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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和6年(行コ)第22号
あんしん財団不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人兼被控訴人(一審被告)  東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
被控訴人兼控訴人(一審原告)  X法人(「法人」) 
一審被告補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和6年7月10日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が組合員A1を配転したこと、②B1支局長が、A1に対して退職を勧奨する発言(以下「本件発言」という。)を行ったこと、③B1による組合員A5に対する発言、④法人がA1の時短勤務を終了したこと、⑤法人が、組合員A1、A2、A3、A5及びA7に対してグレードの降格又は降給をしたこと、⑥法人がA1を普通解雇したこと(以下「本件解雇①」という。)、⑦法人がA2を普通解雇したこと(以下「本件解雇②」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。

2 東京都労委は、上記②、⑥及び⑦について労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A1及びA2に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職復帰及びバックペイ、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。

3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、東京都労委命令のうち、上記2(ⅰ)及び(ⅱ)のA1に係る部分を取り消した。

4 東京都労委及び法人は、これを不服としてそれぞれ東京高裁に控訴したところ、同高裁は各控訴をいずれも棄却した。
 
判決主文  1 一審被告及び一審原告の各控訴をいずれも棄却する。

2 一審被告の控訴に係る控訴費用は一審被告の負担とし、一審原告の控訴に係る控訴費用は一審原告の負担とし、当審において補助参加によって生じた費用は、これを二分し、その一を一審原告の負担とし、その余を補助参加人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も、法人の請求は、A1に係る救済命令の取消しを求める部分は認容すべきものであり、その余の部分(A2に係る救済命令の取消しを求める部分)は棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し(略)、2のとおり当審における当事者の主張についての判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1ないし5に説示するとおりであるから、これを引用する。

2 当審における当事者の主張について
(1) 東京都労委の主張について
 ア 東京都労委は、B1の本件発言は、法人の意を体して、長時間にわたり執拗に退職を勧奨したもので、不当労働行為に当たると主張する。
 しかし、原判決を引用して説示したとおり、本件発言の内容、経緯等からすれば、B1の発言は、損得から考えた場合になぜ早期退職制度を利用しないのかという疑問に端を発した一連のもので、A1から退職しない方が得である旨説明を受けると納得し、その後も退職を執拗に勧めたなどの事実は認められないことなどからすれば、本件発言は、B1が法人の意を体してA1を早期退職募集の機会を利用して排除しようとしたものとは認められない。また長時間にわたったのは、B1自身の退職時期についての考え方、体調に関する話題等の雑談も行われたためであって、B1が長時間にわたって執拗にA1に退職勧奨したと評価することもできない。 
 そうすると、本件発言が不当労働行為に当たるとの東京都労委の主張は、採用できない。

 イ 東京都労委は、本件解雇①の解雇通知書の記載から法人がA1に悪感情を有していたとうかがわれるのみならず、組合員A4の労働審判の調停成立後の法人と組合とのやりとりや、法人による資料の配布(下記(2)イ参照)などからも、不当労働行為意思の存在が推認され、本件解雇①は不当労働行為に当たると主張する。
 しかし、原判決を引用して説示したとおり、本件解雇①の当時、A1は、適応障害のために就労できず、かつ、治癒して従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復する見通しも立っていなかったといわざるを得ず、また、法人においてA1が就労可能となる見込み等についての確認を怠ったともいえないこと等からすると、A1の就労不能は、就業規則上の「身体または精神の障害等により業務に耐えられないと認められたとき」又は「前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」の解雇事由に該当し、客観的に合理的な理由に基づくもので、社会通念上相当というべきである。
 また解雇通知書には、平成27年訴訟(組合員A1~A7の7名を含む9名が、平成27年4月1日付けの転勤命令等について不法行為等に当たるとして、法人を相手方として東京地裁に労働審判を申し立て、その後民事訴訟に移行したもの)控訴審の審理における和解交渉でA1が真摯に検討せず、法外な解決金を要求するなどの対応をしてきたなどと記載され、法人がA1に悪感情を有していたとはうかがわれるものの、A1の就労状況に照らすと、解雇通知書の記載をもって、組合員であるA1の排除を決定的な動機として本件解雇①が行われたと認定することは困難である。このことは、法人と組合との対立を示す諸事情を考慮しても左右されるものではなく、これと異なる東京都労委の主張は採用できない。

