労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)31号
あんしん財団不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年10月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が組合員A2を配転したこと、②支局長が、A2に対して退職を勧奨する発言を行ったこと、③同局長による組合員A3に対する発言、④法人がA2の時短勤務を終了したこと、⑤組合員A4、A3、A5、A2及びA6に対して、グレードの降格又は降給をしたこと、⑥A2を普通解雇したこと、⑦A5を普通解雇したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②、⑥及び⑦について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)A2及び同A5に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職復帰及びバックペイ、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合員A2に対する平成31年2月28日付普通解雇及び同A5に対する令和元年5月31日付普通解雇をなかったものとして取り扱い、両名を原職に復帰させるとともに、解雇の翌日から復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。

2 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、法人の本部及び組合員が所属する各支局内の職員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y法人     
理事長 B1

 当財団のP支局長が、平成29年12月25日、貴組合の組合員A2氏に対して退職を勧奨する発言を行ったこと、当財団が、同氏を31年2月28日付けで解雇したこと及び貴組合の組合員A5氏を令和元年5月31日付けで解雇したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 法人は、第1項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 平成29年7月26日付けで、法人が、組合員A2をP支局へ配転したことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点①)

 組合員A2は、組合員7名の復職に係る団体交渉における協議を経て、自身の疾病が治癒したとして復職願を提出する際に、内勤・事務職での復職は可能であるとの所見が記載された主治医の診断書を提出するとともに、復職願には、通勤時間の配慮を求めること、復職先はQ支局を希望すること、復職先は団体交渉にて協議することを法人に求める旨を記載して提出したものの、法人は、A2を、従前よりも通勤時間が長くなるP支局への復職を命じたことが認められる。
 しかしながら、法人では、平成24年の人事制度の改正以降、全国規模での配転が一般的に実施されていたという人員配置の事情の下では、職員の配転先は自ずと広範囲にわたることとなるところ、法人は、A2を、転居を要する地方の支局などではなく、自宅から通勤可能なP支局に配置している。
 また、法人は、A2が復職するに当たり、時短勤務の措置を講じたが、同措置は、就業規則上のものではなく、法人において前例すらなかった措置であることからすれば、同措置は、上記の主治医の診断書の、復職当初は、負担を避ける意味で混雑時出勤への配慮を要し、しばらくは時短等含めた勤務時間帯への配慮が望ましい旨の記載を踏まえて執られた措置とみるのが相当である。
 さらに、A2は、Q支局長から叱責されて精神的に追い詰められた旨の陳述書を自ら裁判所に提出しており、法人が、上記事情を今後の懸念要因と捉え、同人のQ支局への配置を回避する判断をしたとしても、不合理とまではいえない。
 加えて、法人は、A2に復職を命ずるに当たり、就業規則の定めのとおり、同人及びその主治医と面談を行い、A2本人の抱える事情や主治医の医学的知見などを事前に聴取するなど、復職までの手順において不自然な点も認められない。
 以上のとおり、法人は、法人における人員配置の事情の許す範囲にてA2の配転先を選定しており、また、主治医の知見を一部採り入れて、就業規則にない時短勤務の措置を講じるなど、A2の事情に配慮した措置を講じている。また、復職までの手順等に不自然といえるまでの事情はうかがわれず、その他、法人がA2を組合員であるが故に不利益に取り扱ったと認めるに足りる事実の疎明もない。
 以上のことからすれば、法人がA2をP支局に配転したことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たると認めることはできない。

2 平成29年12月25日、P支局長は、組合員A2に対して退職を勧奨する発言を行ったか。発言を行ったとすれば、その発言は、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点②)

 組合員A2との面談におけるP支局長(B2)の「早期退職って制度があるじゃん。」、「あれば絶対考えられないの。」等の発言からすれば、この面談では、法人の早期退職制度への応募の意思確認にとどまらず、A2に退職の勧奨を行ったとみるのが相当であり、また、当時、労使は対立的な関係にあった。当該発言は、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある同支局長が、法人に対して対立的姿勢を取る組合を嫌悪する法人の意を体して、組合員であるA2を、早期退職募集の機会を利用して排除しようとしたものということができる。
 よって、当該発言は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合員を排除することにより組合の弱体化を図る支配介入にも当たる。

