労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第42号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年5月27日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①令和2年3月5日等の団体交渉において、組合は外部団体であるとして、協約締結を拒否するとともに、外部団体と交渉することは全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして交渉を拒否したこと、②労働基準法違反を理由としてチェック・オフ協定の締結を拒否したこと、③組合が同年5月26日付けで行った団体交渉申入れに応じないこと、④組合の下部組織であるA2分会分会員に対し、団体交渉等の協議を経ずに令和2年夏季一時金を支給したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号及び第3号、③について同条第2号、④について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた。 
命令主文   会社は、組合に対し、下記文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和2年3月5日及び同年4月8日に開催された団体交渉において、①貴組合が外部団体であるとして、貴組合との協約締結を拒否し、②必要な交渉を進めようとせず、実質的に団体交渉を拒否したこと(2号及び3号該当)。
(2)貴組合が令和2年5月26日付け要求書で申し入れた団体交渉に応じなかったこと(2号該当)。
(3)貴組合A2分会分会員に対し、貴組合と交渉することなく、令和2年7月10日に令和2年夏季一時金を支給したこと(3号該当)。
2 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 2.3.5団交及び2.4.8団交における会社の対応は、不誠実団交及び支配介入に当たるか(争点1)

(1)令和2年3月5日団交及び同年4月8日団交(以下それぞれ「2.3.5団交」及び「2.4.8団交」)における要求事項(組合費のチェックオフへの協力や組合事務所の貸与等に関すること、組合員の賃金引上げや手当等について説明を求めること)は、いずれも組合員の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であることから、義務的団交事項に当たるというべきであり、会社の主張は採用できない。

(2)そこで、それぞれの団交における会社の対応についてみる。

ア 組合主張①(組合支部は外部団体であると称し、外部団体とは協約締結を要しないとして、協約締結を拒否したこと)について
 労働協約は、双方に存する多様な利害の調整と均衡の上に成り立つものであることなどから、一方当事者である会社に労働協約を締結するとの合理的な意思が認められない限り、会社は組合支部との労働協約の締結が義務付けられるわけではない。しかし、労働協約締結の提案に対し、会社代理人弁護士(以下「代理人」)が組合支部は外部団体であるとし、また、締結しない理由を具体的に説明しないかかる会社の対応は、当初から組合支部を交渉当事者と位置付けることすら拒絶しており、このことは合意事項の有無とは無関係の問題であって、誠実交渉義務に違反するとともに、組合活動を不当に軽視するものであるというべきである。

イ 組合主張②(組合支部は外部団体である、全従業員の利益に反するおそれがある、分会員が個別に役員に相談等すればよい、などとして、組合支部との交渉を拒否したこと)について
 代理人が、組合支部は外部団体である旨、分会員は団交の場ではなく個別に社長室へ行って説明を求めればよい旨等の発言をし、団交において必要な交渉を進めようとせず、実質的に団交を拒否したことは、団交の円滑な進行を妨げ、誠実性を欠くものであったといわざるを得ず、また、かかる対応は組合支部の組合活動を軽視したものであるというほかない。

ウ 組合主張③(労働基準法違反を口実に、チェック・オフを拒否したこと)について
 会社は、組合支部のチェック・オフの協力要求に対し、令和2年2月28日会社回答書及び2.3.5団交において、労働基準法第24条第1項ただし書に違反することから応じられない旨の自己の見解及びその根拠を示している。確かに、2.3.5団交において、代理人が組合支部役員に対し、労働法に関する書籍のページ番号を示し、自分で読むよう述べたことは、いささか丁寧さに欠ける感は否めないが、かかる対応のみをもって不誠実であるとまではいえない。

(3)以上のとおり、2.3.5団交及び2.4.8団交における、代理人による発言及び一連の対応は、チェック・オフに関する対応を除き、不誠実団交又は実質的な団交拒否に相当する点があるというほかなく、また、組合支部は外部団体であるとの理由から組合支部との協約の締結を拒否したこと、組合支部との交渉を拒否したことは、組合支部の組合活動を軽視する支配介入にも当たり、かかる会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

2 本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点2)

(1)組合支部は令和2年5月26日団交申入れ(以下「本件団交申入れ」)の要求事項として、①団交の議事についての確認書の締結、②2020年の賃上げについての内容の説明と協定化、③夏季一時金についての基準内賃金の2か月分の支給、を求めたことが認められる。また組合支部は、2回の団交において、労働条件に関する具体的な改善要求については説明が尽くされ、何も残されていなかった旨の会社の主張に対し、労働組合が組合員個人の労働条件の改善要求を行うに当たって、労働条件に関する運用基準や枠組みについて説明を求めることも当然に行われるべきことであり、そのような説明を求めることを目的とする団交も当然に認められるべきである旨主張する。
 そもそも、本件団交申入れの要求事項が(賃上げや夏季一時金の支給等に関わり)義務的団交事項に該当することは明らかである。また、会社主張のとおり、上記2回の団交において会社の労働条件に関する具体的な改善要求については説明がなされたとしても、労働条件に関する運用基準等について説明を求めることを目的とする団交は、当然に認められるべきである。よって会社が「組合支部から会社の労働条件に対する具体的改善要求」(が団交再開に必要である)との条件により団交に応じられないとすることには正当な理由はない。

