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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第578号
あんしん財団不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X法人(「法人」) 
被告  東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
被告補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和5年12月14日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が組合員A1を配転したこと、②B1支局長が、A1に対して退職を勧奨する発言(以下「本件発言」という。)を行ったこと、③同支局長による組合員A5に対する発言、④法人がA1の時短勤務を終了したこと、⑤組合員A1、A2、A3、A5及びA7に対して、グレードの降格又は降給をしたこと、⑥A1を普通解雇したこと(以下「本件解雇①」という。)、⑦A2を普通解雇したこと(以下「本件解雇②」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。

2 東京都労委は、②、⑥及び⑦について労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A1及びA2に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職復帰及びバックペイ、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。

3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、東京都労委命令のうち、前記2(ⅰ)及び(ⅱ)のA1に係る部分を取り消した。
 
判決主文  1 東京都労働委員会が、原告を被申立人、被告補助参加人を申立人とする東京都労働委員会平成30年不第31号事件について、令和4年10月18日付けでした命令のうち、以下の部分を取り消す。
⑴ 同命令主文1項のうち、原告は、被告補助参加人の組合員A1に対する平成31年2月28日付普通解雇をなかったものとして取り扱い、同人を原職に復帰させるとともに、解雇の翌日から復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならないとする部分
⑵ 同命令主文2項のうち、以下の点が不当労働行為であると認定されたこと及び今後このような行為を繰り返さないように留意する旨を記載した文書を被告補助参加人に交付するとともに原告の本部及び組合員が所属する各支局内に掲示することを命じた部分
ア 原告の西東京支局長が平成29年12月2日、被告補助参加人の組合員A1に対して退職を勧奨する発言を行ったこと
イ 原告が被告補助参加人の組合員A1を平成31年2月28日付で解雇したこと
⑶ 同命令主文3項のうち、同命令主文1項及び2項のうち上記⑴及び⑵の部分を履行したときは速やかに東京都労働委員会に文書で報告することを命じた部分

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用はこれを2分し、その1を原告の、その余は被告補助参加人の負担とし、その余の費用はこれを2分し、その1を被告の、その余は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点⑴ B1支局長による本件発言の不当労働行為該当性(労組法7条1号、3号)

 B1支局長が平成29年12月25日、A1に対し、損得から考えれば退職が得なのではないかとして早期退職制度の利用について尋ね、同制度の利用を勧めるかのような発言をしたことが認められる。
 しかしながら、本件発言の内容及び経緯等からすれば、B1支局長の発言は、損得から考えた場合にはなぜ早期退職制度を利用しないのかという疑問に端を発した一連のものであり、本件発言時にB1支局長自身の退職の損得について述べ、A1から退職しない方が得である旨説明を受けると納得し、その後もなお退職を執拗に勧めたなどの事実は認められず、A1の発言を受けて「存分にやりなさい」などと述べていることからすれば、本件発言当時、平成27年訴訟(A1、A2、A3等が平成27年5月15日、法人が平成27年4月1日付けでA2を南東京支局から東北支局へ、A1を神奈川支局から北陸支局へ、その他A3、A5、A4、A6及びA7といった多数の職員をそれぞれ異動させることを内容とする平成27年転勤命令が無効であるとして配転先での就労義務のないことを仮に定める仮処分を申し立て、更に、A1、A2、A3を含めた9名は、東京地裁に対し、法人を相手方として、労働審判を申し立て、その後同事件は民事訴訟に移行)が係属中であり、同事件の判決が言い渡される約2か月前に本件発言が行われたこと、A1の西東京支局への配転内示に対し組合が撤回要求を行っていたこと、B1支局長が西東京支局長の立場にあったことを踏まえても、本件発言は、B1支局長が法人の意を体してA1を早期退職募集の機会を利用して排除しようとしたものであるとは認めることはできない。
 したがって、B1支局長の本件発言がA1が組合員であるが故の不利益取扱いであるとか、組合員を排除することにより組合の弱体を図る支配介入に該当すると認めることはできない。

2 争点⑵ 本件解雇①の不当労働行為該当性(労組法7条1号、3号)