3 平成30年4月2日、P支局長は、組合員A3に対して、「いいんじゃない。出社できなくなっちゃえば。」と発言したか。発言したとすれは、その発言は、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点③)

 P支局長(B2)は、組合員A3との復職時の面談において、「いいんじゃない。出社できなくなっちゃえば。」と発言したことが認められ、上記発言のみを捉えれば、A3に対する攻撃的な言葉遣いであったことは否定できない。
 しかし、前後のやり取りをみると、まず、A3が電話による営業活動(テレアポ)の件数目標が負担となる旨を挙げて、「それ本気でそれをやるとですね、多分もう出社できなくなっちゃうんじゃないかなってのもあって(以下略)」などと述べたことに対して、支局長B2は「いいんじゃない、出社できなくなっちゃえば。」と答えたものの、「できるところまでやれば。」と付け加えて述べている。
 さらに、「出社できなくなっちゃっても構わないんですか。」とのA3が受け取った趣旨を直ちに否定するとともに、「やってみないと分かんないじゃない。」と述べて、テレアポの目標に向けて挑戦することを促していることからすれば、上記会話の趣旨は、支局長B2が上司として、業務目標に向けて挑戦することを促すものであったとみるのが相当である。
 当時は、労使が対立的な関係にあったといえるが、面談における上記のやり取り以外の事実については何ら明らかとされていない本件においては、B2の発言が対立的な労使関係を踏まえたものであるとまでいうことはできず、当該発言のみをもって、A3が組合員であることを理由とした不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるということはできない。

4 平成30年4月30日をもって、法人が、組合員A2の時短勤務を終了したことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点④)

 組合員A2は、30年5月1日付けで本部への配転を命じられたことを受けて、法人に対し、時短勤務の継続措置を求め、併せて、時短勤務と通院の継続が望ましい旨が記載された主治医の診断書も提出したものの、法人は、同人の希望を受けいれることなく、本部への配転とともに時短勤務を打ち切ったことが認められる。
 しかし、この配転により、A2の通勤時間は約20分短縮するとともに業務については営業業務から内部事務に変更されており、法人が、同人の業務や通勤時間についての一定の配慮を行う中で、時短勤務の措置を終了したことが不自然な対応であったとはいい難い。
 以上を踏まえれば、法人が、A2の配転に伴い時短勤務の措置を終了したことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入には当たらない。

5 平成30年6月20日付けで、法人が、組合員A4、A3、A5、A2及びA6に対して、グレードの降格又は降給をしたことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点⑤)

(1)法人において、職員に支給する基本給はグレード給と調整給とを合わせたものであり、①このうちグレード給は、法人の定めるグレード定義により、管理職層を2階層(M2、M1)、非管理職層を4階層として格付けを行い、対応するグレードの金額を支給するものであること、②昇格又は降格によってグレード給の額が増額又は減額になること、③グレードについては昇格又は降格に至る場合が定義されており、このうち、グレードの降格については、グレードの昇格及ひ降格に関する考課基準に従い、直近4回の半期考課において「戊」以下の評価を2回受けた者についてはグレードが降格になること、④グレード内の降給については、G/Sグレードにおいては「戊」評価を受けることにより2号俸降給となることが認められる。
 そして、業務推進課に所属する組合員A4、A3、A2、A5及びA6のうち、A4が29年下期、A3、A2、A5及びA6が29年度上期及び下期の考課において「戊」評価を受けたことが認められる。
 加えて、法人に所属する職員のうち、A4ら組合員以外にも、直近4回の考課で「戊」評価を2回以上受けたことにより降格に至っている者は複数(29年度7名、30年度5名)存在すること等の事情に照らせば、29年度上期及び下期におけるA4ら組合員の考課結果が組合員であるが故に不当な評価を受けたことなどの事情が認められない限りは、それらの期におけるA4ら組合員が各自の考課結果に基づき降格又は降給に至ったことが不当労働行為には当たるとはいえない。

