという事案であり、X3が自らの任意の意思に基づいてC組合の組合員資格を喪失した本件とは事案を異にするものであり、本件は同判決の射程が及ぶものではない。
 X3は、もはやC組合M地本〔X2組合〕に所属していた当時に受けたというR支店長による脱退勧奨について救済を求める申立適格を喪失したものというべきであり、X3の本件申立ては却下されるべきである。
(2)X3の主張
 労働者個人の申立適格は、労働組合とは独立した労働者個人の利益に基づき認められるものであり、支配介入当時に所属していた労働組合の利益に関連してのみ認められるものではない。支配介入の事案における労働者個人の申立適格について、京都市交通局事件の最高裁判決は、労働者個人の申立適格を認めている。労働者個人の申立適格を制限する会社の主張は、同判決の射程を不当に狭く解する誤ったものである。
 会社の支配介入行為は、X3自身が直接受けたものであり、これによりX3個人の団結権が侵害された。そして、R支店長はX3に対して、およそ労働組合から脱退し非組合員になるよう強要しているのであるから、本件行為は、C組合へ加入する権利の侵害にとどまらず、労働組合一般へ加入する権利を侵害したものである。
(3)委員会の判断
 本件申立て時にX3が申立適格を有していたことは明らかである。
 本件申立て後、X3と共に本件申立てを行ったX1組合の執行委員長代理などの執行委員らが、本件申立てをしたことを理由にC組合から執行権を停止され、その結果、同人らがC組合を脱退して、D組合及びE組合を結成したことを受けて、X3もC組合を脱退しE組合に加入するに至った。X3は、自らの意思でC組合を脱退しているものの、同人がC組合を脱退したのは、本件申立てを巡るC組合内での対立により、共に本件申立てをしたX2組合の執行委員らがC組合を脱退したためであり、X3は、本件申立てを維持するために、本件申立てに反対の立場をとっているC組合を脱退せざるを得ない状況にあったということもできる。このような状況下において、X 3が本件申立て後にC組合を脱退し同組合の組合員資格を喪失したとしても、そのことをもって同人の申立適格を否定することはできないというべきである。
 したがって、X3が本件申立ての申立適格を喪失したとする会社の主張は採用することはできない。
2 支配介入の成否
 R支店長は、X3の行為を会社に報告しないことと引き換えにC組合の脱退届を出すようにX3に求め、同人がこれを拒否すると、同人が転勤になる可能性やC組合が将来なくなる可能性を示唆するなどしてC組合から脱退するよう働き掛けているのであるから、本件行為は、組合の運営に干渉し組合を弱体化させる行為であるといえる。
 本件行為を行ったのは、R支店のトップである支店長である。そして、R支店長がバスの運転手であるX3と業務上の不祥事に関して話をする中で、X3がC組合を脱退しなければいけない理由について、会社がそういう方針だからなどと述べていることからすれば、R支店長の本件行為は、会社の意を体してなされたものであったということができる。
 したがって、R支店長による本件行為は、会社による組合の運営に対する支配介入に当たる。
3 救済の利益
(1)会社は、X3が自由意志によりC組合を脱退し、E組合に加入している以上、会社が同人のC組合の組合員としての自主的な組合活動を阻害することなど観念し得ないとか、会社が、R支店長、代表取締役及び常務取締役に対し処分を行い、それを受けて、C組合は、本件行為を既に解決済みと位置づけるに至ったことから、集団的労使関係秩序は正常に回復されたなどとして、本件申立てに救済の利益ないし必要は認められないと主張する。
(2)確かに、会社は、R支店長を厳重注意とし、会社の代表取締役及び常務取締役は役員報酬を一部自主返納している。そして、C組合は、中央執行委員会の見解〔注.令和元年12月26日〕として、本件行為について解決済みとの認識を示している。
 しかし、一方で、会社とC組合バス関東本部との団体交渉〔注.令和元年6月3日〕においては、会社は、R支店長に不適切な言動が確認されたこと、会社としては適当でないと判断したことを説明したものの、本件行為が会社による不当労働行為であったと認めていたとまではいえず、C組合バス関東本部も団体交渉を対立により終了する旨述べていた。その後も、本件行為を受けた本人であるX3及び同人の所属するC組合M地本〔注.X1組合〕が本件申立て〔注.令和元年11月11日〕を行ったところ、会社は、本件申立をしたX3やC組合M地本に対して、R支店長の不適切な言動について謝罪をしたり、本件行為が会社による不当労働行為であると認めたりはしていない。
 以上からすると、会社の対応やC組合の中央執行委員会の見解を考慮しても、本件行為について既に解決済みであり、集団的労使関係秩序が正常に回復されたとまで断ずることはできず、そうすると、類似の行為が繰り返されるおそれがなくなったともいえない。したがって、本件申立てに救済の利益ないし必要がないとする会社の主張は採用することができない。
(4)会社は、X3がC組合を脱退し任意の意思に基づいてE組合に加入した以上、もはや同人は、C組合組合員としての本件申立てに係る救済の利益を放棄したものと評価されてしかるべきであると主張する。
 しかし、X3がC組合を脱退したのは、本件申立てを巡る同組合内での対立により、共に本件申立をしたX1 組合の執行委員らが同組合を脱退したためであり、X3は、本件申立てを維持するために、本件申立てに反対の立場をとっている同組合を脱退せざるを得ない状況にあったともいえるのであるから、同人の組合脱退の事実から同人が救済の利益を放棄したと評価することはできない。
 また、X3は、C組合脱退後も本件申立てを維持し、救済を求めているのであるから、このことからも同人が救済の利益を放棄したとみることはできない。
 よって、本件の救済の利益は認められる。
4 救済方法
 X3は、救済として、X3を含む会社全従業員に対しその所属している労働組合から脱退することを働き掛けないこと並びに謝罪文の手交、掲示及び社内報への掲載を求めているが、本件不当労働行為はR支店長がX3に対してC組合からの脱退を求めたものであることから、主文のとおり命ずるのが相当である。

  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和3年(不再)第35号 全部変更 令和5年1月11日
 
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