(1) 本件解雇①の相当性、不当労働行為の成否

 法人において休職期間は最長でも2年であるところ(就業規則24条1項1号④)、A1は、平成27年3月26日に適応障害の診断を受け、同月27日から欠勤し同年6月30日から休職を開始し2年以上にわたって休職し、復職(以下「本件復職①」という。)した後も時短勤務措置を継続し、時短勤務措置終了後も週1回の通院を続け、さらに体調不良を理由に欠勤するなどしていたところ平成30年10月より再び適応障害の診断を受け4か月以上の欠勤をし続けた。
 法人では「復職後に休職の原因となった同一ないし類似の理由により再度休職する場合には、休職期間を通算する」とされ「休職期間が終了しても、なお、職務に復帰することができない場合は、休職期間の終了日をもって当然に退職するもの」とされている(就業規則25条4号)のであるから、本件復職①後にA1との労働契約関係を維持した上で再びA1を休職させることは就業規則上も予定されていなかったといえる。
 以上によれば、A1の就労不能は就業規則34条1号「身体または精神の障害等により業務に耐えられないと認められたとき」又は同条11号「前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」の解雇事由に該当し、客観的に合理的な理由に基づくもので、社会通念上相当であり、本件解雇①が組合員であるが故の不利益取扱いであるとか、組合員を排除することにより組合の弱体を図る支配介入に該当すると認めることはできない。

(2) よって、本件解雇①が労組法7条1号又は3号の不当労働行為に当たるとは認められない。

3 争点⑶ 本件解雇②の不当労働行為該当性(同条1号、3号)

(1) 本件解雇の相当性

 法人は、本件解雇②の解雇事由として①低劣な業務成績、②転勤拒否と対峙行動、③長期欠勤・休職等の長期欠務等、④千葉支局での低劣な業務成績、⑤再度の転勤拒否を挙げる。

ア ①低劣な業務成績、④千葉支局での低劣な業務成績について

(ア) 法人は、A2が平成27年転勤内示前の成績が低劣であり、平成27年3月26日から欠勤を続け同年6月30日から休職(以下「本件休職②」という。)し平成29年6月29日に復職(以下「本件復職②」という。)後も業務成績が低劣を極めていたから、就業規則34条2号、6号、10号及び11号に該当する旨主張する。

(イ)a A2の平成26年度、平成29年度下期及び平成30年度のアポ率や新規獲得人数の成績が低かったことが認められる。しかしながら、A2は法人で約19年間事務職として勤務していたところ、平成25年に法人の改革により営業職に従事することとなり、営業職としての業務を本格的に開始したのは平成26年度以降であり、その後平成27年3月26日から出勤しなくなり、同年6月30日から平成29年6月まで休職していたことも併せ考えると、平成26年度、休職後の平成29年度及び平成30年度はいまだ営業職に異動してからの経験が少なかったといえる。

 加えて、A2は比較的営業成績を上げやすいと考えられる既存の顧客に対する営業活動をほとんど割り当てられることなく、未加入事業所への新規のテレアポに従事していたことからすれば、A2の成績が直ちに上がらないことについてやむを得ない面があったといわざるを得ない上、A2と異なり、従業員追加加入折衝のテレアポ等も割り当てられていた他の職員の成績をA2の成績と単純に比較することができるかは疑問があるといわざるを得ない。
 また、A2はプロセスコントロールの下、テレアポを1日40件実施し見込先を作るという業務指示を受け、B5支局長からは専らコール数に関する指導を受けていたところ、A2のコール数は、体調不良等もあり常時目標を達成していたものではないが、目標にやや及ばないものの目標に近い数に到達していたことが多かった上、本件休職②の前後を通じて女性職員の平均を上回り、本件復職②後は女性職員の平均の約2倍程度と大きく上回り、最上位となるなど、A2は指導に沿っておおむね業務を誠実に遂行し、成績向上のための意欲も有していたといえる。
 これに対し、A2がB5支局長に対し面談でアポにつながらない旨相談しても、みんなそうであり、繰り返しやるしかなく、自信を持つことが一番であるなどとアドバイスを受けるにとどまり、業務指示書においてもコール数に着目するほかは、コール時間、トーク内容等を工夫してアポにつなげるようコメントが付されていたにすぎないのであって、アポにつながらないA2に対する的確な指導が十分に行われていたとはうかがわれない。
 そして、A2の有効通話率は、平成29年度下期から平成30年度にかけて2倍以上上昇しており、改善傾向にあったこと、アポ率もわずかではあるが上昇していたことも照らすと、A2自身の経験値の上昇やA2に対する法人による十分な指導があった場合には、A2の業務成績が改善する見込みがなかったとまでいえるものではない。

