概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和6年(行コ)第319号
ジェイアールバス関東労働委員会救済命令取消請求控訴事件
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| 控訴人 |
X(個人)
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| 被控訴人 |
国 (処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」)) |
| 被控訴人補助参加人 |
Z会社(「会社」) |
| 判決年月日 |
令和7年9月30日 |
| 判決区分 |
全部取消 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 Xは、会社の白河支店でバスの運転手として勤務し、C1組合に加入し、C2地方本部(「C2地本」)に所属していた。平成30年11月、バスの回送運転中に喫煙及び私用の携帯電話による通話を行った。当時の白河支店長は、同月2回にわたって、Xに、上記行為を会社に報告しない条件として、C1組合の脱退届を出すよう求める内容を含む発言をした(「本件各発言」)。
2 X、C2地本らは、令和元年11月、本件各発言が支配介入の不当労働行為に当たるとして、東京都労働委員会(「都労委」)に救済申立てを行った。(「本件救済申立て」)
初審都労委は、XとC2地本の申立てを分離の上で、令和3年8月、Xの申立てを認容する命令を発した。(C2地本の申立ては却下された。)
なお、Xは、令和2年2月にC1組合を脱退し、A1組合に加入した。
3 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却した。(「本件中労委命令」)
4 Xは、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁はXの請求を棄却した。
5 Xは、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は、原判決を取消し、本件中労委命令を取り消した。
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| 判決主文 |
1 原判決を取り消す。
2 中労委が中労委令和3年(不再)第35号事件について、令和5年1月11日付けでした命令を取り消す。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、補助参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
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| 判決の要旨 |
1 当裁判所は、原審と異なり、中労委が控訴人の救済の利益を否定したことは失当であり、本件中労委命令は取消しを免れないと判断する。
2 争点(救済の利益の有無)についての判断
(1) 不当労働行為救済制度は、使用者の不当労働行為によって生じた労使関係の歪みを是正することにより将来に向けて労使関係の正常化を図る制度である。組合からの脱退勧奨を受けた組合員個人が申立人となっている場合において、当該脱退勧奨とは無関係に純粋に個人的な理由で当該組合から脱退したにすぎないような事案であれば、将来に向けて労使関係の正常化を図る必要性は失われており、救済の利益が認められないという判断はあり得るところである。本件中労委命令及び原判決の判断は、このような単純化した図式の下では、妥当する余地はあり得ると解される。
(2) しかし、本件の事実関係については、C1組合は、労働委員会等の第三者機関を活用することなく団体交渉での問題解決を図る方針を徹底すべく、本部からの指導に従わずに本件救済申立てをしたC2地本の行動を統制違反であるとして厳しく批判し、その執行部役員の執行権停止を敢行するなどしていたという特殊事情を踏まえて検討する必要がある。Xにおいて、このような方針を先鋭に打ち出しているC1組合の組合員の立場のままで、本件救済申立てを維持し、都労委での手続に対応していくことは事実上不可能であると考えて、C1組合を脱退し、本件救済申立てを支援してくれるであろうA1組合に加入したのは、やむを得ない判断であったというべきである。このような理由で、飽くまでも本件救済申立てを維持するためにC1組合を脱退するに至った控訴人に対し、当該脱退の事実を理由に救済の利益を否定するのは、理不尽・不条理といわざるを得ない。
(3) さらに、A1組合は、形式的にはC1組合、C2地本とは別個の団体であるとしても、A1組合はC2地本の構成員、役員、活動方針の多くの部分を引き継いでおり、実質的にはC1組合からの分裂により成立した後継団体に当たると位置付けることができる。しかも、A1組合結成の目的には、Xによる本件救済申立てを支援し、これを維持できるようにするという点も含まれていたのであり、重要な活動方針においても、C2地本の後継団体と位置付けられる。そうすると、Xにおいて、平成30年11月の状況下で使用者からC1組合からの脱退勧奨を受けたのと同様に、現在の状況下でC1組合から分裂した後継団体というべきA1組合との関係でも脱退勧奨を受けかねないとの懸念を抱くのは当然であり、本件脱退勧奨に関し、不当労働行為救済を求める利益は認められるというべきである。
(4) 会社は、労働委員会には広範な裁量権が付与されている旨主張するが、労働委員会の裁量権は、不当労働行為に対する救済を実質あるものにする観点から認められるべきものであり、救済の利益を否定する方向で広範な裁量権を有するなどと解することはできない。
3 結論
以上によれば、本件救済申立てにつきXに救済の利益がないとした本件中労委命令は誤りであり、取消しを免れない。よって、これと異なる原判決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。
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| その他 |
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