労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  埼玉県労委令和元年(不)第3号
全国健康保険協会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年6月9日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合の組合員A2を雇止めにしたこと、②令和元年7月26日付け第7回団交の申入れを拒否したこと、③平成30年12月19日付け文書において、組合の再反論書面及び団交態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。(なお、上記の①から③までについては、いずれも組合と法人のC支部(以下「支部」)との間のやりとりに係るものである。)
 埼玉県労働委員会は、②の一部について労働組合法第7条第2号、③について同条第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、令和元年7月26日付け第7回団交申入書に係る議題のうち組合員A2の雇止めについての団交応諾、及び文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合からの令和元年7月26日付け第7回団体交渉申入書に係る議題のうち、組合員A1の雇止めについては、速やかに、かつ、誠実に申立人との団体交渉に応じなければならない。
2 法人は、本命令書受領の日から7日以内に、下記内容の文書を組合に手交しなければならない(下記文書中の年月日の欄には、被申立人が申立人に手交する日を記載すること。)。
令和 年 月 日
  X組合
  執行委員長A1様
Y法人     
理事長B 1 印
 当法人が行った下記の行為は、埼玉県労働委員会において、労働組合法第7条の不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
1 令和元年7月26日付け第7回団体交渉申入書に係る議題のうち、A2組合員の雇止めについて、申入れを拒否したこと(第2号)。
2 平成30年12月10日付け文書において、組合の再反論書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたこと(第3号)。
2 組合のその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 支部が、A2を平和元年8月3日付けで雇止めにしたことは、組合活動を嫌悪しての不利益取扱いに当たるか。当たる場合、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか。(争点1)
 A2と支部は、平成26年8月4日から27年3月31日まで窓口相談員としての雇用契約を締結し、その後、27年4月1日から31年3月31日まで1年間ずつ雇用契約を更新してきたが、31年4月1日からの雇用契約は令和元年8月3日をもって期間満了とし、当該雇用契約を更新しなかった。これが、A2の組合活動を嫌悪しての不利益取扱いであったかどうかについて検討する。
(1)労組法第7条第1号該当性について
(ア)不利益性について
 A2が雇用契約を更新しないことに合意していないのは明らかであり、また、大きな問題もなく契約の更新が繰り返されてきたことがうかがえることから、同人が当該雇用契約の更新を期待するのには相当な理由があり、当該契約が更新されなかったことは、不利益取扱いであると言える。
(イ)不当労働行為意志について
 確かに、平成30年12月10日付け支部長名の文書から組合に対する支部の非難の感情を見て取れるものの、支部は、A2の雇用契約について31年4月1日から令和元年8月3日まで更に更新したが、5年を超えて同人の雇用契約を更新しないという支部の意志は、一貫している。
 組合は、支部が他のグループの一般契約社員を窓口相談員に応募させ、意図的に過員状態を作り出し雇止めを行ったと主張する。しかし、A2との雇用契約について、通算期間は5年を限度とするという支部の意思は、上記のとおりA2が組合に加入した平成30年6月5日よりも前から固まっていたと見るべきであるから、同人の組合活動を嫌悪した故であるとまでは認められない。
 したがって、支部がA2の雇用契約を更新せず、令和元年8月3日付けで雇止めにしたことは、労組法第7条第1号の不当労働行為には当たらない。
(2)労組法第7条第3号該当性について
 支部は、A2が組合に加入する前から、同人の雇用契約については5年を超えて更新しないという意思決定をしていたことからすると、令和元年8月3日付けでA2を雇止めにしたことは、組合の弱体化を意図したものとは認められず、労組法第7条第3号の不当労働行為にも当たらない。
2 支部が、令和元年7月26日付け第7回団体交渉の申入れを拒否したことは、労組法第7条第2項の不当労働行為に当たるか。第6回団体交渉までに、支部は次の団体交渉事項について誠実交渉義務を尽くしたか。(争点2)
① A2に対するパワハラについて
 支部は、パワハラ問題について、調査及び再調査の結果など具体的に回答の根拠を説明し、必要に応じ文書回答を行うなど、組合が理解し納得することを目指して誠実に団体交渉に当たっていたと評価することができ、これ以上団体交渉を重ねても議論は平行線をたどったまま行き詰まった状態であったと認められる。
 したがって、A2に対するパワハラについて、支部が令和元年7月26日付け第7回団体交渉の申入れを拒否したことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
② A2の令和元年8月3日付の雇止めについて
 支部は、A2の雇用契約については5年を超えて契約の更新をしないという結論ありきであり、組合が理解し納得することを目指して、自らの主張の根拠を具体的に説明するなどして誠実に団体交渉に当たっていたとは言えず、法人の主張を採用することはできない。
 したがって、A2の雇止めについて、支部が令和元年7月29日付けの団体交渉申入れを拒否したことには正当な理由がなく、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
③ 就業規則改定に関わる労働者代表選出について
 支部は、就業規則改定に係る労働者代表選出について、具体的に回答の根拠を説明し、必要に応じ文書の写しを提供するなど、組合が理解し納得することを目指して誠実に団体交渉に当たっていたと評価することができ、これ以上団体交渉を続けても、就業規則改定の有効性についての見解が合意に至る見込みはない状況だったと認められる。
 したがって、就業規則改定に関わる労働者代表選出について、支部が令和元年7月26日付け第7回団体交渉の申入れを拒否したことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
④ 皇室祝賀行事関連の休日の手当について
 支部は組合に対し、皇室祝賀行事関連の休日の手当を支給できない旨の回答の考え方や根拠を具体的に説明し、組合からの質問に応じるなど、組合が理解し納得することを目指して誠実に団体交渉に当たったと評価することができ、再び団体交渉を重ねても、同様の議論が繰り返されるばかりで合意に達する見込みはないと言える状態であると認められる。
 したがって、令和元年7月26日付け第7回団体交渉の申入れの追加議題である当該臨時手当について、支部が団体交渉の申入れに応じないことには正当な理由があり、労組法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
3 支部が、平成30年12月10日付けの文書において、組合の再反論書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点3)
 支部は、同文書において、団体交渉が逆ハラスメントになるとは言っていない、組合の不誠実極まりない交渉態度がハラスメントになるのではないかと警告した旨を主張する。しかし、同文書を通してみると、支部は、「逆ハラスメントにあたる」と言及する前段においても、第2回までの団体交渉内容について双方の捉え方が一致するとは限らないにもかかわらず、組合の再反論書に対して「揚げ足を取るのは非常識」、「非論理的な論法」などと述べており、パワハラに関する支部の回答に納得せず再反論をする組合に対して、明らかに非難の感情がうかがえる。
 また、同文書は平成30年12月13日に行われた第3回団体交渉の直前に送られたものであることからすれば、本件の主たる組合活動である団体交渉において組合を萎縮させることを企図した支配介入であると認められる。
 したがって、支部が、同文書において、組合の再反論書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和3年(不再)第18号・第20号 一部変更 令和5年2月15日
 
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