 b また、法人は本部の事務職として正職員を配置しており、平成30年度には人員体制を変更した上でA1を本部異動にしていること、A2は本部での勤務経験があり、復職願で希望先として本部も記載していたことなどからすれば、A2についても団体保険制度部といった本部の事務職に配置転換することができる現実的な可能性があったといえる。
 この点について、法人は、事務職を正職員から派遣職員に代替させたからA2を事務職に配置することは不可能であったと主張する。
 しかしながら、法人が正職員を事務職から営業職に配置替えしたのは、外部コンサルタントから正職員が給与規程におけるグレードの想定する業務よりも軽易な業務を担当していることなどの指導を受けたことによるものであるが、A2は平成30年6月には「I」グレード(上位者の詳細指示のもと定形業務を遂行する人材に対するグレード)に降格していたところ、支局の事務職業務に見合わない高いグレードであるとはいい難い。
 法人は、A2と派遣職員の人件費を対比した比較表を基に、A2の人件費は派遣職員の人件費を上回ると主張するところ、同表によれば令和元年度のA2の人件費に交通費や約30万円の派遣解約違約金等まで加算した上で、A2の人件費が派遣職員の人件費を年間10万円程度(上記派遣解約違約金が加算されている年は年間40万円程度)上回るにすぎず、A2と派遣職員の人件費にはほとんど差がないといえる。
 以上によれば、人件費の点からA2を支局の事務職に従事させることが困難であったとはいい難い。
 法人は、A2を支局の事務業務の担当とすると、人事基盤整備計画の根幹に反し、正職員間の公平に反するなどと主張する。
 しかしながら、法人が本部の事務職として正職員を配置していることは前記のとおりであり、仮にA2を本部の事務職に配置転換したとしても、正職員間の公平において特に問題が生じるとはいえないし、支局の事務業務であったとしても、通院の必要性等があるといった個別事情を踏まえ、A2を特別に事務職に配転したとしても、直ちに職員間の公平が問題となるとは認められない。
 そもそも、A2は人事基盤整備計画の趣旨が当てはまらない状況であることは上記のとおりである上、法人の主張によれば「I」グレードの職員に事務業務を担当させた場合には昇格が困難となるというのであるから、A2に事務業務を担当させることが必ずしも他の職員との公平性に反するともいえない。
 したがって、法人が上記主張するところは、長年事務職に従事し特段問題があったとはいえず、また適応障害に罹患し通院の必要性等があるA2について、事務職への配置転換をおよそ考慮することなく、「財団の職員として適格性がないと認められるとき」などとする理由にはならない。
 したがって、法人の主張は採用できない。
 よって、A2について業務成績の低迷を理由として「能力不足または勤務成績が不良で就業に適さないと認められたとき」、「業務遂行に誠意がなく、知識、技能、能率が劣り、将来の見込みがないとき」、「財団の職員として適格性がないと認められるとき」、「前各号に準ずるやむをえない事由があるとき」に該当するとは認められない。

イ ⑤再度の転勤拒否について

(ア) ⑤再度の転勤拒否のうち、秋田転勤命令について

 法人は業務上の必要性により職員に対し転勤を命じることができる(就業規則16条1項)ものの、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合は、当該転勤命令は権利の濫用として無効になるというべきである(最二小判昭61・7・14参照)。
 A2の営業成績が低迷であったこと、平成26年度の支局表彰(業績評価部門)で1位が北海道支局、2位が北陸支局であるなど営業成績の良い地方支局があったことからすれば、秋田転勤命令について、その業務上の必要性がおよそ存しないとまではいえない。
 しかしながら、支局及び支所の成績は年度により大きく変動している上、地方の支局又は支所がいつも成績上位であるとも認められない。そうすると、法人が主張するように地方であればあるほど未開拓であり営業成績を上げやすいとか秋田支所のように開設したばかりの地方支所の営業環境は極めて良好であるといえるかについて疑問があるといわざるを得ない。加えて、平成27年転勤内示においても、法人によれば、A2やA1に対し、優良な営業環境などを提供するために転勤を要する地域の地方支局への転勤を内示したところ、これに事実上拒絶された後に改めて打診された配置転換案において、A2は神奈川支局、A1は埼玉支局とされていた。
 そうすると、A2に対し、営業成績の向上を図るためであるとしても転居を伴う秋田支所への配置転換すべき合理性に疑問があるといわざるを得ない。
 そして、A2は、平成27年3月25日以降適応障害の診断を受け、休職(本件休職②)し、本件復職②後もC2医師から定期的な通院が必要である旨診断され、月に1回以上の頻度で通院していた上、C8医師も平成31年3月29日付けの意見書でA2は4週間に1回の通院が必要であり、「一般的に、心療内科・精神科への通院に関しては、主治医が変更になることの不利益が他科の受診に比べて大きいと考えられますので、現在の主治医への継続的な通院が可能になるような配慮は必要と考えます。」との意見を述べていたのであって、そうであるにもかかわらず、法人は、A2が現在の主治医へ継続的な通院が可能になるような配慮を全くしていない。
 以上を踏まえると、秋田転勤命令は、A2に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであって、権利の濫用に当たり無効である。
 よって、A2が秋田転勤命令に従わなかったことが「業務遂行に誠意がなく、知識、技能、能率が劣り、将来の見込みがないとき」、「財団の職員として適格性が認められないとき」、「前各号に準ずるやむをえない事由があるとき」に該当するとは認められない。なお、仮に秋田転勤命令が無効とまではいえなかったとしても、これに従わなかったことについて、法人が主張するように就業規則16条1項の「正当な理由」がなかったということもできないものであって、いずれにしても、これをもって上記解雇事由があるとはいえない。