(2)組合は、A4らに対する考課はいずれも組合員であるが故の差別に基づく不当なものであるなどと主張するが、組合が不当な処遇などとして主張する事実については、いずれも、それを裏付ける疎明がないか、不合理なものとは認められず、ないしは勤務成績や考課への具体的な影響等が必ずしも明確とはいえない。
 これらのことから、法人が、組合員であることなどを理由として、A4らに不当な評価を行ったとまではいえず、考課結果に基づく降給ないし降格が、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合の組織運営に対する支配介入に当たるとまでは認められない。

(3)よって、30年6月20日付けで、法人が、A4、A3、A5、A2及びA6に対して、グレードの降格又は降給をしたことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い又は組合の組織運営に対する支配介入には当たらない。

6 法人が、組合員A2を、平成31年2月28日付けで解雇したことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点⑥)

 法人は、組合員A2の勤務成績が低いこと、平成27年以降の休職や遅刻、欠勤が多いことなどを挙げて、同人に普通解雇を通知している。
 確かに、A2は、29年7月31日に一旦復職したものの、就業規則上の休職期間が満了している状況で再び体調不良のため出勤できなくなり、解雇通知を受けるまでの約4か月の間は休職を取得できずに欠勤状態となっており、また、同人の勤務成績の結果も良好であったとはいえないのであるから、法人が同人の解雇を検討する余地がなかったとはいえない。
 しかしながら、A2への解雇事由が数か月間にわたる欠勤や勤務成績の不良といった一定の期間経過を伴うものであるにもかかわらず、法人は、それまで解雇の可能性等を何ら示唆することもなく、31年2月26日に突如、二日後の解雇を通知している。また、A2は、同年1月22日に就労は不可能との診断書を提出し、その1か月後である同年2月19日にも就労は不可能との診断書を再び提出しているが、いずれも、1か月の加療期間を要するとの所見であり、今後の見通しが立たないような状態であったともいえない。そうすると、本件A2の解雇は、その通知時期という点において、いかにも唐突で、不自然な対応であったとみざるを得ない。
 そして、A2の解雇通知書において、法人は、同人が、就労に耐えられない健康状態にあり、勤務成績も低いにもかかわらず、裁判所での和解協議において法外な解決金を要求するなどして退職和解を断念させたなどと記載、普通解雇事由とは何ら関連のない事項を挙げて、法人の一方的な見解に基づいて同人を強く非難していることからすれば、法人が同人に対して強い敵対心を有していたことがうかがわれる。
 また、法人のP支局長(B2)は、法人の意を体して法人とA2を含めた組合員7名との間で係属中だった配転に係る訴訟(27年の損害賠償請求事件)を引き合いに出してA2に退職を勧奨するなどしており、法人が、上記訴訟を提起した組合員らを嫌悪し、ひいては組合員らの所属する組合を嫌悪していたことが強くうかがわれる。
 さらに、法人がA2に解雇を通知した直前の時期である31年2月21日には、組合員A7の労働審判において本件調停が成立し、その内容がインターネット上に勝利的和解として公開されたことについて、法人は、本件調停成立をめぐる組合員らの対応を問題視し、敵対的反応を示していたといえる。
 加えて、法人がA2に解雇を通知した当時の労使関係をみると、組合が法人本部や理事長宅の最寄り駅付近や支局が入居するビル前で組合ビラを配布するなど積極的な情宣活動を展開し、これに対し法人は、支局長会議において、合同労組一般や組合の活動に対する批判的な記載のある配布資料に基づいて研修を行い、その後、複数の支局長が、支局で勤務していた組合員を含む職員らに対し、配布資料を配布して読み上げるなどしている。そして、組合は、31年1月18日、法人の上記対応について31不3事件を申し立て、その後、命令書が交付されるに至っている。A2に解雇を通知した直後に当たる同年3月14日には、東京高裁は、27年の損害賠償請求事件について、法人の主張を認め、東京地裁判決が命じた4名に対する慰謝料の支払を取り消し、組合員A4の控訴を棄却するなど、労使間の対立は極度の緊張状態にあったといえる。
 以上を併せ考えれば、法人は、訴訟を提起した組合員ら及び組合員らの所属する組合と、組合員らによる上記インターネット上の公開や積極的な抗議活動を嫌悪して、組合員であるA2を排除する意思をもって、急遽、同人の解雇を決定したとみるほかない。よって、法人が、A2を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たる。