(2)次に、(団交再開には)「政府による新型コロナウイルス感染終息宣言」が必要との条件については、会社は、オンライン方式ではあるものの、組合支部による具体的改善要求がある場合には団交に応じる旨回答しているのであるから、会社は、形式的には団交に応じようとしているとみることができる。
 しかし、このような場合においても、使用者が、交渉の実施を困難にするような日時、場所、方式を設定し、理由なくこれに固執するなど、その態度が事実上団交拒否とみなし得るに至っている場合には、団交拒否に当たるというべきである。そこで、以下具体的な状況についてみる。
 問題となっていた団交方式について検討するに、①組合支部は、コロナ禍の情勢であっても、感染対策をしながら直接かつ口頭の交渉をすることは十分可能である旨、会社がWEBによる方法を代替案として提案したとしても、そもそも本来予定されている直接かつ口頭の交渉を拒否することを正当化する理由とは認められない旨などを主張し、②会社は、団交における組合支部の役員らの交渉態度は、大声を張り上げて怒声、暴言、威嚇発言などを繰り返し、物理的距離を十分取っていても、室内に飛沫が充満する状況であった旨主張する。
 そもそも団交は、労使双方が相対峙して行うのが原則であり、テレワークやオンライン方式での会議が感染症拡大防止の観点から合理的かつ有益な手段の一つであったとしても、本件団交申入れの時点において、オンライン方式での団交が当然であった、ないしは、同方式のみが団交において取り得る唯一の手段であったとまではいえない。また、会社は、組合支部と団交の方式について合意ができていないことを認識できたにもかかわらず、団交の実施に向け、組合支部が申請したあっせんに応じなかった。さらに、少なくとも、2.3.5団交及び2.4.8団交開催時と令和3年2月5日において、会社の全体会議が会社の換気されていない事務所内等で開催されていたことが認められ、その間全体会議が中断していたとの疎明もないところ、会社がオンライン方式での団交を希望する旨を回答した令和2年7月9日時点で、会社はかかる全体会議を開催していたと推認され、このことも考え合わせると、会社の対応は整合性を欠くとともに、その後団交の方式について組合支部と協議しようとしなかったというべきであり、かかる会社の対応は、事実上団交拒否するがための不合理な提案であったといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、会社は、団交に応じる義務があるにもかかわらず、正当な理由なく本件団交申入れに応じておらず、かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

3 会社が組合分会員に対し、令和2年7月10日に夏季一時金を支給したことは、支配介入に当たるか(争点3)

(1)会社は、組合支部からの令和2年6月12日申入書(以下「2.6.12申入書」)においては、ほとんどは議事録確認や確認書締結とそれを目的とする団交申入れに費やされ、夏季一時金についてはわずか5行足らず、内容もなおざりで要求意欲も感じられないものであった旨、そしてその後は、組合支部は1か月近く何ら申入れも抗議もせず放置し、夏季一時金の支給日前日に申入書(以下「2.7.9申入書」)を提出してきた旨、組合支部の主目的は会社と包括協定を締結することであって、夏季一時金などは「オマケ」でしかないことは明らかである旨、法外な金額を何ら理由や根拠も示さず、同年5月26日要求書では要求項目の3番目に記載していることからしても、会社としては、事前交渉を前提とする真摯な要求とは到底受け取り得ず、交渉を無視したり拒否したりする意識はなかった旨主張する。

(2)確かに、使用者が従業員に対し一時金を支給するに当たり、必ずしも労働組合との妥結がその要件とされているわけではない。しかし、一時金の支給に関することは義務的団交事項に当たり、労働組合が要求事項として団交申入れを行った場合、使用者は、一時金の支給不支給及びその支給額や支給割合等について、労働組合と誠実に交渉し協議することが必要であることはいうまでもない。
 この点、会社の主張についてみるに、要求事項の順番や記載量で労働組合の要求を使用者が勝手に評価すべきでないことはもとより、そのそも一時金の支給に関する労働組合の要求に対し、会社が夏季一時金などは「オマケ」でしかないことは明らかであるなどと認識していたこと自体が、労働組合を軽視するものであるというほかない。また、確かに、2.6.12申入書から(支給日前日の)2.7.9申入書まで、4週間期間が空いていることは認められるものの、2.6.12申入書の記載からは、夏季一時金を会社が一方的に支給するのではなく、組合支部と交渉すべきである旨を組合支部が要求していることは容易に読み取れるというべきであり、会社は、組合支部が夏季一時金の支給に関する団交を求めていることを知りつつ、そのまま組合支部と協議をすることなく夏季一時金の支給事務を進めたというべきである。

(3)これらのことから、夏季一時金の支給に関し、会社が組合支部と交渉せず、そのまま支給したことについて合理的事情は認められない。そして、会社のこのような対応や認識は組合軽視であるというほかなく、ひいては、交渉をすることなく夏季一時金を支給したことで分会員の心理的な不安や動揺を誘ったといえるから、かかる行為は組合に対する支配介入に当たるといえる。
 よって、会社が組合分会員に対し、令和2年7月10日に夏季一時金を支給したことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地裁令和4年(行ウ)第98号 棄却 令和5年7月31日
 
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