労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和3年(不再)第18号・第20号
全国健康保険協会不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  X組合(「組合」)(18号)、Y協会(「協会」)(20号) 
再審査被申立人  Y協会(「協会」)(18号)、X組合(「組合」)(20号) 
命令年月日  令和5年2月15日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、協会の埼玉支部(「支部」)が、①組合員Aを雇止めにしたこと、②「組合員Aに対するパワーハラスメント(「パワハラ」)」、「組合員Aの雇止め」及び「就業規則改定に関わる労働者代表選出」を各議題とする第7回団体交渉の申入れを拒否したこと、③組合の書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
2 初審埼玉県労働委員会は、協会に対し、上記②の「組合員Aの雇止め」を議題とする第7回団体交渉に応じなかったこと及び上記③について不当労働行為であることを認定し、今後、このような行為を繰り返さない旨の文書を手交すること及び「組合員Aの雇止め」を議題とする団体交渉応諾を命じその余の申立てを棄却したところ、組合は、申立ての棄却部分を、協会は救済命令部分をそれぞれ不服として再審査を申し立てた。 
命令主文要旨  初審命令を次のとおり変更する。
(1) 上記1③について不当労働行為であることを認定し、今後、このような行為を繰り返さない旨の文書を手交すること。
(2) その余の救済申立てを棄却。 
判断の要旨  (1) 争点1(支部が組合員Aを令和元年8月3日付けで雇止めにしたことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 支部は、組合員Aと雇用契約を1年ごとに更新してきたが、平成27年4月1日から平成30年3月31日までの労働契約書には、「契約期間は通算して5年を限度とします」と記載されていた。支部は、就業規則及び雇用契約の定めに基づき、平成30年3月28日の時点で、同人の雇用契約については就業規則で定める上限(5年)を超えて更新しないという意思決定をして、同年4月1日から平成31年3月31日までの労働契約を締結し、その契約書には、「契約は更新しません」と明記し、契約期間の満了により雇止めとする旨を明らかにした。同人が組合に加入したのは同年6月5日であり、同年3月28日の時点で支部は同人が組合の組合員であることの認識を欠いていることから、同人の雇止めは、組合の組合員であることを理由としたものではなく、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為には当たらない。
 なお、支部はその後、同人との雇用契約について平成31年4月1日から令和元年8月3日まで約4か月の短期更新をしたが、雇用契約及び就業規則で定める5年に満つるまでには約4か月の余裕があったこと、同人に勤務継続の希望があったことによるもので、支部が同人の雇止めを決めたのが平成30年3月28日であるとの認定を左右しない。
(2) 争点2(次の団体交渉事項について、労組法第27条第2項の申立て期間内に行われた①平成30年12月13日の第3回から令和元年7月25日の第6回までの団体交渉における支部の対応、及び②組合の第7回団体交渉申入れを支部が拒否したことは、いずれも労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。)について
ア 組合員Aに対するパワハラについて
 支部は、組合にパワハラとして指摘された事項について、あらかじめ事情を詳細に聴取し、聴取結果に基づく具体的な事実関係を伝え、組合の再調査要請にも応じて文書により再調査の結果を報告し、第1回から第5回までの団体交渉を通じて、組合から指摘された案件はいずれもパワハラではなく、職務範囲内での対応であったとの自己の見解を繰り返し説明している。こうした協会の一連の対応は、組合の理解及び納得を目指して誠実に団体交渉に当たっていたと評価でき、誠実交渉義務に違反したとはいえない。
 一方、組合は第1回から第5回の団体交渉において、組合が指摘する案件はパワハラであるとの主張を繰り返し、パワハラについて謝罪による解決を求めていたが、第6回団体交渉において、組合はパワハラについて触れることがなかったため、第6回団体交渉が終了した段階では、これ以上団体交渉を重ねても組合と支部の主張は平行線をたどったままで、行き詰った状態にあったといえる。したがって、第7回団体交渉の申し入れを支部が拒否したことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
イ 組合員Aの令和元年8月3日付けの雇止めについて
 支部は、組合の質問に係る調査を複数回行い、その都度、必要な事項について回答を行ったもので、5年を上限とする就業規則の改定は有効であり、組合員Aの雇用継続は基本的に契約書どおりで、5年を超えて契約を更新しないことは確定であり、令和元年8月4日以降継続雇用しないのは人員計画上の理由である旨を回答しており、組合の理解及び納得を目指して誠実に団体交渉に当たっていたと評価でき、誠実交渉義務に違反したとはいえない。
 一方、組合は団体交渉において、一貫して、5年を限度とした就業規則は無効なものであるとして、組合員Aの雇用を継続するよう要求し続けており、第6回団体交渉が終了した段階では、これ以上団体交渉を重ねても組合と協会の主張は平行線で交渉は行き詰まった状態にあった。したがって、第7回団体交渉の申入れを支部が拒否したことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
ウ 就業規則改定に関わる労働者代表選出について
 支部は、第3回から第6回までの団体交渉において、組合の求めに応じて平成29年の労働者代表選出に係る文書の写しを提供し、また、保存年限経過のため既に文書が存しない平成26年4月の就業規則改定時の労働者代表の選出についても、その前任者や選出時期をできる限り特定して回答している。さらに、労働者代表選出に関し出張窓口の契約職員へ告知されていなかったことを認めた上で謝罪し、今後は 1 年ごとにしっかり行っていく旨を述べ、その上で、労働基準監督署に確認したことを踏まえ就業規則改定が有効である旨を繰り返し説明している。これらのことから、支部は、組合の理解及び納得を目指して誠実に団体交渉に当たっていたと評価でき、誠実交渉義務に違反したとはいえない。
 一方、組合は、団体交渉の場において、就業規則改定は無効である旨の主張を一貫して繰り返しており、第6回団体交渉が終了した段階では、これ以上団体交渉を重ねても、就業規則改定の有効性に関する主張は平行線で行き詰まった状態といえるので、第7回団体交渉の申入れを支部が拒否したことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
(3) 争点3(協会(支部)が、平成30年12月10日付け文書において、組合の書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 支部が、「協会に対する、組合員Aと組合からの逆ハラスメントになるのではないか。万が一、このような非日常的な対応で職員がメンタルに的に追い詰められたら大変なことになる」、「交渉態度も協会の職員に対する逆ハラスメントにあたる」と記述した部分はパワハラ問題に関する組合の交渉態度を強く非難する表現であること、これが第3回団体交渉の直前に組合に送られたことを考慮すると、組合によるパワハラ問題追及活動を抑制する効果を持つものであり、実際に、組合は、本件記述について、協会が組合に対するパワハラ追及活動において争う方針を転換するよう強要するものと受け止めている。
 また、組合の交渉態度は一方的でハラスメントの問題を理解しようとしない不適切なものと受け止めた面があるとしても、本件記述は、パワハラ問題に関する組合の交渉態度を強く非難して、団体交渉において組合が従前のような交渉態度を取ることのないように牽制するものであり、支部が組合のパワハラ問題追及活動を萎縮させることを意図して行われたことが推認されるので、組合の運営や活動に対する支配介入として労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
埼玉県労委令和元年(不)第3号 一部救済 令和3年6月9日
 
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