7 法人が、組合員A5を、令和元年5月3 1日付けで解雇したことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点⑦)

 法人は、組合員A5が、①勤務成績が低く、指導したが改善しなかったこと、
②休職することによる配転拒否を他の職員に呼び掛けたこと、③地方支局への配転を再三拒否したこと、④同人に命じた配転について訴訟を提起して法人を混乱させたことなどを理由に挙げて、同人に普通解雇を通知している。
 確かに、A5は、上記①の勤務成績が必ずしも良好とはいえず、また、上記③の平成31年3月以降、地方支局への配転命令を2度にわたり拒否しており、就業規則の定めからすれば、法人が同人の解雇を検討する余地がなかったとはいえない。
 しかし、上記④のA5が自らの配転について訴訟を提起して司法判断を仰いだことについては、そもそも解雇理由として合理的なものであるとはいえず、上記②の休職することによる配転拒否を他の職員に呼び掛けたことは、約4年前の出来事であるし、上記①の勤務成績が低く指導したが改善しなかったことについては、法人が、A5を十分に指導したり改善の機会を与えていたと認めるに足りる事実の疎明はない。
 さらに、上記③の地方支局への配転拒否については、A5には、自身の健康状態や家族の介護事情といった、一定の配慮が検討されてしかるべき事由が存在している中で、最初の配転内示先は転居を伴うR支所であり、その後、再検討を経た後の配転先はS支局であって、法人は、なお、転居を伴う遠方への支局へ配転を維持していたにもかかわらず、A5が正当な理由のない配転拒否を行ったと決めつけており、上記の個人的事情を踏まえて配転先の検討がなされたとうかがわれるような事情も認められない。
 また、法人は、産業医の助言に従って、自宅までの往復交通費を月1回支給するという特別の措置を申し出たと主張するが、A5自身の健康状態や家族の介護といった事情に加え、自宅からの距離を考えると十分な措置であるとはいい切れない。
 本件A5の解雇に至る経緯をみると、法人は、同人に対してR支局への配転を打診する際の面談をビデオ撮影しているが、ビデオ撮影の合理性は見出し難く、法人の対応は、同人に対して極めて警戒的なものである。
 加えて、A5への解雇通知書をみると、法人は、同人が転勤内示を違法と主張して理由のない裁判を繰り返し起こして法人を混乱させたとか、何ら根拠を挙げずに同人の疾病には詐病の疑いがあるなどと非難し、また、法人は、同人は就労に耐えられない健康状態にあり、勤務成績も低いにもかかわらず、同人が裁判所での和解協議において法外な解決金を要求するなどして退職和解を断念させたなどと記載し、普通解雇事由とは何ら関連のない事項までも挙げて、法人の一方的な見解に基づいて、更に同人を非難している。上記A5の解雇通知の内容からすれば、法人は、A5及び組合に対して強い敵対心を有していたことがうかがわれ、このような経緯を経て行われた本件A5の解雇は、組合員であるA5の排除を意図して行われたとみざるを得ない。
 そして、当時の労使関係をみると、組合と法人とは、極度の緊張状態にあり、加えて法人は、30年10月25日、組合員A4、A3及びA5に対し、同月24日、労働組合活動のためとして欠勤し、労務提供義務を履行できなかったとして注意指導書を発していたという事情も認められ、さらに31年2月にはA2が解雇されるなど、労使関係の対立が先鋭化していた時期といえる。
 以上を併せ考えると、法人が、A5を、令和元年5月31日付けで解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるといわざるを得ない。

8 以上の次第であるから、法人のP支局長(B2)が、平成29年12月25日、組合員A2に対して退職を勧奨する発言を行ったこと、法人が、A2を31年2月28日付けで解雇したこと、及び組合員A5を令和元年5月31日付けで解雇したことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当するが、その余の事実は、同法同条に該当しない。 

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京地裁令和4年(行ウ)第578号 一部取消 令和5年12月14日
 
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