(イ) ⑤再度の転勤拒否のうち、福岡転勤内示について

 そもそも、福岡転勤内示に係る転勤命令は本件解雇②までに発せられていないところ、内示は確定的なものではなく、また内示によって直ちに人事異動の効力が生じるものでもないから、A2が福岡転勤内示を受諾せず九州支局において就労しなかったとしても、直ちに労働契約上の債務の履行を怠ったとはいえない。
 また、転居を伴う九州支局へ配置転換すべき積極的な理由が見出しがたいこと及び転居を伴う支局への転勤を命ずることによるA2に生じる支障が大きいことは上記(ア)のとおりである。この点について、福岡転勤内示では法人は福岡からA2の自宅までの往復の交通費を月1回支給することを提案しており、千葉市所在のC1クリニックへの通院に係る経済的負担については配慮されていたものの、同配慮を踏まえても、通院時期の制約や移動の負担などを考慮すると、なおA2の被る不利益は大きいといえる。
 そして、本件解雇②後ではあるが、A2は令和元年5月29日にC2医師から「ストレス増悪時は、単身生活が困難な状態であったと考えられる。」との診断を受けたこと、上記のとおりA2の営業成績を向上させる手段として転居を伴う地方支局への転勤命令の合理性に疑問があることも踏まえると、福岡に転勤した場合の不利益等に鑑みてA2が福岡転勤内示を受諾しなかったとしても、それがおよそ理由のないものであるとはいえず、少なくとも内示の段階においてA2が受諾しなかったことをもってA2を解雇せざるを得ない重大な事由であったと評価することはできない。
 以上によれば、A2が福岡転勤内示を受諾しなかったことをもって「業務遂行に誠意がなく、知識、技能、能率が劣り、将来の見込みがないとき」、「財団の職員として適格性がないと認められるとき」、「前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」に該当するとはいえない。

ウ ②転勤拒否と対峙行動について

 法人は、A2が、平成27年転勤内示に係る転勤を拒否した上に、平成27年転勤内示を受けた女性職員に対し、「私は、休職しようと思っています。」、「まだ辞めたくないと考えているなら、やっぱり休職が一番の手立てなので、早くに病院に行き診断書を取り提出しなさい。」、「私は、明日の午後に心療内科に行ってきます。」などと記載したメール(以下「本件メール」という。)を送信し、法人に対峙する行動に出るとともに、平成27年訴訟を繰り返し起こすなどの行動に出て法人を混乱させたこと、秋田転勤命令及び福岡転勤内示を正当な理由を提示することもなく拒否したことが就業規則34条6号、10号及び11号の普通解雇事由に該当すると主張する。
 まず、A2に対する平成27年転勤命令は撤回されている。そして、A2はC2医師から適応障害である旨診断され、適応障害を理由に平成27年転勤命令に従わなかったものであって、これが解雇事由に該当するとは認められない。法人は、A2の上記診断は詐病の疑いがあると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 次に、A2が、平成27年転勤内示を受けた職員らに対し本件メールを送ったことが認められ、当該行為は不適切な行為ではあるものの、同行為が行われたのは本件解雇②の4年以上前のことであることや法人がその当時に速やかに本件メールに関して処分をしたことがうかがわれないこと、その後同種の行為が繰り返された等の事情もうかがわれないこと、A2は本件復職②後営業成績は低いものの上司の指示に従いおおむね誠実に業務を遂行していたこと等に照らせば、本件解雇②の時点で労使関係を解消させなければならない重大な事由であったとはいえない。
 また、平成27年訴訟が不当訴訟であったなどとも認められない。
 以上によれば、平成27年転勤命令を拒否し、また平成27年転勤内示を受けた後のA2の行動をもって解雇事由に該当するとは認められない。

