概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和5年(行ウ)第391号
全国健康保険協会中労委命令取消請求事件 |
原告 |
X(個人) |
被告 |
国 |
処分行政庁 |
中央労働委員会 |
判決年月日 |
令和6年6月27日 |
判決区分 |
却下 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、B協会の埼玉支部が、①組合員Xを雇止めにしたこと、②「組合員Xに対するパワーハラスメント」、「組合員Xの雇止め」及び「就業規則改定に関わる労働者代表選出」を各議題とする第7回団体交渉の申入れを拒否したこと、③A組合の書面及び団体交渉態度について「逆ハラスメントにあたる」と述べたこと等が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審埼玉県労働委員会は、B協会に対し、上記②の「組合員Xの雇止め」を議題とする第7回団体交渉に応じなかったこと及び上記③について不当労働行為であることを認定し、今後、このような行為を繰り返さない旨の文書を手交すること及び「組合員Xの雇止め」を議題とする団体交渉応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 A組合は、申立ての棄却部分を、B協会は救済命令部分をそれぞれ不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更し、上記③について不当労働行為であることを認定し、B協会に対し、今後、このような行為を繰り返さない旨の文書を手交することを命じ、その余の救済申立てを棄却した。
4 Xは、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、これを却下した。 |
判決主文 |
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点①(本件初審命令及び本件処分(中労委命令)(以下「本件処分等」という。)に係る審理手続の当事者となっていなかったXに、本件訴えに係る原告適格があるといえるかどうか)について
⑴ Xは、自らが本件処分等に係る審理手続の当事者となっていなくとも、本件処分等によって権利・利益の侵害を受けている上、労働者個人の救済や過重な負担回避の観点からも、本件処分の取消しを求める法律上の利益があると主張する。
⑵ア しかし、労働組合法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、不当労働行為につき一定の救済利益を有すると認められる労働組合及び労働者に対し、それぞれ独立の救済申立権を保障するものであるから、労働組合のみが労働委員会に救済を申し立てた場合に、その申立てに係る救済命令又は救済申立てを棄却する命令が確定したとしても、当該労働組合に所属する労働者が自ら救済申立てをする権利に何らかの法的影響が及ぶものではない。したがって、本件処分が確定したとしても、Xが自ら救済申立てをする権利に法的影響が及ぶことはない。
イ また、救済命令は、労働者が団結すること及び団体交渉することに対する侵害そのものを除去し、もって正常な労使関係の回復を図るため、使用者に作為・不作為を命じ、その公法上の義務を課すものであって、申立人やその他の命令による受益者と被申立人との間に私法上の権利義務関係を形成するものではなく、直ちにXと本件協会埼玉支部との間の私法上の権利義務関係に影響を及ぼすことはない(最一小判平7・2・23参照)。したがって、Xが本件処分により本件協会埼玉支部に対する私法上の権利利益を侵害されたということもできない。
ウ そして、本件処分が判決により取り消されれば、改めて処分行政庁が本件協会に対して救済命令を発し、何らかの公法上の義務を命ずることもあり得るし(行政事件訴訟法33条2項及び3項)、Xがその利益を受ける余地があることは否定することができないが、当該救済命令が発せられても罰則等によって間接的に実現される可能性がある限度にとどまり(労働組合法28条)、本件協会埼玉支部とXとの間の私法上の権利義務関係に影響が及ぶものではなく、Xが本件協会埼玉支部に対してその履行を求める権利を有することになるものではない。
エ 以上のとおり、本件処分の確定によって、Xの救済申立てをする権利に影響がなく、その私法上の権利利益が侵害されるものともいえないから、Xは、本件処分について、「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)には当たらず、本件訴えにおいて原告適格を有しない。
2 まとめ
以上によれば、Xは、本件訴えにつき原告適格を有しないから、その余の争点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法であり、却下すべきである。 |
その他 |
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