(2) 法人の主張について
 ア 法人は、本件解雇②は相当なもので、不当労働行為には当たらないと主張する。
 しかし、原判決を引用して説示したとおり、A2は法人で約19年間事務職として勤務していたところ、平成25年に法人の改革により営業職に従事することとなり、その後平成27年3月から出勤しなくなり、同年6月から平成29年6月まで休職していたことも併せ考えると、平成26年度、休職後の平成29、30年度は営業職に異動してからの経験が少なかったといえる。加えて、比較的営業成績を上げやすいと考えられる既存の顧客に対する営業活動をほとんど割り当てられず、未加入事業所への新規のテレアポに従事していたことからすれば、A2の成績が直ちに上がらないことについてやむを得ない面があったといわざるを得ない。
 またA2は、B5支局長からは専らコール数に関する指導を受けていたところ、A2のコール数は、目標に近い数に到達していたことが多かった上、復職後は女性職員の平均の約2倍程度と大きく上回り、最上位となるなど、指導に沿っておおむね業務を誠実に遂行し、成績向上の意欲も有していたといえる。そして、A2の有効通話率は、平成29年度下期から平成30年度にかけて2倍以上上昇し、改善傾向にあったことなどにも照らすと、経験値の上昇や法人による十分な指導があった場合には、A2の業務成績が改善する見込みがなかったとまでいえるものではない。
 法人は、千葉支局におけるA2の成績は低劣で、営業環境の厳しい首都圏支局では、短期間に「黒字」を出すまでにA2を指導することには無理があったなどと主張するが、短期間のうち給与支給額を超えるような営業成績を出さなければ解雇事由に該当するということはできない。 
 また、法人は、千葉支局以外の首都圏支局も競争は極めて激しく、A2を神奈川支局、埼玉支局に配置転換したとしても、成績が劇的に改善するものではないのに対し、地方の支局・支所の営業環境は極めて良好で、A2が赴任しても十分好成績を上げることが可能で、まずは地方支局・支所への配置転換により営業成績を回復させる人事措置を採るべきであり、地方でも営業成績が上がらない場合に初めて事務職への配置転換を検討するのが相当な人事措置であるのに、A2は一貫して転勤を拒否しており、これは懲戒解雇理由に該当するなどと主張する。
 しかし、地方支局・支所がいつも成績上位とは認められず、A2を、転居を伴う秋田支所へ配置転換すべき合理性に疑問があるといわざるを得ないし、同じく転居を伴う九州支局へ配置転換すべき積極的な理由は見出しがたい。他方で、職員による不正等のリスク発生を防ぐため人事ローテーションの確保が必要というのであれば、A2の成績が劇的に改善するわけではないとしても、千葉支局以外の首都圏支局への配置転換も検討できたはずである。さらに、A1を本部異動にしていること等からすると、A2も本部の事務職に配置転換できる現実的な可能性があったというべきである。
 そうすると、秋田転勤命令は権利の濫用に当たり無効であり、A2が秋田転勤命令に従わなかったことが解雇事由に該当するとは認められず、福岡転勤内示を受諾しなかったことも、解雇事由に該当するということはできない。

 イ 法人は、解雇権濫用となるか否かと、不当労働行為に該当するか否かは別であり、解雇権濫用となるからといって、不当労働行為に該当するわけではないと主張する。
 しかし、原判決を引用して説示したとおり、本件解雇②の際、法人は、4年以上前のメール(A2が、平成27年4月の転勤に係る内示を受けた職員に、「私は休職しようと思っています。」「まだ辞めたくないと考えているなら、やっぱり休職が一番の手立てなので、早くに病院に行き診断書を取り提出しなさい。」などと記載し送信したメール)を解雇理由として挙げ、A2の適応障害について詐病の疑いがある、平成27年訴訟控訴審の審理における和解交渉でA2が真摯に検討せず、法外な解決金を要求するなどの対応をしてきたなどと記載した解雇予告通知書をもって本件解雇②の意思表示をしたことは、法人がA2を嫌悪し、不信感を有していたことをうかがわせるものである。
 また、A2及び組合と法人との関係は、組合による街宣活動や法人による研修(支局長会議の中で、「ユニオンとは何かーその実態と対応方法ー」と題する資料を配付して行った研修)が行われるなど緊張関係にあり、労使間対立が続いていたものであり、法人は本件研修において「ユニオンは、通常の労働組合ではありません。」「社員が悪い場合でも、自分たちユニオンは弱者、会社は悪とのイメージを植え付ける」などと記載された資料を配布するなどしていたことからすれば、法人が組合を嫌悪していたことが推認されるというべきである。
 そして本件解雇②は、法人と組合とが対立関係にある中で、組合を嫌悪する原告が、組合員であるA2に対し行ったもので、本件解雇②に客観的に合理的な理由が認められないことも併せ考慮すれば、本件解雇②は、A2が組合員であることを理由として行われたものと推認するのが相当で、不当労働行為に該当すると認めるのが相当である。
3 結論 
 以上によれば、法人の請求は、A1に係る救済命令の取消しを求める部分は認容すべきものであるが、その余の部分(A2に係る救済命令の取消しを求める部分)は棄却すべきものであり、原判決は相当であるから、東京都労委及び法人の各控訴をいずれも棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成30年(不)31号 一部救済 令和4年10月18日
東京地裁令和4年(行ウ)第578号 一部取消 令和5年12月14日
 
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