エ ③長期欠勤・休職等の長期欠務等について

 法人は、A2が平成27年3月26日から欠勤を続け、同年6月30日からは約2年4か月に及ぶ欠務(本件休職②)を続け、本件復職②後も「適応障害」の主張を続け心療内科への通院を継続するなど債務の本旨に従った労務の提供ができるとはいい難い状況にあった上、平成27年3月25日時点の「適応障害」は詐病の疑いがあったといわざるを得ない、A2は本件休職②で既に2年以上にわたり休職しており、本件復職②後に再び適応障害を理由にA2を休職させたり転勤を免除したり、地方支局の事務職に配転するなどして労使関係を維持することは就業規則上も予定されていないとして、A2が就業規則34条1号、10号及び11号の普通解雇事由に該当する上、そもそもA2は休職期間満了日をもって当然退職となっている旨主張する。
 A2は本件復職②以降、秋田転勤命令が発せられるまで、定期的な通院は続けていたものの欠勤したことはなく、C8医師もA2について配置転換及び異動については現在の主治医への継続的な通院が可能になる配慮が必要であるとしつつも通常勤務が可能である旨の意見を述べていたことからすると、本件解雇②時点においてA2が長期欠勤をしていたとも、休職期間が終了しても、なお、職務に復帰することができない場合(就業規則25条4号)であったともいえない。
 また、A2に対する配転命令の発令や配属先について、A2の健康状態に配慮する必要があるとしても、法人の就業規則上それによって当然に退職になると解することもできず、また、A2が、休職期間の満了日である平成29年6月29日ですでに当然退職となっていたとも認められない。
 したがって、A2が「身体または精神の障害等により業務に耐えられないと認められたとき」、「財団の職員として適格性がないと認められるとき」又は「前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」に該当する事由があったとは認められない。なお、A2が詐病であると認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりである。

オ 以上によれば、A2について就業規則所定の解雇事由に該当する事実はなく、本件解雇②は、客観的に合理的な理由を欠き、杜会通念上相当であると認められない。

(2) 本件解雇②の不当労働行為該当性

 A2が本件メールを送信したことが不適切であることは前記のとおりであるものの、法人が4年以上前の当該行動を解雇理由として挙げ、またA2の適応障害について詐病の疑いがあるなどと記載した解雇予告通知書をもって本件解雇②の意思表示をしたことは、法人がA2を嫌悪し、不信感を有していたことをうかがわせる。
 A2及び組合と法人との関係は、A3ら7名が組合に加入する以前から平成27年訴訟に移行する労働審判を申し立て、その後も複数の訴訟や労働審判等の申立てが行われ、組合による街宣活動や、法人により支局長会議の報告として各支局で以下の配付資料を配付し読み上げるなどした研修(以下「本件研修」という。)が行われるなど緊張関係にあり、労使間の対立が続いていた。
 法人は、本件研修において「ユニオンは、通常の労働組合ではありません。」、「社員が悪い場合でも、自分たちユニオンは弱者、会社は悪とのイメージを植え付ける」などと記載された配布資料を配布するなどしていたことからすれば、法人が組合を嫌悪していたことが推認される。
 本件解雇②は、法人と組合とが対立関係にある中で、前記のとおり組合を嫌悪する法人が、組合の組合員であり、本件メールを送信するなどしたA2に対して行ったものであり、前記のとおり本件解雇②の客観的に合理的な理由が認められないことも併せ考慮すれば、本件解雇②は、A2が組合員であることを理由として行われたものと推認するのが相当であり、また、組合の組合員でありその下部組織のA8支部に属するA2を法人から排除することによって組合の組織及び活動を弱体化させるものといえるから、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当すると認めるのが相当である。

4 小括

 B1支局長の本件発言及びA1に対する本件解雇①はいずれも不当労働行為に該当するとは認められないから、不当労働行為に該当するとして行われた本件救済命令は違法である。
 他方で、A2に対する本件解雇②は不当労働行為に該当するから、本件解雇②が不当労働行為に当たるとした本件救済命令の判断は正当であり、この部分について取り消されるべき違法はない。

5 結論

 本件救済命令のうち、法人の敗訴部分の取消しを求める法人の請求は、①B1支局長の発言を不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文2項及び3項のうちこれに関する部分)、②本件解雇①を不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文1項、2項及び3項のうちこれに関する部分)についてはいずれも理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成30年(不)31号 一部救済 令和4年10月18日
 
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